数学者
藤原正彦氏(1943-)の随筆
『遙かなるケンブリッジ』
(新潮社 1991 新潮文庫 1994)
を読んでおりましたら
英国における食事のまずさを
米国人数学者の口を借りて
表現していました。いわく
「イギリス人はせっかくの生野菜を
かたっぱしから煮てしまう。
しかもイギリス人の煮方ときたら
塩味だけで徹底的にゆでるんだ。
野菜が死んだのをしっかり確かめるまでね」
本書は単行本初版1991年3月で
1995年9月文庫化です。
その第1章のタイトルは
「塩はふるふる野菜は茹でる」です。
これを読みまして
藤原氏の記述が事実であることを
理解しました。
(少なくとも当時の)英国の料理は
①野菜は徹底的にゆでる。
②何でも塩をふって食べる。
‥が特徴であったことが分かります。
コナン・ドイル(1859-1930)の
シャーロック・ホームズものを
読んでおりますと
ホームズの代わりに調査におもむいた
ワトソンに対しホームズが
「きみはパブにに行くべきだった」
と「助言」しワトソンが
むっとする場面があります。
自分の調査が不十分と言われたので
感情を害したのでしょう。
そのパブについては第6章
「いざ行け、パブへ!」
に肯定的に描写されています。
異性による積極的なサービスのない
英国のパブについて
コミュニケーションの方に
主体があると考察しています。
酒をたしなまない著者は
パブではトマトジュースを
頼むそうですが
ウスターソースを入れて飲むのが
英国流とのことです
(私はまだ試しておりません)。
英国陸軍特殊空挺部隊
(Special Air Service)にいた
アンディ・マクナブの
『SAS戦闘員』
(早川書房 1997)を
読んでおりますと
厳しい訓練の後に教官から
「フィッシュ・アンド・チップス」
を勧められたことが記載されて
いました。
また日本の作家である
開高健(1930-1989)の随筆でも
ロンドンにおける
「フィッシュ・アンド・チップス」
については言及があります。
"The Times" のような高級紙に
包んでもらうのは野暮で
なるべく大衆紙に包んでもらうのがよいと
アイロニーを込めて書いていました。
「フィッシュ・アンド・チップス」
については本書第4章
「いもか、はたまたパンか」
に登場します。著者によると
もしカタカナで表記するならば
「フィッシュンチップス」
に近く発音するそうです。
日本ならばラーメンとかカレーの
立ち位置にある食べ物
つまり
いかにもイギリス的で
イギリスの庶民にとって
もっとも親しい食べ物は何か?と
大英図書館のイギリス人スタッフに
尋ねてみたことがあるそうです。
その答えが
「フィッシュ・アンド・チップス」でした。
さもありなんです。
第4章でひとつ面白い指摘は
①イギリスにおける主食は
パンではなくてあえて言えば
ポテト(ジャガイモ)であろう。
②いやそもそもイギリスには
「主食」という概念はない。
(おそらくはイギリスのみならず
欧米諸国の多くはそうでしょう)
私はポテト・サンドイッチは
結構好きなのですが
日本以外の国、特に欧米諸国では
パンにジャガイモをはさむなどと
いうことは考えられない由です。
(主食の存在は認めるとして)
主食 ✕ 主食 になってしまうからです。
もし日本ならば
パンにご飯をはさんで食べるか
焼き飯をおかずに白飯を食べるのと
同じような状態と思われます。
村上春樹氏(1949-)の
『遠い太鼓』
(講談社1990 講談社文庫1993)の中に
「ロンドン」という章があります。
(pp.386-396)
イタリアから来れば
ロンドンで金を払ってレストランに
入ろうという気が起こらない、
自分で作ったほうがまだおいしい、
と書いています(もっとも
今から30年くらい前の記述です)。
事実、村上氏はスーパーで
ロースト・ビーフとパンを買ってきて
ロースト・ビーフ・サンドを作って
毎日、食べていたそうです。
私は
アルコール分解酵素および
アセトアルデヒド分解酵素の
活性がないので酒が飲めず
ラクトース(乳糖)分解酵素活性も
ないので牛乳も飲めず
胃にポリープがあるため
コーヒーが飲めず
カレーが食べられません。
加えて甘い物が嫌いで
ケーキもチョコレートも食べません
(最後に食べたのは幼稚園)。
牛乳がダメということは
ホワイトソースがダメということです。
従っておいしいとは思うのですが
フランス料理がダメということです。
おそらく私は英国人よりも
食に対する執着が薄いと思います。
なぜかキュウリは好きなので
ハムとキュウリのサンドは
自分でよく作ります。つまり有名な
「キューカンバー・サンドウィッチ」
(ハム・キュウリ・サンド)
です。いわゆるアフタヌーン・ティー
ないしハイ・ティーで
食べることが多いようです。
「キューカンバー・サンドウィッチ」
については p.91 で言及があります。
ロータル=ギュンター・ブーフハイム
(1918-2007)の
『Uボート』を読んでおりましたら
ソーセージが好きになり
ときどきボイルして食しています。
イギリスにもソーセージはあります。
しかしそれが日本やドイツで
想定しているものは全く違うようです。
率直に言って驚きました。
イギリスのソーセージの実体については
第2章
「ワーズワースの林檎倉」
にリアルな記述があります。
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イギリスはおいしい ハードカバー – 1991/3/1
林 望
(著)
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- 本の長さ252ページ
- 言語日本語
- 出版社平凡社
- 発売日1991/3/1
- ISBN-104582452086
- ISBN-13978-4582452082
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- 出版社 : 平凡社 (1991/3/1)
- 発売日 : 1991/3/1
- 言語 : 日本語
- ハードカバー : 252ページ
- ISBN-10 : 4582452086
- ISBN-13 : 978-4582452082
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- - 125,206位人文・思想 (本)
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著者について
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1949年東京生まれ。作家・書誌学者。慶應義塾大学大学院博士課程修了。ケンブリッジ大学客員教授、東京藝術大学助教授等を歴任。専門は日本書誌学、国 文学。『イギリスはおいしい』(文春文庫)で日本エッセイスト・クラブ賞、『ケンブリッジ大学所蔵和漢古書総合目録』(ケンブリッジ大学出版)で国際交流 奨励賞、『林望のイギリス観察辞典』(平凡社)で講談社エッセイ賞を受賞。エッセイ、小説のほか、歌曲の詩作、能評論等も多数手がける(「BOOK著者紹介情報」より:本データは『 謹訳 源氏物語 三 (ISBN-13: 978-4396613662 )』が刊行された当時に掲載されていたものです)
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トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
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2019年5月11日に日本でレビュー済み
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2020年12月29日に日本でレビュー済み
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リンボー氏お説の通り
フランスは自己中
イタリアは🇮🇹
フランスは自己中
イタリアは🇮🇹
2021年12月16日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
最近ではイギリスの料理界も世界標準に達して居るそうですが、
かつてはこのレビューのタイトルの様に言われてきました。
曰く「料理は不味いけど食べ物は美味しい」
欧州に在住経験のある、かつての私の師匠(ヴァイオリン製作家)は言いました。
「当たり前だ。パンや酒まで不味くてどうするw」
質実剛健、質素倹約の国民性から、
料理などというものに拘泥することを悪の如く捉えていた、
そうまで言わずとも何かカッコワルイ事の様に感じていたのではないか。
イギリスでは傘はご婦人の持ち物であり、オトコが差すものでは無い云々。
まぁ御国事情というものは色々あるから面白いのですよね。
かつてはこのレビューのタイトルの様に言われてきました。
曰く「料理は不味いけど食べ物は美味しい」
欧州に在住経験のある、かつての私の師匠(ヴァイオリン製作家)は言いました。
「当たり前だ。パンや酒まで不味くてどうするw」
質実剛健、質素倹約の国民性から、
料理などというものに拘泥することを悪の如く捉えていた、
そうまで言わずとも何かカッコワルイ事の様に感じていたのではないか。
イギリスでは傘はご婦人の持ち物であり、オトコが差すものでは無い云々。
まぁ御国事情というものは色々あるから面白いのですよね。
2021年4月8日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
古い本ですがやはり良い本です 面白いし満足します すごいですね
2023年3月14日に日本でレビュー済み
林望(1949年~)氏は、慶大文学部国文学科卒、同大学院文学研究科博士課程単位取得退学、東横学園女子短期大学勤務後、1984~87年にケンブリッジ大学及びオックスフォード大学留学、東横学園女子短期大学助教授、東京藝術大学助教授を経て、フリーの著述家となる。国文学者、書誌学者。英国滞在中の体験をもとに、英国の食文化・英国人の食生活について記した本作品で日本エッセイスト・クラブ賞(1991年)、『林望のイギリス観察事典』で講談社エッセイ賞(1993年)、『謹訳 源氏物語』(全10巻)で毎日出版文化賞特別賞(2013年)を受賞。
私は、1990年代に数年間英国に駐在し、本書の存在は知っていながら、当時読むことはなく(今思えば、なぜ読まなかったのか不思議である)、今般、過去に話題になった本を新古書店で片端から購入して読んでおり、本書も初めて手に取った。
内容には、英国滞在中に自分でも経験したこと、英国滞在当時またはその後に耳にしたこと(その中の一部は、きっと本書が出所になっているのだろう)、今般本書を読んで初めて知ったこととがあったが、英国の食に関して、何を置いても強調しておかねばならないことは、やはり、英国人には味覚が(ほぼ)ないということであろう。私が強烈にそれを感じたのは(丸ごとまたはその半分の)ローストチキンを食べたときで、あのパサパサかつ全く味のない肉に閉口したのとほぼ同じことが、本書にも書かれているのだが、英国人が料理に無神経なのは、ピューリタン的禁欲主義や、伝統的に「目の前にある飲物や食べ物にある種の無関心を払うのが、行儀がよいと考えられていた」ことが理由である、という記述には正直驚いた。
一方、英国の食に関して、好感の持てる点ももちろんあり、著者と同意見なのは、パブとチップス(=日本でいうフライドポテト)に関するものである。と言うのは、パブはどんな小さな街にも必ず一軒はあり、国内を車で旅行しているときに、パブで食べられるチップス(+肉とか魚)のランチは、小さな子ども連れにはとても重宝したからである。
また、本書には、典型的な英国料理(スコーンやローストチキン)の作り方なども詳細に書かれており、その点、料理好きの人の興味も惹くだろう。
近年は、ロンドンの食事情も様変わりし、最新のミシュラン3つ星レストランの数は、ニューヨークと並んで5店で世界5位!(因みに、1位東京12店、2位パリ10店、3位香港7店、4位京都6店)だというが、英国の庶民の食生活も変わったのだろうか。。。機会があればまた是非訪れて、それを確認してみたいものである。
(2023年3月了)
私は、1990年代に数年間英国に駐在し、本書の存在は知っていながら、当時読むことはなく(今思えば、なぜ読まなかったのか不思議である)、今般、過去に話題になった本を新古書店で片端から購入して読んでおり、本書も初めて手に取った。
内容には、英国滞在中に自分でも経験したこと、英国滞在当時またはその後に耳にしたこと(その中の一部は、きっと本書が出所になっているのだろう)、今般本書を読んで初めて知ったこととがあったが、英国の食に関して、何を置いても強調しておかねばならないことは、やはり、英国人には味覚が(ほぼ)ないということであろう。私が強烈にそれを感じたのは(丸ごとまたはその半分の)ローストチキンを食べたときで、あのパサパサかつ全く味のない肉に閉口したのとほぼ同じことが、本書にも書かれているのだが、英国人が料理に無神経なのは、ピューリタン的禁欲主義や、伝統的に「目の前にある飲物や食べ物にある種の無関心を払うのが、行儀がよいと考えられていた」ことが理由である、という記述には正直驚いた。
一方、英国の食に関して、好感の持てる点ももちろんあり、著者と同意見なのは、パブとチップス(=日本でいうフライドポテト)に関するものである。と言うのは、パブはどんな小さな街にも必ず一軒はあり、国内を車で旅行しているときに、パブで食べられるチップス(+肉とか魚)のランチは、小さな子ども連れにはとても重宝したからである。
また、本書には、典型的な英国料理(スコーンやローストチキン)の作り方なども詳細に書かれており、その点、料理好きの人の興味も惹くだろう。
近年は、ロンドンの食事情も様変わりし、最新のミシュラン3つ星レストランの数は、ニューヨークと並んで5店で世界5位!(因みに、1位東京12店、2位パリ10店、3位香港7店、4位京都6店)だというが、英国の庶民の食生活も変わったのだろうか。。。機会があればまた是非訪れて、それを確認してみたいものである。
(2023年3月了)
2021年1月5日に日本でレビュー済み
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これからイギリスへの旅行を考えている人や、これまでにイギリスに住んだことがある人があとで読むと楽しめる本だとおもいます。
2019年10月28日に日本でレビュー済み
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リンボウ先生のイギリスを題材にしたエッセイ3部作の1冊。私は「ホルムヘッドの謎」と「イギリスは癒快だ」が好きだが、この「イギリスはおいしい」だけは、料理が苦手なので最後に読むことになった。でも、相変わらず正確に、かつ論理的に分析するリンボウ先生のイギリス料理の見方はたいへん面白かった。
2015年4月29日に日本でレビュー済み
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イギリスの食を通じた、イギリス体験記
本書は、筆者のイギリスでの食にまつわる体験を綴ったエッセイです。かなり軽い読み口で、それでいて、鋭い。さっと読めて、クスッと笑える。少しいい気分になれる。エッセイのお手本のような本ではないでしょうか。
今日においては、インターネットが普及しているので、もはやこのようなエッセイは不要なのではないか?と、読むまでは思っていましたが、決してそのようなことはありませんでした。自分の知らない体験を、食を通じて存分に楽しませてくれました。
やっぱり、イギリスは拙いものが多い。でも、その先にある人々の幸せは、おいしい。これがタイトルの意味なのだなぁ・・・と私は勝手に解釈いたしました。
食べ物が好きで、最近疲れ気味で、ちょっと一息付きたいなぁと思ってらっしゃる方にオススメです。
本書は、筆者のイギリスでの食にまつわる体験を綴ったエッセイです。かなり軽い読み口で、それでいて、鋭い。さっと読めて、クスッと笑える。少しいい気分になれる。エッセイのお手本のような本ではないでしょうか。
今日においては、インターネットが普及しているので、もはやこのようなエッセイは不要なのではないか?と、読むまでは思っていましたが、決してそのようなことはありませんでした。自分の知らない体験を、食を通じて存分に楽しませてくれました。
やっぱり、イギリスは拙いものが多い。でも、その先にある人々の幸せは、おいしい。これがタイトルの意味なのだなぁ・・・と私は勝手に解釈いたしました。
食べ物が好きで、最近疲れ気味で、ちょっと一息付きたいなぁと思ってらっしゃる方にオススメです。