直前予測:AIによる新機能が続々? アップルが「WWDC 2024」で発表する可能性がある5つのこと

アップルの開発者向けカンファレンス「WWDC 2024」が6月10日(米国時間)に開催される。今回も次期iOSやmacOS、watchOS、visionOSなどが発表される可能性が高いが、なかでも注目は人工知能(AI)を用いた機能の数々だ。
Tim Cook chief executive officer of Apple Inc. and Craig Federighi senior vice president of software engineering at...
Photograph: Philip Pacheco/Getty Images

アップルの開発者向けカンファレンス「WWDC」は、デバイス用ソフトウェアの新しい機能が発表されるイベントであり続けている。しかし、ここ数年はソフトウェアに関するニュースよりも、ハードウェア関連の発表のほうが目立っていた。

特に最近はアプリに焦点を当てる代わりに、アップル独自チップ「M」シリーズや次世代のMacなどを披露する場に使われている様子である。2023年のWWDCでは複合現実(MR)ヘッドセット「Apple Vision Pro」が披露された。

ところが今年は、すでにWWDCが開催される前の段階でにハードウェア関連の発表が済んでいる。4月には「M3」チップを搭載した「MacBook Air」(13インチと15インチ)が、5月には「M4」チップと最新の「iPad Pro」「iPad Air」が投入された。

今年のWWDCでは、これらの他に新しいハードウェアが発表される見通しはない。このため、新しいソフトウェアの機能(特にiPhoneiPadMacのAI関連機能)に再び焦点が当たるだろう。

6月10日午前10時(米国時間、日本では11日午前2時)に始まる基調講演で、「WWDC 2024」が幕を開ける。詳細はそのときに判明することになるはずだ(※「WWDC 2024」基調講演での発表内容はこちら)。

AIによる新機能が続々?

グーグルマイクロソフトOpenAIといった企業が、ここ数カ月で最新の人工知能(AI)プロジェクトを発表してきた。そこには最新の大規模言語モデル(LLM)や実験的なツール、さらには新型のデバイスまで含まれている。

今度はアップルの番だ。噂を基に判断すると、すべてのOSに多くの新しいAI機能が導入される見通しだ。それによってデバイスの使い方が変わるだけでなく、急速に変化するAIの分野におけるアップルの立ち位置が盤石なものになるだろう。ウェドブッシュ証券のアナリストによると、今年のWWDCではAIを集中的に扱うことが予想され、「アップルにとってこの10年以上の周期において最も重要なイベント」になるという。

これまでと同様に、アップルがWWDCで発表するであろう内容に関する情報は、すべて単なる推測にすぎない。それでも、噂されている機能の多くが現実になる可能性は高いと思われる(信頼性の高い筋からのアップルの話は事実であることが多い)が、あまり期待しすぎないでほしい。

イベント前の予習として、今年のWWDCで発表が予想されるすべての新機能を詳しく見ていこう。

1. iOS 18

昨年のWWDCでアップルは、生成AIからは距離を置いていた。最大のライバルであるグーグルやマイクロソフトが、この分野における進展を発表したにもかかわらずだ。

「iOS 17」では大規模な機械学習モデルの一種であるトランスフォーマー(Transformer)を駆使することで、文字入力の際の「自動修正」機能が向上した(文法の誤りを正したり、文字入力と同時に予測候補を提示したりする精度が高まっている)。「写真」アプリでは(人以外に)イヌやネコを見分ける能力や、「指差し読み上げ」のようなアクセシビリティ機能(視覚障害者や視力の弱い人が対象物にカメラを向けて指さすと、その物体の文字を読み上げてもらえる)が加わった。

これらの機能は、アップルがiOS 17で実現した機能のうち生成AIに最も近いといえる。アップルはAIによる直感的なアプローチを採用したのだ。

話を今年に戻そう。グーグルは開発者会議「Google I/O」で生成AIを用いた多くの機能を発表した。マイクロソフトも開発者会議「Microsoft Build」において、「Recall」「Cocreator」「Windows Studio Effects」などの新しいAI機能に特化した新しいPCのラインナップを披露している

これに対してアップルは、「iOS 18」のAI機能において再び別の道を歩むようだ。ブルームバーグのマーク・ガーマンによると、「AIに関して異なるアプローチを示し、一般の消費者が日常的に利用できるツールに焦点を当てる。ユーザーの実用的な側面にアピールし、目を見張るような機能の一部は他の企業に任せる」という。AIを駆使したまったく新しいiPhone用アプリは発表されないと思われるが、生成AIに対するアプローチはさらにOSと一体化されるようだ。

多岐にわたるAIの改良

ガーマンは5月下旬のニュースレター「Power On」で、今回の改良はすべて「Project Greymatter」という戦略の一部であると説明している。これは写真やSafari、メッセージ、メモといったアップルの中核アプリに導入される予定のAIツールを含む戦略のことだ。

個々のテキストやメール、メモ、文書、ウェブページなどを要約する機能も、そのひとつとなる。ボイスメモの文字起こし(iOS 17では英語の文字起こし機能を導入済み)のほか、「Spotlight」機能における検索速度と信頼性の向上、Safariのウェブ検索の改善なども追加される可能性がありそうだ。

さらにガーマンは、テキストメッセージの文脈に基づいてオリジナルの絵文字をリアルタイムで作成できるソフトウェアをアップルが開発中とも報じている。これにより、現行の絵文字のラインナップからさらに選択肢が増えることになる(同じようなものを作成する手段はiOS 17の「ステッカー」しかない)。

テキストメッセージに関していえば、会話の文脈に基づいてAIが返答の文面を提案してくれる機能もiOS 18に加わるかもしれない(この機能は「メール」アプリにも実装される可能性がある)。アップル情報サイト「AppleInsider」によると、新たに「Clean Up」と呼ばれる機能も登場するかもしれない。これは生成AIを利用して写真から被写体を消す機能で、グーグルの「消しゴムマジック」に似ている。

ガーマンによると、AI機能はプライバシーにも配慮されそうだ。iOS 18のAI機能のうちあまり計算能力を必要としないものは、アップルの言語学習モデルのフレームワーク「Ajax」を用いて完全にデバイス側で実行される。これに対して負荷の大きい機能は、クラウドに送られるという。

ブルームバーグが報じているように、アップルは独自開発したチップを用いたデータセンターの開設を計画している。スマートフォン側で処理できないAIのタスクに対処するクラウドコンピューティングのサーバーに、自社のプロセッサー(報道によると「M2 Ultra」)を搭載するという。

「AppleInsider」によると、Ajaxが特定のアプリ(メッセージやSafariなど)からの情報を処理する前に画面にアラートが表示される可能性もある。この予測はブルームバーグの最新のニュースとも一致する。ブルームバーグは事情に詳しい筋の話として、アップルが「オプトイン(ユーザーの明示的な同意)に基づくサービスで新しいAI機能を提供すると想定される」と報じている。

「Siri」は次世代へと進化

アップルの音声アシスタント「Siri」の大規模な改善が発表される可能性も相当に高そうだ。アップルは実際に、それをにおわせてもいる。アップル情報サイト「AppleTrack」編集長のサム・コールは、WWDCを宣伝しているアップルの公式サイトのグラフィックの色とアニメーションが、Siriのロゴと一致していることをXで指摘している

『ニューヨーク・タイムズ』は5月上旬、Siriの次世代バージョンに「新しい生成AIシステムが導入され、一度にひとつの質問に答える代わりに会話できるようになる」と報じた。さらに、スケジュールの決定やタイマーの設定、買い物リストの作成といったタスクの処理能力が向上するという。これらの能力の向上は、もっと早く実現していてもよかったはずだ。

ガーマンのニュースレター「Power On」の最新号(そして以前の記事)では、アップルが「自社の大規模言語モデル(LLM)を用いた全面刷新」によってSiriを改良すると伝えている。ユーザーがデバイス側で何をしているのかをiPhoneのAIが調べて、Siriを自動的に起動して支援するようになるという。

この機能では、メールの転送や削除、写真の編集、通知の要約(人物やイベントの予定、場所などを含む)、あるいはフォルダー間のコンテンツの移動をSiriに指示できるようになる可能性がある。ただし、これらの機能は今年の秋には間に合わず、来年のどこかでリリースされるiOS 18のアップデートに委ねられることになりそうだ。

ガーマンによると、OpenAIの「ChatGPT」やマイクロソフトの「Copilot」、グーグルの「Gemini」に匹敵するアップルの会話型AI登場しない見通しという。そうしたシステム(社内では「Ajax GPT」と呼ばれている)をアップルがテストしているという報道が、ここ数カ月であったにもかかわらずだ。

その理由についてガーマンは、単に技術が完成していないか、会話型AIが“暴走”してアップルを厄介な状況に追い込む可能性に直面したくないからであると、直近のニュースで指摘している。代わりに他社(OpenAI)の技術を活用する計画があるという。

ブルームバーグは今年5月、ChatGPTをiPhoneに実装する契約の締結が目前であると報じている(「Gemini」のライセンスについてグーグルと交渉中との報道もあった)。ブルームバーグによると、OpenAIとの合意についてWWDCで発表があるという。

標準化されたメッセージ機能への対応にも期待

iPhoneに加わる機能のすべてがAIを活用するわけではないが、iOSのホーム画面をカスタマイズできるようになる可能性がありそうだ。アプリのアイコンの色を変えられるだけでなく、好きな場所に配置できるようになる。アップル情報サイト「MacRumors」によると、目に見えないグリッドにアプリのアイコンが固定される状況は変わらないが、iOS 18ではアイコンの間に縦横の列や空白をつくれるようになるという。

「設定」アプリと「写真」アプリのデザイン変更、「メール」アプリの改善、コントロールセンター内の新しい音楽ウィジェットも発表される予定だ。「MacRumors」によると、メッセージアプリの新機能も登場するかもしれない。メッセージに絵文字で反応する「Tapback」のアイコンが新しくなったり、単語の一つひとつにエフェクトをかけたりできるようにもなりそうだ。

また「AppleInsider」は、「メモ」アプリに新たに録音機能が加わる可能性があると伝えている。文章と画像を追加する機能に加えて、ボイスメモのように音声を録音できるようになるという。

そしてついに、メッセージ機能の標準規格であるRCS(リッチコミュニケーションサービス)に対応することになりそうだ。アップル情報サイト「9to5Mac」は昨年11月、アップルがRCSを2024年中にソフトウェアのアップデートによって導入する方針を明らかにしたと報じている

アップルは「9to5Mac」へのコメントにおいて、「『RCS Universal Profile』は、SMSやMMSと比べてより優れた相互運用体験を提供する」と説明している。つまり、開封証明やリアクション、入力中であることを示す表示、高解像度の映像や写真などの送受信といった機能が、iOSとAndroidの双方で使えるようになるわけだ。これに伴い、RCSへの対応スケジュールがWWDCで発表されるかもしれない。

2. iPadOS 18

iOSに追加される機能は、原則としてすべてiPadOSにも搭載される。このため(すべてではないにしろ)これまで説明してきたiOS 18の機能の大部分が、「iPadOS 18」にも実装されることが想定される。

今回のWWDCが開催されるタイミングは、iPadの発表イベントで最新のM4チップが発表されてから、わずか1カ月という時期だ。M4チップは最新の「iPad Pro」に搭載されているが、このデバイスそのものには特に目新しい機能は搭載されていない。それを考えれば、M4チップが威力を発揮できるAI機能を披露する下準備として、急いで最新のチップを発表したと考えて間違いないだろう。

だが、5月に発表されたプレスリリースには、新たなアクセシビリティ機能が「今年中に」iPadに搭載されるとの言葉がある。視線トラッキングによってiPadを操作する機能のほか、Siriが理解できるオリジナルの発話を割り当てられる音声ショートカット、乗り物の動きに合わせてアニメーションするドットを画面上に表示して乗り物酔いを軽減する機能が含まれる。これらの機能のデモをWWDCで見られることを期待したい。

3. macOS 15

macOSの最新バージョンの正式名称を推測することが、いまや毎年の恒例行事となっている。アップルが商標を取得済みとみられる名称のうち未使用のものを、メディア企業であるVox Mediaの製品マネージャーのパーカー・オルトラーニがXに投稿したのは昨年のことだった。

そのうちのひとつが「Sonoma」で、macOSの現行バージョンに採用されている。つまり、残りの名称はどれも使用される可能性がありそうだ(個人的には「macOS Mammoth」を推したい)。

また、デザインが一新された「計算機」アプリ(すばらしい!)がMacに導入される噂がある。「AppleInsider」によると、見た目はiOSバージョンに似ており、丸いボタンとサイズ変更できる機能をもつ。また、以前の計算結果を確認できる履歴機能が備わり、メモ機能にも対応する。

これらについて「AppleInsider」は、「実質的に計算機とメモの一体化を促し、計算に関連した要素や数学的な表記の入ったメモを利用できる選択肢が加わる」と説明している。ついにiPadにも計算機アプリが搭載される日が来たのだと思いたい。

また「AppleInsider」は5月下旬、「macOS 15」のユーザーインターフェイスが一部変更されると報じている。Siriのメニューバーのアイコンが単色に変わり、システム設定アプリがデザインを一新する(アプリは重要度に従って再編成される)見通しだ。また、Safariのページ操作のインターフェイスは新しく統合されたものになる。

Safariには新しいインテリジェントな検索機能が加わる可能性もある。Ajaxを用いてウェブページでトピックやキーフレーズを特定し、要約を生成する機能だ。

4. watchOS 11

iOSやiPadOS、macOSとは異なり、「watchOS」のアップデートは小規模にとどまりそうだ(「tvOS 18」も同様である)。すでに「watchOS 10」にはサイクリングに特化した機能やハイキング用の地形図、メンタルヘルスのツールといった新機能が詰まっており、アプリの切り替えも改善されいたことを考えると、これは想定内だろう。

これもブルームバーグのマーク・ガーマンによる情報だが、「watchOS 11」には「フィットネス」アプリの改良と合わせて、その場でのタスクに対応するSiriの進化したバージョンが搭載されるかもしれない(iOS 18にはSiriの全面刷新が含まれるという噂なので、これは納得できる)。

それ以外の面では小幅なアップデートにとどまりそうだ。「Apple Watch」のサポートに関していえば、2018年に発売された「Apple Watch Series 4」のサポートが終了すると「MacRumors」で伝えられている

5. visionOS 2.0

昨年のWWDCでは「Apple Vision Pro」が発表されたが、そのOSである「visionOS」の発表は今年2月で、Vision Proの発売と同時だった。しかし、すでに次の大型アップデートが準備されているという。

ブルームバーグのガーマンはニュースレター「Power On」において、アップルがVision ProでiPad用アプリを(互換モードで)実行する代わりに、専用アプリのラインナップを拡大する方向であると説明している。

「9to5Mac」が指摘しているように、visionOSに対応していないアップルのアプリはまだ複数ある(カレンダー、Apple Books、News、ポッドキャスト、リマインダー、ボイスメモ、株価、ホーム、ショートカット、マップなど)。これらのアプリがVision Proにも対応するかもしれない。

また、新たに「呼吸トラッキング」の機能が追加される可能性があると、「MacRumors」が報じている。Vision Proの「マインドフルネス」アプリのプログラムの中に、この機能への言及があることが見つかったというのだ。

この機能は呼吸の速度を検知することで、「ガイド付きの瞑想や自発的なセッションによってユーザーに没入的な瞑想体験を提供する」ようである。ただし、これがvisionOSのアップデートに含まれるのか、あるいは将来のバージョンで実現するのかは不明だ。

アップルはiOS 18やiPadOS 18と同様に、Vision Proにも今年中に新たなアクセシビリティ機能を導入する方針を認めている。プレスリリースで言及されている機能としては、リアルタイムの会話とアプリの音声の双方で会話に追随する「ライブキャプション」が挙げられる (「Apple Immersive Video」を体験している最中にウィンドウバーで字幕を移動できる機能が付いている)。画面の色を変更したり、視野のウィンドウや物体の透明度を変更したり、点滅光を暗くしたりするなど、Vision Proを使いやすくする機能もいくつか用意されそうだ。

(Originally published on wired.com, edited by Daisuke Takimoto)

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