経営破綻したフィスカーのEVに乗り続けるべく、オーナーたちが動き始めた

破産申請に追い込まれた新興EVメーカーのフィスカー。そのEVに乗り続けたいと願うフィスカー車のオーナーたちが非営利組織を設立し、メンテナンスや修理などの問題を解決すべく動き始めた。
An image of the outside of Fisker headquarters in Manhattan Beach CA.
Photograph: Jay L. Clendenin; Getty Images

ホセ・デ・バルディは、6月最後の週に眠れぬ日々を過ごしていた。問題が本格的に始まったのは、その1週間ほど前の6月18日のことである。電気自動車(EV)メーカーのフィスカーが米連邦破産法第11条の適用を申請したと発表したのだ。

デ・バルディを含め6,400人ほどいるフィスカー車のオーナーたちは、この事態を不安に感じていた。自分たちのクルマは今後どうなってしまうのだろうか──と。

破産申請によって「火がついた」のだと、デ・バルディは言う。「オーナーの利益を代表する機会があるなら、組織として動かなければなりません」

そこでデ・バルディはクルマを使い続けるために、数人のオーナーとともに「Fisker Owners Association(FOA)」という非営利組織を数日のうちに設立した(このために睡眠不足が続いていたのだ)。6月末までに1,200人のオーナー(フィスカーの販売合計台数の5分の1近くに相当)がFOAのウェブサイトから登録を済ませたのだと、デ・バルディは説明する。

メンテナンスをめぐる問題の解決に動くオーナーたち

フィスカー車のオーナーの“疑問”の大半は、実用面にかかわることだった。フィスカーが電気SUV「Ocean(オーシャン)」(価格は41,000ドル~70,000ドル)の納車を開始したのは昨年のことだったが、それから間もなく重大な品質上の欠陥やソフトウェアの問題があることが明らかになったのである。例えば、室内にある反応の悪いタッチ式ディスプレイなどがそうだ。試乗レビューの際には、「まだ完成品ではない」と判断して評価を避けたほどの完成度である。

これに対してオーナーたちは、最も重大な問題(使いづらいブレーキやBluetoothの接続性など)の一部はソフトウェアの更新によって解決されたと説明している。しかし、メンテナンスや修理が大変との声もあった。フィスカー認定の修理業者や技術者が不足しているからだ。

当初のフィスカーは米国でよくある従来型の代理店販売を避け、テスラに似た「D2C(消費者直接取引)」モデルを立ち上げた。ところが今年1月には、D2C関連のコストの増大を理由に、代理店と契約を結んで新たな販売ネットワークを立ち上げ始めている。

フィスカーの“残骸”について詳細な調査が進められている現在も、窓の亀裂やリモコンキー(キーフォブ)の不調、接続の突然の断絶といった細かい問題が残されている。今後も走らせ続けるには、メンテナンスやスペア部品が必要になることは明白だろう。それらを提供すべき企業であるフィスカーが消えてしまったら、オーナーたちはいったいどうすればいいのだろうか?

オーナーの組織として立ち上げられたFOAは、解決策を模索し始めたばかりだ。今後オーナーたちが直面するであろう問題(ローンの法的な問題や車載アプリの問題、部品の調達など)を洗い出すべく、少数の有志たちが昼夜を問わず活動して解決に乗り出している。

FOAのメンバーには本業もある。例えば、英国在住で欧州のオーナーの代表を務めているデ・バルディは、通信会社の最高技術責任者(CTO)でもある。

オーナーにとって状況は厳しくなるばかり

こうしたなか、オーナーたちにとっての状況はさらに難しくなっているようだと、専門家たちは指摘する。

自動車メーカーには、破産の事態に対応するためのマニュアルがある。2008年の金融危機の際に整備されたもので、ゼネラルモーターズやクライスラーは、これに基づいて(フィスカーと同様に)破産法第11条を申請した。これらの自動車メーカーは米国政府からの支援もあって、再建を進めながらクルマの保証などを維持することができたのである。

しかし、6月のデラウェア州での法的手続きを見る限り、フィスカーの状況はより深刻のようだ。フィスカーの債権者の弁護団は、フィスカーは昨年暮れに破産法を申請すべきだったと主張している。弁護団が裁判所で語ったところによると、フィスカーは4,000台ほど残っている在庫を、ニューヨーク市のUberやLyftのドライバーにEVを貸し出している会社に売却する予定だという。

そのようなかたちでフィスカーが清算を余儀なくされるなら、裁判所や債権者にとって車両のオーナーは最優先ではなくなるかもしれない──。ミシガン大学法学部で破産について研究している法学教授のジョン・A.E.・ポトウは指摘する。それにフィスカーには、車両の保証を維持できるだけの資金がない可能性もある。

「フィスカーが破綻した場合には、ソフトウェアを更新する義務はなくなります」と、ポトウは言う。車両や部品、知的財産などの資産が少なすぎて、メンテナンスや修理の仕事を引き受ける企業が現れない可能性もあるだろう。「破綻は決していいことではありません。企業の規模が小さいほど問題は大きくなります」

「差し当たってフィスカー車のオーナーは、クルマに高度で包括的な保険がかけられていることを確認すべきでしょう」と、ミシガン州立大学法学部で商法を研究する法学准教授のジャスティン・シマードは指摘する。実効性のあるメンテナンスや修理の仕組みがないと、「フェンダーの小さなへこみ程度の事故でも“詰んで”しまうことになりかねません」と、シマードは言う。最悪の場合には、Oceanの保険料率が上がり、再販価値がさらに急落することも考えられるという。

なお、フィスカーの広報担当者は、車両の修理や部品の製造に関する質問には回答していない。そのうえで、破産法第11条の申請に関する自社の声明を示した。

相次いだ新興EVメーカーの破綻

年末までの事業継続が難しいかもしれないと投資家に警鐘を鳴らした後、フィスカーは今年2月にOceanの生産を一時停止した。それから1カ月後、報じられていた日産自動車との出資交渉が決裂し、フィスカーの命運がより鮮明になったのだ。フィスカーの昨年の売上は2億7,300万ドル(約440億円)程度だったが、9億4,000万ドル(約1,510億円)の損失を出し、8億5,000万ドル(約1,370億円)の社債を発行している。

フィスカーのほかにも、Lordstown MotorsArrivalVolta Trucksなどの少数のEVメーカーも、EVや新車両の開発において想定を上回る厳しさに直面して破産を申請している。残されたLordstown Motorsの車両については、あるメンテナンス会社が引き受けることで合意した。Arrivalの資産は別のEVメーカーであるCanooに売却された。新体制の下で今年はじめに再編を終えたVolta Trucksは、車両の生産を続けるという。

こうした状況にもかかわらずFOAを率いるデ・バルディは、自分の黒のOceanをできる限り手元に置いておきたいのだという。Oceanの最初のトラブルが想定外であったことは認めながらも、「いまではとてもすばらしいクルマです」と語る。

課題や活動の大変さはありながらも、FOAは楽観的だ。「何らかのいい結果を得られるという前向きな感覚があります」と、デ・バルディは言う。

(Originally published on wired.com, edited by Daisuke Takimoto)

※『WIRED』による電気自動車(EV)の関連記事はこちら


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