すごいぞ 関東平野

関東平野の興味深い地形を、webGISを活用したOSINTの手法であぶり出します

深川の水路が語る、重要な判例となった事件とは?

現在の裁判では、好ましくないそうです

 裁判になったらどうしよう…

 そんなあなたには、何か、後ろ暗いところがあるのでしょうか?

 

 深川は、隅田川の河口に位置し、利根川水系や中川とつながる運河である小名木川の起点でもあります。このような立地から、水運による物資の集積地として栄えました。

図中央は隅田川、右上は小名木川、左中央は日本橋川

 地図をよく見てもらうとわかりますが、江東区佐賀は現在でも細い水路が複雑に入り組んでいます。水門で仕切られ、船が通ることもかないませんが、埋め立てられることもなく、現在も残ります。

中の堀川。往時は、両岸に倉庫が立ち並んでいた(Googleストリートビューより)

 張り巡らされた水路の両岸に倉庫が立ち並んだ風景が、数十年前までは当たり前に見られたのです。

 やがて物流の主役はトラックへと変わり、倉庫街はオフィス街へと姿を変えました。

 

 この水路による物流と深く結びついた深川で、重要な判例(判決は大正14年12月)となった、「大豆粕深川渡し事件」は起こりました。

大豆粕(JA全農くみあい飼料株式会社ホームページより)

 大豆粕は、ダイズから溶剤によって搾油した残渣を乾燥したものです。

 たんぱく質供給原料として重要な飼料ですが、事件が起きた大正時代には、主に肥料として使われました。

 また、「深川渡し」とは、当時の商慣習で「深川の売主指定の倉庫で引渡す契約」のことを言いました。引渡場所を具体的に明示せずとも、契約は成立したのです。

 

 売主と買主は、大豆粕の売買契約を「深川渡し」で締結しました。

 売主は引渡の準備を整えたのですが、買主は引取に現れませんでした。そこで売主は買主に対し、価格下落分の損害賠償を請求した、というのが事件の概要です。

 大豆粕の相場が下落し、引取りたくない気持ちにかられた買主は裁判で、「引渡場所が確定しないから支払できません」と主張しました。しかし買主は、「信義誠実の原則(信義則)」に反するとして敗訴します。

 

 信義則とは、「お互いを信頼し誠実に行動しましょう」という法原則です。

 (裏返せば、「裏切ったり、不誠実なことはするなよ」と…)

 

 この事件は、「売主に問合せすれば引渡場所が確定できたのに、買主はこれを怠ったので、信義則に反したのは買主だ」という判決だったのです。

 

 ところで…裁判では、「信義則を主張したら負け」とよく言われます。よく考えたら当たり前のことを言っている信義則を主張する前に、個別の法令で解決しましょう、ということです。

 

 

 契約行為に限らず、生活全般において「信義誠実」に行動したいな、と思います。

 

(参考)

飼料事業 | 事業内容 | JA全農くみあい飼料株式会社 (znf.co.jp)

神戸学院大学法学部第36巻(2007年4月)「取引における信義誠実の原則」加藤亮太郎