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「アニメーション美術の創造者 新・山本二三展 ~天空の城ラピュタ、火垂るの墓、もののけ姫、時をかける少女~」下関市立美術館で1月21日まで 学芸員オススメ3点

山口県の下関市立美術館で2024年1月21日まで開催されている「アニメーション美術の創造者 新・山本二三展 ~天空の城ラピュタ、火垂るの墓、もののけ姫、時をかける少女~」。展示されている背景画の中から、同館学芸員の藪田淳子さんにオススメの3点を解説してもらいました。( 山本二三にぞう氏は2023年8月に70歳で死去)

重厚感や雲の表現に注目 「天空の城ラピュタ《荒廃したラピュタ》」

天空の城ラピュタ《荒廃したラピュタ》1986年 ⓒ1986 Studio Ghibli

1986年、33歳でスタジオジブリに移籍した山本二三氏は、宮﨑駿監督の映画「天空の城ラピュタ」で美術監督に抜てきされました。
本作は主人公・パズーとシータが手前から奥へと走っていくシーンの背景画です。ラピュタの重厚感や荒廃した質感が余すところなく表現されています。ラピュタの輪郭はカッターで切り取られ、背景の空の部分と重ねることで画面に奥行きが感じられます。
さらに注目してほしいのが雲の表現です。表情豊かな雲の描写は、後に「ラピュタ雲」や「二三雲」と呼ばれ、山本氏の代名詞となっていきます。

写実性を超えた神聖さ 「もののけ姫《シシ神の森(5)》」

もののけ姫《シシ神の森(5)》1997年 ⓒ1997 Studio Ghibli・ND

個人事務所を設立し、多忙を極めていた山本氏は、スランプに陥り、再びレベルの高い仕事にふれたいとジブリを訪れました。「もののけ姫」の美術監督の仕事をきっかけにスランプから抜け出せたといいます。
本作は「シシ神の森」の方向性を決めることになった一枚です。「古き神々がまう太古の森」を表現するため、宮﨑監督と鹿児島県・屋久島に取材に赴きました。
黒を基調とした水面や、コケの柔らかさをも感じさせる表現は、写実性を超えた神聖さを持ち、映画の品格を決定づけたと言っても過言ではありません。

現実の建造物を再構成 「時をかける少女《踏切》」

時をかける少女《踏切》2006年 ⓒ「時をかける少女」製作委員会2006

山本氏は53歳で筒井康隆原作、細田守監督によるアニメーション映画「時をかける少女」の美術監督を務めました。作品は「第12回AMD Award ’06」大賞/総務大臣賞を受賞します。
この場面は東京都新宿区中井を取材して描かれています。しかし、この景色と完全に一致する場所は存在しません。作中で重要な意味を持つ踏切と坂道が描かれ、空には山本氏の代名詞ともいえる雄大な雲が浮かび、建造物が雑多に立ち並ぶ中、風が抜けるような印象を与えています。
これは、山本氏がたくさんの建造物を写真に収め、その中で適した形を取捨選択し、再構成するという手法を用いているからです。
(読売新聞山口県版12月13日・14日・19日掲載)

「アニメーション美術の創造者 新・山本二三展 ~天空の城ラピュタ、火垂るの墓、もののけ姫、時をかける少女~」
会場:下関市立美術館(山口県下関市長府黒門東町1-1)
会期:2023年11月19日(日)~2024年1月21日(日)
開館時間:9時30分~17時00分※入館は閉館30分前まで
休館日:月曜(1月8日は開館)、12月28日~1月1日
観覧料金:一般:1400円(1200円)/大学生:1200円(1000円)/18歳以下無料 ※( )は平日料金
詳しくは、美術館公式サイト 問い合わせは083-245-4131