防災グッズを見る男性=8月9日撮影、鹿児島県志布志市 (写真:共同通信社)

8月8日に宮崎県日向灘沖を震源とするマグニチュード7.1の地震が発生したことを受けて、南海トラフ地震臨時情報「巨大地震注意」が発表され、1週間呼びかけが続いた。南海トラフ地震は今後30年に70〜80%の確率で起きるとされるが、はたして本当か。地質学者の角田史雄氏と、元内閣官房内閣情報分析官の藤和彦氏は、「南海トラフ地震」の根拠とされる「プレートの移動」が地震を引き起こすというメカニズムに疑問を投げかける。角田氏が提唱する熱エネルギーの伝達が地震の原因だとする「熱移送説」とは? そして、本当に危ない地域はどこか? 全6回にわたって連載する。(JBpress)

(*)本稿は『南海トラフM9地震は起きない』(角田史雄・藤和彦著、方丈社)の一部を抜粋・再編集したものです。

(藤 和彦:元内閣官房内閣情報分析官)

3つの地震が統合されて「南海トラフ地震」になった

 私がもっとも問題だと思っているのは、南海トラフ地震の危機ばかりが煽られている状況です。

 南海トラフ地震に対する関心の高まりは、約30年前にさかのぼります。

 1995年に阪神淡路大震災が発生した後、関西在住の一部の地震学者が「西日本は地震の活動期に入った」と指摘するようになりました。

 阪神淡路大震災当時の「大地震」が意味していたのは、1970年代から言われ続けていた東海地震に加え、その西側で起こる東南海地震や南海地震のことです。

「過去にこれらの地震が連動して起こった」とされているからですが、この一連の地震活動こそが現在「南海トラフ地震」と言われているものです。

 その後、「この大地震は切迫している」という発言は、地震学者ばかりでなく、防災関係者の間でも語られるようになりました。

 学者からの受け売りに過ぎないにもかかわらず、防災関係者たちは明日にでも起こりそうな雰囲気で大地震の可能性を強調していました。

 ところが2011年3月11日に東日本大震災が発生すると、彼らの発言は「想定外」に変わりました。前述したとおり、超巨大地震をまったく想定していなかったからです。しかしその後、東日本大震災の発生で縛りが解けたかのように、南海トラフ地震の危険性をこれまで以上に喧伝するようになりました。

 次に必ず来る巨大地震の震源域は、西日本の太平洋沖の南海トラフと呼ばれるところにあるとされています。

 東日本大震災の主役は太平洋プレートでしたが、次回の主役はその西隣にあるフィリピン海プレートです。海のプレートが西日本に沈み込む南海トラフは、フィリピン海プレートの旅の終着点です。

南海トラフM9地震は起きない』(角田史雄・藤和彦著、方丈社)
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 トラフの日本語は「舟状海盆」です。読んで字のごとく舟の底のような海の盆地(凹み)です。

 海の中になだらかな舟状の凹地形をつくりながら、プレートは沈み込んでいきます。

 これに対して海溝は、プレートが急勾配で沈み込んでいく場所にできる、深く切り立った溝です。太平洋プレートの終着点は日本海溝や伊豆・小笠原海溝です。

 南海トラフ地震は、東海地震・東南海地震・南海地震、以上3つの地震から成り立っています。

 30年以内に発生する確率は、東海地震(マグニチュード8.0)が88%、東南海地震(同8.1)が70%、南海地震(同8.4)が60%といずれも高い数値です。しかもこれらの数字は毎年更新され、少しずつ上昇しています。

 これら3つの地震はもともと個別に評価されていたのですが、東日本大震災の発生を受けて「想定外をなくせ」という合言葉の下、南海トラフ地震として1つに統合されたのです。