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空家対策に感じる違和感

新しい仕事の一つとして取り組んでいる空家対策。
任に就いてまだ2ヶ月しか経過していませんが、感じたことを書きました。
数ヶ月後に書いたことを後悔するかもしれませんが、その時はためらわずに消しますw

○全国の空家の実態

総務省が発表した令和5年住宅・土地統計調査の結果では、全国の空家の数が900万戸になったとされ大きな話題となったことは記憶に新しいところです。
この数字はインパクトがあるのでメディアがこぞって見出しに取り上げていますが、世間がイメージしている空家とはずれている気がします。
空家と言ってもいろいろな種類があり、賃貸・売却用や二次的住宅(別荘など)も含まれています。
使い手のいない、いわゆる『放置空家」というものは385万戸なんですよね。
これだけでも十分やばい数字ですが。
しかも、5年前から37万戸も増加しているそうです。
藤沢市の住宅総数が約20万戸だから、これの2倍の空家があると思うとゾッとします。

○日本の住宅事情の不思議

人口が減少しているから、空家が増えても仕方ないか、と思っても良さそうですが、ちょっと不思議なことが起きています。
日本の住宅の総数は今でも増え続けているんです。
現在の総数は6,502万戸で、5年前から261万戸も増えました。
これは、使われない空家が増えている裏で、新しく住宅を建てまくっていることを意味しています。

https://www.stat.go.jp/data/jyutaku/2023/pdf/g_kekka.pdf

2024年4月30日_総務省プレスリリース

全国の住宅着工件数をみると、昭和42年以降毎年100万戸以上住宅が建てられ続けていて、近年も80万戸以上建つ状況が継続しています。
人口が減っているのに住宅が増えている。なぜ?と思いますが、住宅の数は人口よりも世帯数の影響を受けるとされています。
実際に、日本の世帯数は昭和からずっと増加を続けていて、人口減少元年と言われている平成20年から平成30年までの10年間で400万世帯増加していました。
人口問題研究所の推計では令和12 年まで増加を続け、5,773万世帯でピークを迎えるそうです。

https://www.ipss.go.jp/pp-ajsetai/j/HPRJ2024/hprj2024_gaiyo_20240412.pdf

国立社会保障・人口問題研究所_日本の世帯数の将来推計(全国推計)

これまでの傾向をみると、世帯数の増加が続く限り、新築住宅の数も増えていきそうですね。
これに伴って使われない空家・放置空家がますます増えそうです。

○空家対策に感じる違和感

ここで、僕が仕事をする上で感じている違和感についてお話ししたいと思います。
藤沢市でも空家はたくさんあります。
現状で、市役所が把握しているだけでも約500戸。
日々、空家に関する相談や苦情がたくさん寄せられます。
そんな中で、よくある問い合わせが、「安く買える・借りられる空家を探しているから紹介してほしい」というもの。
空家がたくさんあって誰も使わないのだから安く買ったり借りたりできるだろう、という考えなのだと想像します。
コレ、実情とぜんぜん違うんですよ。
藤沢市の場合、売りたい・貸したいという住宅は、ほとんど市場で流通すると言われています。
建物が老朽化していて売れなくても、解体して更地にすれば売れてしまうそうです。
では、それに該当しない500戸の空家が何なのかというと、まず所有者が不明ということがわかりやすいですね。
それから、所有者は存命だけど、老人ホームに入居していたりするケースもあります。
また、相続が発生している状態で、相続人同士がもめていて手がつけられないものもあります。
さらに、相続人がいるけれど、遠方に住んでいる、管理が面倒などの理由で固定資産税だけ払って放置している状態のものもあります。
つまり、空家対策として困ってしまうのは、所有者や管理者の意向や置かれた立場で放置され、どうにもできない住宅が存在し増えることなんです。
そして、このような市場に流通しない空家は今後も加速度的に増加していくのではないかと予想されます。

メディアやみなさんの周りでも、「空家の利活用が課題」ということが盛んに言われていませんか?
「空家をコミュニティカフェにリノベーションして地域の活性化に役立てている」というような事例が成功事例としてよく紹介されていますよね。
これはこれで素晴らしいことだと思います。
僕もできる限り既存ストックを有効活用して、地域に役立つ使い方をされるのが望ましいと考えます。
でも、こういう事例に触発されて、空家をもっと公益的な施設として使えば空家問題が解決される、といった短絡的な主張が増えるのは、かえって空家が抱える問題の解決から遠ざかってしまうのではないかと思うのです。
385万戸の空家すべてを地域の集会施設やコミュニティカフェにできると思いますか?
というか、そんなにあっても使いませんよね。
空家の利活用を考えていくのは必要なことなんですが、利活用件数を圧倒的に上回るスピードで増加する放置空家の問題の根本的な解決にはならないと思うんです。

○空家対策には何がもっとも有効か

では、どんなことに力を注いでいけば良いのか、ということですが、空家対策には3つの基本方針のようなものがあります。
❶ 発生抑制_事前に何らかの策を講じてそもそも空家(管理不全の)にならないようにする
❷ 適正管理_空家になったとしても損壊したり草木が繁茂して周辺環境を悪化させないようにする
❸ 有効活用_空家に別の用途を与えて空家でない状態にする
こんな感じです。
僕はやはり、❶の発生抑制にもっとも注力すべきなんじゃないかと考えます。
空家予備軍の所有者・管理者に対して管理不全の空家になるとどのようなことが起きてしまうのか、といったことを理解してもらって、コントロールできるうちに将来の取り扱いを決めておく必要がありますよね。
相続と一緒です。
意識啓発とかそういうレベルからもう少し実効性のある手を打ちたいところですが。この辺のアイデアについては別の機会に。
限られたマンパワーで空家対策にあたるとき、有効活用には多大な労力が必要になる割には効果(改善する戸数)が大きくありません。
「選択と集中」策として、発生抑制に一番力を注いでいくのはどうでしょうか。

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