This is startup - 経営の視点から見た知財戦略
【要約】
サマリ
2024年になってから、スタートアップの中で経営に少しばかり関わるようになった。
経営の視座で思考する場合、知財だけを見ているわけにはいかない。
知財以外の色のキャンパスに知財の色を足していく。
正解はないし、日進月歩で変わる会社の状況に合わせてゴールイメージを変容させていく必要がある。
一言で言えば、判断の瞬発力が求められる。
そういった仕事に勤しんでいるうちに、「経営の視点から見た知財戦略」というものの解像度が少しだけ上がってきた感覚を覚えてきた。
まだ仕上がりが粗いことは承知の上で、現時点の認識を書き綴ることにした。
定義
経営とは
デジタル大辞泉によれば、経営は次のように定義されている。
これを分解すると、経営の要件は、次のようになる。
事業目的を達成するための継続性&計画性を担保すること
継続性&計画性のあるアクションプランの意思決定を行うこと
意思決定されたアクションプランを実行に移すことにより、事業を管理・遂行すること
戦略とは(弊Blog「言葉の定義」から転載)
【僕の定義】リソース配分とシナリオ
「知財戦略」という言葉に触れる機会が増えた。
僕に依頼される講演の頻出テーマの1つでもある。
だがしかし、「戦略」が定義された上でスタートした会話は一度もない。
ほぼ毎回、「戦略」の定義の議論をけしかけている気がする。
僕は、「戦略」を「リソース配分とシナリオ」と定義している。
もちろんこれは絶対正解ではないが、定義がなされないまま「戦略」の話が進むことに猛烈な違和感を覚えるようになって久しい。
僕にとっては、「戦略」ではなく、「作戦」や「戦術」の話をされていると感じるときも、お相手は「戦略」と呼んでいる。
ちなみに、僕自信、「戦略」を未定義の言葉として使ってしまったことがある。
そのときに会話をしていた経営者(元戦略系コンサル)から一喝された。
僕自身、「戦略」という言葉の魔力を身をもって味わった知財家の1人である。
知財とは(弊Blog「後記「INPIT IPモチベーター 育成研修「スタートアップの中から見えた知財」」」より抜粋)
第1章 知財とは何か?
弊Blogでも何度も強調してきたが、知財家たるもの、言葉に真摯に向き合わねばならない。
実務上は、「知財」の主要領域を「特許」に置くことは許されるとしても、「知財」と「特許」が異なる概念であることには変わりない。
僕は、「知財」の本質は「自信が売りたい(価値がある)と思っている情報」である、と考えている。
経営の視点から見るとは
事業目的を達成するために継続性&計画性を担保すること
「事業目的を達成する」ための必須要件は、言わずもがな、「事業目的」を理解することにある。
スタートアップでは朝令暮改は日常茶飯事である。
したがって、過去に誰かが決めた事業目的を鵜呑みにしたまま進めるとは限らない。
既存の事業目的に対して、常に、継続性&計画性が担保されているか否かを考える必要がある。
継続性&計画性の障壁はなんだろうか。
その代表例は、リソース(ヒトとカネ)だろう。
事業目的の達成のために必要なアクションを洗い出し、それらのアクションに対して継続性&計画性が担保されるように、リソースを配分する。
「事業目的を達成するために継続性&計画性を担保する」とは、こういうことではないだろうか。
継続性&計画性のあるアクションプランの意思決定を行うこと
「継続性&計画性のあるアクションプランの意思決定」では、リソースの投資によって得られるリターンが会社の期待値以上になるアクションプランを導出する必要がある。
一言で言えば、ROI(Return of Investment)の最大化だ。
ここで重要なのは、ReturnとInvestmentの領域を拡張することだろう。
知財領域だけのROIを考えるのであれば、知財のパラメータだけが律速要因になる。
しかし、会社全体の領域に広げると、知財領域のROIを最大化しても、他の領域のROIが最小化するのであれば、会社全体のROIが最大化するとは限らない。
一例として、先願主義に従って特許出願をすると、その費用の投資先になったであろうマーケティングコスト(例えば、TV CMを打つコスト)が賄えなくなる。
スピードを至上命題とするスタートアップにおいて、先願主義の精神は特許に限られたものではない。
今、この瞬間に、特許を出すのか、特許を出さずにTV CMを打つのか。
この判断には、知財の視点が必要だ。
スタートアップでは、内的環境も外的環境もとてつもないスピードで変化する。
この変化のスピードに合わせて柔軟性のあるアクションプランでなければ、博打のようなアクションプランが出来上がる。
博打のようなアクションプランを否定するものではなく、博打カードを切るタイミングは見極めておく必要があるだろう。
意思決定されたアクションプランを実行に移すことにより、事業を管理・遂行すること
「意思決定されたアクションプランを実行に移す」には、社内外の仲間の協力が不可欠だ。
経営の視点から見たアクションプランの実行とは、実務の実行ではなく、仕組み化と人材マネジメントに尽きると思っている。
過去に培った実務力は、実務の実行に使うのではなく、仕組み化と人材マネジメントに使ってこそ活きてくる。
「経営の視点から見た知財戦略」とは
では、「経営の視点から見た知財戦略」とは何だろうか。
ここまでの考えを紡いでいくと、「経営の視点から見た知財戦略」の要件は次のようになるだろう。
事業目的の達成のために継続性&計画性があるリソース配分になっていること。
知財以外の領域のアクションプランも踏まえて、知財領域のアクションプランを意思決定すること
知財領域のアクションプランを実行しながら、非知財領域(知財領域以外の領域)も含めた事業という単位で管理・遂行すること
僕はこれまで、一般的に非知財領域とされる人事・広報・法務の責任者を務めてきた(現在進行系のものもある)。
それぞれの領域のプロフェッショナルの域には達することは難しいが、ヒトとカネの流れ、そしてそれらから派生する会社へのインパクトを実体験から理解しているつもりだ。
この物差しを入手できた点が、非知財領域に浸かることで得た僕の財産(知財)と言える。
例えば、知財業務の一貫として特許出願の見積書に決裁をするシーン。
良くも悪くも、「特許3件を内製化すれば、深夜枠のTV CMが一本打てるな」ということを無意識に考えるようになった。
知財のリソースは、予算設計上で「知財」という財布に置かれているが、経営レベルで見れば全社の共有物であることは変わらない。
上記の見積書の例に例えると、特許出願の見積書に決裁を出すということは、TV CMによる会社へのインパクトと、特許出願への会社へのインパクトを天秤にかけた上で、特許出願のインパクトがTV CMのインパクトを上回ったと考えたことに相当する。
このように、非知財領域と知財領域を天秤にかけた上で、知財のリソース配分とシナリオを描き、それを、会社全体のアクションプランに落とし込み、それを遂行する。
「経営の視点から見た知財戦略」とは、こういうものではないだろうか。
むすび
僕自身、会社を経営したことはないし、経営に関与して日も浅い。
経営には、ここでは語れていない要素もたくさんあるし、知財も同様である。
とは言え、「知財経営」、「企業価値向上に資する知財」といった言葉を目にして久しい中で、僕の中で「経営と知財の関係」の言語可に四苦八苦してきた歴史がある。
四苦八苦しているうちに、知財を中心とした思考に猛烈な違和感を持つようになった。
知財を中心に据えるのではなく、経営を中心に据え、非知財領域も含めた会社の全領域を考慮する。
考慮に考慮を重ねた結果として、自らの専門領域である知財領域の戦略(リソース配分とシナリオ)を描き、それを実行する。
経営と知財を融合させる行為とは、こういうことなのだと思っている。
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