湯遊白書〜そこに温泉があるから

ここは天国かい?いや、温泉だよ

釜山温泉〜ソラリア西鉄ホテル釜山

釜山温泉〜ソラリア西鉄ホテル釜山

釜山に行くなら泊まって欲しいホテル(温泉宿)がある。外国では珍しい大浴場があり、朝風呂、夜風呂とも天国が訪れる。新宿や福岡にもあるソラリア西鉄ホテル。サウナや水風呂まである。

釜山温泉〜ソラリア西鉄ホテル釜山

ソラリア西鉄ホテル釜山は、釜山随一の繁華街・西面(ソミョン)にある。金海(キンメ)国際空港からは電車を乗り継ぐ。万国共通の長い入国審査を済ませると、国内線ターミナルへ歩き、まずは金海軽電鉄に乗る。日本語のボタンがあるので安心だ。カタコトの日本語がしゃべれる係員もいる。

釜山温泉〜ソラリア西鉄ホテル釜山

金海軽電鉄で沙上駅(ササン)へ。普通に切符を買うと1700ウォン(180円)。ICカードを買ったほうが良いが、面倒くさいので都度チケットを買った。費用を抑えたいならICカードの買い方を調べたほうがいい。ちなみに空港でホテルまでの行き方を聞くと「タクシーを使ったほうがいい」と言われた。2500円くらい。複数人ならシェアできるが一人旅なので費用を抑えたい。

釜山温泉〜ソラリア西鉄ホテル釜山

金海軽電鉄の切符はICチップが入ったコイン。台湾と同じ。コインを改札機にかざして電車に乗る。車窓から釜山の都市の街並みが見える。沙上駅(ササン)に到着するときは日本語のアナウンスがあるので、乗り過ごしの心配はない。韓国は乗り換えの駅に到着するときは日本語アナウンスを入れる。親切だ。

釜山温泉〜ソラリア西鉄ホテル釜山

沙上駅(ササン)に到着すると、コインを改札機に入れる。地下鉄に乗り換え2号線で西面(ソミョン)へ。看板の表示があるのでわかりやすい。

釜山温泉〜ソラリア西鉄ホテル釜山

料金は同じ1700ウォン(180円)で、今度はコインではなく紙の切符。西面(ソミョン)駅まで8駅くらいあるが、到着するときは日本語アナウンスがある。

釜山温泉〜ソラリア西鉄ホテル釜山

西面(ソミョン)駅から7番出口を上がり、大通りを南側へ真っ直ぐ。「韓国コネクト」という地図アプリでGPSを見ながらがおすすめ。

釜山温泉〜ソラリア西鉄ホテル釜山

徒歩7分のところにソラリア西鉄ホテル釜山がある。間違って通り過ぎる可能性あり。画像

1階がカフェ・パスクッチなので、それを目印にするといい。3階がフロントの受付で日本語がペラペラなので安心。エレベーターですれ違う人は全員が関西弁。街の雰囲気といい、道頓堀に来た気分。

釜山温泉〜ソラリア西鉄ホテル釜山

ホテルの部屋も最高に清潔で快適。今まで泊まったなかでも上位。

釜山温泉〜ソラリア西鉄ホテル釜山

歩いて5分くらいで東川もあるので散歩もできる。朝や夕方におすすめ。

釜山温泉〜ソラリア西鉄ホテル釜山

大浴場は地下1階。今回泊まったプランでは大浴場の利用は別料金。1日分で9000ウォン(970円)。絶対に入ったほうがいい。

釜山温泉〜ソラリア西鉄ホテル釜山

脱衣所はドライヤーの風力が素晴らしい。日本の業務用と同じパワー。さすが美容大国の韓国。

釜山温泉〜ソラリア西鉄ホテル釜山

広々とした石風呂。

洗い場の隣が整いたい人向けのサウナ。

釜山温泉〜ソラリア西鉄ホテル釜山

水風呂が温度もちょうどいい。冷たすぎず、ぬるすぎず。いつまでも入れる。朝から水風呂。朝の洗礼。目を覚ます。ドカンと一発やってみよう。

釜山温泉〜ソラリア西鉄ホテル釜山

外国に来て大浴場がある特権意識。特別体験。泳げるくらい広々とした石風呂は旅の疲れを完全に癒してくれる。スベスベの湯。次に釜山に来るときもソラリア西鉄ホテル釜山に泊まりたい。

【ホテル情報】

ソラリア西鉄ホテル釜山、SOLARIA NISHITETSU HOTEL Busan

【住所】
〒47289
부산광역시 부산진구 부전동 233-16, 3F
釜山広域市 釜山鎮区 釜田洞 233-16, 3階

釜山 地下鉄 金海軽電鉄  2号線 沙上駅→ 西面(Seomyeon)駅、7番出口 徒歩8分

名山の麓に名湯あり『木曽温泉ホテル』

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木曽の霊峰・御嶽に登るクライマーに薦めたい宿がある。今後、御嶽に登るときは必ず脚を癒やす名湯だ。『木曽温泉ホテル』



外観から察しがつくように、ホテルより旅館のほうがしっくりくる。料金は1泊2食付きで1万円。
御嶽の労を癒してくれるのは茶褐色のにごり湯。

泉質は「ナトリウム・マグネシウム・カルシウムー炭酸水素塩・塩化物温泉」。

つまり、まんべんなく成分が入っている「分散型」と呼ばれる湯。内風呂も良いが、なんといっても冬に閉鎖されてしまう露天風呂。これがあるから御嶽への登拝は冬以外をお勧めする。

マグネシウムが豊富だから浸かっていると金属臭がぷーんと漂う。日常であれば嫌なニオイだが、旅先では芳香へと変わる。

何十分でも浸かっていられる、いや、ここを離れたくない。温泉の引力。山の湯よろしく、少し清潔感を欠いた汚さも味わい深い。


静寂のなか御嶽登山を振り返るも良し、次なる山に想いを馳せるも良し。島崎藤村の『夜明け前』の冒頭で「木曽路はすべて山の中である」と言うように、木曽温泉ホテルも静かな山の中に佇んでいる。最寄りのコンビニまでは1kmあり、完全に閉ざされた空間だ。車を30分走らせて開田高原があるくらい。


閑けさが湯とともに体に染み渡る。朝風呂、夜風呂とまた味わいが違う。人に疲れた都会人には、本当の贅沢と呼べる時間。ここは日帰り入浴もできるが、できれば宿泊をお勧めしたい。木曽温泉ホテルが振舞う手料理に舌鼓を打ってもらいたいからだ。

自分は口コミをまったく信用しないが、やはり木曽温泉ホテルも評価は低い。多くの人は”ご馳走”ではなく、グルメや美食にしか満足しないのだろう。どこでも見るような揚げ物一つとっても、丹念に作られ、真剣に客人を振舞おうとする意気込みが感じられる。その熱意こそが、ご馳走の証。

天ぷらとキノコ汁は、木曽の恵みを堪能するのに、これ以上ない逸品。これらを”つまらない料理”と感じてしまうのは、よほどグルメに毒されているのだろう。どれも人間の温度が感じられるものばかりである。揚げ物も機械やチェーン店では作れない個性がある。日常に疲れた旅人は木曽温泉ホテルに足を休めて欲しい。そこに本当の贅沢があるから。

名山の麓に名湯あり『武甲温泉』

3月に持病の腰痛が再発し、登山どころかストレッチもできない状態。1ヶ月、接骨院に毎日通い続けている。

ゴールデンウィークは岩手山で東北の母と山小屋に泊まると決めていたがキャンセル。八方塞がりのなか、4年前から書き置いていた『武甲温泉』の紹介文を完成させようと考えた。日帰りが基本だが別館に宿泊でき、少し腰を落ち着けられる。

令和4年5月16日(月)、武甲温泉は平日しか1人で泊まれないので、会社を休ませてもらった。今年の5月は変な気候の連続。半袖でも暑くて冷房をガンガン効かせる日もあれば、曇りの日は長袖でも肌寒い。この日も朝から新宿は小雨。半袖の予定だったが、8号ホームランを放った大谷翔平の真紅のパーカーを羽織ってアパートを飛び出した。

西武新宿駅から所沢で500円の特急料金を払い、ラビューに乗り換える。

西武新宿線は学生やサラリーマンの日常風景だったが、少し贅沢をするだけで旅行感が出る。到着が20分しか変わらず、500円はもったいないと思っていたが、大切なものは数字にあらわれない。カズオ・イシグロの『日の名残り』を持ってきたが、タリーズの缶コーヒー片手に、車窓からの秩父を楽しんだ。

11時42分、横瀬駅に到着。雨は上がっていたが、武甲山は霧の中。身体が冷える。暖をとらねば。横瀬の月曜は定休日が多い。珍しく営業している『大金星』という縁起のいい名前のラーメン屋に向かう。

秩父は蕎麦、うどんが名物なのでラーメンは珍しい。ご主人が令和2年創業のエプロンをしているので最後に来た3年前はなかった。横瀬の町も、武甲山の山容のように変化している。

武甲温泉は、武甲山の南側、横瀬川が流れる川縁にある。地名の由来は、武甲山から流れる生川と小丸峠から流れる芦ケ久保川が合わさって村内を横に北流することから来ているようだ。

1995(平成7年)開業と新しく、町おこしのために造られた。日帰りの入浴料は800円。町おこしは見事成功し、営業開始の10時から夜9時まで客足が途絶えることはない。地元民にいかに愛されているか。新緑の若葉豊かな5月は眼と湯の双方が癒やしてくれる。

武甲温泉の泉質は硫黄泉となっているが無臭。名物は広い露天風呂と炭酸泉だが、山の湯にしてはインパクトが弱い。

代わりに凄いのが水風呂。真冬でも迷わず水風呂に飛び込む自分だが、ここは30秒が限界。凍傷になるかと思うほど、夏のレモンサワーよりキンキンになる。サウナから脱出した直後でも身体の火照りを瞬時に無効にする。

武甲温泉で最も滋味に満ちているのは、湯ではない。洗い場が野外にあることだ。下山直後のクライマーにとって最もつらいのが、ムンムンと蒸された中で汗を洗い流すこと。特に30℃超えれば地獄絵図。

それを武甲温泉は見事に極楽へ連れて行ってくれる。春の陽気を浴びながら、身を清める快感。あとは露天風呂、炭酸泉、水風呂とパレード。早風呂が信条の自分もこの日ばかりは1時間半近く浸かっていた。

入浴のあとは、今夜の宿である別館へ。建物自体は古く、力士が数人で泊まれば床が抜けそうだ。

Wi-FiがないのでiPhoneとテザリングしながら1時間ほど仕事。炬燵がありがたい。夕方6時前に旅の贅沢に40分3,500円のマッサージをしてもらい夕食へ。

『武甲』400円を追加。アルコールの切れ味が強く、さすが武甲山の地酒。品数の多い旅館料理は非日常のご褒美。久しぶりに、これ以上は食べられない満腹になった。

閉館まで温泉に浸かり、秩父コーラとパンで夜を撫でる。日が変わる前に寝るつもりだったが、なんやかんやで日をまたいでしまった。

翌朝5時半に起床すると、少し腰が痛かった。積年の持病がそんなに簡単に治ってたまるか。武甲温泉には腰を「治し」に来たのではない。「治そう」としに来たのだ。

片道2時間なら箱根や伊豆にだって行ける。まだ訪れたことのない山の宿も多い。それでも秩父に来たのはあの山の麓に抱かれたかったからだ。山のパワーを吸収してから日常に戻りたい。朝ご飯を頂き、8時に宿を発つ。天気は曇りだが、出発前よりも晴れやかだ。

旅とは「空間移動を肯定すること」
そこには達成も未達もない。新宿へと戻る横瀬駅の向こうに、霧をまとった勇壮な武甲山が見えた。

名山の麓に名湯あり『御座石鉱泉』

eyecatch鳳凰山の登山口にある『御座石(ございし)鉱泉』は宿泊も可能な年季の入った大きな民宿。韮崎駅までのバスの切符も販売し、庭では犬が遠慮なく客に吠えるてくる。“鉱泉”とは、地中から湧き出た水や湯を指す。温泉は鉱泉の一種。

鉱泉の温度が25℃か、硫黄などの成分が一定量含まれていれば「温泉」になる。つまりは、鉱泉は温泉の親のようなもの。温泉はマイルドな響きだが、鉱泉というと少しカッコいい。

御座石鉱泉の主人は細田さんという、おばあちゃん。70歳は超えているはずだが、非常に元気で、声は40代。入り口には、テレビ番組で訪れた東野幸治のサインがあり、入浴料は1,300円(おそらくGW中だから)と少し高い。

お年寄りが営んでいるからか、手入れも行き届いておらず、率直に言って汚れた温泉である。個人ブログや口コミのサイトを見ると、ほぼ全員が最低の評価を下している。

浴室は基本的に1槽のみで、客が多いときはもう1つを開放する。ガラリと引き戸を開けて見ると、クラシカルな木の板で覆われた浴槽が顔を出す。

人工的に沸かしているので、底がぬるい場合があり、はじめに客が板で湯もみをする(今回はちょうど良い適温だった)。シャワーもなく、シャンプーは粗末で汚れた固形の石鹸があるのみ。おまけにお湯と水が別々に出る旧式の蛇口で、自分でうまい具合に温度を調整し、洗面器で混ぜなければいけない。

これでは評価が地に堕ちるのも無理はない。だが、これでいいのだ。もし近代的に完備され、なに不自由ない環境であれば、風呂も水洗トイレもない山小屋の労が消し飛ぶ。

2016年に約1ヶ月半、チベット側のエヴェレストで生活をしたが、当然、標高6000メートルに風呂などない。下山し、チベット第2の都市、シガチェの街に戻ってきたとき、さぞ90日ぶりの風呂は極楽だろうと想像したが、これが意外にも逆だった。

あまりに近代化された風呂とシャワーを浴びたことで恵まれ過ぎる環境が、これまでの山生活を打ち消してしまった。ベースキャンプの不自由さを否定したような気になり、むしろ居心地の悪さすら感じてしまった。

その点、御座石鉱泉の“適度な不便さ”は、山小屋の延長という感じで、徐々にシャバの生活に戻る助走となる。「生き返った!」と心が躍り、お風呂がある生活への感謝を感じられる。もちろん、ただ宿泊しに来るだけでは不満でいっぱいだろう。だが、風呂なし登山の後であれば、これほどありがたい環境はない。

値段に関して言えば、こんな山奥で営業をしてくれているのだから、割り増しの料金を取るのは自然の摂理。何の不満もない。嫌なら、駅に戻ってから、数百円のレジャー温泉や銭湯に浸かればいい。現代人はとにかく、贅沢に慣れすぎている。平成という時代に多くの人間が贅沢という病に侵され、それを令和に引き継いでしまった。

鳳凰山を登った後は、再び御座石鉱泉のお世話になるだろう。5月3日に下山してきたとき、御座石鉱泉の庭では、黄色い水仙の花がそよ風に揺れていた。

花の一つ一つが万歳三唱し、登頂の凱旋パレードのように迎え入れてくれる。これは細田さんが、根分けして丹念に育てた結晶の数々である。写真を撮らせてもらうと「インターネットで宣伝してくださいね」と言われた、これで、約束を果たしただろうか。今度はもう少し時間に余裕を持ち、細田さんが打った蕎麦も味わってみたい。

名山の麓に名湯あり『高尾山温泉』

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山の頂きには喜びがあり、山の麓にはクライマーを癒す極楽がある。登頂が叶わなくとも「温泉よければ全てよし」と言える登山があってもいい。新宿から近く、屈指の“極楽指数”を誇る名湯が、登山者数で世界一を誇る高尾山の『極楽湯』

 

正式名称は「京王高尾温泉 極楽湯」。極楽湯は、北は札幌から南は宮崎まで、全国に店舗を構えるフランチャイズスパ。「地元の極楽湯に入ったことあるよ」という人も多いだろう。高尾山は年間260万人以上が訪れ、世界一の登山者数を誇る。さらに、ミシュランガイドでも観光地として3つ星評価を受けており、外国人旅行者からの人気も高い。そんな人口爆発のあおりを受け、2015年10月に造られたのが『極楽湯』

 

泉質の前に、まずはアクセスの良さに着目したい。「高尾山口駅」の直結。車を持たない通岳(つうがく)電車のクライマーにとって、下山後に労を強いられなくて良いのは、至福の悦び。

 

湯につかって腑抜けとなった体でも、徒歩なしで電車に乗れる。しかも営業時間は8:00〜23:00という稀に見る長期戦(24時間営業でええんちゃうの?と思ってしまう)。

仕事の始業が遅いクライマーは、朝イチで高尾山に登り、朝風呂を浴びてから出勤するもよし。仕事が早く終わった日には、高尾山から下山後、遅湯につかって明日に備えるもよし。

 

山と温泉がセットになって、これほど広角打法の楽しみ方を提供する場は、温泉大国ニッポンと言えど、他に見当たらない。だからこそ、1000円(繁忙期は1200円)という料金も、むしろ特別感があって良い。

 

天然温泉である極楽湯の泉質は、「アルカリ性単純温泉」。単純とは、成分の含有量が少ないことを意味し、硫黄泉や炭酸泉など、玄人好みの湯と違って最も一般向けであり、肌の刺激が少ない泉質。言い換えると、「最も心地よく、癒しを与えてくれる泉質」がアルカリ性単純温泉。

 

そして、極楽湯で最初に我々の目を驚かせてくれるのが「替わり風呂」。美しいエメラルドグリーンの宝石を散りばめたような「ジャスミンの湯」

主役は温泉好きの憧れである「檜風呂」。木の優しさと、人工的に作り出したマイクロバブル(微泡)のハーモニー。「これで、ようやく本当の登頂だあああああ」と心の中で叫んでしまう。

 

檜風呂の温度はぬるいが、物足りなさを感じさせない。名湯とは何か? お湯に包まれている時の極楽指数はもちろん、自分がケガで苦しんでいたことすら忘れさせる魔性。これが真の名湯である。

 

「替わり風呂」「檜風呂」を堪能した後は、「水風呂」を素通りしてはいけない。冷水でアイシングし、筋肉の回復をはかる。

 

数年前、栗城史多さんと真冬の1月に富士山の麓の温泉に入ったとき、「水風呂のすヽめ」を諭された。首まで浸かったとき、危うく気絶しそうになったが、それ以降は病みつきになって、必ず水風呂を探すようになっている。

 

「日替わり」「檜」「水風呂」。この三段活用を求めて、クライマーは高尾山を訪れる。

名山の麓に名湯あり『梵の湯』

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山の麓にはクライマーを癒す極楽がある。「武甲温泉」「満願の湯」と並んで、”秩父三湯”と呼びたい第三の湯『梵の湯』

秩父は名峰が屏風のように並ぶ関東の聖域。自ずと山の湯の恵みも屈指となる。

その秩父市に2500坪の広大な敷地を持つのが『梵の湯』。開業は2007年と新しい。元々は釣り堀を造るつもりが偶然、温泉を掘り当ててしまったとか。嘘か真かはどうでもよく、梵の湯の魅力は泉質。今どき泉質だけで勝負できる珍しい湯。

キャッチコピーは「関東一の重曹泉」

正確にはナトリウム・塩化物・炭酸水素塩冷鉱泉(低張性、アルカリ性)だが、面倒くさいので重曹泉とする。

重曹泉は旧分類の泉質名であり現在は「炭酸水素塩泉」の部類。典型的な美人の湯であり、皮膚を滑らかにし、ツルツル美白にする。

しかも、梵の湯はph値(水素イオン濃度)も8.5と高く、アルカリ性の湯。これもつるつる&美白効果がある。さらに浸透圧も「低張性」の分類であり、水分が肌に浸透しやすく優しい温泉なのだ。

つるつる無双。まさに悪魔的なつるつる。
奥多摩には驚異のpH値10.1を持つ『つるつる温泉』があるが、それも比較にならない。
それほど『梵の湯』のつるつるは群を抜き切っている。

名湯・秘湯は全国に数多くあれど、梵の湯は「魔湯」と位置付けるのがふさわしい。  

迷わず浸かれ。浸かれば分かるさ。ただし、湯あたりするので長湯は禁物。水風呂と交互浴。

柵ごしに荒川の清流が望める露天風呂は全無視でよい。兎にも角にも内風呂に浸かる。

身体はタオルでゴシゴシ洗わず手洗いにすべし。そうすれば、このスベスベは消えない。

松崎温泉〜長八の宿、山光荘

松崎温泉〜長八の宿、山光荘

日本でいちばん小さい町・静岡県西伊豆松崎町にステキな温泉宿がある。その名も通称"長八の宿"、地元の人は正式名称の「山光荘(さんこうそう)」と呼ぶ。

松崎温泉〜長八の宿、山光荘

駿河湾と富士山を一望できる伊豆松崎町の港にあり、もとは漁師の大網元が造った宿。1966年8月の開館なので、2年後には60周年。昭和42年8月に漫画家つげ義春が訪れ、一躍、全国区になった。

松崎温泉〜長八の宿、山光荘

昭和2年生まれの女将さんが振る舞う料理が評判だったが、現在は高齢で素泊まりのみ。宿泊の予約が入ったとき、東京在住の娘さんが松崎に里帰りして旅館を手伝うという物凄い運営だ。

お孫さんが静岡で板前をしているらしいが、継ぐのかは未定。果たしてどうなるか。宿は運営が大変だ。

松崎温泉〜長八の宿、山光荘

重厚感と落ち着きのある団欒所。入江長八が彫った達磨の像がある。

入江長八《寒牡丹》

入江長八《寒牡丹》

それより凄いのがロビーにある《寒牡丹》。これはぜひ生で観てほしい。日本のあらゆる芸術品の中でもトップクラスの作品だ。長八の凄さは別のブログでたっぷり語っているので、ぜひ読んでください。最後に紹介します。

松崎温泉〜長八の宿、山光荘

この日は素泊まり7700円の龍の間に泊まった。温泉は24時間入っていい。泉質はカルシウム-ナトリウム-硫酸塩温泉。「硫酸塩泉」とも称し、無色透明でサラッとした肌触り。インパクトは少ないが優しい。肌の蘇生効果から「若返りの湯」と呼ばれる。伊豆の湯ヶ野にある福田家(伊豆の踊り子の舞台)も同じ泉質。pH値(水素イオン濃度)が8.6なのでアルカリ性の湯。7.5以上なので美肌効果のあるツルツルの湯。

松崎温泉〜長八の宿、山光荘

女性は上品な伊豆石の風呂、男風呂は勇ましい岩風呂。飲泉すると無味だが、浮遊力がある。目を閉じると岩の感触と浮遊感で海にプカプカ浮いている気分。この温泉の真価は朝風呂にある。『地獄の黙示録』でギルモア大佐が「朝のナパーム弾は格別だ」と言ったが、目覚めに浴びる温泉にはかなわない。岩風呂に首を預けて目を閉じると、そのまま二度寝してしまうかのようだ。いや、いっそこのまま眠ってしまおうか。やっぱり朝のナパーム弾は格別だ。

名称 山光荘(さんこうそう)
住所 〒410-3611 静岡県賀茂郡松崎町松崎284
電話 0558-42-1047

アクセス

湖畔の湯〜諏訪湖に抱かれて

諏訪湖はなんでも訪れたい湖だ。日本でいちばん好きな湖。水滸伝梁山泊とは真逆の趣で水のほとりの物語がある。夏は元気に入道雲が大きい。細田守の世界に入れる。

湖畔の湯〜諏訪湖に抱かれて

広大な諏訪湖の北側、下諏訪にある「湖畔の湯」。名前のとおり、諏訪湖から歩いて5分ほどの場所にある。といっても海の湯ではなく、沸かした銭湯。泉質は単純泉(温泉に含まれる成分の量が一定値に達していない温泉)。

画像引用:BIGLOBE

水風呂や露天風呂からの諏訪湖の眺望はなく、むしろ逆側に設置。320円で入る地元の湯。平日の夕方でも住民のおっちゃんたちで混み合っている。むしろ、そこが銭湯の良さかもしれない。真ん中に船のような巨大な浴槽がひとつだけ。湯は少し熱め。積雪地帯に変わる冬なんか気持ちいいかもしれない。

夏は湯上がりの八ヶ岳コーヒー牛乳。諏訪湖は見れない。それでも湖畔の湯は続く。地元の人たちに愛されているから。

  • 営業時間: 7時00分~21時30分まで
  • 入浴料 :大人:320円、子ども:150円
  • 住所:〒393-0045 長野県諏訪郡下諏訪町南四王6130-1
  • 電話番号 :0266-28-0054
  • 駐車場 :あり
  • 定休日:月曜定休

名山の麓に名湯あり:大菩薩峠『ひがし荘』

eyecatchそこに山があるからではなく、そこに温泉があるから山に行くことが多い。下山後に寄る温泉は事前にチェックするが、うれしいのは偶然の出逢い。当初は大菩薩峠から下りたら温泉施設『大菩薩の湯』に浸かる予定だった。

2月27日に登り始める前、雲峰寺を過ぎた所で民宿『ひがし荘』を発見した。看板に「入浴できます」とあるが営業中なのか怪しい。とりあえず下山してから決めようと、ロックオンして登り始める。

翌28日の10時30分に下山したとき、インタホーンを押して「ごめんください」と尋ねた。何度か呼んでも反応がなく、諦めて大菩薩の湯に向かおうとしたら、中から「いらっしゃい」とおばあちゃんが引き戸を開けた。70歳は超えている。

「入浴できますか?」と聞くと、「どうぞどうぞ」と微笑んでくれる。民宿客はいないようだ。玄関には数年前の少年マガジンが何冊も積んである。

「ご飯も頂けるんですか?山菜そばを食べたいんですけど」と聞くと、「ええ、できますよ。雲峰寺の前に売店があります。そこで作って待ってますから、ゆっくり湯に浸かってから来てください」と微笑む。

「お願いします」と先に入浴料を払おうとしたが、おばあちゃんはすでに行ってしまった。人を疑う時世なのに、昭和や平成から時が止まったようだ。脱衣所には「光明石温泉」とある。泉質は分からないが、民宿のお風呂なのでそこまで期待はしない。

浴槽は2〜3人が入れるくらい。カップルや家族風呂にちょうどいい。山小屋→1日ぶりの温泉は極楽のリレー。しかも、ただの湯ではない。湯に重力がある。「これは気持ちいいぞ」とだんだん沁みてくる。温泉の真価は入浴後にわかるもの。風呂から上がって着替えても、まるで温泉の服を着ているように、効能を全身にまとっているように、あとから泉質が追いかけてくる。

実はこのあとバスが来るまで『大菩薩の湯』にも浸かった。1day 2 温泉。こちらは高アルカリ性の湯で、浸かっているときは肌がスベスベして気持ちいい。しかし湯上りにその効能は消えてしまう。温泉としての軍配は、ひがし荘に上がる。

大菩薩峠の名残惜しさは湯に溶けてくれた。本物の温泉は自分を生まれ直す産湯。違う自分に生まれ変われる。次に大菩薩峠に来たときも必ず寄る。おばあちゃん、ありがとう。

光明石温泉をまとい、ポカポカした身体のまま民宿から3分ほど歩いて売店に向かう。年季がすごい。

「いい湯でした。生き返りましたよ」と伝えると、「こちらが暖かいですよ」とストーブの隣の席に案内してくれる。

テーブルの煎餅をポリポリかじりながら待っていると、山菜そばが運ばれてきた。

山梨名物「ほうとう」を食べたかったが、深田久弥さんが『日本百名山』に「雲峰寺の近くで食べた蕎麦がうまかった」と書いていたので、敬愛する岳人の後を追った。

無事に山を下りたあとの飯は格別だ。東京のどんな名店でもこの味は出せない。自分の足で稼いだ味。クライマーの労と無事の帰還を祝福してくれる。

しかも、今回はおばあちゃんが隣の席に座って話しかけてくれる。この店は35年前に造られたそう。もっと歴史があると思っていたので、自分より年下だと知って驚いた。

おばあちゃんは数年前まで年に5回も大菩薩峠に登り、登山道や山小屋の掃除をしてくれた。この支えによって、クライマーは山に向かうことができる。

「お勘定お願いします」と言うと「コーヒーを淹れます。1分でできるので待っててください」と奥へ行った。

不思議な珈琲。インスタントなのに、なんて美味しい。人生で飲んだ中で5本の指、いや3本の指に入るかもしれない。どこで誰が淹れてくれたかによって味が変わる。珈琲は不思議な生きものだ。入浴代500円、蕎麦代700円、自分用のお土産のオリジナル煎餅400円の1,600円を払う。次に来るときまで、どうかお元気で。また、光明石温泉に浸かり、この珈琲を飲みに来る。バスに乗って新宿に帰るとき、ひがし荘のおばあちゃんこそが、大菩薩峠の菩薩である気がしてきた。