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{{Otheruses|数学理論としてのベクトル解析|1901年にエドウィン・ビッドウェル・ウィルソンとウィラード・ギブスによって出版されたベクトル解析に関する著作『Vector Analysis』|ベクトル解析 (著書)}}
{{出典の明記|date=2011年11月}}
{{Calculus}}
'''ベクトル解析'''(ベクトルかいせき、[[英語]]:vector calculus)は主に空間の[[ベクトル]]を用いた[[解析学]]。[[関数 (数学)#多変数関数と多価関数|ベクトル値関数]]の[[微分積分学]]を展開する[[数学]]の分野の一部である。
'''ベクトル解析'''(ベクトルかいせき、[[英語]]:vector calculus)は空間上の[[ベクトル場]]や[[テンソル場]]に関する[[解析学|微積分]]に関する[[数学]]の分野である。
 
多くの物理現象はベクトル場やテンソル場として記述されるため、ベクトル解析は物理学の様々な分野に応用を持つ。
==概要==
数学の分野の一部だが、そもそもは以下に記したような物理の学問が関連している。
 
物理学では3次元ユークリッド空間上のベクトル解析が特によく用いられるが、ベクトル解析は一般のn次元[[多様体]]上で展開できる。
一般的には、2次元または3次元の[[ベクトル場]]のベクトル値関数を取り扱う。3次元ベクトル場の場合は、物理学の分野の、[[電磁気学]]や[[流体力学]]のような[[空間]]の[[変化]]の[[解析]]などに用いられる初等的な学問である。そのような意味でベクトル解析は[[物理数学]]の一部と見なされ理工学の分野では広く活用される学問である。広義には、[[測度論]]や[[多様体]]上の[[微分形式]]論の一部なども含む。とくに[[ストークスの定理]]は一般次元における[[微分積分学の基本定理]]ということができる。
 
==3次元ユークリッド空間におけるベクトル解析==
 
===ベクトル場とスカラー場===
 
====定義====
3次元ユークリッド空間<math>\mathbb{R}^3</math>上の'''ベクトル場'''{{Mvar|'''X'''}}とは、<math>\mathbb{R}^3</math>上の各点{{Mvar|P}}に対し、{{Mvar|P}}を始点とする3次元ベクトル{{Mvar|'''X'''(P)}}を対応させる[[写像]]のことである。
 
[[File:VectorField.svg|right|thumb|250px|ベクトル場の例(2次元の場合)]]
 
本項では特に断りのない限り、この写像が{{Mvar|P}}に関して滑らかな場合を考える。すなわち、<math>\mathbb{R}^3</math>の座標を使って
:<math>\mathbf{X}(P)=(X_{1}(x_1,x_2,x_3),X_{2}(x_1,x_2,x_3),X_{3}(x_1,x_2,x_3))</math>
と表したとき、各{{Math|''X''{{Sub|i}}(''x''{{Sub|1}},''x''{{Sub|2}},''x''{{Sub|3}})}}が任意回微分可能である場合を考える。
 
なお、ベクトル場の記法として{{Mvar|'''X'''(P)}}の代わりに
:<math>\mathbf{X}_P</math>
のように {{Mvar|P}}を下付きに書くことも多い。しかしこの下付きの記法だと、成分表記したときに煩雑になるので、本項では{{Mvar|'''X'''(P)}}と{{Mvar|'''X'''{{sub|P}}}}の両方の記法を混用する。
 
同様に3次元ユークリッド空間<math>\mathbb{R}^3</math>上の'''[[スカラー場]]'''{{Mvar|F}}とは、<math>\mathbb{R}^3</math>上の各点{{Mvar|P}}に対し、実数{{Mvar|F(P)}}を対応させる[[写像]]のことである。
 
====具体例====
 
ベクトル場の例としては、'''[[電場]]'''、'''[[磁場]]'''、'''[[重力場]]'''などがある。また[[流体]]上の各点にその点での粒子の速度ベクトルを対応させることで'''速度場'''を定義する事もできる。
 
===スカラー場の線積分===
====定義====
 
{{Mvar|'''X'''}}をベクトル場とし、 ユークリッド空間上の曲線{{Mvar|C}}が<math>\mathbf{x}(u)=(x_{1}(u),x_{2}(u),x_{3}(u))</math>、{{Math|''u''∈[''a'',''b'']}}とパラメーター表示されているとする。積分
:<math>I=\int_a^b F(\mathbf{x}(u)) \left\|{\operatorname{d}\mathbf{x}\over\operatorname{d}u}(u)\right\| \operatorname{d}u </math>
を曲線{{Mvar|C}}に沿ったスカラー場{{Mvar|F}}の'''[[線積分]]'''という。
 
線積分の定義は{{Mvar|C}}とその向き付けには依存するが、同じ向き付けを与える限りパラメーターの取り方に依存しない。実際曲線{{Mvar|C}}を別のパラメーター{{Mvar|w}}に <math>\mathbf{x}(w)=(x_{1}(u(w)),x_{2}(u(w),x_{3}(u(w)))</math>、{{Math|''w''∈[''c'',''d'']}}と変数変換して同様の積分
:<math>J=\int_c^d F(\mathbf{x}(w(u))) \left\|{\operatorname{d}\mathbf{x}(u(w))\over\operatorname{d}w}\right\| \operatorname{d}w </math>
を考えると、この変数変換が曲線の向きを変えないとき、すなわち
:<math> {\operatorname{d}u\over\operatorname{d}w} >0</math>
が恒等的に言えるときには
:<math>\begin{array}{ll}
J&= \displaystyle\int_c^d F(\mathbf{x}(u(w))) \left\|{\operatorname{d}\mathbf{x}\over\operatorname{d}w}\right| \operatorname{d}w \\
&= \displaystyle\int_a^b F(\mathbf{x}(u(w))) \left|{\operatorname{d}\mathbf{x}\over\operatorname{d}u}\right\| {\operatorname{d}u\over\operatorname{d}w} \operatorname{d}w\\
&= \displaystyle\int_a^b F(\mathbf{x}(u)) \left\|{\operatorname{d}\mathbf{x}\over\operatorname{d}u}\right\| \operatorname{d}u \\
&=I
\end{array}</math>
が成立する。
 
そこで'''線素'''{{Math|d''s''}}を
:<math>\operatorname{d}s:= \|\operatorname{d}\mathbf{x}\|=\sqrt{\operatorname{d}x_1{}^2+ \operatorname{d}x_2{}^2+ \operatorname{d}x_3{}^2 } </math>
と定義し、スカラー場の線積分を
:<math>\int_C F\operatorname{d}s</math>
と表記する。
 
{{Mvar|C}}の始点と終点が一致するとき(すなわち{{Mvar|C}}が[[閉曲線]]のとき)はそのことを強調して
: <math>\oint_C F\operatorname{d}s</math>
とも表記する。
 
====弧長====
 
線積分の特殊なケースとして
: <math>\int_C \operatorname{d}s</math>
を考えると、曲線{{Mvar|C}}の長さ('''[[弧長]]''')に一致する事が知られている。
 
厳密な証明は弧長の項目にゆずるが、直観的には以下の理由による。{{Mvar|C}}を<math>\mathbf{x}(u)=(x_{1}(u),x_{2}(u),x_{3}(u))</math>、{{Math|''u''∈[''a'',''b'']}} と向きをはじめとする保つようにパラメトライズし、{{Math|[''a'',''b'']}}を長さ{{Mvar|&Delta;u}}の微小区間に分けると、{{Mvar|C}}の長さはおよそ
:<math>\sum_i \|\mathbf{x}((i+1)\Delta u)- \mathbf{x}(i\Delta u) \|</math> <math> \sum_i \|\Delta\mathbf{x}/\Delta u \|\Delta u </math>
なので、{{Mvar|Δu}}を0に近づけると、線積分
:<math>\int\left\|{\operatorname{d}\mathbf{x}\over \operatorname{d}u}\right\|\operatorname{d}u</math>
に一致する。従って上述の線積分で弧長を求める事ができる。
 
====弧長パラメーター====
曲線{{Mvar|C}}を、
: {{Math|'''''x'''''(''s''){{=}}(''C''}}の始点から{{Mvar|s}}離れた位置)
とパラメトライズできる<ref group="注">ここでは話を簡単にするためパラメーター{{Mvar|s}}の原点を{{Mvar|C}}の始点にしたが、{{Mvar|C}}上の任意のん一点を原点としてよい。この場合、原点より始点側は負の値でパラメトライズする。</ref>。このような{{Mvar|s}}を{{Mvar|C}}の'''弧長パラメーター'''という。
{{Mvar|C}}を弧長パラメーターで<math>\mathbf{x}(s)=(x_{1}(s),x_{2}(s),x_{3}(s))</math>と表したとき、定義より
:<math>s= \int_0^s\left\|{\operatorname{d}\mathbf{x}\over\operatorname{d}s}\right\| \operatorname{d}s </math>
なので、両辺を微分すると、
:<math>1= \left\|{\operatorname{d}\mathbf{x}\over\operatorname{d}s}\right\| </math>
が恒等的に成り立つ。
 
従って線積分とは、
: <math>\int_C F(x(s))\operatorname{d}s= \int_0^1 F(x(s)) \left\|{\operatorname{d}\mathbf{x}\over\operatorname{d}s}\right\| \operatorname{d}s
= \int_0^1 F(x(s))\operatorname{d}s </math>
より、弧長でパラメトライズされた場合の{{Math|''F''(''x''(''s''))}}の積分である。
 
===ベクトル場の線積分===
 
====定義====
 
{{Mvar|'''X'''}}をベクトル場とし、 ユークリッド空間上の曲線{{Mvar|C}}が<math>\mathbf{x}(u)=(x_{1}(u),x_{2}(u),x_{3}(u))</math>、{{Math|''u''∈[''a'',''b'']}}とパラメーター表示されているとし、積分
:<math>\int_a^b \mathbf{X}(\mathbf{x}(u))\cdot {\operatorname{d}\mathbf{x}\over\operatorname{d}u}(u)\operatorname{d}u </math>
を考える。ここで「・」は[[内積]]である。
 
スカラー場に対する線積分と同様の議論で、上述の積分はベクトル場{{Mvar|'''X'''}}と曲線{{Mvar|C}}のみに依存し、{{Mvar|C}}のパラメトライズの方法によらない。そこで上述の積分を
:<math>\int_C \mathbf{X}\cdot\operatorname{d}\mathbf{x}</math>
と表記し、ベクトル場{{Mvar|'''X'''}}の曲線{{Mvar|C}}に沿った'''[[線積分]]'''という。ここで
:<math>\operatorname{d}\mathbf{x}=(\operatorname{d}x_1, \operatorname{d}x_2, \operatorname{d}x_3)</math>
である。成分で書けば、線積分は
:<math>\int_C X_1\operatorname{d}x_1+ X_2\operatorname{d}x_2+ X_3\operatorname{d}x_3 </math>
とも表示できる。
 
{{Mvar|C}}の始点と終点が一致するとき(すなわち{{Mvar|C}}が[[閉曲線]]のとき)はそのことを強調して
: <math>\oint_C \mathbf{X}\cdot\operatorname{d}\mathbf{x}</math>
とも表記する。
 
====弧長パラメーターによる表示====
 
{{Mvar|C}}を弧長パラメーターで<math>\mathbf{x}(s)=(x_{1}(s),x_{2}(s),x_{3}(s))</math>と表すと、 {{Mvar|C}}に沿った線積分は、
: <math>\int \mathbf{X}(\mathbf{x}(s))\cdot {\operatorname{d}\mathbf{x}\over\operatorname{d}s}(s)\operatorname{d}s </math>
と表記できる。 すでに示したように
: <math> \left|{\operatorname{d}\mathbf{x}\over\operatorname{d}s}\right| =1</math>
が恒等的に成り立つので、内積
:<math> \mathbf{X}(\mathbf{x}(s))\cdot {\operatorname{d}\mathbf{x}\over\operatorname{d}s}(s) </math>
は <math> \mathbf{X}(\mathbf{x}(s))</math>を{{Mvar|C}}の{{Math|'''x'''(''s'')}}での接線方向の射映である。
 
すなわち線積分は、ベクトル場{{Mvar|'''X'''}}の、 {{Mvar|C}}の接線方向成分を積分したものである。
 
===スカラー場の面積分===
 
====定義====
 
3次元ユークリッド空間内の曲面{{Mvar|S}}が
:<math>\mathbf{x}=\mathbf{x}(u_1,u_2)</math>
とパラメトライズされていたとする。このとき、スカラー場{{Mvar|F}}の{{Mvar|S}}上での'''[[面積分]]'''を
: <math>\int F(\mathbf{x}(u_1,u_2))\left\|{\partial \mathbf{x}\over \partial u_1}\times {\partial \mathbf{x}\over \partial u_2} \right\|\operatorname{d}u_1\operatorname{d}u_2 </math>
により定義する。
 
{{Mvar|S}}のパラメーターを
:<math>(u_1,u_2)=(u_1(w_1,w_2),u_2(w_1,w_2))</math>
と変数変換しても、この変数変換が{{Mvar|S}}の向き付けを変えないなら、すなわち[[ヤコビアン]]
:<math>{\partial (u_1,u_2)\over \partial (w_1,w_2)}>0</math>
が恒等的に成り立つなら、面積分の値は替わらないことを容易に示せる。
 
そこで{{Mvar|F}}の{{Mvar|S}}上での面積分を
:<math>\int_S F \operatorname{d}S</math>
と{{Mvar|S}}のパラメトライズの方法によらない形で表記する。
 
1の面積分
:<math>\int_S \operatorname{d}S</math>
は{{Mvar|S}}の面積に等しい事が知られており、従って <math>\operatorname{d}S</math>は面積の微小量を表していると考えられる。この<math>\operatorname{d}S</math>の事を'''面素'''という。
 
{{Mvar|S}}が[[閉曲面]]のときはそのことを強調して、面積分の事を
:<math>\oint_S \operatorname{d}S</math>
とも表記する。
 
===ベクトル場の面積分===
 
向き付けられた曲面{{Mvar|S}}上の点{{Mvar|P}}における{{Mvar|S}}の流さ1の法線(単位法線)を{{Mvar|'''n'''{{sub|P}}}}とする。なお、 {{Mvar|P}}における{{Mvar|S}}の単位法線は2本あるが、そのうち{{Mvar|S}}の向きと{{Mvar|'''n'''{{sub|P}}}}が右手系になるものを{{Mvar|'''n'''{{sub|P}}}}とする。
 
このとき、ベクトル場{{Mvar|'''X'''}}の{{Mvar|S}}上での'''[[面積分]]'''を
:<math>\int_S\mathbf{X}\operatorname{d}\mathbf{S}:= \int_S\mathbf{X}\cdot\mathbf{n}\operatorname{d}S </math>
により定義する。
 
{{Mvar|S}}が
:<math>\mathbf{x}=\mathbf{x}(u_1,u_2)</math>
とパラメトライズされている場合、面積分の定義から、
: <math>\int_S\mathbf{X}\operatorname{d}\mathbf{S}= \int\mathbf{X}\cdot\left({\partial\mathbf{x}\over \partial u_1}\times{\partial\mathbf{x}\over\partial u_2}\right)\operatorname{d}u_1 \operatorname{d}u_2 </math>
である。積分内はベクトル3重積であるので、
:<math> \mathbf{X}\cdot\left({\partial\mathbf{x}\over \partial u_1}\times{\partial\mathbf{x}\over\partial u_2}\right)=\operatorname{det} \left(\mathbf{X},{\partial\mathbf{x}\over \partial u_1},{\partial\mathbf{x}\over\partial u_2}\right) </math>
でもある。
 
===勾配、回転、発散===
 
====定義====
 
{{Mvar|F}}をスカラー場とするとき、{{Mvar|F}}の'''[[勾配 (ベクトル解析)|勾配]]''' {{Math|grad''F''}}をベクトル場
: <math>\operatorname{grad}F={\partial F\over\partial \mathbf{x}}=\left({\partial F\over\partial x_1}, {\partial F\over\partial x_2}, {\partial F\over\partial x_3}\right)</math>
により定義する。
 
さらにベクトル場{{Mvar|'''X'''}}の'''[[回転 (ベクトル解析)|回転]]''' {{Math|rot '''X'''}}、'''[[発散 (ベクトル解析)|発散]]''' {{Math|div '''X'''}}をそれぞれベクトル場
:<math>\operatorname{rot}\mathbf{X}=\left(\frac{\partial X_3}{\partial x_2} - \frac{\partial X_2}{\partial x_3},\frac{\partial X_1}{\partial x_3} - \frac{\partial X_3}{\partial x_1}, \frac{\partial X_2}{\partial x_1} - \frac{\partial X_1}{\partial x_2}\right)</math>
:<math>\operatorname{div}\mathbf{X}= {\partial X_1\over\partial x_1}+{\partial X_2\over\partial x_2}+{\partial X_3\over\partial x_3} =\operatorname{tr}\left({\partial X_i\over\partial x_j}\right)_{ij}</math>
により定義する。
 
微分演算子'''[[ナブラ]]'''<math>\nabla</math>を
:<math>\nabla=\left({\partial \over\partial x_1}, {\partial \over\partial x_2}, {\partial \over\partial x_3}\right)</math>
と定義すると、勾配、回転、発散は
:<math>\operatorname{grad}F=\nabla F</math>
:<math>\operatorname{rot}\mathbf{X}=\nabla\times \mathbf{X}</math>
:<math>\operatorname{div}\mathbf{X}=\nabla\cdot\mathbf{X}</math>
と表記できる。
 
====ストークスの定理とガウスの定理====
 
勾配、回転、発散と線積分、面積分は以下の関係を満たす。ここで{{Mvar|F}}、{{Mvar|'''X'''}}はそれぞれ3次元ユークリッド空間上のスカラー場とベクトル場、{{Mvar|C}}、{{Mvar|S}}、{{Mvar|V}}は3次元ユークリッド空間内の[[有界]]な曲線、曲面、および3次元領域で、「∂」は境界を表し、{{Mvar|P}}、{{Mvar|Q}}はそれぞれ{{Mvar|C}}の始点と終点を表す。
:<math>\int_C\operatorname{grad}F\operatorname{d}s=F(Q)-F(P)</math>
:<math>\int_S\operatorname{rot}\mathbf{X}\operatorname{d}\mathbf{S}=\oint_{\partial S}\mathbf{X}\operatorname{d}s</math> ('''[[ケルビン・ストークスの定理|(ケルビン・)ストークスの定理]]''')
:<math>\int_V \operatorname{div}\mathbf{X}\operatorname{d}V=\oint_{\partial V}\mathbf{X}\operatorname{d}\mathbf{S}</math> ('''[[発散定理|ガウスの発散定理]]''')
 
====1パラメーター変換====
 
発散divの幾何学的意味を見るため、ベクトル場の1パラメーター変換という概念を導入する。
 
{{Mvar|'''X'''}}を3次元ユークリッド空間<math>\mathbb{R}^3</math>上のベクトル場とし、{{Mvar|'''x'''}}を<math>\mathbb{R}^3</math>の点とする。
 
{{Math|''Φ''{{sub|''u''}}('''''x''''')}}を以下のように定義する:
:<math>\Phi_{u}(\mathbf{x})</math>をベクトル場{{Mvar|'''X'''}}に沿って{{Mvar|u}}だけ進んだ点、すなわち
: <math>\left.{\partial\over\partial u}\Phi_{u}(\mathbf{x})\right|_{u=u'} = \mathbf{X}_{\Phi_{u'}(\mathbf{x})} </math>
が全ての{{Math|''u' ''∈[0,''u'']}}に対して成り立つ点とする。
 
このような{{Math|''&Phi;''{{sub|''u''}}('''''x''''')}}は全ての{{Math|('''''x''''',''u'')}}に対して定義できるとは限らないが<ref group="注">例えば、 {{Math|''u''→1}}のとき{{Math|''&Phi;''{{sub|''u''}}('''''x''''')→∞}}となれば、1以上の{{Math|''u''}}に対して {{Math|''&Phi;''{{sub|''u''}}('''''x''''')}}を定義できない。 </ref>、{{Mvar|'''x'''}}の近傍{{Mvar|''U''}}と{{Math|''&epsilon;''>0}}を十分小さく選べば、任意の{{Mvar|'''x' '''∈''U''}}と任意の{{Math|''u' ''∈[0,&epsilon;]}}に対してこのような{{Math|''&Phi;''{{sub|''u''}}('''''x' ''''')}}を定義できることが知られている。このような写像{{Math|''&Phi;''{{sub|''u''}}}}をベクトル場{{Mvar|'''X'''}}の'''1パラメーター変換'''という。
 
====発散divの幾何学的意味====
 
1パラメーター変換をもちいると、発散divを幾何学的に意味づける事ができる。
{{Math|''Φ''{{sub|''u''}}('''''x' ''''')}}を成分で {{Math|y{{sub|1}}('''''x' '''''), y{{sub|2}}('''''x' '''''), y{{sub|3}}('''''x' '''''), }}と書くことにすると、体積要素はヤコビアンを用いて
:<math>\operatorname{d}y_1\operatorname{d}y_2\operatorname{d}y_3=\left| {\operatorname{d} \Phi_u \over \operatorname{d} \mathbf{x}} \right| \operatorname{d}x_1\operatorname{d}x_2\operatorname{d}x_3 </math>
という関係式を満たす。すなわち、 {{Math|''Φ''{{sub|''u''}}}}は点{{Mvar|'''x'''}}において微小体積を体積比
: <math>\left| {\operatorname{d} \Phi_u \over \operatorname{d} \mathbf{x}} \right| </math>
で変換する写像である。
 
[[ヤコビの公式]]より、
: <math>{\partial\over\partial u}\left| {\operatorname{d} \Phi_u \over \operatorname{d} \mathbf{x}} \right| =\operatorname{tr}\left( \widetilde{\operatorname{d} \Phi_u \over \operatorname{d} \mathbf{x}} {\partial\over\partial u} {\operatorname{d} \Phi_u \over \operatorname{d} \mathbf{x}} \right)</math>
ここで、<math>\tilde{A}</math>は{{Mvar|A}}の[[余因子行列]]である。
{{Math|''Φ''{{sub|0}}}}は恒等写像なので、{{Mvar|I}}を単位行列とすると、1パラメーター変換の定義より、
: <math>{\partial\over\partial u}\left| {\operatorname{d} \Phi_u \over \operatorname{d} \mathbf{x}} \right|_{u=0} =\operatorname{tr}\left( \tilde{I}{\operatorname{d} \mathbf{X} \over \operatorname{d} \mathbf{x}} \right)=\operatorname{div}\mathbf{X}</math>
すなわち、'''{{Math|div ''X''}}は 微小体積の1パラメーター変換による変化率を表している'''。
 
====ポアンカレの補題とポテンシャル====
 
簡単な計算により、任意のスカラー場{{Mvar|F}}と任意のベクトル場{{Mvar|'''X'''}}に対し
:<math>\operatorname{rot}(\operatorname{grad} F)= 0</math>
:<math>\operatorname{div}(\operatorname{rot}\mathbf{X})=0</math>
が恒等的に成立する事が簡単な計算により確認できる。
 
また3次元ユークリッド空間上では次が成立する('''[[ポアンカレの補題]]'''):
: <math>\operatorname{rot}\mathbf{X}</math>が恒等的に0 <math>\iff \operatorname{grad}\phi=\mathbf{X}</math>となる{{Mvar|&phi;}}が存在する
: <math>\operatorname{div}\mathbf{X}</math>が恒等的に0 <math>\iff \operatorname{rot}\mathbf{A}=\mathbf{X}</math>となる{{Mvar|'''A'''}}が存在する
このような{{Mvar|φ}}、{{Mvar|'''A'''}}が存在するとき、{{Mvar|φ}}、{{Mvar|'''A'''}}をそれぞれ{{Mvar|'''X'''}}の'''[[ポテンシャル|スカラー・ポテンシャル]]'''、'''[[ベクトル・ポテンシャル]]'''という。
 
なお、ポアンカレの補題が成り立つのはユークリッド空間では1次以上の[[コホモロジー]]([[ド・ラームコホモロジー]])が消えている事と関係しており、一般の多様体では必ずしもこの補題は成り立たない。
 
スカラー・ポテンシャル、ベクトル・ポテンシャルとも、存在する場合には一意ではない。しかし、{{Mvar|φ{{sub|1}}}}、{{Mvar|φ{{sub|2}}}}を同一のベクトル場{{Mvar|'''X'''}}のスカラー・ポテンシャルとするとき、
:<math>\phi_2(\mathbf{x})=\phi_1(\mathbf{x})+\text{const.}</math>
である事が容易に示せる。
 
また{{Mvar|'''A'''{{sub|1}}}}、{{Mvar|'''A'''{{sub|2}}}}を同一のベクトル場{{Mvar|'''X'''}}のスカラー・ポテンシャルとするとき、
:<math>\mathbf{A}_2=\mathbf{A}_1+\operatorname{grad}F</math>
を満たす {{Mvar|F}}が必ず存在する。
実際、ベクトル・ポテンシャルの定義より、
:<math>\operatorname{rot}(\mathbf{A}_2-\mathbf{A}_1)= \operatorname{rot}\mathbf{A}_2- \operatorname{rot} \mathbf{A}_1=\mathbf{X}-\mathbf{X}=0 </math>
なので、ポアンカレの補題より
:<math> \mathbf{A}_2-\mathbf{A}_1=\operatorname{grad}F</math>
となる{{Mvar|F}}が存在する。
 
==歴史==
現代の学校教育では[[古典力学]]の導入からベクトルを用いた物理教育が行われ数学サイドでも[[空間ベクトル|幾何ベクトル]]・[[代数学]]・ベクトル解析といったベクトルの概念が普通に教えられているが、。しかし古典力学の登場と同時にベクトルも誕生したのかといえばそうではなく、物理法則などを表記するために19世紀に生まれ<ref name="a">[[湯川秀樹]] 『物理講義』、1975年、[[講談社]]、58-62頁</ref>、20世紀になり高次元ベクトル場にまで一般化された。ベクトルが誕生するまではデカルト座標を用いた[[解析幾何学]]やハミルトンが考案した[[四元数]]を用いた記法が主流であり、力学や電磁気学の教育・研究でも解析幾何学的な多変数の微積分を用いた力学や四元数表記の電磁気学が普通であった<ref name="a" />。日本でも明治初期の物理教育では電磁気学は四元数ベースのものが教えられていたことは有名である。ベクトルを初めて教育に導入したのは統計力学で有名なアメリカの[[ウィラード・ギブス|ギブス]]であるとされ、1880年代の[[イェール大学]]の講義で記号こそ現代とは違うものの、外積・内積やベクトル解析の概念などが当時使われていたが、イギリスの四元数の著書もあるピーター・ガスリー・テイトという物理学者の評判も大変不評であったという<ref name="a" />。しかし、ギブス以降の物理学の教育ではベクトルは四元数を推進していたハミルトンやテイトのいたイギリスにおいて寧ろ盛んに用いられるようになり、物理学における常識的な概念となった<ref name="a" />。しかしながら20世紀に入ってからはむしろ[[スピン]]などの概念も四元数に非常に類似しており、ハミルトンには先見性があったのではないかとされる<ref name="a" />
 
ベクトルが誕生するまでは[[直交座標系]]を用いた[[解析幾何学]]や[[ウィリアム・ローワン・ハミルトン]]が考案した[[四元数]]を用いた記法が主流であり、力学・電磁気学の教育・研究でも解析幾何学的な[[多変数微積分学]]を用いた力学や四元数表記の電磁気学が普通であった<ref name="a" />。余談だが、同じようにベクトルを扱う数学理論である線型代数も登場時期はほぼ同じであり、こちらは完成が遅れたため教育に本格的に導入されるのは20世紀後半、数学教育の現代化が言われ出した頃である。20世紀前半は教えられている物理数学が現代とは違っていたのであり、ベクトルは数学ではなく物理学の授業で導入され、[[行列式]]が先に教えられていたし<ref>銀林浩、『線型代数学序説』、現代数学社、2002年 まえがきより</ref>、[[行列]]を用いて[[量子力学]]を定式化した[[ヴェルナー・ハイゼンベルク]]も線型代数を習っていなかった。日本でも明治初期の物理教育では、四元数に基づく電磁気学が教えられていたことは有名である。
 
ベクトルを初めて教育に導入したのは[[ウィラード・ギブス]]とされ、1880年代の[[イェール大学]]の講義で記号こそ現代とは違うものの、[[クロス積|外積]]・[[内積]]やベクトル解析の概念などが当時使われていたが、イギリスの四元数の著書もある物理学者ピーター・ガスリー・テイトの評判も大変不評であったという<ref name="a" />。今日用いられている記号や専門用語の大半は1901年に出版されたギブスと{{仮リンク|エドウィン・ウィルソン|en|Edwin_Bidwell_Wilson}}の共著『[[ベクトル解析 (著書)|ベクトル解析]]』によって確立された。
 
しかし、ギブス以降の物理学の教育ではベクトルは四元数を推進していたハミルトンやテイトのいたイギリスにおいて寧ろ盛んに用いられるようになり、物理学における常識的な概念となった<ref name="a" />。(イギリスの[[オリヴァー・ヘヴィサイド]]の存在が影響していると考えられる。)しかしながら20世紀に入ってからはむしろ[[スピン角運動量]]などの概念も四元数に非常に類似しており、ハミルトンには先見性があったのではないかとされる<ref name="a" />。
 
==関連概念==
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** [[ナブラ]]
*** [[勾配 (ベクトル解析)|勾配]]・[[発散 (ベクトル解析)|発散]]・[[回転 (ベクトル解析)|回転]]
***[[偏微分]]
 
* [[線積分]]・[[面積分]]([[微分形式]]の積分)
** [[グリーンの定理]]
** [[発散定理]]([[ジョージ・グリーン]]、[[カール・フリードリヒ・ガウス]])
** [[ストークスの定理]]
 
** [[発散定理]]([[ジョージ・グリーン|グリーン]]、[[カール・フリードリヒ・ガウス|ガウス]])
== 参考文献脚注 ==
{{脚注ヘルプ}}
=== 注釈 ===
{{Notelist2}}
=== 出典 ===
<references />
 
*H・K・ニッカーソン、D・C・スペンサー、N・E・スティーンロッド著、原田重春・佐藤正次訳『現代ベクトル解析』、岩波書店、1965年、ISBN 4-00-005293-4 C3041
== 参考文献 ==
*H・K・ニッカーソン、D・C・スペンサー、N・E・スティーンロッド著、原田重春・佐藤正次訳『現代ベクトル解析』、[[岩波書店]]、1965年、ISBN 4-00-005293-4 C3041
*岩堀長慶、『[http://www.shokabo.co.jp/mybooks/ISBN978-4-7853-1302-9.htm ベクトル解析 ―力学の理解のために―]』、[[裳華房]]、〈数学選書2〉、1960年。 ISBN 978-4-7853-1302-9
 
== 関連項目 ==
{{ウィキプロジェクトリンク|数学|[[画像:Nuvola apps edu mathematics blue-p.svg|34px|Project:数学]]}}
{{ウィキポータルリンク|数学|[[画像:Nuvola apps edu mathematics-p.svg|34px|Portal:数学]]}}
* [[ベクトル解析の公式の一覧]]
* 物理学関係
** [[電磁気学]]([[マクスウェルの方程式]]
** [[流体解析力学]]
** [[力学]]
* 数学関係
** [[ド・ラームコホモロジー]]
** [[空間ベクトル|幾何ベクトル]]
** [[テンソル]]
** {{仮リンク|ベルソル|en|Geometric algebra#Versor}}
** [[線型代数学]]
** [[四元数]]
** {{仮リンク|ベルソル|en|Versor_(disambiguation)|}}
* 人物
** [[ジェームズ・クラーク・マクスウェル|マクスウェル]]
** [[ウィリアムヘルマンローワフォン・ハミトン|ハミムホトン]]
** [[オリヴァー・ヘヴィサイド]]
** [[ヘルマン・フォン・ヘルムホルツ|ヘルムホルツ]]
** [[オリヴァピーター・ヘヴィサイド|ヘヴィサ]]
** [[ウィラチャルズギブプロテウ|ギブタインメッツ]]
** {{仮リンク|ピーター・テイト|en|Peter_Tait_(physicist)}}
** {{仮リンク|スタインメッツ|en|Charles Proteus Steinmetz}}
 
{{Analysis-footer}}
{{Normdaten}}
{{DEFAULTSORT:へくとるかいせき}}
[[Category:ベクトル解析|*]]