「ロイヤル・オードナンス L7」の版間の差分

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{{CommonsExpand categoryEnglish|Royal Ordnance L7|date=2023-05-07}}
[[画像:105mm_tank_gun_Rifling.jpg|thumb|250px|L7 砲口部より</br>展示用のカットモデル]]
{{出典の明記|date=2023-05-07}}
'''ロイヤル・オードナンス L7'''(Royal Ordnance L7)は、[[イギリス]]で設計された105mm[[戦車砲]]である。[[第二次世界大戦]]後第二世代[[主力戦車]]の[[主砲]]として世界的に広く採用されている[[ベストセラー]]であり、開発は[[ロイヤル・オードナンス]](Royal Ordnance Factories)で行われた。
[[画像:105mm_tank_gun_Rifling.jpg|thumb|250px|L7  砲口部より</br/>展示用のカットモデル]]
 
*「'''ロイヤル・オードナンス L7'''(Royal Ordnance)」の本来の意味Ordnance L7)「王立造兵廠」だが、[[1985年イギリス]]に民営化で開発されて現在はた105mm[[株式会社戦車砲]]制の民間企業となっているため、本稿は「ある。[[ロイヤル・オードナンス」を企業名]](Royal Ordnance Factories)で開発され、[[第二次世界大戦]]後第二世代[[主力戦車]]の[[主砲]]として扱う世界的に広く採用された
 
== 概要 ==
L7は、[[戦後]]([[冷戦]]時代)第一世代[[戦車]]である[[センチュリオン (戦車)|センチュリオン]]が搭載していた[[オードナンス QF 20ポンド砲]]の後継として[[イギリス]]の[[ロイヤル・オードナンス]]において、1950年代に開発された。
 
戦後世代のイギリス戦車の武装としてだけではなく、いわゆる「[[西側諸国]]」のほとんどの[[主力戦車]](Main Battle Tank)の[[主砲]]としても採用され、冷戦の期間中に開発された戦闘車両の標準的な主砲として、また、旧式戦車の戦闘力増強のためのレトロフィットとして使用された。120mライフル砲であるL11シリーズに取って代わられた後も[[砲兵]]前進観測班と[[戦闘工兵車|戦闘工兵車輌]]のために依然として使用された。
 
手動戦後世代のイギリス戦車の[[武填砲]]としてだけではなく、いわゆる「[[西側諸国]]」のほとんどの第二世代[[主力戦車]](Main Battle Tank)の[[主砲]]としても採用され、冷戦の期間中に開発された[[装甲戦闘車両|戦闘車両]]の標準的な主砲として、また、旧式戦車の戦闘力増強のためのレトロフィットとして使用された。手動装填砲のみならず、[[自動装填装置]]と組み合わせても用いられ、[[スウェーデン陸軍]]の[[Strv.103]]や、[[アメリカ陸軍]]の[[装輪装甲車]]である[[ストライカー装甲車]]をベースにした[[M1128 ストライカーMGS|機動砲システム(ストライカーMGS)]]の主武装としても採用されている。
 
== 歴史 ==
L7は、[[1950年代]]当時の[[ワルシャワ条約機構]]軍の[[戦車]]([[IS-3]]と[[T-54]])、および将来登場するであろう新戦車を撃破することが不可能と判断された[[オードナンス QF 20ポンド砲|20ポンド砲]]を置き換えるために開発が開始され、20ポンド砲の[[砲塔]]に搭載可能なように設計された。このため、[[センチュリオン (戦車)|センチュリオン]]は最小の改修によって[[火力 (軍事)|火力]]の増強が可能となり、短時間かつ低価格でアップグレードすることが可能となった。これはセンチュリオンの支援を目的に配備された[[コンカラー (戦車)|コンカラー]][[重戦車]]の存在意義を奪う一因となった。
 
[[1956年]]の[[ハンガリー動乱]]におけるT-54の出現は、L7開発を促進させる一因となった。完成したL7は、[[1959年]]よりセンチュリオンに搭載され各種試験が行われた。同年中にL7の試験は終了した。
 
L7を最初に採用した戦車は、当初の計画の通り改修により主砲を換装したセンチュリオン Mk.5/2であった。その後にL7は[[イギリス]]以外の多くの国で、新型戦車の[[主砲]]として採用された。代表的な例としては[[西ドイツ]](当時)の[[レオパルト1]]シリーズ(新たにL7A3が開発された)、[[日本]]の[[74式戦車]]([[日本製鋼所]]で[[ライセンス生産]]された)、[[スウェーデン]]の[[Strv.103]](より長い[[銃砲身|砲身]]と[[自動装填装置]]を持つL74が開発された)、[[アメリカ合衆国|アメリカ]]の[[M60パットン|M60戦車シリーズ]]、[[イスラエル]]の[[メルカバ (戦車)|メルカバ]]および[[大韓民国|韓国]]の[[K1 (戦車)|K1戦車(88式戦車)]]である。
 
さらにいくつかの国では、L7が開発される前に開発されたいくつかの戦車(アメリカの[[M47パットン]]や[[M48パットン]]、[[ソビエト連邦|ソ連]]の[[T-54/55]]など)についても、火力強化を目的に主砲をL7に換装していた型式がある。
 
[[イタリア]]の[[オート・メラーラ]]や[[フランス]]の[[ネクスター|GIAT]](現在のNexter。定着した[[日本語]]表記はまだない)は、105mm[[口径]]の[[戦車砲]]を独自に開発しており、イタリアやフランスの[[装甲戦闘車両|戦闘車両]]に採用されているが、L7が広く成功した結果、これらの砲ではL7系列の[[砲弾]]({{仮リンク|105×617mmR弾|en|105×617mmR}})が共通で使用できる設計となっている。
 
ロイヤル・オードナンスは、後継として[[ロイヤル・オードナンス L11]] 120㎜[[ライフル砲|ライフル]][[戦車砲]]を開発したが、これはイギリスの[[チーフテン (戦車)|チーフテン]]及び[[チャレンジャー1]]にしか採用されず、L7ほどの普及には至らなかった。[[成型炸薬弾]](HEAT)や装弾筒付翼安定徹甲弾([[APFSDS]])など新世代の対戦車弾ではライフル砲は弾頭が過回転になるきらいがあり、第3世代以後の主力戦車では[[滑腔砲]]が主流となっている。
 
しかし冷戦後近年比重が増大した[[非対称戦]]下での歩兵支援など通常榴弾の使用機会が多いシチュエーションで105mm砲にはなお需要があり、L7やその弾薬と互換性を持つ砲を搭載する{{仮リンク|MPF軽戦車|en|Mobile Protected Firepower}}[[ASCOD歩兵戦闘車#ASCOD SV|グリフィンⅡ]]や[[16式機動戦闘車]]などの新型車両の開発がなおも続いている。
 
== 構造 ==
砲口直径105[[ミリメートル|mm]]、[[口径|口径長]]51の[[ライフル砲]]であり、[[薬莢]]を使用する莢砲である。閉鎖機構には水平鎖栓式が採用されている。後座長は約29[[センチメートル|cm]]で、後座し終わると空薬莢を自動的に排出する。
 
[[銃砲身|砲身]]の中ほどに[[排煙器]]が取り付けられているが、これはそれまでの砲口排煙器などに取って代わるものでL7を特徴付ける機器となっている。
 
== 諸元・性能 ==
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|ライフリング=28条右回り(18口径/1回転)
<!--メカニズム-->
|砲尾=水平鎖栓式閉鎖機<br />※M68は垂直鎖栓式
|反動=油圧緩衝器(後座長 290mm)
|砲架=車載砲
<!--性能-->
|薬室圧力={{Convert|511|MPa|psi|lk=on|abbr=on}}<br />※L64A4 APFSDS-T弾使用時
|初速=1,490m/s<br />※L64A4 APFSDS-T弾使用時
|有効射程=
|最大射程=
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<!--弾薬-->
|砲弾=下記のような各弾種
*:* 装弾筒付翼安定徹甲弾([[APFSDS]])
*:* 装弾筒付徹甲弾([[APDS]])
*:* 対人曳光弾(APERS-T、Anti-personnel-tracer)
*:* [[榴弾]](HE)
*:* 対戦車榴弾([[成形炸薬弾|HEAT]])
*:* [[粘着榴弾]](HESH)
*:* [[白リン弾|白燐焼夷弾]](WP)
*:* [[砲(Dummy)包]](Blank)
*:* [[演習弾]](TP)
*:* 装弾筒付演習弾(TPDS)
:* [[キャニスター弾]]
{{main|{{仮リンク|105×617mmR弾|en|105×617mmR}}}}
|信管=
|弾薬=完全弾薬筒; [[STANAG]] 4458(105×607mmR4458(105x607mmR ないし 105×617mmR)105x617mmR)
<!--運用史-->
|開発国=
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; L7A1
: [[イギリス]]における標準量産型。
; L7A3
: [[西ドイツ]](当時)の[[レオパルト1]]戦車用に開発された。[[仰俯角|俯角]]を取る際に閉鎖機上部の角が[[砲塔]]の上部に当たらないように改設計されている。
; LRF
: L7A3を元に開発された低反動砲。LRFは{{Lang|en|Low-Recoil Force}}の[[頭文字|アクロニム]]である。[[1982年]]-[[1983年]]にかけて、[[ロイヤル・オードナンス]]社がプライベート・ベンチャーとして開発した。
: 現在、[[アメリカ合衆国|アメリカ]]のキャデラック・ゲージ社が輸出用として開発した[[スティングレイ軽戦車]]のみが採用している。
; L74
: [[スウェーデン]]の[[Strv.103]]戦車用で62[[口径|口径長]](6.51[[メートル|m]])の[[銃砲身|砲身]]と[[自動装填装置]]を持つ。
; M68
: アメリカの[[M60パットン]]戦車用に開発された。垂直鎖栓式の丸い閉鎖機と、オリジナルのL7とは設計の異なる[[排煙器]]を採用している。
; M68A1E2
*: [[M1エイブラムス]]戦車用。
; M68A2(M68A1E4)
: [[M1128 ストライカーMGS|ストライカーMGS]]に搭載されており、主に火力支援に使用される。[[駐退機]]の改良による反動の低減、[[自動装填装置]]に対応するため砲尾部を上下反転させる等の改修がなされている。
; 79式/81式/83式
: [[中華人民共和国|中国]]がイギリスから[[ライセンス生産]]権を購入し、製造したもの。
 
=== 互換性がある砲 ===
; {{仮リンク|M35 105mm戦車砲|en|M35 (tank gun)}}
: アメリカ、[[M8 AGS]]軽戦車の主砲として開発された軽量低反動105mm砲。自動装填装置も併せて開発されている。AGSの計画中止でお蔵入りとなっていたが、{{仮リンク|MPF (装甲戦闘車両)|en|Mobile Protected Firepower|label=MPF}}計画で開発された[[M10ブッカー戦闘車|M10ブッカー(グリフィンⅡ)]]で再び採用された。
*; [[16式機動戦闘車]]
: 日本国産。砲単体の形式は不詳だが多孔型マズルブレーキがつき、砲身長も52口径と若干増している。
; LTA2(Rh-105)
: ドイツ、[[ラインメタル]]製。アルゼンチンの[[TAM (戦車)|TAM中戦車]]に採用。
; CN 105 F1
: フランス製。[[AMX-30]]戦車に採用。L7よりライフリング旋転度が緩い。{{Efn2|ただし同じ105mmでも[[AMX-13]]軽戦車や[[AMX-10RC]]装輪戦車の砲弾は独自規格で互換性が無い。}}
; [[Category:IMI 120mm戦車砲]]
: イスラエル製、第3世代標準の120mm滑腔砲だが、小型軽量化が図られL7用砲塔に架装可能。
 
== 採用国 ==
L7とその派生型以下の[[戦車]]に搭載されている。
{{Col|
{{USA}}
* [[M60M48パットン|M48A5]]
* [[M47パットン]](一部の近代化改修型([[スペイン]]のM47E1とM47E2)
* [[M48M60パットン|M60A1/A3]](一部の近代化改修型(M48A5やM48A2GA2)
* [[M1エイブラムス|M1/M1IP]]
* [[M60パットン]]
* [[M1エイブラムス]]
* [[スティングレイ軽戦車]]
* [[M8 AGS]]
* [[ストライカー装甲車|M1128 ストライカーMGS]]
{{ARG}}
* [[TAM (戦車)|TAM]]
{{UK}}
* [[センチュリオン (戦車)|センチュリオン]]{{Efn2|Mk.7/2, Mk.8/2, Mk.9, Mk.10, Mk.12, Mk.13]]以降}}
* [[ビッカースMBT (戦車)|ビッカースMBT]]
{{ISR}}
103 ⟶ 122行目:
* [[マガフ|マガフ 3/5]]
* [[チラン (戦車)|Tiran-4/5]]
* [[メルカバ (戦車)|メルカバ Mk.I、および,Mk.II]]
{{JPNIRN}}
* サバラン{{Efn2|[[M47パットン|M47M]]の改修型}}
* [[:en:Type 72Z|72Z式/サフィール74]]
{{IND}}
* ビジャンタ{{Efn2|[[ビッカースMBT (戦車)|ビッカースMBT]]の[[ライセンス生産]]型}}
|
{{EGY}}
* [[ラムセス2世 (戦車)|ラムセス2世戦車]]
{{CHE}}
* [[Pz -61]]
* [[Pz 68]]
{{SWE}}
* [[センチュリオン (戦車)|Stridsvagn 101]]
* [[Strv.103|Stridsvagn 103]]
{{ESP}}
* [[M47パットン|M47E2]]
* [[M48パットン|M48A5E/E1/E2]]
{{SLO}}
* [[T-55|M-55S1]]
{{TUR}}
* [[M48パットン|M48A5T1]]
{{BRD}}
* [[M48パットン|M48A2GA2]]
* [[レオパルト1]]
|
{{JPN}}
* [[74式戦車]]
{{BRA}}
* [[オゾーリオ (戦車)|EE-T1 ゾーリオ]]
{{KOR}}
* [[M48パットン|M48A5K1]]
* [[K1 (戦車)|K1]]
{{ROC-TW}}
* [[CM11]]
* [[M48パットン|CM12]]
* [[CM-32|CM32]](機動砲型)
 
{{CHN}}
* [[59式戦車|59-II式/IIA式/D式]]
* [[69/79式戦車|6979式戦車]]
* [[80式戦車]]
* [[88式戦車]]
* [[85式戦車]]
* [[15式軽戦車|15式軽戦車(VT-5)]]
{{JPN}}
* [[7411105mm装輪突撃車]]
* [[05式水陸両用戦車|05式水陸両用戦車(VN-16)]]
* [[機動戦闘車]]
{{ZAF}}
* [[オリファント (戦車)|オリファント Mk.1A/B]]
{{PAK}}
* [[59式戦車|T-59M11]]
}}
{{Commons category|Royal Ordnance L7}}
{{DEFAULTSORT:ろいやるおうとなんすL7}}
 
== 脚注 ==
[[Category:戦車砲]]
{{脚注ヘルプ}}
[[Category:イギリス陸軍の火砲]]
=== 注釈 ===
{{notelist2}}
=== 出典 ===
{{reflist}}
 
== 関連項目 ==
{{Commonscat|Royal Ordnance L7}}
* [[ロイヤル・オードナンス L11]]:後継の120mmライフル戦車砲
* [[ラインメタル 120 mm L44]]:後継の120mm滑腔戦車砲
 
{{アメリカ軍の現在の歩兵用武器・弾薬}}
{{イスラエル国防軍の歩兵用武器・弾薬}}
{{自衛隊の隊員用武器・弾薬}}
 
{{DEFAULTSORT:ろいやるおうとなんすL7L07}}
[[Category:イギリス陸軍戦車砲]]
[[Category:陸上自衛隊の戦車砲]]
[[Category:105mm砲]]