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'''観測問題'''(かんそくもんだい、{{lang-en-short|measurement problem}})とは、[[量子力学]]においてどのように[[波動関数の収縮]]が起きるのか(または起きないか)という問題である。あるいは観測(観察)過程を量子力学の演繹体系のなかに組み入れるという問題と言い換えることもできる<ref name="BEYOND">T.バスティン編『量子力学は越えられるか』([[柳瀬睦男]]、[[村上陽一郎]]、[[黒崎宏]]、[[丹治信春]] 訳、1973年 東京図書株式会社、ISBN 978-4489002359、"Quantum Theory and Beyond: Essays and Discussions Arising from a Colloquium", edited by Ted Bastin, 1971、但し訳書は第5部の一部割愛)第3部 観測問題</ref>。収縮を直接観測することができないため、様々な量子力学の解釈が生まれ、それぞれの解釈が答えねばならない重要な問題を提起している。
{{正確性|date=2007年6月}}
{{独自研究|date=2007年6月}}
{{量子力学}}
'''観測問題'''(かんそくもんだい、{{lang-en-short|measurement problem}})とは、[[波動関数]]の収縮のメカニズムに関する[[量子力学]]の問題である。
波動関数とは、あらゆる物理量の測定値に対応する状態を表す関数であり、またそれらの[[固有状態]]の[[重ね合わせ]]も波動関数と呼ぶ。
[[観測]]前に重ね合わせの状態であった波動関数が、観測後には一つの状態に確定していることについて、現実に起きている現象を推定することが困難である問題をいう(例として[[シュレーディンガーの猫]])。
「波動関数の収縮」はどのようにして起きるか、また「重ね合わせの状態」は存在するか、あるいはこの二つの現象をどのように解釈すべきかは未だ解決されていない問題であり、観測問題の根本には、「観測」が何を指すのかさえ明確に定義できないという困難がある。
 
量子力学において[[波動関数]]([[時間発展量子状態]][[シュレディンガー方程式]]に従う[[って決定論]]時間発展(ユニタリー時間発展)と異なる状態の[[重ね合わせ]]として表現される。しかしに伴定を行波動関数に収縮、そのちの1の状態にることが分かる。測定は、量子力学の既存の数学的枠組み系に対してシュレディンガー方程式表されない「何か」をしていることを示唆する。観測問題とは、波動関数収縮「何か」が何であるかを記述することあり、また重ね合わせ状態がどのように単一の測定値にるかを記述することである
 
言い換えると<ref name=Weinberg>{{cite book |title=The Oxford History of the Twentieth Century |first=Steven |last=Weinberg |chapter=The Great Reduction: Physics in the Twentieth Century |page=[https://archive.org/details/oxfordhistoryoft00howa/page/26 26] |chapter-url=https://books.google.com/books?id=WGvbAApi2roC&pg=PA22 |isbn=0-19-820428-0 |year=1998 |publisher=Oxford University Press |editor1=Michael Howard |name-list-style=amp |editor2=William Roger Louis |url-access=registration |url=https://archive.org/details/oxfordhistoryoft00howa/page/26 }}</ref><ref name=Weinberg2>{{cite journal |last=Weinberg |first=Steven |title=Einstein's Mistakes |journal=[[Physics Today]] |date=November 2005 |volume=58 |issue=11 |pages=31–35 |bibcode=2005PhT....58k..31W |doi=10.1063/1.2155755 }}</ref>、シュレディンガー方程式はその後の任意の時間の波動関数を決定する。もし観測者と測定装置が、それ自身も決定論的な波動関数で記述されるなら、なぜ我々は測定結果を正確に予言できず、確率しか予言できないのか。一般的な問い:量子的現実と古典的現実との対応をどのようにして確立することができるのか<ref name=Zurek>{{cite journal |last1=Zurek |first1=Wojciech Hubert |title=Decoherence, einselection, and the quantum origins of the classical |journal=[[Reviews of Modern Physics]] |date=22 May 2003 |volume=75 |issue=3 |pages=715–775 |arxiv=quant-ph/0105127 |bibcode=2003RvMP...75..715Z |doi=10.1103/RevModPhys.75.715|s2cid=14759237 }}</ref>。
これには、様々な解釈がある。コペンハーゲン派は基本的に収縮を認める立場であるが、収縮を道具(実用的な利用価値だけを認め、解釈には触れない)と見做す道具主義的な立場である現代[[コペンハーゲン派]]の立場と、収縮の詳細を積極的に解釈すべきであるという立場に分かれる。
 
[[アルベルト・アインシュタイン]]は、どの波動関数になるかは、人間の知識が不足しているだけで、実際には決まっているとした([[隠れた変数理論|隠れた変数]]の存在)。'''「神はサイコロを振らない」'''([[1926年]]12月にアルベルト・アインシュタインから[[マックス・ボルン]]に送られた手紙の、"He does not throw dice" [[日本語訳]]、「彼(Old One、創造主)は賽を投げない」という記述)は有名な言葉である。しかし、この解釈は[[ベルの定理]]により[[クラスター分解性]]を失うことが知られている。
== 観測問題へのアプローチ ==
その他の解釈としては、[[マクスウェルの方程式|マクスウェルの電磁方程式]]から導かれる遅延波と[[先進波]]に基づく、アメリカの理論物理学者ジョン・クレイマー ([[:en:John_G._Cramer|John G. Cramer]]) の「交流解釈([[:en:Transactional_interpretation|transactional interpretation]])」がある。
[[渡部鉄兵]]は、観測における次の3つの条件のうち、いずれの2つも整合的であるにもかかわらず、3つを同時に仮定できないことを観測問題と呼んでいる<ref name="nazo">白井仁人, 東克明,森田邦久,渡部鉄兵『量子という謎 = Quantum Enigma : 量子力学の哲学入門』 [[勁草書房]] 2012年 ISBN 978-4326700752 p.7-13 (渡部鉄兵が『第1章 量子力学における観測とその問題』を担当している)</ref>。
 
*(A) 固有値と固有状態のリンク
*(B) 孤立系のシュレーディンガー方程式に従った[[量子状態|状態]]の時間的発展
*(C) 測定により測定値が得られる事実
 
渡部鉄兵は、いずれかの条件を否定することで観測問題は解決できるとし、条件(A)の否定として[[隠れた変数理論]]、条件(B)の否定として標準解釈の[[射影公準]]、条件(C)の否定として[[多世界解釈]]をそれぞれ挙げている<ref name="nazo" />。
<!--
[[観測]]前に重ね合わせの状態であった波動関数が、観測後には一つの状態に確定していることについて、現実に起きている現象を推定することが困難である問題をいう(例。 ←現象して[[シュレーディンガーいう言葉猫]])使い方がいい加減な感じ
*例えば「[[シュレーディンガーの猫]]」などの問題である。
 
「波動関数の収縮」はどのようにして起きるか、また「重ね合わせの状態」は存在するか、あるいはこの二つの現象をどのように解釈すべきかは未だ解決されていない問題であり、観測問題の根本には、「観測」が何を指すのかさえ明確に定義できないという困難がある<ref>例えば物理現象を観測するとは、現象と計測装置、それを見る人の眼から脳までのどこまでが物理系に含まれるのか、といった問題点がある。</ref>
-->
 
[[量子状態]]([[波動関数]]も含む)の[[シュレーディンガー方程式]]に従う[[決定論]]的な時間発展(ユニタリー時間発展)から[[波動関数の収縮|状態の収縮]]を数学的に導くことはできない。ただし、そのことが直ちに量子力学の自己矛盾を意味するわけではない。
 
== さまざまな解釈 ==
この問題について説明を与えようとする様々な[[解釈]]がある。
 
[[コペンハーゲン解釈]]は基本的に収縮を認める立場である。標準的な解釈では、波動関数がどこで収縮するかについては任意性がある<ref>J.v.ノイマン『量子力学の数学的基礎』みすず書房、1957年、p332-335</ref>。つまりいつどの時点で観測が成立するのかは定義されない。これは収縮を道具(実用的な利用価値だけを認め、解釈には触れない)と見做す[[道具主義]]的な立場と相性がいい。一方で「収縮とは何なのか、積極的に解釈すべきである」とする立場もある。
 
[[アルベルト・アインシュタイン]]は、どの波動関数{{要検証|date=2021年11月}}になるかについて、人間の知識が不足しているだけで、実際には決まっている考え<!-- と主張し -->[[局所実在論]]、[[隠れた変数理論|隠れた変数]]の存在)。'''「神はサイコロを振らない」'''([[1926年]]12月にアルベルト・アインシュタインから彼が[[マックス・ボルン]]に送られた手紙の、にある "He does not throw dice" [[日本語訳]]、<small>(「彼(Old([[:en:Old One|Old One]]、創造主)は賽を投げない」あるう記述は「神はサイコロを振らない」</small>は有名な言葉である。しかしだが、この解釈考えを具体化した局所的[[隠れた変数理論]][[ベルの定理]]とその後の実験により[[クラスター分解性]]を失うことが知ら否定さている
 
[[ヒュー・エヴェレット3世|ヒュー・エヴェレット]]は、観測者も含めた大きい[[孤立系]]全体を量子論で扱うことを考え、観測者も含む全系の[[状態ベクトル]](波動関数)としては収縮がなく重ね合わせのままでも、観測者の主観にとっては確率的な現象に見えるという考え方を提示した。(→[[多世界解釈]])
 
{{仮リンク|自発的収縮理論|en|Spontaneous collapse theory}}は、シュレディンガー方程式の時間発展に修正を加えることで、観測問題にアプローチする。この理論は、収縮が観測とは関係なくランダムに生じているとする。1つの粒子では収縮はごく稀にしか起きないが、多数の粒子が集まることで即座に収縮が起きる。
 
その他の新しい解釈としては、[[マクスウェルの方程式|マクスウェルの電磁方程式]]から導かれる遅延波と[[先進波]]に基づく、アメリカの理論物理学者{{仮リンク|ジョン・クレイマー|en|John_G._Cramer}}の{{仮リンク|交流解釈|en|Transactional_interpretation}}がある<ref>The transactional interpretation of quantum mechanics, John G. Cramer, [http://journals.aps.org/rmp/abstract/10.1103/RevModPhys.58.647 Rev. Mod. Phys. 58, 647 – Published 1 July 1986]<Br>これはシュレーディンガー方程式の相対論的な拡張である[[クライン-ゴルドン方程式]]の2つの解が、当初波動関数と見なされたため確率解釈に困難をきたし理論から放棄されていたが、遅延波と先進波(先行波)が干渉して合成したところに電子が実体化するという解釈として提起された。</ref>。
 
== その他 ==
1960年代になると哲学的な研究が盛んになり、[[パリ大学]]<ref>オルセー理科大学(La Faculté des Sciences d'Orsay、現在の[[パリ第11大学]])</ref>の理論物理学者 B.デスパニヤ(Bernard d'Espagnat[[:en:Bernard d'Espagnat|(英語版)]])の最初の著作『量子力学と観測の問題―現代物理の哲学的側面』<ref>『量子力学と観測の問題―現代物理の哲学的側面』1971年 亀井理 訳 [[ダイヤモンド社]]、Conceptions de la physique contemporaine; les interprétations de la mécanique quantique et de la mesure.,1965</ref>が出版された。この本は当時の観測問題の代表的な説を俯瞰するようになっている。
 
さらに 1968年7月には、[[ケンブリッジ大学]]でE.W.バスティン(Ted Bastin[[:en:Ted Bastin|(英語版)]])と[[デヴィッド・ボーム]]の企画による非公式のコロキウム(シンポジウム) "Colloquium : Quantum Theory and Beyond" が開催され、1971年その成果である同名の論考・討論集が出版された。訳書『量子力学は越えられるか』<ref name="BEYOND"></ref>には一部割愛があるものの、当時の代表的な研究者の執筆や討論が収録されている。
 
== 脚注 ==
{{脚注ヘルプ}}
=== 注釈 ===
{{Reflist|group="注"}}
=== 出典 ===
{{Reflist|2}}
 
==関連項目==
{{Div col|2}}
*[[シュレーディンガーの猫]]
* [[エヴェシュットーディンガー多世界解釈]]
* [[ウィグナム解釈の友人]]
*[[量子デコヒーレンス]]
* [[量子測定理論]]
* [[無矛盾歴史]] (consistent histories)
*[[多世界解釈]]
*[[ボーム解釈]]
* [[反実在論]] / [[道具主義]] / [[操作主義]]
*[[実在論]] / [[科学的実在論]]
* [[在論]]
*[[決定論]]
*[[アインシュタイン=ポドルスキー=ローゼンのパラドックス]](EPRパラドックス)
*[[実在論]]
{{Div col end}}
*[[アインシュタイン=ポドルスキー=ローゼンのパラドックス]]
 
{{量子力学}}
 
{{DEFAULTSORT:かんそくもんたい}}
[[Category:測定]]
[[Category:科学哲学の主題]]
[[Category:物理学の哲学]]
[[Category:因果]]
[[Category:観測]]
[[Category:量子力学]]
[[Category:観測問題|*]]