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{{出典の明記|date=2020年12月}}
'''寄生バチ'''(寄生蜂)は[[ハチ目]]のうち、他の[[昆虫]]や[[クモ類]]に寄生するものの総称である。
'''寄生バチ'''(きせいバチ、やどりバチ、'''寄生蜂''')は[[ハチ目]]のうち、[[生活史]]の中で、[[寄生]]生活する時期を持つものの総称である。分類学的には、[[ハチ目]][[ハチ亜目]]+[[ヤドリキバチ上科]]の系統に見られ、進化史上一度だけ獲得されたと考えられる。
 
== 概要 ==
[[ファイル:Evania appendigaster.jpg|200px|thumb|[[ゴキブリヤセバチ]] ([[ヤセバチ科]])。名の通り[[ゴキブリ]]に寄生する。]]
寄生バチは[[ハチ]]の中のいくつかの群に当たる範疇で、分類群としては、[[コバチ]]、[[コマユバチ]]、[[ツチバチ]]などがある。幼虫が寄生生活を行うハチを指す言葉で、植物に寄生するものと、動物に寄生するものがある。
[[ファイル:Gasteruption jaculator01.jpg|200px|thumb|長い産卵管を持つ寄生蜂([[オオコンボウヤセバチ]])]]
[[ファイル:Campsomeris prismatica.jpg|サムネイル|200x200ピクセル|吸蜜のためにコスモスの花に止まるキンケハラナガツチバチ。寄生バチは幼虫時代に他の生物に寄生することで餌とするが、成虫は花の蜜を餌とする種もある。]]
寄生バチは[[ハチ]]目昆虫のうち、幼虫が寄生生活を行う種類を指す総称である。植物に寄生するものと、動物に寄生するものがある。分類群としては、[[コバチ|コバチ科]]、[[コマユバチ|コマユバチ科]]、[[ヒメバチ|ヒメバチ科]]などが知られる。
 
植物に寄生するものでは、卵は植物の組織内部に産まれることが多く、幼虫はその植物組織中で成長する。植物のその寄生往々植物ホルモンの影響してより膨れて[[虫こぶ]]を形成する。
 
動物に寄生するものは、一匹多くメス場合親バチ宿となる動物直接卵を産みつける。卵から孵った幼虫は、宿主の体を食べて成長する。その過程で寄生バチ幼虫宿直ちに寄主を殺すことはないが、ハチの幼虫が成長しきった段階が完了する前後は、宿主を殺してしまうす。このことからいわゆる[[捕食寄生]]者であと呼ばれる。
 
寄主の体外に寄生するものと体内に寄生するものが知られる。外部寄生のものは宿主の体表に卵が産み付けられ、幼虫はその体表で生活する。内部寄生のものも多く、その場合、幼虫が成熟すると宿主の体表に出て蛹になるものと、内部で蛹になるものがある。
 
寄主として利用されるのは主に昆虫類で、その他クモ類やダニ類を寄主とする種類も知られている。昆虫では卵、幼虫、蛹、成虫のいずれのステージも寄主として利用されている。寄生の対象となる種は極めて多く、昆虫類ではほぼ全ての分類群が寄生バチによる寄生をうける。また、寄生バチ自身も多種の寄生バチによって寄生されることがよく知られている。
宿主になるのは昆虫とクモ類で、昆虫では幼虫に寄生するものが多いが、卵に寄生するものもある。
 
== 寄主ハチとの関係利用様式による分類 ==
寄生バチは寄主の利用方法に応じて下記のように呼び分けられる。
動物に寄生する寄生バチは、いわゆる[[狩りバチ]]と幼虫が昆虫などを生きながら食べ尽くす点ではよく似ている。相違点は、典型的な狩りバチでは雌親が獲物を麻酔し、それを自分が作った巣に確保する点である。その点、寄生バチは獲物(宿主)を麻酔せず、またそれを運んで巣穴に隠すこともない。しかし中間的なものが存在し、おそらく寄生バチから狩りバチが進化したと考えられる。
 
; 殺傷寄生者(殺傷寄生バチ) idiobiont
== 分類(主な種類) ==
:親バチによる産卵時に寄主を永久麻酔する。寄生バチ幼虫は麻酔された寄主を食べて成長する。寄主は産卵されて以降、基本的には採餌を行えず、成長もしない。
*[[コバチ]]
 
; 飼い殺し寄生者(飼い殺し寄生バチ)koinobiont
:*[[コバチ#概要]]を参照。
:親バチによる産卵以降も寄主は採餌、成長を継続する。寄生バチ幼虫は寄主を殺さないように時間をかけて成長する。寄生期間の終盤に差し掛かると急速に寄主を食べて成長し、最終的に寄主は死に至る。
 
== 寄生部位による分類 ==
寄生バチは寄生部位に応じて下記のように呼び分けられる。
 
; 外部寄生者(外部寄生バチ)ectoparasitoid
:寄生バチ幼虫が寄主の体表に付着して寄生する。
 
; 内部寄生者(内部寄生バチ)endoparasitoid
:寄生バチ幼虫が寄主の体内に入って寄生する。
 
== 寄主のステージによる分類 ==
寄生バチは寄主として利用する寄主のステージに応じて下記のように呼び分けられる。
 
; 卵寄生バチ egg parasitoid
:親バチが寄主の卵に産卵し、寄生バチの幼虫は寄主が卵の間に発育を完了する。
 
; 幼虫寄生バチ larval parasitoid
:親バチが寄主の幼虫に産卵し、寄生バチの幼虫は寄主が幼虫の間に発育を完了する。
 
; 蛹寄生バチ pupal parasitoid
:親バチが寄主の蛹に産卵し、寄生バチの幼虫は寄主が蛹の間に発育を完了する。
 
; 卵ー幼虫寄生バチ egg-larval parasitoid
:親バチが寄主の卵に産卵し、寄生バチの幼虫は寄主が卵から幼虫の間に発育を完了する。
 
; 幼虫ー蛹寄生バチ larval-pupal parasitoid
:親バチが寄主の幼虫に産卵し、寄生バチの幼虫は寄主が幼虫から蛹の間に発育を完了する。
 
== 他のハチとの関係 ==
動物に寄生する寄生バチは、いわゆる[[狩りバチ]]と幼虫が昆虫などを生きながら食べ尽くす点ではよく似ている。相違点は、典型的な狩りバチでは雌親が獲物を麻酔し、それを自分が作った巣に確保する点である。その点、寄生バチは獲物(宿主)を麻酔せず、またそれを運んで巣穴に隠すこともない。しかし中間的なもの([[エメラルドゴキブリバチ]]・[[サトセナガアナバチ]]など)が存在し、おそらく寄生バチから狩りバチが進化したと考えられる。
 
幼虫の形態に関しても、ハバチ類では[[チョウ]]などによく似た[[イモムシ]]として自由生活を送るのに対し、寄生バチを含むハチ目の他属ではいずれも付属肢や感覚器の退化傾向が著しく、自由生活能力に乏しい点も、寄生生活への適応に由来するものと考えられる。
*ツチバチ
 
==寄生性の進化==
主に[[コガネムシ上科]]の幼虫に寄生する。交尾を済ませたメスは土や朽ち木にもぐりこんで、コガネムシの幼虫を見つけて産卵する。卵から孵った幼虫はコガネムシの幼虫を食べて育つ。成虫になると土や朽ち木から出てくる。[[熱帯雨林]]には、大型[[カブトムシ]]の幼虫に寄生するものも分布している。
分子系統樹によれば、[[ハチ目]]における寄生性は、[[ヤドリギバチ上科]] ({{Sname||Orussoidea}})+[[ハチ亜目]] ({{Sname||Apocrita}})の[[系統群|系統]]で一度だけ進化したと考えられる。その後複数の系統で二次的に失われた。ハチ亜目から進化した[[有剣類]]には数多くの寄生蜂が含まれる<ref name="BranstetterDanforth2017">{{cite journal |last1=Branstetter |first1=Michael G. |last2=Danforth |first2=Bryan N. |last3=Pitts |first3=James P. |last4=Faircloth |first4=Brant C. |last5=Ward |first5=Philip S. |last6=Buffington |first6=Matthew L. |last7=Gates |first7=Michael W. |last8=Kula |first8=Robert R. |last9=Brady |first9=Seán G. |year=2017|title=Phylogenomic Insights into the Evolution of Stinging Wasps and the Origins of Ants and Bees |journal=Current Biology |volume=27 |issue=7 |pages=1019–1025 |doi=10.1016/j.cub.2017.03.027 |pmid=28376325|doi-access=free }}{{oa}}</ref><ref>{{cite journal |author=Schulmeister, S. |date=2003 |title=Simultaneous analysis of basal Hymenoptera (Insecta), introducing robust-choice sensitivity analysis |journal=Biological Journal of the Linnean Society |volume=79 |issue=2 |pages=245–275 |doi=10.1046/j.1095-8312.2003.00233.x|doi-access=free }}{{oa}}</ref><ref>{{cite web |url=http://susanne.schulmeister.com/Symphyta.html |title=Symphyta |last1=Schulmeister |first1=S. |access-date=28 November 2016}}</ref><ref name=Peters>{{Cite journal |last1=Peters |first1=Ralph S. |last2=Krogmann |first2=Lars |last3=Mayer |first3=Christoph |last4=Donath |first4=Alexander |last5=Gunkel |first5=Simon |last6=Meusemann |first6=Karen |last7=Kozlov |first7=Alexey |last8=Podsiadlowski |first8=Lars |last9=Petersen |first9=Malte |title=Evolutionary History of the Hymenoptera |journal=Current Biology |volume=27 |issue=7 |pages=1013–1018 |doi=10.1016/j.cub.2017.01.027|pmid=28343967 |year=2017 |doi-access=free }}</ref><ref name=Heraty>{{Cite journal |last1=Heraty |first1=John |last2=Ronquist |first2=Fredrik |last3=Carpenter |first3=James M. |last4=Hawks |first4=David |last5=Schulmeister |first5=Susanne |last6=Dowling |first6=Ashley P. |last7=Murray |first7=Debra |last8=Munro |first8=James |last9=Wheeler |first9=Ward C. |title=Evolution of the hymenopteran megaradiation |journal=Molecular Phylogenetics and Evolution |volume=60 |issue=1 |pages=73–88 |doi=10.1016/j.ympev.2011.04.003 |pmid=21540117 |year=2011 |url=http://www.escholarship.org/uc/item/2f33z9mz }}</ref>。以下の系統樹では寄生バチを含む系統を'''太字'''で示す。''イタリック体''で示したものは、二次的に寄生性を失った系統群である(ここでの寄生性とは、昆虫やクモなどの獲物に針で麻酔をかけ適当な場所に運搬して産卵し孵化した幼虫はその獲物を食べて育つ、という特徴を持ついわゆる狭義の[[狩りバチ]]も含む。)。
 
{{clade | style = font-size: 85%; line-height:85%;
*コマユバチ
|label1=[[ハチ目]] [[w: Hymenoptera |Hymenoptera]]
|1={{clade
|1=[[ハバチ]]類 [[w:Sawfly|Sawflies]] [[File:Xyelapusilla.jpg|50px]]
|label2='''寄生性'''
|sublabel2=''一度だけ進化''
|2={{clade
|1='''[[ヤドリギバチ上科]] [[w:Orussoidea|Orussoidea]]''' (寄生性キバチ) [[File:Orussus coronatus.jpg|45px]]
|label2='''[[ハチ亜目]] [[w: Apocrita|Apocrita]]'''
|sublabel2= ''細い腰''
 
|2={{clade
主に[[チョウ目]]の幼虫に寄生する(ウマノオバチは[[シロスジカミキリ]]の幼虫)。交尾を済ませたメスは、宿主の幼虫に大量に卵を産み付ける(ウマノオバチは一つのみ)。卵から孵った幼虫は宿主の幼虫を食べて育つ。大きく育つと宿主の幼虫の死骸から出て繭を作り、蛹になる。代表的な種に、アオムシサムライコマユバチやウマノオバチがいる。
|1='''[[ヒメバチ上科]] [[w:Ichneumonoidea|Ichneumonoidea]]''' [[File:Atanycolus sp.jpg|60px]]
|2={{clade
|1={{clade
|1='''[[タマバチ上科]] [[w:Cynipoidea|Cynipoidea]]''' [[File:Cynips sp beentree.jpg|60px]]
|2={{clade
|1='''[[クロバチ上科]] [[w: Proctotrupoidea|Proctotrupoidea]]''' [[File:Codrus picicornis.jpg|50px]]
|2='''[[タマゴクロバチ上科]] [[w: Platygastroidea|Platygastroidea]]''' [[File:Platygastrid (Leptacis spp.) (9687661511).jpg|50px]]
|3='''[[コバチ上科]] [[w:Chalcidoidea|Chalcidoidea]]''' [[File:Chalcid Wasp - Conura species, Woodbridge, Virginia - 14885696378 (cropped).jpg|60px]]
}}
|3=''他の上科''
}}
|label2='''[[有剣類]] [[w:Aculeata|Aculeata]]''' |sublabel2=''針刺性''
|2={{clade
|1= '''[[セイボウ科]] [[w:Chrysididae|Chrysididae]]''' [[File:Chrysididae jewel wasp.jpg|60px]]
|2={{clade
|1=''[[スズメバチ科]] [[w:Vespidae|Vespidae]]'' [[File:European wasp white bg.jpg|60px]]
|2={{clade
|1={{clade
|1='''[[アリバチ科]] [[w:Mutillidae|Mutillidae]]''' [[File:Velvet ant (Mutillidae) (25808496580) (cropped).jpg|60px]]
|2='''[[クモバチ科]] [[w:Pompilidae|Pompilidae]]''' [[File:Spider Wasp (cropped).JPG|50px]]
|3=''他の科''<!--several!-->
}}
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|1='''[[ツチバチ科]] [[w:Scoliidae|Scoliidae]]''' [[File:Black-Flower-Wasp.jpg|90px]]
|2={{clade
|1=''[[アリ科]] [[w:Formicidae|Formicidae]]'' [[File:Meat eater ant feeding on honey02.jpg|60px]]
|label2='''[[ミツバチ上科]] [[w:Apoidea|Apoidea]]'''
|2={{clade
|1='''[[アナバチ科]] [[w:Sphecidae|Sphecidae]]''' [[File:Specimen of Podalonia tydei (Le Guillou, 1841).jpg|60px]]
|2={{clade
|1='''[[ドロバチモドキ亜科]] [[w:Bembicinae|Bembicinae]]''' [[File:Bembix sp.jpg|60px]]
|2={{clade
|1=''他の科''
|2={{clade
|1={{clade
|1='''[[アリマキバチ亜科]] [[w:Pemphredoninae|Pemphredoninae]]''' [[File:Pemphredon sp.-pjt1 (cropped).jpg|60px]]
|2='''[[フシダカバチ亜科]] [[w:Philanthinae|Philanthinae]]''' [[File:Dorsal view cerceris.jpg|60px]]
}}
|2=''[[ハナバチ]]類 [[w:Anthophila|Anthophila]]'' [[File:Apis mellifera (in flight) (cropped).jpg|60px]]
}}
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}}
 
== 分類(主な種類) ==
*ヒメバチ
* [[コバチ|コバチ科]]
*:[[コバチ#概要]]を参照。
* [[ツチバチ|ツチバチ科]]
*:主に[[コガネムシ上科]]の幼虫に寄生する。交尾を済ませたメスは土や朽ち木に潜り込んで、コガネムシの幼虫を見つけて産卵する。卵から孵った幼虫はコガネムシの幼虫を食べて育ち、成虫になると土や朽ち木から出てくる。
* [[コマユバチ|コマユバチ科]]
*:主に[[チョウ目]]の幼虫に寄生する([[ウマノオバチ]]の場合、[[シロスジカミキリ]]や[[クワガタムシ]]、[[キバチ]]の幼虫)。交尾を済ませたメスは、宿主の幼虫に大量に卵を産み付ける(ウマノオバチは一つのみ)。卵から孵った幼虫は宿主の幼虫を食べて育つ。大きく育つと宿主の幼虫の死骸から出て繭を作り、蛹になる。代表的な種に、アオムシサムライコマユバチやウマノオバチがいる。
* [[ヒメバチ|ヒメバチ科]]
*:主にチョウ目の幼虫に寄生する。交尾を済ませたメスは、宿主の幼虫に卵を産み付ける。卵から孵ると、宿主の幼虫が死なない程度に宿主の体を食べて育つ。宿主が蛹になると、蛹の中身をすべて食べた後、蛹になる。やがて羽化した後、空になった蛹の殻に穴を開けて出てくる。
 
== 脚注 ==
主にチョウ目の幼虫に寄生する。交尾を済ませたメスは、宿主の幼虫に卵を産み付ける。卵から孵ると、宿主の幼虫が死なない程度に宿主の体を食べて育つ。宿主が蛹になると、蛹の中身をすべて食べた後、蛹になる。やがて羽化した後、空になった蛹の殻に穴を開けて出てくる。
{{脚注ヘルプ}}
{{Reflist}}
 
== 関連項目 ==
* [[寄生虫]]
* [[害虫]]
* [[益虫]]
 
{{DEFAULTSORT:きせいはち}}