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'''脊髄損傷'''(せきずいそんしょう、
脊髄を含む[[中枢神経系]]は[[末梢神経]]と異なり、一度損傷すると修復・再生されることは無い<ref group="注釈">近年の研究によってその提唱者である[[サンティアゴ・ラモン・イ・カハール|ラモニ・カハール]]の論文の誤りが指摘されており今一度再考の必要があると思われるがまだ確定されたものでは無い。参考サイト[http://www.gelifesciences.co.jp/newsletter/biodirect_mail/cell_story/41.asp Error. 404] {{リンク切れ|date=2022年12月}}</ref>。現代の医学でも、これを回復させる決定的治療法は未だ存在しない。
== 一般的症状 ==
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感覚、運動だけではなく自律神経系も同時に損なわれる。麻痺野においては代謝が不活発となるため、外傷などは治りにくくなる。また、汗をかく、鳥肌を立てる、血管を収縮/拡張させるといった自律神経系の調節も機能しなくなる為、体温調節が困難となる。
かつては脊髄損傷患者の寿命は健常者に対し、大幅に短縮されるというのが通説であったが、現在では医療技術の発展に伴い、およそ
重症度の指標として、国際的に最も使用されているのは、米国脊椎損傷協会(ASIA: American Spinal Injury Association)の機能障害スケール(Impairment Scale)で、略してAISと呼ばれている。最も重いAから正常のEの5段階に分けられている。<br />
AISによる重症度分類<br />
A(完全):仙髄領域(S4~S5)に知覚または運動機能が残存していない。<br />
B(不全):仙髄領域(S4~S5)を含む神経学的損傷レベルより下位に知覚は残存しているが、運動機能は残存していない。<br />
C(不全):神経学的損傷レベルより下位に運動機能は残存しているが、Key muscleの半数以上がMMT3未満である。<br />
D(不全):神経学的損傷レベルより下位に運動機能は残存し、Key muscleの半数以上がMMT3以上である。<br />
E(正常):知覚・運動機能は正常である。
== 損傷部位と障害 ==
[[ファイル:Gray 111 - Vertebral column.png|thumb|100px|right|ヒトの脊椎]]
ヒトの脊柱は上から順に[[頸椎]] (C1-7)
仙骨以下では[[排泄]]、[[勃起]]などの機能に支障をきたし、下部胸椎から腰椎では両下肢が麻痺し、[[車椅子]]の生活を強いられる。排泄が自力では困難となることは本人のみならず家族など介護者にとっては大きな負担となる。上部胸椎では腹筋背筋が効かなくなるため体幹の保持が困難となる。さらに頸髄を高い位置で損傷すると手指だけでなく[[呼吸筋]]まで麻痺し、人工呼吸器なしには生きられなくなる(以上全て完全型の場合)。
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近年は[[スノーボード]]などあらたな受傷原因となるものも出てきており、構成は変化しているものと思われる。事故の防止、万一事故にあった際の身体の保護の重要性が増している。
特に、交通事故によるものでは、オートバイ乗車中の事故を見過ごすことができない。件数自体は四輪車によるものより少ないが、オートバイ人口自体が圧倒的に少ないので、率としては高くなる。統計及び防護策については[[オートバイ#オートバイの事故
また[[2005年]]の[[JR福知山線脱線事故|福知山線脱線事故]]による脊髄損傷者は20人以上にのぼるとみられている。
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多くの脊損者は自力で排尿できない為、[[カテーテル]]等を使って[[導尿]]を行う。このとき、カテーテルを介して雑菌が[[尿道]]、[[膀胱]]に入り、[[炎症]]や[[敗血症]]の原因となるのである。女性の場合は尿道口と[[肛門]]の距離が近く、尿道の長さも男性より短い為、リスクはより高くなる。排尿時には手指や器具の清潔を徹底し、尿が濁ったり発熱があったりした場合は速やかに医師の診察をうける必要がある。
近年ではバルーンカテーテルを入れたままにして外部からの雑菌が入らないようにする処置が主流のようである。
== 治療に向けての研究 ==
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=== 受傷直後 ===
米国では2012年<ref>Michael G Fehlings, et al. Early versus delayed decompression for traumatic cervical spinal cord injury: results of the Surgical Timing in Acute Spinal Cord Injury Study (STASCIS). PLos One, 2012, 7(2): e32037[https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22384132/]</ref>に、受傷後24時間以内に除圧手術をすることで、それ以後に手術をした場合に比べて、AISが2グレード以上改善する率が2.8倍になると報告され、それ以後受傷後早期の除圧手術で運動機能が改善するという報告が多数なされてきた。また脊椎外科治療の向上を目指す国際的な団体であるAOSPINEでは、2017年<ref>Michael G Fehlings, et al. A Clinical Practice Guideline for the Management of Patients With Acute Spinal Cord Injury and Central Cord Syndrome: Recommendations on the Timing (?24 Hours Versus >24 Hours) of Decompressive Surgery. Global Spine J
米国において、受傷直後、48時間~72時間以内であれば、大量に[[ステロイドホルモン|ステロイド剤]]を投与することによって後遺障害を抑える効果があるという報告がなされている。しかし確実性に疑問があり、副作用についても確認がなされていないこと、比較的若年の、再生力の強い患者以外には効果が薄いといわれている事、またこの方法は、日本はもとより米国においても州によっては認可されておらず、未だ一般化していない。▼
. 2017 Sep;7(3 Suppl):195S-202S[https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/29164024/]</ref>に急性脊髄損傷の治療ガイドラインを公開し、受傷後24時間以内の除圧手術を推奨している。
日本では2021年<ref>H Chikuda, et al. Effect of Early vs Delayed Surgical Treatment on Motor Recovery in Incomplete Cervical Spinal Cord Injury With Preexisting Cervical Stenosis: A Randomized Clinical Trial. JAMA Netw Open
. 2021 Nov 1;4(11):e2133604.[https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34751757/]</ref>に群馬大学・東京大学を中心とした全国43施設での共同研究で、国際的にも最大規模のランダム化試験により、非骨傷性頚髄損傷に対する早期手術の有効性の調査が行われた。その結果、24時間以内の早期手術が、待機的におこなう受傷2週以降の手術に比べ、手足に生じた麻痺の回復を早めることがわかった。また非骨傷性脊髄損傷の高齢者に特化した2022年研究報告によれば<ref>{{Cite journal|和書|author=大饗和憲, 井口浩一, 森井北斗, 上田泰久, 八幡直志, 高橋翼, 松田浩美, 笠原知樹, 田沼悠太 |year=2022 |title=高齢者の非骨傷性頸髄損傷に対する積極的手術療法 |url=https://doi.org/10.11382/jjast.36.3_03 |journal=日本外傷学会雑誌 |ISSN=1340-6264 |publisher=日本外傷学会 |volume=36 |issue=3 |pages=265-269 |doi=10.11382/jjast.36.3_03}}</ref>、従来予後が悪いとされてきた高齢者の非骨傷性脊髄損傷にも、受傷後早期の除圧手術が有効である可能性が示された。
▲かつて脊髄損傷の治療法がないとされていた1990年に、米国において、受傷直後、48時間~72時間以内であれば、大量に
2005年7月には[[関西医科大学]]において、やはり受傷直後の患者に対し、自分の[[骨髄]]液を培養して脊髄に注入し、幹細胞の増殖を促すという方法の研究を進める計画が報じられた。
研究段階ではあるが2009年7月に米国科学アカデミー紀要に掲載された[http://www.pnas.org/content/early/2009/07/24/0902531106.abstract 研究論文]によると食品添加物の[[青色1号]]の一種であるブリリアントブルーGを脊髄損傷したラットに投与すると回復が見られたとされる。損傷後4時間以内に投与すれば二次障害の炎症を抑えて永久的な麻痺を回避できる可能性があり研究が進められている。<ref>[
[[2014年]][[6月16日]]、[[慶應義塾大学|慶応大学]]などのグループが事故などで脊髄を損傷して78時間以内に、肝細胞増殖因子(HFG)を投与し、重度まひなどの改善を目指す臨床試験を始めると発表<ref name="gadget20140616">{{cite news|title = 重度脊髄損傷の治験開始へ=事故
=== 再生医療 ===
現在最も有望視されているのが、骨髄や神経の幹細胞を用いた神経再生の試みである。[[動物実験]]では部分的な効果が報告されているが、人体に応用し治療に役立つには未だ基礎研究の段階であり、研究の強力な推進が望まれている。主として[[人工多能性幹細胞]]、[[胚性幹細胞]]、[[細胞増殖因子|肝細胞増殖因子]]の使用が研究されているが、クリアすべき課題も多い。例として、人工多能性幹細胞を用いた場合、[[免疫]]反応は回避できると考えられるものの、[[腫瘍]]となる可能性が指摘されている<ref name=nikkei20080721>「脊髄損傷に新治療法――慶大など、サルで実験――たんぱく質で機能回復――来年度中に臨床試験」『[[日本経済新聞]]』44003号、[[日本経済新聞社]]、
2005年現在、唯一臨床治療として行われているのが、[[中国]]の[[北京首都医科大学]]において、鼻粘膜細胞(OEG)を注入することで脊髄の再生を図るというものである。しかし同大からは長期にわたる治療効果の検証において、世界の研究者を納得させるデータの提出が無く、激しい疼痛やOEGの入手先(中絶胎児から採取)など問題が多数あり、日本せきずい基金では「現段階で推奨できる治療法ではない」としている。
[[2010年]]
[[2014年]][[3月6日]]、[[慶應義塾大学|慶應大学]]の中村雅也准教授らのグループが[[京都市]]で開かれた[[日本再生医療学会]]で、脊髄損傷の患者に対する[[人工多能性幹細胞|iPS細胞]]の臨床研究を[[2017年]]度に始める計画を発表<ref name="yomiuri20140307">{{cite news|title =IPSでの脊髄治療、慶大が2017年度に臨床研究|url= https://web.archive.org/web/20140309230553/http://www.yomiuri.co.jp/science/news/20140307-OYT1T00267.htm|publisher = [[読売新聞]]|date = 2014年3月7日| accessdate = 2014年3月17日}}</ref>。対象は、事故から2~4週間後で、患部の炎症が収まり傷口が固まり始める前の患者となる<ref name="yomiuri20140307"/>。
いずれにせよ、受傷後時間を経た慢性期の患者については、機械のように「切れたワイヤハーネスを繋ぎ直す」というような簡単なものではなく、「切れたところから再び神経を生やす」ということになるため、仮に神経再生が可能となったとしても、正常な位置に正常な神経が到達できるかは未知数である。
2018年11月13日、慶応大学の岡野栄之(生理学)と中村雅也(整形外科)らのグループが計画する脊髄損傷の患者にiPS細胞から作成した神経前駆細胞を移植し、機能改善を試みる世界初の臨床研究計画について、同大学の審査委員会は、実施を大筋で認めた<ref name="mainichi181113">{{Cite news|title=慶応大:iPSで脊髄損傷臨床研究、学内審査機関が承認へ - 毎日新聞|date=2018-11-13|url=https://mainichi.jp/articles/20181114/k00/00m/040/153000c|accessdate=2018-11-24|publication-date=|language=ja-JP|work=毎日新聞}}</ref><ref name="sankei181113">{{Cite news|title=iPSで脊髄損傷治療
2018年11月22日、厚生労働省の再生医療製品を審議する部会が[[ニプロ]]と[[札幌医科大学]]が開発した脊髄を損傷した患者の骨髄液から「間葉系幹細胞」を採取し、点滴で戻す「[[ステミラック注]]」の製造を承認した<ref name=":0">{{Cite news|title=脊髄損傷再生、ニプロ製品了承|date=2018-11-21|url=https://www.nikkei.com/article/DGKKZO38057580R21C18A1TJ2000/|accessdate=2018-11-22|publication-date=|language=ja-JP|work=日本経済新聞 電子版}}</ref><ref name=":1">{{Cite news|title=脊髄損傷で初の再生医療容認へ
2019年2月20日開催の、[[中央社会保険医療協議会]]総会で、ヒト細胞加工製品(ヒト体性幹細胞加工製品)として「[[ステミラック注]]」の2019年2月26日付けで薬価基準収載が決定した。対象は、外傷性脊髄損傷で、ASIA機能障害尺度がA、B、又はCの患者に限られる<ref>{{Cite web|和書|url=https://www.mhlw.go.jp/content/12404000/000481001.pdf|title=再生医療等製品の保険償還価格の算定について(ステミラック注)|accessdate=2019-02-26|publisher=厚生労働省|date=2019-02-20|format=PDF|website=中央社会保険医療協議会 総会(第409回)議事次第}}</ref>。収載された薬価は、1回分14,957,755円である。受注開始は2019年4月で、供給当初においては、[[札幌医科大学附属病院]]のみへの提供となる<ref>{{Cite web|和書|url=https://www.nipro.co.jp/news/document/190226.pdf|title=脊髄損傷の治療に用いる再生医療等製品「ステミラック注」薬価基準収載のお知らせ(ニュースリリース)|accessdate=201903-18|publisher=ニプロ株式会社|date=2019-02-26|format=PDF}}</ref>。[[2022年]]3月、札幌医科大学整形外科教授が、「現在までに70例以上の脊髄損傷症例に対しステミラック投与を行い、比較的良好な機能回復が得られている」とコメントをだした<ref>{{Cite web|和書|title=日本協会がラグビーにおける脊髄損傷への再生医療適応プロジェクト始動 研究機関にも協力 {{!}} ラグビーリパブリック |url=https://rugby-rp.com/2022/03/28/etc/81752 |date=2022-03-28 |access-date=2022-06-16 |publisher=日本ラグビーフットボール協会}}</ref>。
2023年10月16日、慶應義塾大学医学部は「脊髄損傷に対するヒトiPS由来細胞移植を用いた2期的治療法の開発に成功-肝細胞増殖因子前投与によるヒトiPS由来細胞移植療法の治療効果促進-」と発表した<ref>{{Cite web |title=ニュースリリース 脊髄損傷に対するヒトiPS由来細胞移植を用いた2期的治療法の開発に成功 |url=https://www.keio.ac.jp/ja/press-releases/2023/11/2/28-153717/ |website=www.keio.ac.jp |access-date=2024-03-17 |language=ja |publisher=慶應義塾大学医学部}}</ref><ref>{{Cite web |url=https://www.keio.ac.jp/ja/press-releases/files/2023/11/2/231102-1.pdf |title=脊髄損傷に対するヒトiPS 由来細胞移植を用いた2期的治療法の開発に成功 |access-date=2024/03/17 |publisher=慶應義塾大学医学部}}</ref>。
=== 運動機能の回復 ===
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もうひとつは体内に電極を埋め込み、体外に接続されたコントローラーから神経に直接電気刺激を与え、本来の筋肉を動かそうというものである。既にフランスなどで実験的な施術例がある。しかしまだ極めてギクシャクとした動きしか出来ず、また長く使用しているうちに筋肉が発達してくることによりコントローラーのプログラミングを頻繁に調整しなくてはならないなど、完全な実用化への道のりはまだ遠いようである。
== 脚注 ==
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== 外部リンク ==
* [https://bsd.neuroinf.jp/wiki/%E8%84%8A%E9%AB%84%E6%90%8D%E5%82%B7 脊髄損傷 - 脳科学辞典]
* [http://www.jscf.org/learn/index.html?PHPSESSID=db9133a591f22b8996298a8760fbb3cd JSCF NPO法人 日本せきずい基金 - 医学情報を『知りたい』]
* [http://www.kibirihah.johas.go.jp/003_reha/10_sekison_db.html 全国脊髄損傷データベース | 吉備高原医療リハビリテーションセンター]
* [http://www.pref.osaka.lg.jp/attach/1206/00013490/sekisonnkeatetyou.pdf 脊損ケア手帳 大阪府]
* [https://www.jst.go.jp/pr/announce/20071116/index.html 脊髄損傷からの機能回復-"脳の働き"をサルで解明] - 独立行政法人 [[理化学研究所]](平成19年11月16日)
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