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現在は、動物に変身するという妄想、または自分が動物であるという妄想の起こる[[精神医学]]上の症候群を、「狼化妄想症」([[人狼症]]、[[:en:Clinical lycanthropy|Clinical lycanthropy]], または特に狼と特定しない [[獣人|Therianthropy]] という呼び方もある)という。
 
1589年ドイツのベットブルクにおいてシュトゥーペ・ペーターという人物が狼男とされ家族とともに処刑され、その話はヨーロッパに広まった。これについてその数年前にあった新旧キリスト両派間のケルン戦争の影響により避難民や戦後失職した傭兵が大量に現れ、その結果として放浪者への不安感や新派の旧派聖職者に対する反感が高まった可能性を指摘し、異なる宗派が隣接あるいは混在している共同体においてこの種の魔女狩りが頻発していたとの研究がある<ref>{{Cite journal|和書|author=高津秀之 |date=2012-03 |url=https://waseda.repo.nii.ac.jp/records/6476 |title=ベットブルク狼男事件の衝撃 -宗教改革期における想像力と社会 |journal=多元文化 |ISSN=2186-7674 |publisher=早稲田大学多元文化学会 |volume=1 |pages=二一二-一九三 |hdl=2065/51459 |CRID=1050282677436065664 |access-date=2024-05-22}}</ref>。1603年にフランスのボルドーでは少年が狼に変身し子どもらを襲って食ったと告発された事件では少年は生涯幽閉を宣告されたが、少年が狼憑きであるのか、そもそも人間が実際に変身するのか、変身とはそういった幻覚幻想に過ぎないのか、幻覚としてもそれはやはり何らかの魔物によって引き起こされたものなのか、妄想だとしても犯行は実際にあったことなのか、裁判官・医師等の判断はまちまちであった<ref>{{Cite journal|和書|author=菊地英里香 |date=2020-03 |url=https://tsukuba.repo.nii.ac.jp/records/54219 |title=16,17世紀の悪魔学における人狼 |journal=古典古代学 |ISSN=1883-7352 |publisher=筑波大学人文社会系古典古代学研究室 |volume=12 |pages=85-103 |hdl=2241/00159642 |CRID=1050283688009355520 |access-date=2024-05-22}}</ref>。
 
=== 文学、映画上の狼男 ===
[[ファイル:Loup garou 02.jpg|200px|thumb|ジョルジュ・サンドによるリトグラフ(1858年、フランス)]]
文学的には中世ヨーロッパの宮廷文学において題材にしばしば取り上げられた。フランス最古の女流作家と言われている[[マリー・ド・フランス (詩人)|マリー・ド・フランス]]の作品に{{Lang仮リンク|frビスクラヴレ|en|''Lai du Bisclavret''}}|label=『狼男(ビスクラ)』}}がある{{Refn|川口論文で確認したカナ表記<ref name="kawaguchi2000">{{Cite journal|和書|author=川口陽子 |date=2000-12 |url=https://kwansei.repo.nii.ac.jp/records/16739 |title=マリー・・フランスの『レ』におけるamur、amistié、druerie |trans-title=Le mots amur, amisité, druerie dans les Lais de Marie de France |journal=年報・フランス研究 |ISSN=09109757 |publisher=西宮 : 関西学院大学フランス学会 |issue=34 |page=17<!--13–25--> |CRID=1050845762916548224 |hdl=10236/9419 |ref={{SfnRef|川口|2000}}}}</ref>。}}。同作品では、狼男のことは[[ブルトン語]]で<!--題名どおり-->「ビスクラヴレット {{lang|br|bisclavret}} 」{{Refn|{{harv|横山|2016}}のカナ表記<ref name="yokoyama2016"/>。ちなみに古フランス語では、接尾の-etなども(主に発音された。}}と呼ばれる作品があり[[ノルマン語]]では<!--[[古ノルド語]]由来の-->「ガールワーフ {{lang|fra-nor|garwaf}}」と呼ぶ、と説明している<ref name="yokoyama2016">{{cite journal|和書|author=[[横山安由美]] |date=2016-03 |url=https://ferris.repo.nii.ac.jp/records/1876 |title=マリ・ド・フランスの『レー』にみる英仏の二重性 : コンタクト・ゾーンとしてのイングランド |trans-title=Political and cultural duality of the Lais of Marie de France: England and France |journal=国際交流研究 : 国際交流学部紀要 |ISSN=13447211 |publisher=フェリス女学院大学国際交流学部紀要委員会 |volume=18 |CRID=1050845763828663424 |ref={{SfnRef|横山|2016}} |pages=33, 37<!--25–58-->}}</ref>。呪いを受けて半分を森の中で狼の姿で生きなければならない騎士が、夫を狼の姿のままにして不義を行おうとする妻の姦計を逃れて人間の姿を取り戻すという話である。
 
[[19世紀]]に[[イギリス]]の[[フレデリック・マリアット]]が書いた作品集『ファントム・シップ』({{Lang|en|''The Phantom Ship''}})にも『ハルツ山の白狼』/『人狼』(''{{Lang|en|The White Wolf of the Hartz Mountains}}'')という物語が採録されており、これが近代狼男文学の祖とされている。
 
[[19世紀]]に[[イギリス]]の[[フレデリック・マリアット]]が書いた作品集『ファントム・シップ』({{Lang|en|''The Phantom Ship''}})にも『ハルツ山の白狼』/『人狼』(''{{Lang|en|The White Wolf of the Hartz Mountains}}'')という物語が採録されており、これが近代狼男文学の祖とされている。その後の古典的作品としては、アメリカ人作家ガイ・エンドアの小説『パリの狼男』(1933年)、イギリス人作家イーデン・フィルポッツの小説『狼男卿の秘密』(1937年)などがある。
 
[[無声映画]]時代にも狼男を扱った映画は存在していたが、人間が消えると代わって本物の狼が画面に出現するなど、質の高いものとは言えなかった。[[1935年]]に、世界初の狼男を主題とした本格的な映画『[[倫敦の人狼]]』({{Lang|en|''Werewolf of London''}})が公開されて[[特殊メイク]]による半人半狼の狼男が登場し、続いてユニバーサル社の狼男映画としては二作品目となる[[1941年]]に公開された『[[狼男の殺人]]』/『狼男』({{Lang|en|''The Wolf Man ''}})は続編ではなく独立した別個の作品であったが、こちらは更に精巧な特殊メイクによる狼男の登場に加えて、『倫敦の人狼』で導入された「狼男に噛まれた者は狼男になる」「銀で出来たもので殺せる」などの設定が加えられた。
 
半人半狼の狼男や満月の夜に変身という物語は以前にも存在したが、映画[[倫敦の人狼]]』・『[[狼男の殺人]]』以前においては数多くある狼男の話では少数に属し、また[[の弾丸]]で殺せるという設定映画[[狼男の殺人]]脚本を書いたカート・シオドマクによるオリジナルとされている。(ただし、1933年出版のガイ・エンドアの小説『[[パリの狼男]]』では銀の十字架を鋳つぶして作った銃弾が十字架の霊験として[[狼男]]に通用するとしたかのような形で既に書かれている。)この映画によりが「狼男映画の決定版」とまで評価され、現代における「狼男」伝説の基本要素イメージ完成させ、「狼男映画の決定版」とまで評価されづけた。のため、その後はこの両作品の設定が狼男の一般的な特徴であるという誤った認識のもとで、ハリウッド映画に限らず広く世界的に多くの狼男作品が創作されることになった。
 
このため、この両作品の公開を狼男の歴史に関するひとつの画期として捉え、この作品以後に登場する狼男を『狼男の殺人』の原題より「ウルフマン」と称し、それ以前の伝説や民間伝承における「ワーウルフ」と区別する考えも存在する。