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{{出典の明記| date = 2022年7月}}
{{law}}
'''滞納処分'''(たいのうしょぶん)とは、[[日本]]において、法定納期限等一定の期日までに納付されない[[税]]などについて、徴収権者が、その税などにかかる[[債権]]を滞納者の意思に関わり無く実現する[[行政行為|行政処分]]である。
 
[[国税通則法]](昭和37年4月2日法律第66号)(以下「通則法」)第40条は、一定の場合([[#督促|後述]])に滞納処分を行う旨を規定している。滞納処分の具体的な手続きに関しては、同条の[[委任]]により[[国税徴収法]](昭和34年4月20日法律第147号)(以下「徴収法」)に規定があり、徴収職員([[税務署]]長その他[[国税]]の徴収に関する事務に従事する職員(徴収法第2条第11号))がこれを行う。
 
== 概要 ==
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* 財産の換価
* 換価代金等の配当
 {{0}})で囲んだものは滞納処分に先立つ手続き。
 
=== 私債権との相違点 ===
税は、[[国]]や[[地方公共団体]]の収入の大部分を占め、その活動の基盤となるものである。また、その徴収には大量性・反復性があり、徴収のために煩雑な手続を要するとすれば、効率的な[[行政]]の執行を妨げるおそれがある。
 
そのため、税の徴収にあたっては、私債権の実現には許されない'''自力執行権'''が認められている。[[自力執行権]]とは、履行されない債権を、債権者自らが強制手段を以って実現させる権限である。
 
=== 他の法律における「国税徴収準用例による」場合 ===
徴収法に規定されている滞納処分の手続きは、通則法に規定する国税、即ち国が課する税のうち関税、とん税、特別とん税、森林環境税及び特別法人事業税以外のものについての規定であるが、[[関税法]]、[[地方税法]]をはじめとする[[公租公課]]の徴収に関する[[法令]]のいくつか[[準用]]されおいいる。この場合該当する法令の条文に「国税徴収法に規定する滞納処分の例による」などの文言があり、その[[法律]]が別の規定を置いていで同様に扱われるものの他は徴収法の規定により滞納処分できる。
 
1 関税 関税法第11条、とん税 とん税第6条第3項、特別とん税 特別とん税第6条によるとん税第6条第3項の準用
この場合、徴収法中「徴収職員」、「国税」などの文言は、当該法令で用いられている用語(地方税法の場合「徴税吏員」、「[[道府県民税]]」など[[地方税]]の税目)に読み替えることになる。
 
2 健康保険料 健康保険法第180条第4項 国民年金保険料 国民年金法第96条第4項
 
3 地方税 地方税法第48条第1項等
 
4 地方自治体の徴収金 放置違反金 道路交通法第51条の4第14項により地方税法の滞納処分の例によりとあるので、間接的に国税の滞納処分の例によることになる。
 
この、国税徴収の例によるとあるのは、徴収法の個別の規定の[[準用]]より幅が広く、徴収法に基づく命令の規定を含み、対象となる[[公租公課]]が、国税であるように徴収することができる。この場合、徴収法中「徴収職員」、「国税」などの文言は、当該法令で用いられている用語(地方税法の場合「徴税吏員」、「[[道府県民税]]」など[[地方税]]の税目)に読み替えることになる。
 
以下、本項目では徴収法に規定されている用語に従って解説する。
 
== 督促 ==
通則法第37条では、国税の納期限後50日以内に督促状を1度に限り発するものとされており、同法第40条および徴収法第47条では原則として督促状を発した日から10日以内に当該国税が完納されない場合、滞納処分(差押)を行うとされている。
 
督促状の発付は滞納処分の前提行為とされており、督促状が発されずに行われた滞納処分は[[無効]]となる。「50日以内」という督促状発送の期限は訓示規定であると解されており、50日を過ぎて発せられた督促状が直ちに無効になるとはされていない。
 
ただし、通則法第38条第1項各号の規定により繰上請求がなされた場合は繰り上げられた納期限までに当該国税が完納されなかった場合(通則法第40条)、督促状を発してから10日以内に繰上請求の事由が発生した場合は直ちに(徴収法第47条第2項)、滞納処分を行うことができる。特に徴収法第47条第2項の場合を指して「繰上差押え」と呼ばれる。
 
通則法に基づく督促は[[b:民法第147条|民法第147条]]第1号でいうところの「請求」であると解されており、当該国税について通則法に基づく督促がなされた場合は、通則法第7273条第31による民法第4号準用規定により、督促状を発した日から10日間、時効の完成が猶予される。ただし、督促状で時効が中断するのは、初回限りであり、それ以降に発する催告書では、時効は中断しない
 
== 財産の調査 ==
徴収職員は、滞納者に対する差押に先立ち、差し押さえの対象となりうる財産の有無やその価値などを調査するため、下記の方法により[[税務調査|財産の調査]]を行うことができる(徴収法第5章第6節第2款「財産の調査」(第141条 - 第147条))。
 
* 任意の調査
** 質問・検査(徴収法第141条、第147条)
* 強制調査
** [[捜索]](徴収法第142条 - 第146条、第147条)
 
財産調査にあたっては、徴収職員は[[身分証明書]]を携帯し、関係者(調査を受ける者)の請求があればこれを呈示しなければならない(徴収法第147条)。ただし、調査に先立ち必ず自発的に呈示する必要は無く、関係人の請求により提示すれば足りると解されている。
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質問は、上記の者に対して口頭または照会文書等の書面で行う。検査は、上記の者の財産に関する[[帳簿]]類([[コンピュータ]]上のものを含む)の提示を求めて行う。
 
質問に対して答弁をせず、偽りの陳述をした者・検査を拒否、妨害、忌避し、または偽りの帳簿類を提示した者は、1年以下の懲役又は50万円以下の[[罰金]]刑に処せられる(徴収法第188条)。また、法人等の代表者・従業員、[[自然人]]の[[代理]]人等がこれを行った場合、行為者とともに、行為者が代理を行った法人や自然人も罰せられる。
 
=== 捜索 ===
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== 財産の差押 ==
'''[[差押]]'''は、滞納者の特定の財産について、滞納者の意思に関わりなく、法律上または事実上の処分を禁じ、それを公売その他の方法により金銭に換価可能な状態にするために行われる最初の手続きである強制処分である。差し押さえられた財産は、[[所有権]]に基づく使用・収益・処分に制限を受けるが、差押を受けた段階ではその所有権は滞納者に属し、国に所有権が直接移転するわけではない。
 
=== 通則 ===
差し押さえる財産は、国税徴収上必要なものでなければならず、かつその財産を換価したときに滞納国税への[[配当]]が得られるものでなければならない(徴収法第48条)。
 
差押の効力は、その財産本体以外に、その財産から生じる民法上の[[天然果実]](差し押さえた[[家畜]]の仔、[[果樹]]に生る[[果物]]など)にも及ぶが、差押にかかる債権の差押後の[[利子|利息]]以外の[[法定果実]]([[不動産]]の賃料など)には及ばない。
 
滞納者や、滞納者と生計を共にする[[配偶者]]([[事実婚|事実上のもの]]を含む)や[[親族]]の生活に欠かすことのできない財産・[[給料]]・[[社会保障]]費、[[農業]]・[[水産業]]その他自己の技術等により従事している[[職業]]に欠かすことのできない物などは、徴収法に規定があるものを除いては差押をすることができない(徴収法第75条 - 第78条)。
 
差押のうち、通知書等の書面の送付によってその効果が発生するものについては、効果発生の時点を明確にするため、実務では通知書は[[配達証明]]郵便などの手段で送付されることが多い。通説上、発送した書面が受取人の支配下に入った(基本的には本人・家族・従業員等が[[郵便]]物を受け取った)時点で相手方に到達したものとみなされ、滞納者が読まなかったなどの場合も、差押の効力には影響を及ぼさない。
 
通則法第72条第3項により準用される民法第147条の規定により、国税徴収のために財産の差押を行った場合、当該国税に係る時効は中断す完成猶予となる。すなわち、差押を行ったときからその目的となっている国税の時効は進行せず、[[#財産の換価|換価]]・換価の猶予等により[[#差押の解除|差押が解除]]された翌日から起算してさらに5年後(通則法第72条第1項)が当該国税の消滅時効となる。
 
=== 動産の差押 ===
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[[金銭]]や有価証券を差し押さえた場合は、その限度において(有価証券の場合はこれを換金した限度において)国税を徴収したものとみなされる(徴収法第57条)。
 
動産のうち、[[登記]]または登録の制度がある[[船舶]]・[[航空機]]・[[自動車]]・[[建設機械]]・[[小型船舶]]の差押は、[[#不動産の差押|不動産の差押]]の手続きに準じて行われる。この場合、営業上の必要などがある場合は、一定の要件により運行・航行・使用を許可される場合がある。ただし、[[軽自動車]]や[[二輪車]]、櫓(ろ)や櫂(かい)をもって航行する船などは登録の制度がないため、通常の動産差押の手続きによる。
 
=== 債権の差押 ===
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徴収職員は、必要な場合は当該債権の証書を、動産の差押の例により滞納者から取り上げることができる(徴収法第65条)。
 
差し押さえた債権取立ては徴収職員が行い、金銭を取り立てた場合はその限度内において滞納者から国税を徴収したものとみなされる。金銭以外のものを取り立てた場合は、そのものは差し押さえられる(徴収法第67条)。
 
差し押さえるべき債権が[[抵当権]]等登記することができるものである場合、税務署長がその登記を関係機関に嘱託することができる。この場合、税務署長は滞納処分に関係する第三債務者以外の権利者に対して差し押さえた旨を通知しなければならない(徴収法第64条)。
 
=== 不動産の差押 ===
不動産の差押は、滞納者に差押書を送達して行い、差押書送達の時点で効力を生ずる。これとともに、税務署長は差し押さえた物件の登記を関係機関([[登記所]])に嘱託しなければならない。登記がなされていなければ、[[対抗要件|第三者に対して対抗]]することができないためである。差押書が滞納者に到達する前に登記がなされた場合は、登記された時に差押の効力が生ずる(徴収法第68条)。
 
滞納者または差し押さえられた不動産ついて使用・収益をする権利を持つ第三者は、当該不動産を通常の用法で使用収益することができるが、その価値を著しく損なう行為がなされると認められるときは、税務署長はその使用収益を制限することができる(徴収法第69条)。
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差押の解除とは、差押の効力を将来に向かって失わせる処分である。
 
国税が完納されるなどその全額が消滅したとき、差押財産の価値がその差押にかかる国税以外に優先する他の国税・地方税等の合計額を上回る見込みがなくなったとき(徴収法第79条第1項)、徴収法第153条に基づき滞納処分の執行を停止したときは、徴収職員は直ちに差押を解除しなければならない。また、差押にかかる国税の一部納付等や差押財産の値上がり等によりその価格が当該国税およびそれ以外の国税・地方税等の総額を著しく上回る場合、滞納者が差し出したほかの適当な財産を差し押さえた場合(徴収法第79条第2項)、事業の継続・生活の維持のために必要があり換価の猶予をする場合は、徴収職員は差押を解除することができる。
 
差押の解除は、第三債務者に通知して差し押さえるものについては第三債務者に、それ以外のものについては滞納者に、それぞれ通知することによって行う。また、動産の引渡し・公示書や封印の除去、不動産の登記抹消の嘱託等、徴収職員や税務署長は必要な手続きを行わなければならない。
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交付要求をすることができる滞納国税は、納期限が到来していればよく、滞納処分の前提条件である督促の有無や、徴収猶予・執行停止されているものでもすることができる。
 
執行機関により強制換価手続が行われると、その換価代金の中から一定の順序により配当を受ける。原則として国税は他の全ての債権に優先して配当を受けるが、例えば法定納期限前に設定された抵当権などはその国税に優先するので、必ずしも交付要求により国税に配当が受けられるとは限らない。
 
複数の[[行政機関]]が交付要求を行った場合、先に行われた交付要求が後のものに優先する。
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=== 公売 ===
税務署長は、公売の10日前までに公売する財産の種類や内容、公売の方法や日時等を、税務署の掲示板に掲示する等の方法により[[告]]する(徴収法第96条)と共に、滞納者、交付要求人、公売財産の権利者に告と同様の内容を通知(徴収法第97条)しなければならない。
 
差押財産を公売する際は、税務署長は見積価額を決定しなければならない(徴収法第98条)。見積価格については、客観的な[[時価]]を基準にするか、鑑定人などの評価額を参考にして決定される。公売財産が不動産、船舶、航空機である場合、公売の3日前までに見積価額を告しなければならない。
 
公売財産につき買受の申し込みをしようとする者は、一定の場合を除いて見積価額の10%以上の、税務署長が定める額を公売保証金として納付しなければならない。これにより納付された公売保証金は、公売財産の買受代金に充てられる。また、売却決定された後に買受人が期限までに代金を支払わない場合は保証金は没収され、公売にかかる国税に充てられる。保証金を納付した者が公売財産を落札できなかった場合は、保証金は遅滞無くその者に返還される(徴収法第100条)。
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税務署長は第129条の規定により配当を行う場合は配当計算書を作成し、買受財産の納付の日から3日以内に、配当を受ける者に対してその謄本発送しなければならず(徴収法第131条)、その謄本には発送から原則として7日を経過した日を交付期日として記載し、配当を受ける者に告知しなければならない(徴収法第132条)。換価代金は、この交付期日に配当計算書に従い交付される(徴収法第133条)。
 
配当しようとする換価金額が国税その他の債権の総額に満たない場合は、徴収法第2章などに規定する優先劣後の関係に従って、配当すべき順位および金額を定めて配当される(徴収法第129条第5項)。配当に当たっては基本的に滞納処分にかかる国税が最優先されついでその他の原則として租税(税、地方税および地方税)、公課、私債権の順序となる。一方で納期限・交付要求私債権前後・担保権設定時期が税前後法定納期限より優劣早いときなど、私債権決せら租税に優先される場合もある。なお、国税と地方税に優先劣後の関係はない
 
配当手続きに当たっては、
* 税は地方税・公課に優先
 
* 公課は、質権・抵当権等により担保される私債権は国税に優先
* 国税は地方税・公課に優先
* 地方税・公課は質権・抵当権等により担保される私債権は、租税に優先
* 質権・抵当権等により担保される私債権は国税に優先
 
という、三つ巴の様相を呈することもしばしばあり、この場合は徴収法第26条各号に規定する方法により調整が行われる。
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# 債権を租税グループと私債権グループとに分け、次の方法により、配当金額の総額を定める
## 租税の法定納期限等の日・私債権の権利の設定時期を古い順に並べる
## この順序に従い、上記1で控除した手続き費用を控除した額を配当していき、仮の配当額を定める
## 債権を租税グループと私債権グループとに分け、上記で仮配当された額の和をそれぞれ求める。この額が、それぞれのグループに配当される額となる。
# 租税グループについて、第一に滞納処分にかかる税、次いで差押先着順や交付要求先着等に従い配当順序を定め、順次グループに配当された額が無くなるまで充てる。
# 私債権グループについては、民法等の規定に従い配当順序を定め、順次グループに配当された額が無くなるまで充てる。
 
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== 関連項目 ==
*[[特定滞納者特別措置条例]]
* [[国税庁]]
* [[税務調査]]
* [[自力救済]]
* [[強制執行]]
 
== 外部リンク ==
* {{Egov law|334AC0000000147|国税徴収法}}
* [http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S34/S34HO147.html 国税徴収法(法令データ提供システム)]
* {{Egov law|337AC0000000066|国税通則法}}
* [http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S37/S37HO066.html 国税通則法(法令データ提供システム)]
* [http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S32/S32HO094.html{{Egov law|332AC0000000094|滞納処分と強制執行等との手続の調整に関する法律(法令データ提供システム)]}}
 
{{Normdaten}}
{{DEFAULTSORT:たいのうしよふん}}
[[Category:日本の租税]]