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{{大言壮語|date=2016年9月}}
[[Image:Top of Rock Cropped.jpg|thumb|200px|[[都市]]や[[文明]]といったものも、多くの「個」により形成される集団的知性と言う見方が出来る]]
'''集団的知性'''(しゅうだんてきちせい、英語:Collective Intelligence、CI)は、多くの個人の協力と競争の中から、その集団自体に[[知能]]、精神が存在するかのように見える知性である。Peter Russell(1983年)、Tom Atlee(1993年)、Howard Bloom(1995年)、Francis Heylighen(1995年)、[[ダグラス・エンゲルバート]]、Cliff Joslyn、Ron Dembo、Gottfried Mayer-Kress(2003年)らが理論を構築した。
 
集団的知性は、細菌、動物、人間、コンピュータなど様々な集団の、意思決定の過程で発生する。集団的知性の研究は、[[社会学]]、[[計算機科学]]、集団行動の研究<ref group="注">集団行動の研究とは、クォークから細菌、植物、動物、人間[[社会]]など、あらゆるレベルの集団的振る舞いに関する研究を意味する。</ref>などに属する。
 
Tom Atlee らは、Howard Bloom が「グループIQ」と呼んだものから一歩進み、人間の集団的知性に研究の焦点をあてている。Atlee は集団的知性を「[[集団思考|集団思考(集団浅慮)]]や個人の[[認知バイアス]]に打ち勝って集団が協調し、より高い知的能力を発揮するため」のものと主張している。
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== 一般的概念 ==
; 集合知
: 集合知には、collective intelligence, collective knowledge, wisdom of crowdsなどの異なる英語が対応する。経営学の一分野である知識管理論からのアプローチには、洞口治夫(Horaguchi Haruo)『[http://www.7andy.jp/books/detail/-/accd/32323514 集合知の経営]-日本企業の知識管理戦略-』(2009)があり、その後、中国語、英語に翻訳されて出版されている。
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; Howard Bloom
: Howard Bloom は、35億年前の祖先である細菌の時代から現代まで、生命が進化の過程で発生した集団的知性の経過を描いた<ref name="bloom2000">Howard Bloom, ''Global Brain: The Evolution of Mass Mind from the Big Bang to the 21st Century'', 2000</ref>。
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; Tom Atlee と George Por
: 一方でTom Atlee と George Por は、「人間」の集団で発生する集団的知性を重視している。「人間の集団」に効果的な集団的知性を発生させるには、構成員の自発性と[[集合精神 (サイエンス・フィクション)|分散知能]]をオープンにすることが必要であるとしている。
: Atlee と Por の観点からすれば、集団的知性の力を最大限に発揮できるかどうかは、その組織の個々の構成員が発する、潜在的に有益な意見やアイデアを、「黄金の示唆」として組織全体が積極的に受け入れる能力を持っているかどうかにかかっている。逆に、[[集団思考|集団思考(集団浅慮)]]が発生する組織というのは、特定の個人の意見しか取り入れなかったり、黄金の示唆となるべき意見に十分耳を傾けないために発生するとしている。
: 「黄金の示唆」を拾い上げる手段として、様々な投票・アンケートを用い知識の集積を図ることは、構成員から多くのユニークな観点を集めることができ有用である。ただ、構成員に予備知識のない(専門家でない)場合の投票は、ある程度無作為に行うほうがよい。事前の討議は合意を形成してしまい、特定の観点を先入観として構成員に与えて、潜在的な「黄金の示唆」の反映を困難にするからである。
: これに対する批判として、予備知識のない者の無作為の投票では、組織として悪いアイデアや誤解が支持される可能性もあり、やはり意識の決定過程では、その問題に関する専門家の意見を重視することが必要であるとも言われている。
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; その他
: 集団的知性の他の専門家は、Atlee や Por とは違った見方をしている。Francis Heylighen、Valerie Turchin、Gottfried Mayer-Kress は集団的知性を計算機科学とサイバネティックスの方向から論じている。Howard Bloom は生物学的観点を強調し、地球上のあらゆる生物が「学習マシン」の一部であるとした。Peter Russell、Elisabet Sahtouris、Barbara Marx Hubbard ("conscious evolution" という用語の発明者)は、叡智圏([[ノウアスフィア]])のビジョン(すなわち、地上の情報層ともいうべき部分で急速に発展する集団的知性)に触発された。
 
== 歴史 ==
集団的知性の概念を最初に提唱したのは昆虫学者 {{仮リンク|ウィリアム・モートン・ホイーラー|en|William Morton Wheeler}} である。彼は個体同士が密接に協力しあって全体としてひとつの生命体のように振舞う様子を観測した。1911年、Wheeler はこれを蟻の観察で発見した。彼はコロニーによって形成される生命体を「[[超個体]]」と呼んだ。
 
集団的知性の先行概念としては、[[ウラジミール・ベルナドスキー ]]の「叡智圏([[ノウアスフィア]])」や[[H・G・ウェルズ]]の「世界頭脳(world brain)」があるが、その後も [[ピエール・レヴィ]]の著作、{{仮リンク|ハワード・ブルーム|en|Howard Bloom }}の ''Global Brain''、Howard Rheingold[[ハワード・ラインゴールド]] の ''Smart Mobs''、{{仮リンク|ロバート・デイビッド・スティール|it|Robert David Steele Vivas}} の ''The New Craft of Intelligence'' などで言及されてきた。''The New Craft of Intelligence'' では、全市民を「知性召集兵(intelligence minutemen)」として正当で倫理的な唯一の情報源とし、それによって公僕や企業経営者を正す「公的知性(public intelligence)」が生み出され、さらに「国家的知性(national intelligence)」となるとした。
 
1986年、Howard Bloomハワード・ブルーム は、[[アポトーシス]]、[[コネクショニズム]]、[[集団選択]]、超個体といった概念を統合して集団的知性に関する理論を生み出した<ref>Howard Bloom, ''The Lucifer Principle: A Scientific Expedition Into the Forces of History'', 1995</ref>。後に彼は細菌コロニーや人間の競争社会のような集団的知性をコンピュータ上に生成した「複合適応システム」と「遺伝的アルゴリズム」で説明できることを示した。<ref name="bloom2000"/>
 
David Skrbina <ref>Skrbina, D., 2001, Participation, Organization, and Mind: Toward a Participatory Worldview [http://www.bath.ac.uk/carpp/davidskrbina/chap8.pdf], ch. 8, Doctoral Thesis, Centre for Action Research in Professional Practice, School of Management, University of Bath: England</ref> は、「集団心(group mind)」の概念は[[プラトン]]の[[汎心論]](精神や意識は遍在し、あらゆるものに存在している)から導き出されるとした。彼は「集団心」の概念を[[トマス・ホッブズ|ホッブズ]]の[[リヴァイアサン (ホッブズ)|リヴァイアサン]]や[[グスタフ・フェヒナー|フェヒナー]]の集団心理に関する主張に基づいて展開した。彼は集団心理に関して最も重要な人物として[[エミール・デュルケーム|デュルケーム]]や[[ピエール・テイヤール・ド・シャルダン|テイヤール]]を挙げた。
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== 集団的知性の例 ==
集団的知性の好例は政党である。政治的方針を形成するために多数の人々を集め、候補者を選別し、選挙活動に資金提供する。その根本とは、「法律」や「顧客」による制限がなくても任意の状況に適切に対応する能力を有することである。この観点の信奉者の1人として[[アル・ゴア]]が挙げられる。彼は2000年の[[民主党 (アメリカ合衆国)|民主党]]の大統領候補であり、「米国憲法は、我々が個人ではできないことを集団でなさしめるプログラムである」と述べた。
 
[[緑の党]]の4つの柱([[エコロジー]]、[[社会正義]]、草の根[[民主主義]]、[[非暴力]])もそのような「プログラム」の例である。これは緑の党や関連する組織での[[合意形成]]の基本となっている。特に[[グローバルグリーンズ]]を組織するにあたって、この4つの柱が有効に働いた。
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このモデルでは、個人と情報は、数学的論理の式を運ぶ抽象情報モジュールとしてモデル化される。それらは、自らの意図と環境との相互作用に従って準無作為的に配置を変える。抽象計算空間でのそれらの相互作用はマルチスレッド化された推論プロセスを生成し、それが集団的知性として観測される。つまり、そこでは非[[チューリングマシン|チューリング]]的計算モデルが使われている。この理論では集団的知性に社会構造の属性としての単純な形式的定義を与え、細菌コロニーから人類の社会構造まで様々な面をうまく説明できる。集団的知性を特殊な計算プロセスと捉えることで、いくつかの社会現象も説明できる。この集団的知性のモデルでは、IQS(IQ Social)の形式的定義が提案され、「社会構造の推論活動を反映したN要素推論ドメインと時間の確率関数」と定義されている。IQSを計算で求めることは難しいが、上述の社会構造の計算プロセスとしてのモデル化によって近似値を得る可能性が出てくる。考えられる応用としては、企業のIQSを高めるための最適化や細菌コロニーの集団的知性による薬剤耐性の分析などがある<ref name="szuba"/>。
 
== 逆の観点脚注 ==
{{脚注ヘルプ}}
人工知能的なものに批判的な人々(特に人間を人間たらしめているのはその身体性であると信じている人々)は、集団が流体のように移動して被害を最小限にするよう行動する点を強調する。この考え方は[[反グローバリゼーション]]の立場を取る人々により顕著であり、学界とは一線を画している John Zerzan、Carol Moore、Starhawk らの業績などに端的に現われている。彼らの主張によると、「知性」は、存在するかどうかも疑わしい単なる「賢さ」であるとし、[[存在論]]的区別をする合意形成の役割やエコロジカルな集団的知恵を好む。
=== 西垣通注釈 ===
 
{{Notelist2}}
倫理的観点から人工知能を批評する人々は、「集団的知恵」を構築する手法を追求している。それを集団的知性の一形態と呼べるかどうかは不明である。[[ビル・ジョイ]]などは自律的人工知能全般を排除したいと考え、集団的知性には人工知能を関わらせないようにしたいと考えているように見える。
=== 批評出典 ===
 
== 批評 ==
 
=== 西垣通 ===
 
[[2013年]]に[[中公新書]]から出版された[[日本]]の[[情報学]]者である[[西垣通]]氏が執筆した著書『集合知とは何か -ネット時代の「知」のゆくえ-』において、集合知の特性や機構に関する哲学・思想的な側面からの深い考察が行われており、集合知の無闇な礼賛が批判されている。氏は著書の中で、[[Google]]が実行しようとしている集合知を利用して汎用人工知能を作成する試みは、日本の研究者が集結し[[1980年代]]に遂行したものの、実用的では無かった[[第五世代コンピュータ]]の開発の試みとそれほど違わないと述べている。氏は未知の事柄について人々の間に集団的偏見が無く、あくまで中立的にランダムな判断をするという仮定が成立する場合にのみ、集合知が有効であるとの見方を示している。また、氏は人間の思考は自律的な閉鎖システム([[オートポイエーシス]])であり, 計算機システムの処理は他律的な開放システム([[アロポイエーシス]])であるため、人間と計算機の動作機構は大きく異なるとしている。従って、各個人の思考・行動において自己の裁量が介入する余地が殆ど無くなり、行動パターンの変化が無くなり環境変化への柔軟性が損なわれてしまうため、個人を集合知から導いた結論へ意図的に誘導することは避けるべきであるとの見解を示している。さらに、人間の自律性を維持したまま集合知を活用するために、社会を階層的な自律システム(著書内ではHierarchical Autonomous Communication System (HACS)と呼称)とし、個人から大規模な集団に至るまでの各階層において思考の閉鎖性を維持し、下位階層内の暗黙知や感性的な深層を集約して上位階層に掬い上げ、その上位階層に属する個人の間で広く共有するべきとの提案も行っている。
 
==脚注==
<references/>
 
== 参考文献 ==
{{参照方法|date=2019年4月|section=1}}
* 西垣通著『集合知とは何か -ネット時代の「知」のゆくえ-』(中公新書,2013年) ISBN 978-4-12-102203-5
* 西垣通著『生命と機械をつなぐ知 基礎情報学入門』(高陵社書店,2012年) ISBN 978-4-7711-0995-7
* 西垣通著『情報学的転回 - IT社会のゆくえ』(春秋社,2005年) ISBN 4-393-33242-3
 
== 関連項目 ==
{{Colbegin}}
*[[巨大知]]
* [[意思決定]]
* [[オープンソース・インテリジェンス]]
* [[協調フィルタリング]]、[[レコメンダシステム]]
*[[協調的知性]]
* [[分散認巨大知]]
* [[群知能多神教]]
* [[ウイッカ]]
*[[ピエール・レヴィ]]
* [[巨大]]
*[[グループウェア]]と[[ナレッジコミュニティ]]、[[ナレッジデータベース]]、[[ウィキ]]及び[[ウィキペディア]]
* [[集合精神 (サイエンス・フィクション)]]
*[[百匹目の猿現象]]
* [[スマム]]/[[ミーム学トモブ]]
* [[創発]]
*[[ピアプロダクション]]([[:en:Commons-based peer production|Commons-based peer production]])
* [[世界の頭脳]]
*[[オープンソース・インテリジェンス]]
* [[超個体]]
*[[オープンスペース技術]]
* [[スマピエトモブル・レヴィ]]
* [[超個体ビッグデータ]]
* [[フューチャーセンター]]
*[[創発]]
* [[トポイエーシスム学]]
* [[「みんなの意見」は案外正しい]]
* [[サイバネティクス]]
<!-- *[[:en:Preference elicitation|Preference elicitation]]
*クラウドソーシング
* [[形式知]]、[[暗黙知]]
*[[フューチャーセンター]]
<!-- *[[Recommendation system]] -->
*[[「みんなの意見」は案外正しい]]
{{Colend}}
*[[ビッグデータ]]
*[[データサイエンティスト]]
<!-- *[[Preference elicitation]]
*[[Recommendation system]] -->
 
==外部リンク==
*[https://web.archive.org/web/20071007085545/http://www.axiopole.com/pdf/Managing_collective_intelligence.pdf Managing Collective Intelligence, Toward a New Corporate Governance]
*[http://cci.mit.edu/index.html MIT Center for Collective Intelligence]
*[http://www.community-intelligence.com/blogs/public Blog of Collective Intelligence] (George Pór)
*[http://www.walosbraingain.blogspot.com How to reverse the brain drain into a fantastic brain gain for the developing countries by the use of the strategy of collective intelligence (Dr. Sarr)]
*[https://web.archive.org/web/20051001041637/http://www.storycode.com/ StoryCode] — 「群集の知恵」に基づく書籍推奨システム
*[http://www.TheTransitioner.org TheTransitioner.org]
*[http://www.openbc.com/net/socialcapital Social Capital & Collective Intelligence Forum at openbc] — George Pór, Carlos García Timón, Fernanda Ibarra, John Lindsay によるサイト
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*[http://howardbloom.net/lucifer/excerpt1.html Superorganism.] Howard Bloom, ''The Lucifer Principle: A Scientific Expedition Into the Forces of History'' から抜粋
*[http://pespmc1.vub.ac.be/ Principia Cybernetica]
 
{{ヒトの知性}}
{{Semantic Web}}
 
{{DEFAULTSORT:しゆうたんてきちせい}}
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[[Category:協働]]
[[Category:超個体]]
[[Category:有機体論]]
[[Category:グループプロセス]]
[[Category:ダグラス・エンゲルバート]]