削除された内容 追加された内容
編集の要約なし
m編集の要約なし
 
(3人の利用者による、間の4版が非表示)
5行目:
 
== 概説 ==
近代的な決定論は、[[宇宙]]に対する決定論と、[[人間]]に対する決定論に大別される<ref>『自由意志の向こう側』2020年、p9</ref>。

宇宙に対する決定論は、宇宙の全ての状態は、それ以前の状態から[[物理法則]]に従って必然的に変化し、決定されるという考えである。因果的決定論とも呼ばれる。
 
人間に対する決定論は、ある個人に制御できない要素によって、その人の思考や行動が決まるという考えである。因果的決定論を人間にそのまま適用すれば、人間も物理法則に従って動く物質にすぎず、人間の思考や行動も事前に決定されていたことになり、[[自由意志]]の存在は否定される。[[量子論]]を考慮しても、人間の思考や行動は物理法則によって「確率的に」決定されると修正されるだけで、自由意志が否定されることに変わりはない{{Refnest|group="注"|脳内での量子効果により意識が生まれ、それが量子力学の非決定性につながるという説([[量子脳理論]])もあるが、支持者は多くない<ref>『自由意志の向こう側』2020年、p19</ref>。}}。
15 ⟶ 17行目:
その他に、人間の思考や行動の源は[[脳]]であり、その大部分あるいは全ては自由意志とは関係のない脳内の信号伝達によって決定される、とする決定論がある。
 
決定論による自由意志の否定は、道徳的[[責任]]の有無にも派生波及する。ある人が犯罪などの道徳的に問題のある行為をしても、それをすることが事前に決定されていたり、自分に制御できない要因によって引き起こされたのなら、道徳的な責任を問うことができなくなる。
 
== 決定論の歴史 ==
39 ⟶ 41行目:
その場合、[[心身二元論]]をとらずに量子論で閉じた理論とするならば、人間の意識は物質の相互作用によって生じ([[随伴現象説|随伴現象]]としての意識)、さらに物質(脳)の状態に応じて分岐した各世界で異なる意識をもち、人間の脳を含めた各世界の全ての状態はシュレディンガー方程式によって初期条件から決定される。
 
量子力学を拡張した[[場の量子論]]においても多世界解釈は同様に成立し<ref>アダム・ベッカー『実在とは何か ――量子力学に残された究極の問い』筑摩書房、2021年、p403</ref>、まだ未完成であるが[[量子重力理論]]でも成立する<ref>ショーン・キャロル『量子力学の奥深くに隠されているもの コペンハーゲン解釈から多世界理論へ』青土社、2020年、p376</ref><ref>野村泰紀『マルチバース宇宙論入門 私たちはなぜ〈この宇宙〉にいるのか』星海社、2017年、5章</ref>。
 
== 生まれと育ちの決定論 ==
49 ⟶ 51行目:
 
== 無意識と脳による決定論 ==
[[脳科学]]の発展により、脳には専門化した複数のモジュールがあり、脳内で意識を担当するモジュールと、判断や行動を担当するモジュールは異なっていると考えられるようになった<ref>マイケル・S. ガザニガ『〈わたし〉はどこにあるのか: ガザニガ脳科学講義』紀伊國屋書店、2014年</ref>。[[マイケル・S・ガザニガ|マイケル・ガザニガ]]は、[[意識]]を司るモジュールは他のモジュールが[[無意識]]下で行った判断を、後付けの理由をつけて正当化し、辻褄合わせをしていると考えた<ref name="Simler">ロビン・ハンソン、ケヴィン・シムラー『人が自分をだます理由:自己欺瞞の進化心理学』原書房、2019年、p119</ref>。人間の判断や行動は、意識とは関わりの少ないモジュールにより決定される。その傍証として、脳内の無意識の活動が、意識的な活動よりも先に生じるという[[ベンジャミン・リベット]]の実験がある。また理由づけの極端な例として、[[分離脳]]患者や脳に障害を負った人による[[作話]](でっち上げの理由による辻褄合わせ)がある。
 
意識を司るモジュールに対して、ガザニガはインタープリター(解釈者)・モジュールと名づけ、[[ダニエル・デネット]]や[[ロバート・クルツバン]]は報道官モジュールと呼んだ。これは脳のなかで重要な決定をするのが[[大統領]]だとすれば、意識の役割というのは、大統領にほとんど接することがない[[報道官]]が、大統領の決定を説明し正当化するようなものである、との例えである<ref name="Simler"/>。
この考えによれば、意識は脳の活動に伴う[[随伴現象説|随伴現象]]であり、自由意志は存在しないか、その役割はかなり限定され、意識的な行動で外部に影響を与えているという感覚は(少なくとも大部分は)錯覚にすぎない。
 
74 ⟶ 76行目:
 
== 参考文献 ==
* 木島泰三『自由意志の向こう側 決定論をめぐる哲学史』講談社、[[2020年]]
 
== 関連項目 ==