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{{otheruses|オオカミの姿をした獣人|1941年公開の映画|狼男 (1941年の映画)}}
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[[ファイル:GermanWoodcut1722.jpg|thumb|400px|right|'''狼男''' 1722年のドイツの木版画より]]
== 呼称 ==
[[ファイル:Lycaoncyno.jpg|200px|thumb|「狼人間」となった[[リュカオーン]](16世紀の画)]]
'''ウェアウルフ/ワーウルフ'''({{Lang-en|werewolf}})、'''ライカンスロープ/リカントロープ'''(同: lycanthrope)、'''ヴェアヴォルフ'''({{Lang-de|Werwolf}})、'''ルー・ガルー'''({{Lang-fr|loup-garou}})、'''ヴィルカシス'''({{Lang-lv|Vilkacis}})、'''ウルフマン'''(wolfman、現代の創作作品に限定されて用いられる)などとも呼ばれる。これらは語源的には男性を意味する語だが、男女を問わず使うことが多い。その起源は[[東ヨーロッパ]]とされる。[[北欧神話]]にも[[ウールヴヘジン]]と呼ばれる狼に由来した[[戦士]]がおり、[[ベルセルク]](バーサーカー)と同種と言われ、狼男の伝説にも影響を与えている。
== 語源 ==
ウェアウルフ(werewolf)のウェア([[were|were-]])は人間の男性を意味する[[古英語]] wer に由来し、{{Lang-la|[[wikt:vir|vir]]}}(ウィル、男)と同源の語である。ちなみに人間の女性を意味する[[古英語]]のwifeは後に[[妻]]を意味するようになった。ドイツ語Werwolfも同様(ただし、このwerの語源を[[古ノルド語]]の[[ワーグ|vargr]](犯罪者、追放者)とする説もある{{sfn|溝井|2015|pp=107-109}})。現代では were が獣人の意味で使われることがあるが、それはwerewolfからwereを取り出した[[逆成]]にもとづく。ウルフ(wolf)は狼なので、ウェアウルフは直訳すれば「男狼」である。なお、wereに対応する女性を意味する語はワイフ(wife)だが、ワイフウルフ(wifewolf)という語はなく、ウェアウルフが男女の区別なく用いられる。
ライカンスロープ
ルー・ガルーにはloup-garou、loogaroo、rugaru、rougarou など多くの綴りがあるが、{{Lang-fr|loup-garou}} が本来の綴りである。ルー(loup)は狼、ガルー(garou)は古くは garulf で、これは[[古フランク語]]の warwolf に由来し(古フランク語のwはフランス語に借用されるとgに変わったり消滅したりする)、これ自体が werewolf と同起源の言葉である。つまり、本来はガルーだけで狼男を意味する。
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== 歴史 ==
[[ファイル:Lekythos Dolon Louvre CA1802.jpg|200px|left|thumb|紀元前460年
また[[旧約聖書]]『[[ダニエル書]]』には、[[ネブカドネザル2世|ネブカドネザル]]王が自らを狼であると想像して7年間に及んで苦しむ話がある。
[[ファイル:Bronsplåt pressbleck Öland vendeltid.jpg|200px|thumb|left|{{仮リンク|ヴェンデル時代|en|Vendel Period}}のオオカミの毛皮を着た戦士の描写({{仮リンク|動物の戦士|de|Tierkrieger}})]]
宗教学的には、古代東ヨーロッパ地方のバルト・スラヴ系民族における「若者の戦士集団が狼に儀礼的に変身する」という風習(熊皮を着た狂戦士=ベルセルク)が、時代が下るにつれて民間伝承化されたものであると考えられている。バルト地方における獣人化伝承に取材した初期の小説として、[[プロスペル・メリメ]]による「狼男」ならぬ「熊男」(Lokis)がある。クマもギリシア神話における女神[[アルテミス]]及びその侍女[[カリストー]]と[[クマ]]への変身が結び付けられるなど、変身譚と結びつきの強い動物である。
また、[[エスキモー]]には「クマの毛皮には魔力があり、クマは家の中で毛皮を脱ぐと人間と同じ姿となる。反対に人間が家の外でクマの毛皮を身に付けると、たちまちのうちにクマに変身してしまう」という伝承を伝える部族がある<ref>ジャン・ドミニク・ラジュー「ヒグマの民俗」([[天野哲也]]・[[増田隆一]]・[[間野勉]] 編著『ヒグマ学入門―自然史・文化・現代社会』(北海道大学出版会、2006年)ISBN 978-4-832-97391-6)。</ref>。
[[ファイル:Werwolfwimpel.svg|サムネイル|200x200ピクセル|末期の[[ナチス]]ドイツで組織されたゲリラ隊「[[ヴェアヴォルフ|人狼団]]」の旗]]
更に民衆の間では狼男は森や畑を荒らしたりそこに立ち入る人間を襲撃する悪しき存在として捉えられる例がある一方で、[[フリウーリ]]や[[リヴォニア]]では収穫の稔りを狙う悪魔や[[魔術師]]と戦って豊穣を取り戻す狼男・狼女の伝説(前者の地域では「[[ベナンダンティ]]」(Benandanti)と呼ばれた)が伝わっている。これは古来の[[農耕儀礼]]の伝承という側面と同時に[[魔女狩り]]の担い手であるエリート層に対する民衆の文化的抵抗と見ることも可能である。
東アジアや南北アメリカにおいては獣人化現象は自身の神聖な血筋と関連付けられることが多く、ヨーロッパのような恐怖や禁忌の対象ではない。モンゴル人の狼祖伝説、トルコ人の狼祖伝説([[アセナ]])、[[苗族|苗人]]の犬祖伝説([[盤瓠|槃瓠]])<!--[[古朝鮮]]や[[耽羅]](済州)の熊祖伝説、アメリカの豹祖(ジャガー)、獅祖(ピューマ)-->
など、いずれも「狼の血筋」を持つことは彼らの民族的な誇りの源となっている。アラスカからカナダ、合衆国にかけ、[[インディアン]]民族には狼の[[氏族]](クラン)を持つ部族も多く、トンカワ族を始め、部族名そのものが「狼」を意味するものもある。
日本では、狼祖伝説そのものは極めて希少であるが、オオカミの日本語による名称そのものが「大神」を意味し、モンゴルにおけるそれと同様に神性と知性の象徴として畏敬され、[[三峯神社]]など少なくない神社において祭神とされている。
ヨーロッパでは世俗のあいだで古くから[[変身譚]]が信じられていたが、中世の初期までのキリスト教では、神が関与しなくても変身が起こることを信じる者は不信心の徒である、として、[[第1コンスタンティノポリス公会議|公会議]]などで変身という概念そのものを公式に否定している{{sfn|溝井 |2015|pp=110-113}}。しかし、[[中世]]後期に[[異端]]が問題になるにつれ、異端者と人狼が関連付けられて考えられるようになった{{sfn|溝井 |2015|pp=110-113}}。
[[神学者]]たちは、[[獣人]]化現象を[[悪魔]]の仕業であるとして強く恐れた。特にオオカミは中世の神学においては、その容姿から悪魔の化身であると解釈された。[[13世紀]]のフランスにて動物誌の著作を書いた[[ピエール・ド・ボーヴェル]](Pierre de Beauvais)は、「オオカミの前半身ががっしりとしているのに後半身がひ弱そうなのは、天国で天使であった悪魔が追放されて悪しき存在となった象徴」であり、更に「オオカミは頸を曲げることが出来ないために全身を回さないと後ろを見ることが出来ないが、これは悪魔がいかなる善行に対しても振り返ることが出来ないことを意味している」と解説している。
[[ファイル:Werwolf.png|200px|left|thumb|「狼人間」。[[ルーカス・クラナッハ]]の木版画(1512年、ドイツ)]]
中世のキリスト教圏では、その権威に逆らったとして、「狼人間」の立場に追い込まれた人々がいた。その傾向は[[魔女審判]]が盛んになった[[14世紀]]から[[17世紀]]にかけて拍車がかかった。こういった者たちも、狼人間の原型と考えられる。墓荒らしや大逆罪・魔術使用は教会によって重罪とされ、その容疑などで有罪とされた者は、社会及び共同体から排除され、追放刑を受けた。この際、受刑者は「狼」と呼ばれた<ref name="#1">『狼と西洋文明』p.109-p.115</ref>。
当時の[[カトリック教会]]から3回目の勧告に従わない者は「狼」と認定され、罰として7年から9年間、月明かりの夜に、狼のような耳をつけて毛皮をまとい、狼のように叫びつつ野原でさまよわなければならない掟があった(当時のフランスでは彼らを見て「'''狼人間が走る'''」と表現した)。人間社会から森の中に追いやられた彼らは、たびたび人里に現れ略奪などを働いた。時代が下るとこれが風習化して、夜になると狼の毛皮をまとい、家々を訪れては小銭(2スー<ref>フランス革命以降・新フラン以前の貨幣単位。5サンチームに相当(100サンチーム=1フラン)</ref>)をせびって回るような輩が現れた<ref name="#1"/>。
1520年代から1630年代にかけてフランスだけで3万件の狼男関係とされた事件が報告され、ドイツやイギリスでも同様の事件の発生が記録されている。また、魔女にはオオカミに変身できる能力があると信じられるようになった。
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その後より合理的な解釈を求めて、生理現象や精神的な問題と結び付けられることも行われるようになった。17世紀末の[[ジャン・ニノ]]は狼への変身を「狼狂(folie louvière)」として捉え、知能障害や頭脳損傷などに由来する精神的な理由で月に向かって絶叫したり、4つ足で歩くなどの精神錯乱を起こしたと考えた。
[[ファイル:Loup garou.jpg|200px|thumb|18世紀の画]]
実際の伝承では、[[映画]]などで知られた狼と人間の中間的な形態をもつ人型の狼男というものは少なく、人語を話すオオカミ、もしくは人間と同じ大きさの狼という形で語られているのが普通である。また、月や丸いものを見ると変身するという伝承も一般的なものではなく、その部分は映画や小説における創作に属する。
しかし、[[グアラニー族]]に伝わる神話に登場する'''ルイソン'''に同様の伝承があるため、言い切れるものではない。
また、民間伝承では満月とは限らず、[[新月]]とか[[クリスマス]]から[[蝋燭の祝日]]にかけての期間とか満月以外の日に変身するとされるものもある。13世紀のイングランドの神学者[[ティルベリのゲルウァシウス]]([[:en:Gervase of Tilbury|en]])の著書『皇帝の閑暇』第120章には月の満ち欠けに応じて狼に変身する人間の存在を記し、代表例として南フランスのリュック城近くに新月のたびごとに狼に変身する男性の話を述べている<ref>ティルベリのゲルウァシウス 著/池上俊一 訳『西洋中世奇譚集成 皇帝の閑暇』(講談社学術文庫、2008年) ISBN 978-4-061-59884-3。</ref>。
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現在は、動物に変身するという妄想、または自分が動物であるという妄想の起こる[[精神医学]]上の症候群を、「狼化妄想症」([[人狼症]]、[[:en:Clinical lycanthropy|Clinical lycanthropy]], または特に狼と特定しない [[獣人|Therianthropy]] という呼び方もある)という。
1589年ドイツのベットブルクにおいてシュトゥーペ・ペーターという人物が狼男とされ家族とともに処刑され、その話はヨーロッパに広まった。これについてその数年前にあった新旧キリスト両派間のケルン戦争の影響により避難民や戦後失職した傭兵が大量に現れ、その結果として放浪者への不安感や新派の旧派聖職者に対する反感が高まった可能性を指摘し、異なる宗派が隣接あるいは混在している共同体においてこの種の魔女狩りが頻発していたとの研究がある<ref>{{Cite journal|和書|author=高津秀之 |date=2012-03 |url=https://waseda.repo.nii.ac.jp/records/6476 |title=ベットブルク狼男事件の衝撃 -宗教改革期における想像力と社会 |journal=多元文化 |ISSN=2186-7674 |publisher=早稲田大学多元文化学会 |volume=1 |pages=二一二-一九三 |hdl=2065/51459 |CRID=1050282677436065664 |access-date=2024-05-22}}</ref>。1603年にフランスのボルドーでは少年が狼に変身し子どもらを襲って食ったと告発された事件では少年は生涯幽閉を宣告されたが、少年が狼憑きであるのか、そもそも人間が実際に変身するのか、変身とはそういった幻覚幻想に過ぎないのか、幻覚としてもそれはやはり何らかの魔物によって引き起こされたものなのか、妄想だとしても犯行は実際にあったことなのか、裁判官・医師等の判断はまちまちであった<ref>{{Cite journal|和書|author=菊地英里香 |date=2020-03 |url=https://tsukuba.repo.nii.ac.jp/records/54219 |title=16,17世紀の悪魔学における人狼 |journal=古典古代学 |ISSN=1883-7352 |publisher=筑波大学人文社会系古典古代学研究室 |volume=12 |pages=85-103 |hdl=2241/00159642 |CRID=1050283688009355520 |access-date=2024-05-22}}</ref>。
=== 文学、映画上の狼男 ===
[[ファイル:Loup garou 02.jpg|200px|thumb|ジョルジュ・サンドによるリトグラフ(1858年、フランス)]]
文学的には中世ヨーロッパの宮廷文学において題材にしばしば取り上げられた。フランス最古の女流作家と言われている[[マリー・ド・フランス (詩人)|マリー・ド・フランス]]の作品に{{
[[19世紀]]に[[イギリス]]の[[フレ
[[無声映画]]時代にも狼男を扱った映画は存在していたが、人間が消えると代わって本物の狼が画面に出現するなど、質の高いものとは言えなかった。[[1935年]]に、世界初の狼男を主題とした本格的な映画『[[倫敦の人狼]]』({{Lang|en|''Werewolf of London''}})が公開されて[[特殊メイク]]による半人半狼の狼男が登場し、続いてユニバーサル社の狼男映画としては二作品目となる[[1941年]]に公開された『[[狼男の殺人]]』/『狼男』({{Lang|en|''The Wolf Man ''}})は続編ではなく独立した別個の作品であったが、こちらは更に精巧な特殊メイクによる狼男の登場に加えて、『倫敦の人狼』で導入された「狼男に噛まれた者は狼男になる」に「銀で出来たもので殺せる」などの設定が加えられた。
半人半狼の狼男や満月の夜に変身という物語は以前にも存在したが、映画『[[倫敦の人狼]]』・『[[狼男の殺人]]』以前においては数多くある狼男の話では少数に属し、また[[銀の弾丸]]で殺せるという設定は映画『[[狼男の殺人]]』での脚本を書いたカート・シオドマクによるオリジナル
このため、この両作品の公開を狼男の歴史に関するひとつの画期として捉え、この作品以後に登場する狼男を『狼男の殺人』の原題より「ウルフマン」と称し、それ以前の伝説や民間伝承における「ワーウルフ」と区別する考えも存在する。
== ルー・ガルー ==
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== 参考文献 ==
*池上俊一「狼男」・「狼(西欧の)」(『歴史学事典 3<small>かたちとしるし</small>』 弘文堂、1995年 ISBN 978-4-335-21033-4)
*池上俊一「狼男」(『歴史学事典 4<small>民衆と変革</small>』 弘文堂、1996年 ISBN 978-4-335-21034-1)
*ジャン・ド・ニノー『狼憑きと魔女』(池上俊一監修・富樫瓔子訳、工作舎、1994年 ISBN 4-87502-240-9)
97 ⟶ 96行目:
*ジャン=ポール・クレベール 著/竹内信夫 他訳『動物シンボル事典』(大修館書店、1989年) ISBN 978-4-469-01228-6)
*石田一「モンスター レガシー コレクション ラインナップ」(ユニバーサル・ピクチャーズ・ジャパンによる同名DVDシリーズ各巻に封入された共通の解説書)
*[[セイバイン・ベアリング=グールド|セイバイン・ベアリング=グールド]]『人狼伝説 変身と人食いの迷信について』清水千香子・[[ウェルズ恵子]]共訳 (人文書院、2009年)
* {{Cite book ja-jp|和書 |author = 溝井裕一 |title = 欧米社会の集団妄想とカルト症候群 |year = 2015 |chapter = 人狼伝説から人狼裁判へ |publisher = 明石書店 |editor = [[浜本隆志]] |isbn = 9784750342436 |ref = {{sfnref|溝井|2015}}}}
== 関連項目 ==
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* [[魔女]]
* [[獣人]]
* [[人狼ゲーム]]
* [[狼少年 (野生児)]]
* [[ペーター・シュトゥンプ]]
*[[千疋狼]]
* {{ill2|狼男狩り|en|Werewolf witch trials}} - 魔女狩りと同時期に、魔女狩りと同義語のように行われた。
* {{ill2|狼男に関するフィクション|en|Werewolf fiction}} - フィクションにおける狼男に関する解説。
* {{ill2|ワーウーマン|en|Werewoman}} - 「女性の狼男(=狼女)」と「(狼男のように)女性に変身(性転換)する男性」というの2つの意味で用いられる用語。
* {{ill2|キュノケファロス|en|Cynocephaly}}(犬頭人) - 古代ギリシャからエジプト・中近東の伝承。犬のような頭をした人間。
* {{ill2|Werehyena|en|Werehyena}} - アフリカの伝承。ハイエナが人間に化けたもの。
{{Normdaten}}
{{DEFAULTSORT:おおかみおとこ}}
[[Category:狼男|*]]
[[Category:ユニバーサル・モンスターズ|*おおかみおとこ]]
[[Category:ヨーロッパの伝説の生物]]
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