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Tosaka (会話 | 投稿記録)
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{{出典の明記|date=2012年6月}}
'''誘電率'''(ゆうでんりつ、permittivity)は物質内で[[電荷]]とそれによって与えられる力との関係を示す係数である。電媒定数ともいう。各物質は固有の誘電率をもち、この値は外部から[[電場]]を与えたとき物質中の原子(あるいは分子)がどのように応答するか(誘電分極の仕方)によって定まる。
{{物理量
|英語= permittivity
|画像= [[ファイル:Capacitor principle sketch.png|110px]]
|記号= {{mvar|ε}}
|次元= [[質量|M]]{{sup-|1}} [[長さ|L]]{{sup-|3}} [[時間|T]]{{sup|4}} [[電流|I]]{{sup|2}}
|階= テンソル
|SI= [[ファラド]]毎[[メートル]](F m{{sup-|1}})
|esu= 無単位量
}}
'''誘電率'''(ゆうでんりつ、{{lang-en|permittivity}})は物質内で[[電荷]]とそれによって与えられる力との関係を示す係数である。電媒定数ともいう。各物質は固有の誘電率をもち、この値は外部から[[電場]]を与えたとき物質中の[[原子]](あるいは[[分子]])がどのように応答するか([[誘電分極]]の仕方)によって定まる。
 
== 定義 ==
真空中での[[電荷密度]] ρ とそれによって与えられる[[電場]] E との関係は[[マクスウェルの方程式|マクスウェル=ガウスの式]]
[[電束密度]]を {{mvar|'''D'''}}、[[電場|電場の強度]]を {{mvar|'''E'''}} として、誘電率は
: <math>\nabla \cdot \mathbf{E} = \frac{\rho} {\varepsilon_0}</math>
{{Indent|
で与えられる。ここで係数 &epsilon;<sub>0</sub> を真空の誘電率とよび、&epsilon;<sub>0</sub> = 8.854 10<sup>-12</sup>F/m ([[国際単位系]](SI)では A<sup>2</sup>·s<sup>2</sup>·N<sup>-1</sup>·m<sup>-2</sup>) である。これは真空の[[透磁率]]を &mu;<sub>0</sub>、[[光速度|光速]]を c として
: <math> \varepsilon_0varepsilon = \frac{1\partial\boldsymbol{D}}{\mu_0 c^2partial\boldsymbol{E}} </math>
}}
で計算する。
で定義される。電束密度と電場の強度の間に[[線形関係]]を仮定すれば
{{Indent|
<math>\boldsymbol{D} =\varepsilon\boldsymbol{E}</math>
}}
と表される。誘電率は一般に[[テンソル]]になるが、[[等方性]]を仮定すれば[[スカラー (物理学)|スカラー]]となる。
 
=== 真空中 ===
[[自由電子]]を持たない物質([[誘電体]])中に[[電荷]]をおいた場合、物質中の原子(あるいは分子)がプラスの電荷に偏った部分と、マイナスの電荷に偏った部分に分かれ(これを誘電分極とよぶ)、電場を遮蔽するため、真空中に比べ、実効的な電場は小さくなる。
特に真空においては等方かつ線形関係が成り立ち
{{Indent|
<math>\boldsymbol{D} =\varepsilon_0\boldsymbol{E}</math>
}}
と表される。比例係数 {{math|''&epsilon;''{{sub|0}}}} は[[電気定数]](真空の誘電率)と呼ばれる物理定数である。
 
=== 比誘電率 ===
誘電分極の影響を取り入れるため、真空の誘電率 &epsilon;<sub>0</sub> に代わりに誘電率&epsilon; を導入する。D=&epsilon;E とすると、マクスウェル=ガウスの式は
誘電率を電気定数で無次元化した
: <math>\nabla \cdot \mathbf{D} = \rho</math>
{{Indent|
と書き換えられる。D を電束密度と呼ぶ。[[等方的]]な物質中で電場があまり大きくない限り &epsilon; は定数であり、その物質固有の値をとる。
<math>\kappa =\varepsilon/\varepsilon_0</math>
}}
は[[比誘電率]]と呼ばれる。
 
== 誘電体 ==
また。[[異方的]]な物質中では、誘電率は[[テンソル]]であらわされる。
誘電率は電磁場の下での[[誘電体]]の応答を表す物性量の一つである。誘電体が電磁場の中に置かれたとき、その内部には[[誘電分極]]が生じる。一般には誘電分極は電磁場の[[ヒステリシス|履歴]]にも依存する複雑な関数であるが、誘電率を考えるときは局所的に依存するものと考える。
外部電場の中に誘電体を置くと、外部電場からの静電気力を受けて誘電体を構成する[[原子核]]や[[電子]]の平均的な位置が元の位置からわずかに移動する。これが誘電分極である。
 
外部電場を {{math|'''''E'''''{{sub|0}}}} とし、誘電体を構成する全ての原子核と電子が作る電場の強度を {{mvar|'''E'''{{sub|P}}}} とすると、全体の電場の強度は重ね合わせにより
== 主な物質の比誘電率 ==
{{Indent|
媒質の誘電率と真空の誘電率の比 &epsilon; / &epsilon;<sub>0</sub> = &epsilon;<sub>r</sub> を'''比誘電率'''(ひゆうでんりつ、relative permittivity、 dielectric constant)と呼ぶ。比誘電率は[[無次元量]]であり、用いる[[単位系]]によらず、一定の値をとる。主な物質の比誘電率を以下に記す。
<math>\boldsymbol{E} =\boldsymbol{E}_0 + \boldsymbol{E}_P</math>
<table class="wikitable">
}}
<tr><td>物質名</td><td>比誘電率</td><td>備考(温度依存性、周波数依存性)</td></tr>
となる。分極による電場 {{mvar|'''E'''{{sub|P}}}} は外部電場 {{math|'''''E'''''{{sub|0}}}} を弱める方向に生じるため、誘電体の内部の電場の強度は、誘電体がなかった場合に比べると小さくなる。
<tr><td>[[チタン酸バリウム]]</td><td>約5,000</td><td></td></tr>
一方、誘電体が[[帯電]]していなければ、電束密度は誘電体の存在によって変化しないので
<tr><td>[[酒石酸カリウムナトリウム|ロッシェル塩]]</td><td>約4,000</td><td></td></tr>
{{Indent|
<tr><td>[[水]]</td><td>80.4</td><td>20℃(温度によって大きく変化する)</td></tr>
<math>\boldsymbol{D} =\varepsilon_0 \boldsymbol{E}_0
<tr><td>[[エタノール|アルコール]]</td><td>16~31</td><td></td></tr>
=\varepsilon_0 (\boldsymbol{E} -\boldsymbol{E}_P)</math>
<tr><td>[[ダイヤモンド]]</td><td>5.68</td><td>20℃、500~3000Hz</td></tr>
}}
<tr><td>[[ガラス]]</td><td>5.4~9.9</td><td></td></tr>
となる。誘電体内部の電場の強度は小さくなるが電束密度は変わらないので、比誘電率は1より大きくなる。
<tr><td>[[アルミナ]] (Al<sub>2</sub>O<sub>3</sub>)</td><td>8.5</td><td></td></tr>
 
<tr><td>[[木材]]</td><td>2.5~7.7</td><td></td></tr>
誘電分極の程度を表す物理量
<tr><td>[[雲母]]</td><td>7.0</td><td>常温</td></tr>
{{Indent|
<tr><td>[[ガラス]][[エポキシ]]基盤 FR4</td><td>4.0~4.8</td><td></td></tr>
<math>\boldsymbol{P} =\boldsymbol{D} -\varepsilon_0\boldsymbol{E}</math>
<tr><td>[[硫黄|イオウ]]</td><td>3.6~4.2</td><td></td></tr>
}}
<tr><td>[[石英]] (SiO<sub>2</sub>)</td><td>3.8</td><td></td></tr>
を導入したとき、誘電分極 {{mvar|'''P'''}} の電場の強度 {{mvar|'''E'''}} による微分によって定められる[[電気感受率]]は
<tr><td>[[ゴム]]</td><td>2.0~3.5</td><td></td></tr>
{{Indent|
<tr><td>[[アスファルト]]</td><td>2.7</td><td></td></tr>
<math>\chi =\frac1{\varepsilon_0}\frac{\partial\boldsymbol{P}}{\partial\boldsymbol{E}}
<tr><td>[[紙]]</td><td>2.0~2.6</td><td></td></tr>
=\frac{\varepsilon -\varepsilon_0}{\varepsilon_0}</math>
<tr><td>[[パラフィン]]</td><td>2.1~2.5</td><td></td></tr>
}}
<tr><td>[[空気]]</td><td>1.00059</td><td></td></tr>
となり、誘電率によって表される。
</table>
 
== 誘電関数 ==
電場の変動が速い場合には、分極の時間的なずれが大きくなって履歴効果が無視できず、誘電率が定数にはならない。空間的な局所性を仮定すれば、履歴効果は[[畳み込み]]の形で
電場がある程度以上の速さで変化する場合、誘電率は定数にはならず、電場の振動数 &omega; の関数である'''誘電関数''' &epsilon;(&omega;) として記述される。誘電関数には電気伝導や[[バンド理論|バンド間遷移]]による損失が発生するため、一般に以下のような複素関数となる。
{{Indent|
: <math>\epsilon (\omega) =\epsilon_1(\omega) + i \epsilon_2 (\omega)</math>
<math>\boldsymbol{D}(t) =\int_{-\infty}^t \varepsilon(t-\tau)\,\boldsymbol{E}(\tau)\, d\tau</math>
このうち[[実数]]部 &epsilon;<sub>1</sub>(&omega;) は電場の振動との位相差および分極の大きさを与える。なお、&omega;=0 のときの実数部 &epsilon;<sub>1</sub> は上述した誘電率 &epsilon; にほかならない。また、[[虚数]]部 &epsilon;<sub>2</sub>(&omega;) は電気伝導やバンド間遷移による[[誘電正接|誘電損失]]を与えている。
}}
と表わされる。積分区間が {{math|''&tau;'' < ''t''}} となっているのは[[因果律]]によるもので、時間 {{mvar|t}} より過去の電場によって決まることを表している。このことは[[積分核]]が[[ヘヴィサイドの階段関数]] {{mvar|&theta;}} を用いて
{{Indent|
<math>\varepsilon(t) =k(t)\,\theta(t)</math>
}}
の形をしていることを意味する。
 
周期的に変動する電場の下では[[フーリエ変換]]により周波数領域に移ることで畳み込みは
{{Indent|
<math>\boldsymbol{D}(\omega) =\varepsilon(\omega)\, \boldsymbol{E}(\omega)</math>
}}
で表わされる。誘電率は周波数 {{mvar|&omega;}} の関数である'''誘電関数'''として記述される。
なお、誘電関数が周波数に依存しない定数関数であるときは、フーリエ変換により時間領域に戻った時に[[積分核]] {{math|''&epsilon;''(''t'')}} が[[ディラックのデルタ関数|インパルス的]]であり、{{math|1=''&tau;'' = ''t''}} の部分が取り出されて前述の誘電率と一致する。
 
誘電関数は一般に複素関数となるため'''複素誘電率'''とも呼ばれる。誘電関数の[[実部]]は誘電分極の大きさと電場との位相差を与えており、[[虚部]]は[[電気伝導]]や[[バンド理論|バンド間遷移]]による[[誘電正接|誘電損失]]を与えている。因果律から[[クラマース・クローニッヒの関係式]]が成り立ち、実部と虚部が関係付けられる。
 
ある物質の誘電関数を調べることで、その物質の電子物性光物性に関する多くの情報を得ることができる。誘電関数は[[複素屈折率]]の二乗で求められ、これは光吸収スペクトルの測定から、虚数部 &epsilon;<sub>2</sub> を得ることができる。これにクラマース・クローニッヒの関係式 (Kramers-Kronig relations) を用いることで、実数部 &epsilon;<sub>1</sub> を得ることができる。また[[電子エネルギー損失分光 (EELS) ]](EELS)の測定結果 &epsilon;<sub>2</sub>/(&epsilon;<sub>1</sub><sup>2</sup> + &epsilon;<sub>2</sub><sup>2</sup>)(損失関数を与える。
 
== 関連項目 ==
* [[誘電]]
* [[気感受率]]
* [[電気感受率]]
*[[マクスウェルの方程式]]
* [[電気伝導率]]
*[[クーロンの法則]]
* [[屈折率]]
* [[透磁率]]
* [[マクスウェルの方程式]]
* [[クーロンの法則]]
 
== 外部リンク ==
[[Category:物質の性質|ゆうてんりつ]]
[[Category{{DEFAULTSORT:物理量|ゆうてんりつ]]}}
[[Category:電気|ゆうてんりつ物性値]]
[[Category:電学|ゆうてんりつ]]
[[Category:電磁気学]]
[[Category:率・割合]]
 
[[ar:سماحية]]
[[bg:Диелектрична проницаемост]]
[[ca:Permitivitat]]
[[cs:Permitivita]]
[[de:Permittivität]]
[[en:Permittivity]]
[[es:Permitividad]]
[[fi:Permittiivisyys]]
[[fr:Permittivité]]
[[he:מקדם דיאלקטרי]]
[[id:Permittivitas]]
[[ko:유전율]]
[[lt:Dielektrinė skvarba]]
[[pl:Względna przenikalność elektryczna]]
[[nl:Permittiviteit]]
[[no:Permittivitet]]
[[pt:Permissividade]]
[[sk:Permitivita]]
[[sl:Dielektričnost]]
[[sv:Permittivitet]]