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| editor = <!-- 編集者 -->
| author = [[サミュエル・P・ハンティントン]]
| translator = [[当眞洋一]]、[[鈴木主税]]
| illustrator = <!-- イラスト -->
| published = {{USA}} 1996年<br />{{JPN}} 1998年・2017年
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| country = {{USA}}
| language = 英語
| type = [[ハードカバー|上製本]]、[[文庫本]]、[[新書]](要約)
| pages = (上製本)554<br />(文庫本・上)318<br />(文庫本・下)286<br />(新書)205
| preceded_by = [[第三の波 (ハンティントン)|第三の波]]
| followed_by = [[#CITEREFハンチントン2000|文明の衝突と21世紀の日本]]
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ハンティントンは1927年に[[ニューヨーク市]]で生まれ、18歳で[[イェール大学]]を卒業後、米陸軍で勤務し、[[シカゴ大学]]で修士号を、[[ハーバード大学]]で博士号を取得し、同大学で23歳の若さで教鞭をとった。ハーバード大学のジョン・オリン戦略研究所の所長でもあった。1977年から1978年には米国の国際安全保障会議で安全保障を担当した経歴を持つ。その研究は主に政治、軍事に関連するものが多く、政軍関係に関する『[[軍人と国家]]』、政治変動に関する『変革期社会の政治秩序』などがある。
 
本書はハンティントンの論文『文明の衝突?』(クエスチョンマーク入りで本書とは異なる){{Sfn|Huntington|1993}}{{Sfn|ハンチントン|2001}}<ref name=":1">{{PDFlink|[http://gbse.com.my/v4no10JANUARY2018/Paper-147-i-.pdf The Clash of Civilizations?]}}</ref><ref name=Official_copy>Official copy (free preview): [http://www.foreignaffairs.com/articles/48950/samuel-p-huntington/the-clash-of-civilizations The Clash of Civilizations?] , Foreign Affairs , Summer 1993</ref>から派生したものである。この論文は[[アメリカン・エンタープライズ公共政策研究所]]でのハンティントンの講義<ref>[http://www.aei.org/issue/29196 "U.S. Trade Policy – Economics"] {{webarchive|url=https://web.archive.org/web/20130629170348/http://www.aei.org/issue/29196 |date=2013年6月29日 }}. AEI. 2007-02-15.</ref>をもとに雑誌『[[フォーリン・アフェアーズ]]』の1993年夏号にて発表され、激しい論争をもたらした。もともとはジョン・オリン戦略研究所の「変容する安全保障環境と米国の国益」プログラムにおける活動の成果でもある。1992年にかつての教え子[[フランシス・フクヤマ]]によって発表された『[[歴史の終わり]]』に呼応する形で発表され<ref>Official copy (free preview): [http://www.foreignaffairs.com/articles/48950/samuel-p-huntington/the-clash-of-civilizations The Clash of Civilizations?] , Foreign Affairs , Summer 1993</ref>、また2001年の[[アメリカ同時多発テロ事件]]やそれに引き続く[[アフガニスタン紛争 (2001年-)|アフガニスタン紛争]]や[[イラク戦争]]を予見した研究として注目を浴びた。イスラム圏にも波紋を呼び、[[イラン]]の[[モハンマド・ハータミー]]の[[文明の対話]]やトルコの[[レジェップ・タイイップ・エルドアン]]が[[スペイン]]の[[ホセ・ルイス・ロドリゲス・サパテロ]]とともに提案した[[文明の同盟]]構想に影響を与えた。
 
ただし[[エマニュエル・トッド]]は宗教や表面上の文化のみで文明を分けるべきでないと、ハンティントンの諸文明の考察に反論している<ref name="EU_Japan">{{ cite journal|和書| title=EU の将来と日本の役割 &mdash;国際紛争に直面して| last=トッド| first=エマニュエル| year=2003| journal=環| volume=12| pages=78-102| publisher=藤原書店| isbn=4-89434-317-7| ref=harv}}</ref><ref>詳細は[[エマニュエル・トッド#旧世界と新世界の文明の衝突]]を参照。</ref>。
 
== 内容 ==
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ただし世界政治における行為者として文明を位置づけているわけではない。文明は文化的なまとまりであって、政治的なまとまりではない。あくまで文明はさまざまな行為主体の政治行動を方向付けるものである。近代世界以後の日本を除く全ての主要文明が2か国以上の国家主体を含んでいる。文明の総数については歴史研究において学説が分裂している。16個、21個、8個、9個などと文明の数え方にはいくつかの基準がある。しかしハンティントンの分析は、歴史的には最低限でも主要文明は12個存在し、そのうち7つは現存せず、新たに2個または3個の文明が加わったと考えれば、現在の主要文明は7個または8個であるとした。
[[ファイル:Clash of Civilizations mapn2.png|center|400px750px|thumb|主要文明が有する文明圏の分布を示す世界地図<ref>{{cite web |url=http://s02.middlebury.edu/FS056A/Herb_war/clash3.htm |title=The World of Civilization |accessdate=2008-12-15 |archiveurl=https://web.archive.org/web/20070312101415/http://s02.middlebury.edu/FS056A/Herb_war/clash3.htm |archivedate=2007-03-12 }}</ref>]]
; [[西洋文化|西欧文明]] <span style="color: Blue">■</span> Western
; [[中華文明]] : [[紀元前15世紀]]頃に発生し、[[儒教]]に基づいた文明圏であり儒教文明とも呼ぶ。その中核を[[中国]]として、[[台湾]]、[[朝鮮]]、[[韓国]]、[[ベトナム]]、[[シンガポール]]から成る。経済成長と軍備の拡大、および国外在住の華人社会の影響力を含め、その勢力を拡大しつつある。
; [[西洋文化|西欧文明]] : [[8世紀]]に発生し、[[西方教会]]に依拠した文明圏である。[[19世紀]]から[[20世紀]]は世界の中心だったが、今後、中華、イスラム圏に対して守勢に立たされるため団結する必要がある。
; [[ヒンドゥー文明]] : [[紀元前20世紀]]以降にインド亜大陸において発生した[[ヒンドゥー教]]を基盤とする文明圏である。
; [[東方正教会文明]] <span style="color: Aqua">■</span> Orthodox
; [[イスラム文明]] : [[7世紀]]から現れた[[イスラム教]]を基礎とする文明圏であり、その戦略的位置や人口増加の傾向、石油資源で影響力を拡大している。([[トルコ]]は文化や歴史的に西に近い。)
; [[日本文明]] : [[216世紀]]からにビザンツ文明([[5世紀東ローマ帝国]]におい)を母体とし発生し、[[中華文明正教会|正教]]から独立して成した文明圏であり、日本一国のみで成立す孤立文明
; [[イスラム文明]] <span style="color: Green">■</span> Islamic
; [[東方正教会文明]] : [[16世紀]]に[[ビザンティン文明]]を母体として発生し、[[正教会|正教]]に立脚した文明圏である。
; [[イスラム文明]] : [[7世紀]]から現れた[[イスラム教]]を基礎とする文明圏であり、その戦略的位置や人口増加の傾向、石油資源で影響力を拡大している。([[トルコ]]は文化や歴史的に西に近い。)
; [[西洋文化|西欧文明]] : [[8世紀]]に発生し、[[西方教会]]に依拠した文明圏である。[[19世紀]]から[[20世紀]]は世界の中心だったが、今後、中華、イスラム圏に対して守勢に立たされるため団結する必要がある。
; [[仏教]]文化 <span style="color: Yellow">■</span> Buddhist
; [[ラテンアメリカ文明]] : 西欧文明と土着の文化が融合した文明、主に[[カトリック教会|カトリック]]に根ざしている文明圏である。
; その他 : [[エチオピア]]や[[ハイチ]]と[[イスラエル]]はどの主要文明にも属さない孤立国である。[[モンゴル]]、[[チベット]]、[[タイ王国|タイ]]、[[ミャンマー]]などは[[仏教]]文化として括られているが積極的な行為主体とは考えていない。
; [[アフリカ文明]] : アフリカ世界における多様な文化状況に配慮すれば、文明の存在は疑わしいものであるため、主要文明に分類できないかもしれない。
; [[ヒンドゥー文明]] <span style="color: Orange">■</span> Hindu
; その他 : [[エチオピア]]や[[ハイチ]]と[[イスラエル]]はどの主要文明にも属さない孤立国である。[[モンゴル]]、[[チベット]]、[[タイ王国|タイ]]、[[ミャンマー]]などは[[仏教]]文化として括られているが積極的な行為主体とは考えていない。
; [[ヒンドゥー文明]] : [[紀元前20世紀]]以降にインド亜大陸において発生した[[ヒンドゥー教]]を基盤とする文明圏である。
; [[アフリカ文明]] <span style="color: Gray">■</span> African
; [[アフリカ文明]] : アフリカ世界における多様な文化状況に配慮すれば、文明の存在は疑わしいものであるため、主要文明に分類できないかもしれない。
; [[ラテンアメリカ文明]] <span style="color: Indigo">■</span> Latin American
; [[ラテンアメリカ文明]] : 西欧文明と土着の文化が融合した文明、主に[[カトリック教会|カトリック]]に根ざしている文明圏である。
; [[中華文明]] <span style="color: Brown">■</span> Sinic
; [[中華文明]] : [[紀元前15世紀]]頃に発生し、[[儒教]]に基づいた文明圏であり儒教文明とも呼ぶ。その中核を[[中国]]として、[[台湾]]、[[朝鮮]]、[[韓国]]、[[ベトナム]]、[[シンガポール]]から成る。経済成長と軍備の拡大、および国外在住の華人社会の影響力を含め、その勢力を拡大しつつある。
; [[日本文明]] <span style="color: Pink">■</span> Japanese
: [[2世紀]]から[[5世紀]]において[[中華文明]]から独立して成立した文明圏であり、日本一国のみで成立する孤立文明。
; その他 <span style="color: White">■</span>
: [[エチオピア]]や[[ハイチ]]と[[イスラエル]]はどの主要文明にも属さない孤立国である。
 
=== 変容する文明 ===
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=== 新しい世界秩序 ===
冷戦期において脅威とされていた共産主義勢力の次に出現した新たな世界秩序において、最も深刻な脅威は主要文明の相互作用によって引き起こされる文明の衝突であることが分かる。世界の主要文明の中核国によって世界戦争が勃発する危険性は否定できない。なぜならフォルト・ライン戦争は最初の戦争当事者が一構成国であっても、その利害は必然的に文明全体に関わることになるためである。大規模な文明の衝突という最悪の事態を回避するためには中核国は他の文明によるフォルト・ライン戦争に軍事介入することには注意を払わなければならない。ハンティントンはこの不干渉のルールと、文明の中核国が交渉を行い、自己が属する文明のフォルト・ライン戦争が拡大することを予防する共同調停のルールを平和の条件としている。そしてより長期的な観点から現在の不平等な文明の政治的地位は平等なものへと平和的に是正し、西欧文明と非西欧文明の衝突を予防する努力が必要であるだろう。ただしこれらの原則や政策は現状から考えて実施することは大きな困難である。しかし世界平和を求めるためにはそれまでとは異なる文明に依拠した政治秩序が必要であると結論する。
 
== 批判 ==
ただし*[[エマニュエル・トッド]]は宗教や表面上の文化のみで文明を分けるべきでないと、ハンティントンの諸文明の考察に反論している<ref name="EU_Japan">{{ cite journal|和書| title=EU の将来と日本の役割 &mdash;国際紛争に直面して| last=トッド| first=エマニュエル| year=2003| journal=環| volume=12| pages=78-102| publisher=藤原書店| isbn=4-89434-317-7| ref=harv}}</ref><ref>詳細は[[エマニュエル・トッド#旧世界と新世界の文明の衝突]]を参照。</ref>。
*[[田中宇]]は、イラク戦争等を予想したというよりも、これ自体が覇権運営の企画書ではないかとしている<ref>{{Cite web|和書|author=田中宇|authorlink=田中宇|date=2001-09-18|url=https://tanakanews.com/b0918afghan.htm|title=「戦争」はアメリカをもっと不幸にする|publisher=田中宇の国際ニュース解説|accessdate=2022-10-08}}</ref>。
*[[東海大学]]文化社会学部教授の春田晴郎は、本書の超短評において「『文明の衝突』という本は、私の頭の中では、『[[神々の指紋]]』とほとんど同列に位置付けられています。何よりも「衝突」という言葉をタイトルに使っているのが評価できるでしょう。まるで、[[トンデモ本]]として名高い[[イマヌエル・ヴェリコフスキー|ヴェリコフスキー]]『[[衝突する宇宙]]』と同じ類の本である、そう自ら主張しているようです」<ref>{{Cite web|和書|author=春田晴郎|date=1998-08-17|url=http://www.hum.u-tokai.ac.jp/~haruta/clash.html|title=[超短評]ハンチントン『文明の衝突』|publisher=東京大学|archiveurl=https://web.archive.org/web/20120303080513/http://www.hum.u-tokai.ac.jp/~haruta/clash.html|archivedate=2012-03-03|accessdate=2022-10-08}}</ref>と感想を述べている。
 
== 書誌情報 ==
=== 論説 ===
*{{Citation
|last=Huntington
|first=Samuel P.
|author-link=サミュエル・P・ハンティントン
|date=Summer 1993
|title=The Clash of Civilizations?
|journal=[[フォーリン・アフェアーズ|Foreign Affairs]]
|volume=72
|issue=3
|pages=22–49
|publisher=[[外交問題評議会|CFR]]
|url=https://www.jstor.org/stable/20045621
|doi=10.2307/20045621|jstor=20045621|issn=0015-7120
|ref={{harvid|Huntington|1993}}
}} - 本書の元になった論説。
**{{Cite book|和書
|author=サミュエル・P・ハンチントン
|others=フォーリン・アフェアーズ・ジャパン 編・監訳
|date=2001-02
|title=フォーリン・アフェアーズ傑作選1922-1999 アメリカとアジアの出会い
|chapter=文明の衝突
|volume=下
|publisher=東京 朝日新聞社
|isbn=978-4-02-257564-7
|ref={{Harvid|ハンチントン|2001}}
}}
 
=== 原書 ===
*{{Citation|last=Huntington|first=Samuel P.|year=1996|month=November|title=The Clash of Civilizations and the Remaking of World Order|edition=ハードカバー|publisher=Simon & Schuster|isbn=0-684-81164-2}}
*{{Citation|last=Huntington|first=Samuel P.|date=August 2, 2011|title=The Clash of Civilizations and the Remaking of World Order|edition=ペーパーバック|publisher=Simon & Schuster|isbn=978-1-4516-2897-5}}
*{{Citation|last=Huntington|first=Samuel P.|year=2002|month=June|title=The Clash of Civilizations: And the Remaking of World Order|edition=ペーパーバック|publisher=Free Press|isbn=978-0-74323-149-7}}
=== 邦訳 ===
*{{Cite book|和書|author=[[サミュエル・P・ハンティントン]]|authorlink=サミュエル・P・ハンティントン|others=[[当眞洋一]] 編注|year=1998|month=1|title=文明の衝突|publisher=金星堂|isbn=4-7647-3665-9|ref={{Harvid|ハンチントン|1998a}}}}
*{{Cite book|和書|author=サミュエル・P・ハンティントン|others=[[鈴木主税]] 編注|year=1998|month=6|title=文明の衝突|publisher=集英社|isbn=4-08-773292-4|ref={{Harvid|ハンチントン|1998b}}}}
**{{Cite book|和書
112 ⟶ 156行目:
|author=サミュエル・ハンチントン
|translator=鈴木主税
|others=[[猪口孝]] 解説
|date=2017-08
|title=文明の衝突
121 ⟶ 165行目:
|ref={{Harvid|ハンチントン|2017b}}
}}
=== 解説書 ===
*{{Cite book|和書|author=サミュエル・P・ハンティントン|others=鈴木主税 編注|year=2000|month=1|title=文明の衝突と21世紀の日本|series=集英社新書 0015|publisher=集英社|isbn=4-08-720015-9|ref={{Harvid|ハンチントン|2000}}}} - 前半は1999年に発表された2論文「二十一世紀における日本の選択」と「孤独な超大国」。後半は本書の要約と図解からなる。
 
== 脚注 ==
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*[[価値多元主義]]
*[[世界最終戦論]]
*[[米中冷戦]]
*[[第一次ウィーン包囲]] - [[第二次ウィーン包囲]] - [[十字軍]]
*[[フランシス・フクヤマ]]
154 ⟶ 200行目:
{{DEFAULTSORT:ふんめいのしようとつ}}
[[Category:アメリカ合衆国の政治書]]
[[Category:サミュエル・P・ハンティントン]]
[[Category:政治学の理論]]
[[Category:地政学]]