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{{drugbox
| IUPAC_name = ''N''-(3-chloro-4-fluoro-phenyl)-7-methoxy-<br/>6-(3-morpholin-4-ylpropoxy)quinazolin-4-amine
| image = Gefitinib Structural Formula V1.
| CAS_number = 184475-35-2
| ATC_prefix = L01
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}}
'''ゲフィチニブ'''(Gefitinib)は、[[上皮成長因子受容体]] (EGFR) の[[プロテインキナーゼ|チロシンキナーゼ]]を選択的に阻害する内服[[抗がん剤]]。[[悪性腫瘍|癌]]の増殖などに関係する特定の[[分子]]を狙い撃ちする[[分子標的治療薬]]の一種である。
商品名は'''イレッサ''' (Iressa) で、[[アストラゼネカ]]が製造・販売<ref name=":0">{{Cite web|和書|url=http://www.info.pmda.go.jp/go/pack/4291013F1027_1_30/|title=イレッサ錠250 添付文書|accessdate=2016-07-01|date=2015-01|publisher=}}</ref>。褐色の錠剤で一錠250mgのゲフィチニブを含有する。ゲフィチニブ製剤は手術不能または再発した[[肺癌|非小細胞肺癌]]に対する治療薬として用いられる。
イレッサは
== 作用機序 ==
[[画像:Mutated EGFR kinase domain in complex with gefitinib.png|thumb|270px|変異型[[EGFR]]のチロシンキナーゼドメインとゲフェチニブの複合体構造。G719Sの変異は赤色で、T790Mの変異は黄色で示した。棒状の分子はゲフェチニブである。]]
ゲフィチニブは、細胞の[[上皮成長因子受容体]] (EGFR) の[[シグナル伝達]]を遮断することで、[[腫瘍]]の増殖抑制、[[アポトーシス]](細胞死)を誘導する。EGFRの[[プロテインキナーゼ#チロシンキナーゼ|チロシンキナーゼ]]の[[アデノシン三リン酸|ATP]]結合部位にATPと競合的に結合することで、EGFRの[[
{{Main2|変異についての詳細|上皮成長因子受容体#悪性腫瘍におけるEGFR}}
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=== 非小細胞肺癌 ===
'''要約'''
* 非小細胞肺癌に対して、ゲフィチニブは約10
* 1
* 対象を絞り、非喫煙者、腺癌、アジア人の未治療進行非小細胞肺癌を対象とした臨床試験では、ゲフィチニブは化学療法よりも無増悪生存期間を延長した。
* EGFR遺伝子変異をもつ非小細胞肺癌に対しては特にゲフィチニブは奏功し、70
==== 腫瘍縮小効果 ====
==== 化学療法との併用 ====
また
==== 延命効果 ====
===== 非小細胞癌全体を対象とした比較 =====
日本を含まない28か国、
全肺癌症例の生存期間[[中央値]]は、ゲフィチニブ群およびプラセボ群でそれぞれ5.6か月、5.1か月、''P'' =0.11であり、肺腺癌症例ではそれぞれ6.3か月、5.4か月、''P'' =0.07であった。規定のログランク検定 ([[:en:Logrank test|Logrank test]]) では[[有意|有意差]]がないものの、Cox回帰分析ではそれぞれ''P'' =0.030、''P'' =0.033と有意差に達している。また東洋人の生存期間中央値は、ゲフィチニブ群およびプラセボ群でそれぞれ9.5か月、5.5か月、非喫煙者ではそれぞれ8.9か月、6.1か月であり、Cox[[回帰分析]]でそれぞれ''P'' =0.010、''P'' =0.012であった。
その後さらに、既治療進行非小細胞肺癌に対する現在の標準療法であるドセタキセル療法と、ゲフィチニブ単剤療法の効果を比較した第III相無作為化比較臨床試験が2つ行われた。これら2つの試験は、すでに1 ~ 2種類の化学療法が行われた進行非小細胞肺癌患者にゲフィチニブ療法を行った場合の全生存期間が、ドセタキセル療法を行った場合の全生存期間よりも劣っていないこと(非劣勢)を証明することを目的として行われた。
2003年から2006年の間に489例の患者を対象として日本で行われたV15-32試験<ref>{{cite journal|journal=J. Clin. Oncol. |year=2008|volume=26|issue=26|pages=4244-4252|title=Phase III study, V-15-32, of gefitinib versus docetaxel in previously treated Japanese patients with non-small-cell lung cancer|author=Maruyama R, Nishiwaki Y, Tamura T, Yamamoto N, Tsuboi M, Nakagawa K, Shinkai T, Negoro S, Imamura F, Eguchi K, Takeda K, Inoue A, Tomii K, Harada M, Masuda N, Jiang H, Itoh Y, Ichinose Y, Saijo N, Fukuoka M|pmid=18779611|doi= 10.1200/JCO.2007.15.0185}}</ref>は、ゲフィチニブのドセタキセルに対する非劣
この2つの試験の違いとして、後治療の差が指摘されている。つまり、V15-32試験では、ドセタキセル群の53%もの患者がドセタキセル療法終了後にゲフィチニブ療法を受けていたために、ゲフィチニブの効果がドセタキセル群の患者にもあらわれた可能性である。ゲフィチニブ療法終了後にドセタキセル療法を受けた患者はゲフィチニブ群の36%であった。一方INTEREST試験では、ゲフィチニブ群の31%がゲフィチニブ療法終了後にドセタキセル療法を受け、ドセタキセル群の37%がゲフィチニブを含むEGFRチロシンキナーゼ阻害剤の投与を受けていた。
===== 対象を選別しての比較 =====
さらに、ゲフィチニブの効果が期待できる患者を選別して対象とした無作為化比較第III相臨床試験(IPASS試験)が行われた。この試験は、非喫煙か軽度の喫煙の経験者(15年以上禁煙)で腺癌のアジア人未治療進行非小細胞肺癌患者を、ゲフィチニブ治療群とカルボプラチンとパクリタキセルの併用化学療法群に無作
==== EGFR遺伝子変異を有する非小細胞肺癌に対する効果 ====
EGFR遺伝子変異を有する非小細胞肺癌に対して、ゲフィチニブはその70
さらに、北東日本ゲフィチニブ研究グループで行われた、EGFR遺伝子変異を有する未治療進行非小細胞肺癌患者のみを対象とした無作為化比較第III相臨床試験の結果、ゲフィチニブ治療はカルボプラチン/パクリタキセル併用化学療法よりも有意に無増悪生存期間を延長することが示された。
=== 脳神経膠芽腫 ===
悪性再発脳[[神経膠芽腫]](グリオブラストーマ)49例に対して、ゲフィチニブ(250 -
=== 頭頸部扁平上皮癌 ===
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=== 急性肺障害・間質性肺炎 ===
投与後4週間以内に発症しやすい。日本において、ゲフィチニブ投与後8週間以内の急性肺障害・[[間質性肺炎]](以下肺障害)の発症率は約5.8%(193例/3322例)、肺障害による死亡率は2.3%(75例/3322例)であった。また PS (performance status) 2以上、喫煙歴のある人、すでに間質性肺炎を合併している人、化学療法を受けたことのある人、では肺障害が起こりやすいことが示唆された<ref>{{cite journal|和書|author=吉田茂|title=ゲフィチニブ プロスペクティブ調査(特別調査)結果報告|journal=医薬ジャーナル|volume=41|pages=772-789|year=2005|url=http://www.iyaku-j.com/iyakuj/system/M2-1/summary_viewer.php?trgid=11266}}</ref><ref>{{
ただし、欧米では肺障害はほとんど問題になっておらず、前述のISEL試験では、ゲフィチニブ投与群で3%、プラセボ投与群で4%の発症率であり、ゲフィチニブにより肺障害のリスクは増えていない。ゲフィチニブによる肺障害には民族差がある可能性がある<ref>{{cite journal|和書|url=http://jdream2.jst.go.jp/jdream/action/JD71001Disp?APP=jdream&action=reflink&origin=JGLOBAL&versiono=1.0&lang-japanese&db=JMEDPlus&doc=07A0345286&fulllink=no&md5=c3bc20c96fda67d19819afdecacdfb4f |author=宮崎昌樹、岡本勇 |title=肺癌:個別化医療への最先端研究:人種差、性差を考えたゲフィチニブ治療|journal=分子呼吸器病|year=2007|volume=|issue=2|pages=154-158|issn=1342-436X}}</ref>。
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=== 事実関係 ===
通常は他の薬の審査待ちで、1年ほどの審査期間が掛かるが、イレッサの場合は優先して審査したので、5か月ほどのスピード承認となった。当初は副作用が少ないと言われていたが、治験では3例で間質性肺炎を発症していずれも治療で回復したが、治験外使用では7例で[[間質性肺炎]]を発症したうちの3例が死亡している<ref>[http://www.chugoku-np.co.jp/News/Sp201101290077.html 「薬事行政の根幹」と反発 イレッサ訴訟、強硬姿勢の国 - 中国新聞] {{リンク切れ|date=2011年10月}}</ref>。承認前に判明していた間質性肺炎は、国内臨床試験で133人中3人、治験外使用では国内で296人中2人、海外を含めると1万人以上で10例前後だったとされる<ref>{{cite news|url=http://www.nikkei.com/life/health/article/g=96958A96889DE0E1E7E7E0E6EBE2E3E5E2E0E0E2E3E39C9C8182E2E3;df=3|title= 「イレッサ」副作用訴訟、2月25日に初判決|newspaper=日本経済新聞|date=2011-02-18|accessdate=2011-10-06}}</ref>。当初の添付文書の「重大な副作用」の4番目に「間質性肺炎(頻度不明):間質性肺炎があらわれることがあるので,観察を十分に行い,異常がみとめられた場合には,投与を中止し,適切な処置を行うこと」と記載されていた<ref name="genkokujunbisyomen">{{
<!--同年7月16日の発売直後から、--><!--(薬害に関する説明ではなく、より一般的な説明に入れるべき)肺胞の周囲が炎症を起こして酸素が取り込めなくなる、--><!--(「多発」「瞬く間」等は具体性に欠け出典を明示して数量を明らかにすべき)間質性肺炎など重篤な副作用が多発し、死者数は瞬く間に増える。-->
販売後の情報収集体制強化を行う市販直後調査より、厚生労働省は同年10月15日、イレッサとの関連性が否定できない副作用26例、うち死亡13例を盛り込んだ[[緊急安全性情報]](イエローレター)を発表。<!---(「多発」「次々と」「言われている」は具体性に欠け出典を明示して数量を明らかにすべき)その後も死者は次々と増え、その年の終わりまでには-180人を数えるに至った。2003年の202人をピークに減少したが、2009年9月末日までの死者の累計は、799人に上ると言われている。-->2002年10月(報告月)の1か月で51人、同年11月(報告月)で81人、同12月(報告月)で37人が、それぞれゲフィチニブ服用後の急性肺障害・間質性肺炎等での死亡が報告されたが、その後の死亡報告数は減少している。2006年3月までの累計で643人がゲフィチニブ服用後の急性肺障害・間質性肺炎等での死亡が報告された<ref>{{ 2004年、患者の遺族達が国と製薬会社を相手取って[[大阪地方裁判所]]と[[東京地方裁判所]]に提訴した。地裁結審時の原告は計15人<ref>[http://sankei.jp.msn.com/affairs/news/110125/trl11012519400081-n1.htm イレッサ訴訟、国も和解拒否へ]MSN産経ニュース {{リンク切れ|date=2011年10月}}</ref>(大阪地裁側が患者4人<ref name="osakachisai">[http://www.jiji.com/jc/c?g=soc_30&k=2011022500618 イレッサ副作用、国の責任否定=製薬会社に6000万円賠償命令-大阪地裁]時事ドットコム{{リンク切れ|date=2011年10月}}</ref>の遺族11人<ref>
=== 判決 ===
2011年2月25日、大阪地裁は添付文書に警告欄を設けた2002年10月15日までに服用した患者3人について販売元企業である[[アストラゼネカ]]に賠償を命じ、同日以降に服用を始めた患者1人については賠償責任を否定した。その一方で、「死亡を含む重い副作用の危険が具体化すると高い可能性では認識できず、当時の医学、薬学的知見の下では著しく合理性を欠くとは言えない」として国の責任は否定した<ref name="osakachisai"/>。
2011年3月23日、東京地裁は第1版添付文書の記載に不備があるとして、この点についてのみであるが国と製薬会社双方の責任を認めた
2012年5月25日の[[大阪高等裁判所]]判決(大阪訴訟の控訴審)<ref>{{cite news |title=イレッサ訴訟、企業の責任認めず 患者側逆転敗訴、大阪高裁 ||newspaper=共同通信 |date=2012-05-25 |url=http://www.47news.jp/CN/201205/CN2012052501001720.html |accessdate=2012-05-26}}</ref>、2011年11月15日の[[東京高等裁判所]]判決(東京訴訟の控訴審)<ref>[https://web.archive.org/web/20111115210322/http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20111115-OYT1T00621.htm 原告側が逆転敗訴…イレッサ訴訟控訴審]読売新聞</ref><ref>[http://www.nikkei.com/news/headline/article/g=96958A9C93819695E3E7E2E0E28DE3E7E3E3E0E2E3E3E2E2E2E2E2E2 患者側が逆転敗訴 イレッサ訴訟で東京高裁]日本経済新聞</ref>はいずれも製薬会社・国両方の賠償責任を認めず、一審判決を取り消して原告敗訴の判決を言い渡した。2013年4月12日、[[最高裁判所]]は各々の二審判決を支持、上告を棄却した<ref name="saikousai">[https://web.archive.org/web/20130413021553/http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20130412154718.pdf 平成24年(受)第293号 損害賠償請求事件 平成25年4月12日 第三小法廷判決]</ref>。
== 作用機序をめぐる変遷 ==
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一方、ゲフィチニブは、標準的化学療法との併用療法の意義を検証した第III相比較試験 (INTACT1&2) の事後解析では、標準化学療法のみの群でも、EGFR遺伝子変異例がEGFR遺伝子を持たない例よりも予後良好であることから、EGFR遺伝子変異自体が予後良好因子である可能性も指摘されており、ゲフィチニブがEGFR遺伝子変異を持つ非小細胞肺癌を縮小させることができても、それが予後を延長させることに結びついているのかどうかはまた未決着の問題であり、今後の研究が待たれる。
EGFR遺伝子変異を有する症例を対象として、従来から標準治療とされてきたプラチナ製剤併用化学療法とゲフィチニブの比較試験が行われた。その結果、ゲフィチニブが無増悪生存期間で有意に優れていたことが報告され、現在では標準治療の1つとなっている。
==出典==
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== 関連項目 ==
* [[化学療法 (悪性腫瘍)]]
*[[エルロチニブ]]
*[[アファチニブ]]
* [[ダコミチニブ]]
*[[オシメルチニブ]]
== 外部リンク ==
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[[Category:抗がん剤]]
[[Category:分子標的治療薬]]
[[Category:芳香族化合物]]▼
[[Category:アニリン]]
[[Category:
[[Category:フェノールエーテル]]
[[Category:クロロベンゼン]]
[[Category:有機フッ素化合物]]
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