「冒頓単于」の版間の差分

'''冒頓 単于'''（ぼくとつ ぜんう、{{zh2|p =Mòdú Chányú|zhu = ㄇㄛˋ ㄉㄨˊ ㄔㄢˊ ㄩˊ}}、生年不詳 - [[紀元前174年]]）は、[[秦]]末～[[前漢]]前期にかけての[[匈奴]]の[[単于]]（在位：[[紀元前209年]] - [[紀元前174年]]）。「冒頓」とは名前であり、「単于」るとは匈奴する説の[[言葉]]で[[君主]]を指しほかに、[[漢語]]で言うところの[[王]]・[[皇帝]]に相当する。また「冒頓」とは[[テュルク語]]や[[モンゴル語]]の「勇者」を意味する「[[バガトル]]」の漢字音写、との説がある。

匈奴は中華諸国などに進出しては土地を略奪する北方[[騎馬民族]]であり、中華諸国にとっては対応がわからず、長年の悩みの種であった。各国は馬が越えられない壁（[[長城]]）を築き、中華を統一した秦の[[始皇帝]]はそれをつなげて長大な[[万里の長城]]を築いた。これにより匈奴は略奪中華諸国への侵入が難しくなり、更に始皇帝は[[蒙恬]]に命じて匈奴討伐の軍を出したため、その勢力は大幅に後退。同じく遊牧北方騎馬民族だが違う部族である西の[[月氏]]、東の[[東胡]]に圧迫されるようになっていた。

冒頓は[[頭曼単于]]の子として生まれた。当初は、父の後継者に立てられていた。しかし父の後妻が男子を産み、頭曼の関心がこの異母弟に向けられると、冒頓は邪魔者扱いされ、緊張関係にある隣接勢力の[[月氏]]の元に和平のための[[人質]]として送られる。間もなく、頭曼は月氏が無礼であるとの理由で、[[戦争]]を仕掛ける。嫡子を差し出したことの油断を突くことと、冒頓が月氏の手で殺害されるのを見越してである。しかし、この危機を悟った冒頓は、間一髪のところで月氏の駿馬を盗み脱出に成功し、父のもとに逃亡する。

冒頓は頭曼単于の元に戻る。頭曼は見込みがあると考え受け入れ、[[私兵]]を与えたが、冒頓はいずれ殺されると思い、いわゆる[[クーデター|謀反]]を起こそうと考えた。そして冒頓は[[紀元前209年]]に反乱を起こし、父、継母、異母弟及びその側近を抹殺した上で、[[単于]]に即位した。

クーデター謀反に当たり、事前に冒頓は私兵を秘密裏に養成していた。私兵を率いて「自分我(われ)が[[鏑矢]]を放ったらすぐさま同じ方向に矢を放て」と命令する。そして、まず野の獣を射た。矢を放たないものは斬り殺した。次いで自らの愛馬に向かって射た。同じく放たないものは斬り殺した。更に自分の愛妾を射てち、同じく放たないものは斬り殺した。そして父の愛馬を射るときには全ての部下が矢を放った。こうして忠実な部下を得たのである。

そして父が通り狩猟に出かかっけた際にそこに向け、冒頓は頃合いを見て頭曼を鏑矢を放ちで射抜き、配下の私兵も大量の矢を浴びせて頭曼を射殺した。そして継母、これがクーデター異母弟及びその端緒となっ側近を抹殺した上で冒頓は[[紀元前209年]]、[[単于]]に即位した{{Sfn|沢田|2015|page=33}}。

即位直後、[[東胡]]から使者がやってきて「頭曼様がお持ちだった千里を駆ける馬を頂きたい」と言った。冒頓が、謀反を起こし即位直後の若輩のため、甘く見てのことだった。冒頓単于は部下を集めて意見を聞いた。部下達は「我が駿馬は遊牧民の宝です。与えるべきではありません」と言ったが、冒頓単于は「馬は何頭もいる。隣り合う国なのに、一頭の馬を惜しむべきではない」といい、東胡へ一頭の駿馬を贈った。

これに更に冒頓を甘く見た東胡は、再二度目の使者を送り「両国の関係ため、冒頓様の后の中から一人を頂きたい」と言った。部下達は「東胡はふざけすぎています。攻め込みましょう」と言ったのだが、冒頓単于は「后は何人もいる。隣り合う国なのに、一人の后を惜しむべきではない」と言い、東胡へ一人の后を贈った。

また東胡から使者がやってきて、「両国と匈奴の間で国境としているには千余里ほど、人の荒野を住んでいない土地があり、欧脱地と呼んでいた。東胡王は匈奴に使者を送って「匈奴が入らないように、欧脱地を占有することにしたい」と言っ要求してきた{{Sfn|沢田|2015|page=38}}。先の件では一致して反対した部下達も、遊牧民故に土地への執着が薄いこともあり二分された。その一方が「千余里の荒地など我々匈奴にとって何の価値も有りません。与えても良いでしょう」と言った途端、冒頓単于は怒り「我々の全ての土地は国の根幹である！今、東胡に与えても良いと言った者は斬り捨てろ！」と言い、すぐさま馬に跨り「全国匈奴民に告ぐ！我に遅れたものは斬る！」と東胡へ攻め入った。一方の東胡は先の件もあって完全に油断しており、その侵攻を全く防げなかった。物匈奴軍は物を奪い、人は奴隷とし、東胡王を殺した末に、東胡を滅亡させた。

冒頓は続けて他の部族に対しても積極的な攻勢を行い、[[月氏]]を西方に逃亡させるなど勢力範囲を大きく広げ、広大な匈奴国家を打ち立てた。丁度中原は秦帝国崩壊から漢楚戦争の頃であり、北方(北荻)を注視していなかったこともモンゴル高原の統一を容易にした。しかしそれは、中原を統一した漢との決戦がいずれ行われることを示していた。

その後、冒頓単于は自らに有利な条件で前漢と講和した。これにより、匈奴は前漢から毎年贈られる財物により、経済上の安定を得ることとなり、さらには韓王信や[[盧綰]]等の漢からの[[亡命]]者をその配下に加えることで勢力を拡大させ、北方の草原地帯に一大[[遊牧国家]]を築き上げることとなった。これの遊牧国家には、成立したての前漢王朝は対抗する力を持たず、劉邦が亡くなった後に「そなたの国の劉邦が死んだそうだが、私でよければ慰めてやろう」と冒頓単于から侮辱的な親書を送られ、一時は開戦も辞さぬ勢いであった[[呂雉]]も、[[中郎将]]の[[季布]]の諌めにより「有り難いが、自分は老人なので」と、婉曲にそれを断る内容の手紙と財物を贈らざるを得なかった。この件では冒頓単于も呂雉に対して非礼を詫びる手紙と、返礼として馬を贈っている。

* [[攣テイ氏|攣鞮氏]] - 冒頓単于の直系の氏族。

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