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}}
[[File:Ring16.jpg|right|thumb|200px|[[アーサー・ラッカム]]が描いた、ワーグナーの歌劇に登場するドンナー。]]
'''トール'''とは、[[北欧神話]]に登場する[[神]]である。神話の中でも主要な神の一柱であり、神々の敵である[[巨人 (伝説の生物)|巨人]]と対決する戦神として活躍するほか、考古学的史料などから、[[雷神]]・農耕神として北欧を含む[[ゲルマン人|ゲルマン]]地域で広く信仰されたと推定され、本来はオーディン以上の最高位にた[[主神]]である。
 
'''アーサソール'''(アースたちのソール)や、'''オクソール'''(車を駆るソール)とも呼ばれる<ref>北欧神話(東京書籍){{ASIN|B000J7225K}} P133より<!-- 1984年に出版された本ですが、ISBNが適用されていません。 -->。</ref>。
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== 概要 ==
[[アース神族]]の一。[[雷神|雷の神]]にして[[北欧神話]]最強の戦神。[[農民]]階級に信仰された神であり、元来は[[オーディン]]と同格以上の地位があった。
[[スウェーデン]]にかつて存在していた[[ウプサラの神殿]]には、トール、[[オーディン]]、[[フレイ]]の3神の像があり、トールの像は最も大きく、真ん中に置かれていたとされている<ref>『北欧の神話』39頁。</ref>。
やがて戦士階級の台頭によってオーディンの息子の地位に甘んじた。[[北ヨーロッパ|北欧]]だけではなく[[ゲルマン人|ゲルマン]]全域で信仰され、地名や男性名に多く痕跡を残す。また、[[木曜日]]を意味する[[英語]] {{lang|en|''Thursday''}} や[[ドイツ語]] {{lang|de|''Donnerstag''}} などはトールと同一語源である<ref>{{Cite book|和書|author=S・ベアリング=グールド|authorlink=セイバイン・ベアリング=グールド|translator=今泉忠義|year=1955|title=民俗学の話|publisher=角川文庫|page=64}}</ref>。
 
雷神であることから[[ギリシア神話]]の[[ゼウス]]や[[ローマ神話]]の[[ユーピテル]]と同一視され
 
外見は燃えるような目と赤髪を持つ<ref>『ヴィーナスの片思い』120頁。</ref>、赤髭の大男<ref name="yamamuro59">『北欧の神話』59頁。</ref>。
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武器は[[稲妻]]を象徴する[[ミョルニル]]といわれる柄の短い槌<ref>『北欧の神話』60頁。</ref>。
 
雷、天候、農耕などを司り、力は[[アースガルズ]]のほかすべての神々を合わせたものより強いとされる。[[フルングニル]]、[[スリュム]]、[[ゲイルロズ]]といった[[霜の巨人]]たちを打ち殺し、神々と人間を巨人から守る要となっており、エッダにも彼の武勇は数多く語られている。
 
== 家族 ==
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『[[古エッダ]]』の『[[巫女の予言]]』においては、おそらくは[[ヴァン神族]]との戦争で破壊された[[アースガルズ]]の城壁をアース神族が巨人の鍛冶屋(工匠)に修理させた後、巨人への報酬に[[フレイヤ]]を渡すことに怒ったトールが、誓いを破って巨人を殺すエピソードが語られる<ref>『エッダ 古代北欧歌謡集』11頁。</ref>。『巫女の予言』では、ヴァン神族がアース神族の城壁を破壊する[[スタンザ|節]]と神々がフレイヤの譲渡を協議する節との間に欠落が見られる。[[シーグルズル・ノルダル]]は『巫女の予言 エッダ詩校訂本』(日本語訳176-178頁)にて、本来あった1-2の詩節が失われた、あるいは、詩の聞き手がここで語られるべき内容を知識として持っているから省かれた可能性を挙げ、前者を欠落の理由に挙げている。そして本来語られるべきだった内容が、『スノッリのエッダ』第一部『ギュルヴィたぶらかし』第42章での巨人による砦の建設と神々による報酬の誓いの破棄であるとする。さらにノルダルは、『ギュルヴィたぶらかし』でのアース神族は鍛冶屋の正体が巨人と判明したためトールを呼び、トールが巨人を殺害しているが、『巫女の予言』では神々は相手を巨人と知った上で約束を交わし、その上でトールが巨人を殺しただろうと推定している。
 
『[[ヒュミルの歌]]({{lang|non|''[[:en:Hymiskviða|Hymiskviða]]'' }})』では、[[エーギル]]に酒宴の開催を依頼したところ鍋の用意を求められたため、[[テュール]]と共に彼の父[[ヒュミル]]を訪ねて巨大な鍋を入手した。その際、ヒュミルと共に海に出て、[[ウシ|牡牛]]の頭を餌に[[ヨルムンガンド]]を釣り上げてミョルニルで一撃与えたものの取り逃がしている<ref>『エッダ 古代北欧歌謡集』75-80頁。</ref>。
 
『[[スリュムの歌]]({{lang|non|''[[:en:Þrymskviða|Þrymskviða]]'' }})』では、ミョルニルが巨人[[スリュム]]に盗まれ、スリュムがその返還の条件にフレイヤとの結婚を要求したことから、フレイヤに変装してヨトゥンヘイムに行き、スリュムが花嫁の祝福のためにと持ち出したミョルニルを奪い取って彼と一族を全滅させている<ref>『エッダ 古代北欧歌謡集』89-92頁。</ref>。
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同第44-47章によると、巨人[[ウートガルザ・ロキ]]の宮廷に招かれた時は魔術にはまってしまった。まず宮廷に着く前に巨人[[スクリューミル]](実はウートガルザ・ロキの変身した姿)と出会い、食糧の入った袋を開けられなくされ、スクリューミルの手袋を小屋と思わされてそこで休息した。さらに宮廷で行われた飲み比べで杯(実は大海とつながっている)を飲み干せず馬鹿にされる、[[エリ (北欧神話)|エリ]]([[:en:Elli|en]])という老婆(実は「老い」の化身。神といえど寄る年波には勝てない)との相撲に敗れるなど散々な目にあっている。<ref>『エッダ 古代北欧歌謡集』260-268頁。</ref>。なお、この時の出来事は『ロキの口論』でロキに蒸し返されている。
 
同第48章では、『ヒュミルの歌』でも語られているヨルムンガンドとの対決が再び語られる。若者の姿となって1人でヒュミルを訪ねたトールは、ヒュミルが船で海に出るのに同行した。ヒュミルの飼う牛のうち最も大きいヒミンフリョートの首を餌にし、ヨルムンガンドをうまく釣り上げたものの、ヨルムンガンドが抵抗し、トールは舟板を破って海底に足が着くほど強く踏ん張り、ヨルムンガンドを引き上げた。トールがミョルニルで蛇を粉砕しようとした瞬間、この光景に恐れをなしたヒュミルが餌切りナイフで釣り糸を切った。ヨルムンガンドは海中に逃れ、怒ったトールはヒュミルを殴りつけ船の外に飛ばしたという<ref>『エッダ 古代北欧歌謡集』268-270頁。</ref>。
 
トールの短気ぶりを語るエピソードが同第49章で紹介されている。[[バルドル]]と妻[[ナンナ (北欧神話)|ナンナ]]の葬儀の際、遺体を乗せた船が大きすぎて動かせず、女巨人[[ヒュロッキン]]が来て勢いよく海に進めたとき、トールは怒ってヒュロッキンを殺そうとしたため神々がとりなした。また、ミョルニルで火葬用の薪を清めていたところに小人リト([[:en:Litr|en]])が飛び出してくると、トールは彼を火の中に蹴って入れてしまった<ref>『エッダ 古代北欧歌謡集』271-272頁。</ref>。