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遺伝子組換え作物の開発・利用について、賛成派と反対派の間に激しい論争がある。主な論点は、生態系などへの影響、経済問題、倫理面、食品としての安全性などである。生態系などへの影響、経済問題に関しては、単一の作物や品種を大規模に栽培すること([[モノカルチャー]])に伴う諸問題を遺伝子組換え作物特有の問題と混同して議論されることが多い。食品としての安全性に関して、特定の遺伝子組換え作物ではなく遺伝子組換え操作自体が食品としての安全性を損なっているという主張がある。その様な主張の論拠となっている研究に対し、実験設計の不備やデータ解釈上の誤りを多数指摘した上で科学的根拠が充分に伴っていないとする反論もある<ref>[http://www.ilsijapan.org/ILSIJapan/COM/Bio2010/rikaisuru2-2.pdf 遺伝子組換え食品を理解するⅡ], 特定非営利活動法人 国際生命科学研究機構(ILSI) バイオテクノロジー研究会, 2010年9月印刷</ref>。
 
日本では、[[厚生労働省]]および[[内閣府]][[食品安全委員会]]によって、[[ジャガイモ]]、[[ダイズ]]、[[テンサイ]]、[[トウモロコシ]]、[[ナタネ]]、[[ワタ]]、[[アルファルファ]]および[[パパイア]]の8作物287種類について、平成25年12月18日現在、食品の安全性が確認されている<ref>[http://www.mhlw.go.jp/topics/idenshi/dl/list.pdf 安全性審査の手続を経た旨の公表がなされた遺伝子組換え食品及び添加物一覧]厚生労働省医薬食品局食品安全部 平成25年12月18日現在</ref>
 
== 起源 ==
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{{main|ラウンドアップ}}
==== ビアラホス耐性作物 ====
ビアラホス(bialaphos)<ref>Ignite/Basta、 Glufosinate (グルホシネート)、Herbiace等の名称で販売されている。</ref>は[[放線菌]] ''Streptomyces hygroscopicus'', ''S. viridochromogenes'' などが生産する[[抗生物質]]であり、[[窒素代謝]]においてアンモニウム・イオンの同化に関与する{{仮リンク|グルタミン合成酵素|en|Glutamine synthetase}}の阻害剤として作用する<ref>{{refnest|group="注釈"|name="bialahhos"|グルタミン合成酵素の阻害剤として実際に作用するのは、ビアラホスから2分子の[[アラニン]]残基が[[加水分解]]により遊離した{{仮リンク|ホスフィノスリシン|en|DL-Phosphinothricin}}である。</ref>}}。グルタミン合成酵素が阻害されると毒性の高いアンモニウムイオンが植物体内に蓄積して、植物体を枯死させると考えられている。
 
ビアラホス生産菌は、ビアラホスが自身のグルタミン合成酵素を阻害する事態に対処するためビアラホスを無毒化する酵素ホスフィノスリシン {{仮リンク|N-アセチル基転移酵素|en|N-acetyltransferase|label=''N''-アセチル基転移酵素}}([http://www.genome.jp/dbget-bin/www_bget?ec:2.3.1.183 phosphinothricin ''N''-acetyltransferase]: PAT, EC 2.3.1.183, [http://www.genome.jp/dbget-bin/www_bget?rn:R08938 反応])の遺伝子 ''bar'' を持っている。そこで ''bar'' を植物内で発現できるように改変して導入することでビアラホス耐性作物を開発した(薬剤の分解・修飾による無毒化)。
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; ペクチンを分解する酵素ポリガラクチュロナーゼ([http://www.genome.jp/dbget-bin/www_bget?enzyme+3.2.1.15 polygalacturonase], EC 3.2.1.15, [http://www.genome.jp/dbget-bin/www_bget?rn+R01982 反応])の生産抑制
: ポリガラクチュロナーゼの生産をアンチセンスRNA法などのRNAiの技法で直接抑制した[[Flavr Savr]]<ref>[http://cera-gmc.org/index.php?action=gm_crop_database&mode=ShowProd&data=FLAVR+SAVR]</ref>などのトマトが開発された<ref>[http://cera-gmc.org/index.php?action=gm_crop_database&mode=ShowProd&data=B%2C+Da%2C+F]</ref>。その結果、熟しても果皮などはあまり柔らかくならない。
; 果実の成熟の制御(エチレン生合成酵素の抑制)
: 果実が熟する過程でポリガラクチュロナーゼの発現が誘導されるため、果実の熟する過程を制御する方向の研究が進んでいる。果実の熟する過程には、[[植物ホルモン]]の一種である[[エチレン]]が関与している。そこで、エチレンの生合成を抑制する研究が進んだ。エチレンの生合成系は、次の二過程からなる。
:* ACC合成酵素([http://www.genome.jp/dbget-bin/www_bget?enzyme+4.4.1.14 ACC synthase], EC 4.4.1.14, [http://www.genome.jp/dbget-bin/www_bget?rn+R00179 反応])の作用により、''S''-アデノシル-L-メチオニン([http://www.genome.jp/dbget-bin/www_bget?compound+C00019 ''S''-adenosyl-L-methionine]: SAM)から、1-アミノシクロプロパン-1-カルボン酸([http://www.genome.jp/dbget-bin/www_bget?compound+C01234 1-amino cyclopropane-1-carbonic acid]: ACC)が合成される。
:* ACC酸化酵素([http://www.genome.jp/dbget-bin/www_bget?enzyme+1.14.17.4 ACC oxidase], EC 1.14.17.4, [http://www.genome.jp/dbget-bin/www_bget?rn+R07214 反応])によって、ACCがエチレンに変換される。
: そこで、この過程に関与するACC合成酵素やACC酸化酵素をアンチセンスRNA法やコサプレッション法などのRNAiの技法で抑制すれば、エチレンの生合成が抑制されるわけである。ACC合成酵素を抑制したトマト 1345-4<ref>[http://cera-gmc.org/index.php?action=gm_crop_database&mode=ShowProd&data=1345-4]</ref>がDNA Plant Technology Corporation社により開発された。
; 果実の成熟の制御(エチレン生合成中間体の分解)
:* エチレン生合成中間体であるACCを分解することでエチレン生産を抑制する。土壌細菌''Pseudomonas chlororaphis''由来のACCデアミナーゼ([http://www.genome.jp/dbget-bin/www_bget?enzyme+3.5.99.7 ACC deaminase], EC 3.5.99.7,[http://www.genome.jp/dbget-bin/www_bget?rn+R00997 反応])遺伝子の導入によって、ACCを2-オキソ酪酸([http://www.genome.jp/dbget-bin/www_bget?compound+C00109 2-oxobutyrate])と[[アンモニア]]に分解することによってエチレン生合成が抑制されたトマトも開発されている。ACCデアミナーゼ遺伝子が導入されたトマトは室温で収穫後121日放置しても瑞々しい状態であった<ref>[http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/1821764?ordinalpos=25&itool=EntrezSystem2.PEntrez.Pubmed.Pubmed_ResultsPanel.Pubmed_DefaultReportPanel.Pubmed_RVDocSum The Plant Cell, Vol. 3, 1187-1 193, November (1991)], "Control of Ethylene Synthesis by Expression of a Bacterial Enzyme in Transgenic Tomato Plants",Harry J. Klee, Maria B. Hayford, Keith A. Kretzmer, Gerard F. Barry, and Ganesh M. Kishore, PMID: 1821764</ref>。モンサント社のトマト CGN-89322-3 (8338)[http://cera-gmc.org/index.php?action=gm_crop_database&mode=ShowProd&data=8338]はACCデアミナーゼ遺伝子が導入されたものである。
:* エチレン生合成の出発物質であるSAMを加水分解して減少させ、結果としてエチレン合成量を減らす。SAM加水分解酵素([http://www.genome.jp/dbget-bin/www_bget?ec:3.3.1.2 ''S''-adenosyl-L-methionine hydrolase], EC 3.3.1.2, [http://www.genome.jp/dbget-bin/www_bget?rn:R00175 反応])遺伝子の導入によって達成された。Agritope Inc.の開発したトマト品種35 1 N<ref>[http://cera-gmc.org/index.php?action=gm_crop_database&mode=ShowProd&data=35+1+N]</ref>やメロン品種AとB<ref>[http://cera-gmc.org/index.php?action=gm_crop_database&mode=ShowProd&data=A%2C+B]</ref>の例がある。
 
エチレン生合成が抑制されたトマト果実は出荷前に倉庫でエチレン処理をすると正常に熟しはじめる。エチレンによる果実の追熟は多くの果実で取り入れられている。たとえば[[バナナ]]や[[マンゴー]]などの熱帯輸入果実は、害虫移入防止のため未熟果実を輸入しエチレンによって追熟されている<ref>{{refnest|group="注釈"|name="kiwi"|家庭においても[[キウイフルーツ]]を追熟させたい場合、エチレンをよく発生する[[リンゴ]]と同じ[[ビニール]]袋に入れて保存するのも同じ原理である。</ref>}}。エチレン合成抑制による収穫適期拡大手法ではそのための設備を利用できる。
 
=== マイコトキシン分解酵素生産作物 ===
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=== ステアリドン酸含有遺伝子組換えダイズ ===
[[エイコサペンタエン酸]](eicosapentaenoic acid(20:5): EPA)や[[ドコサヘキサエン酸]](docosahexaenoic acid(22:6): DHA) などの長鎖[[ω-3脂肪酸]]は、心臓発作のリスクを軽減することが知られている。これらの脂肪酸の[[前駆体]]である[[ステアリドン酸]](stearidonic acid(18:4): SDA)の残基を含むダイズを育種した。ダイズにはSDAが含まれない。これは、炭素鎖18個の[[脂肪酸]]の[[カルボキシル基]]から数えて6番目と7番目の炭素の間を二重結合を導入するω12-desaturase<ref>{{refnest|group="注釈"|name="desaturase"|[[デサチュラーゼ]]: カルボキシル基の反対側から数えて12番目と13番目の炭素の間に二重結合、Δ6-desaturaseともいう, [http://www.genome.jp/dbget-bin/www_bget?enzyme+1.14.19.3 EC 1.14.19.3], [http://www.genome.jp/dbget-bin/www_bget?rn+R03814 反応]</ref>}}がダイズにないためである。そこで[[サクラソウ]]の一種である''Primula juliae''からω12-desaturaseに対応するコーディング領域が導入された。
 
また、ダイズの[[リノール酸]]残基からα-[[リノレン酸]]残基へ変換するω3-desaturase(Δ15-desaturase: FAD3)の活性を高めるために、[[アカパンカビ]](''Neurospora crassa'')のΔ15-desaturaseの遺伝子も導入されている。その結果、リノール酸のCoA[[チオエステル]]であるリノレオイル-CoA ([http://www.genome.jp/dbget-bin/www_bget?compound+C02050 linoleoyl-CoA])からω12-desaturaseによってγ-リノレン酸のCoAチオエステルであるγ-リノレノイル-CoA ([http://www.genome.jp/dbget-bin/www_bget?compound+C03035 γ-linolenoyl-CoA])([http://www.genome.jp/dbget-bin/www_bget?rn+R03814 反応])に、γ-リノレノイル-CoAからω3-desaturaseによってステアリドノイル-CoA([http://www.genome.jp/dbget-bin/www_bget?compound+C16163 stearidonoyl-CoA])へと変換される。もしくは、リノレオイル-CoAからω3-desaturaseによってα-リノレン酸のCoAチオエステルであるα-リノレノイル-CoA ([http://www.genome.jp/dbget-bin/www_bget?compound+C16162 α-linolenoyl-CoA])へ、α-リノレノイルCoAからω12-desaturaseによってステアリドノイル-CoA([http://www.genome.jp/dbget-bin/www_bget?rn+R07933 反応])へと変換される。
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[[リシン]] (L-lysine) は[[必須アミノ酸]]の一種である。しかし、イネ科の植物の[[貯蔵タンパク質]]ではその含有量が低いため、飼料として使う際にはリシンを添加している。このコストを低減するために、リシンを多く含む[[トウモロコシ]]であるモンサントLY038が開発された。
 
現在、市販されているリシンは、微生物<ref>{{refnest|group="注釈"|name="lysine"|多くの場合、リシン生産菌として[[コリネバクテリウム属]]細菌の''Corynebacterium glutamicum''が用いられている。</ref>}}を用いた[[アミノ酸発酵]]によって工業生産されているものである。各アミノ酸生合成系では、それぞれのアミノ酸濃度が低下すると生合成が促進されるとともに、必要以上にアミノ酸濃度が上昇すると生合成が抑制されるように[[フィードバック制御]]されている。リシンの場合、[[フィードバック阻害]]は、リシン生合成系の酵素群の1つで[[鍵酵素]]でもあるジヒドロジピコリン酸合成酵素([http://www.genome.jp/dbget-bin/www_bget?enzyme+4.2.1.52 dihydrodipicolinate synthase]: DHDPS, EC 4.2.1.52, [http://www.genome.jp/dbget-bin/www_bget?rn+R02292 反応])の[[活性]]の低下で生じる。
 
そこで、リシン・[[アナログ耐性]]の''Corynebacterium glutamicum''のDHDPS(リシンによるフィードバック阻害が解除されている変異型)をコードしている遺伝子''cordapA''が利用された。更に、植物の[[細胞質]]中で合成された''C. glutamicum''の変異型DHDPSが植物のリシン生合成の場である[[プラスチド]]へ移行できるように、トウモロコシのDHDPSの遺伝子''mDHDPS''のプラスチドへの移行配列(transit peptide)部分の塩基配列が、''C. glutamicum''のDHDPS遺伝子(''cordapA'')と連結された融合遺伝子がつくられた。それにトウモロコシの[[胚乳]]の貯蔵タンパク質である[[グロブリン]](globlin 1)の遺伝子のプロモーターと連結されたものがトウモロコシに導入された。導入された''C. glutamicum''の変異型DHDPSはフィードバック阻害が解除されているため植物でもリシン生合成がフィードバック阻害されず、また、胚乳中で発現するグロブリン遺伝子のプロモーターによってトウモロコシ種子中のリシン含有量が増加した。[[モンサント]]LY038の「[http://www.env.go.jp/press/file_view.php?serial=9206&hou_id=8076 生物多様性影響評価書の概要]」、「[http://www.bch.biodic.go.jp/download/lmo/public_comment/LY038ap.pdf 高リシン(lysine)トウモロコシ(''cordapA'', ''Zea mays'' subsp. ''mays'' (L.) Iltis)(LY038, OECD UI: REN-ØØØ38-3)の生物多様性影響評価書の概要]」は、公開されている。形質転換における選択系・選択マーカー遺伝子の除去系として、後述の「選択マーカー遺伝子の除去系」のうちの「[[Cre-loxP部位特異的組換え|Cre-''loxP'' system]]」が用いられている。
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: GM作物を積極的に取り入れる動きがある。中国政府が積極的に取り組んでおり、研究は1986年から行われている<ref name="20071028sankei"/>。2006年時点では、GM作物のほとんどは綿花とタバコだが、基礎食品である[[米]]の開発に力を入れており、商業栽培も間近な状況となっている<ref name="20071028sankei"/>。2007年のワタの栽培面積の68%(380万 ha)は組換え品種であった<ref name="GMO compass cotton"/>。
; 日本
: 一部自治体で環境や[[消費者団体]]などへの影響への懸念から[[遺伝子組み換え作物規制条例]]で栽培を規制している。北海道、新潟県など10都道府県では実質的に栽培が禁止されている<ref>[http://www.pref.hokkaido.lg.jp/ns/shs/grp/06/gmjourei02.pdf 北海道遺伝子組換え作物の栽培等による交雑等の防止に関する条例], 平成17年3月31日北海道条例第10号, 改正平成21年3月31日北海道条例第15号</ref>。なお、購入した種子を撒いたところ混入していた組換え作物の種子に由来する組換え作物を栽培してしまった事例があるが、この場合は意図して栽培しているわけではないので処罰されない<ref>{{refnest|group="注釈"|name="hokkaido"|"「北海道遺伝子組換え作物の栽培等による交雑等の防止に関する条例」は、GM作物を栽培する場合の規制であり、今回のような場合は対象外", [http://www.pref.hokkaido.lg.jp/ns/shs/grp/09/saai4-3-1gmjoukyou.pdf 「遺伝子組換え作物の栽培等による交雑等の防止に関する条例」をめぐる状況]</ref>}}。このように、現実には意図せず日本においても組換え作物を商業栽培していると考えられる。そのほか、スギ花粉症緩和米などは医薬品としての規制を受ける。厚生労働省医薬食品局食品安全部が安全性審査を終えた組換え作物を公表している<ref>[http://www.mhlw.go.jp/topics/idenshi/dl/list.pdf]</ref>。[[青いバラ (サントリーフラワーズ)]]は国内で商業栽培されているため、2009年には日本も遺伝子組換え作物の商業栽培国となった。
 
=== 日本の遺伝子組換え作物の輸入量 ===
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* 菜種(採油用):2,312,536トン 主要輸入相手国(重量比) カナダ 2,208,754トン(95.5%)、オーストラリア 103,450トン(4.5%)
 
これらの作物の主要輸入相手国は、上記のようにそれらの作物の遺伝子組換え品種の栽培の盛んな国である。よって、日本は遺伝子組換え作物を大量に輸入していると推定されている。その推定値の中には日本の輸入穀類の半量は既に遺伝子組換え作物であるというものもある<ref>遺伝子組換え作物 -世界の動向と今後の日本の展望-, 三石誠司, 財団法人 報農会, 掲載誌名:植物ハイビジョン-2008 -遺伝子組換え作物の現状と課題-, p.49-57</ref><ref>{{refnest|group="注釈"|name="mitsuishi"|「日本の家畜飼料は、ほぼその輸入に頼っている。三石誠司・宮城大教授(経営学)の試算では、日本に輸入される全穀物は年間約3200万トンで、半分以上の約1700万トンがGMという。」 食卓どこへ:遺伝子組み換え/1 生協「不使用」から転換 (小島正美、遠藤和行) 毎日新聞 2009年11月2日 東京朝刊</ref>}}<ref>「講師の三石誠司・宮城大学教授は、大豆やトウモロコシなど輸入穀物の半分を遺伝子組み換え農産物が占めている現状を解説。」 遺伝子組み換えに賛否 新潟で農水省農産物シンポ 新潟日報2009年9月17日</ref>。
 
== 遺伝子組換え食品の含有の表示 ==
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== 論争 ==
遺伝子組換え作物(GM作物)については、強く推進する者<ref>{{refnest|group="注釈"|name="irri"|『フィリピンの国際イネ研究所(IRRI)のロバート・ザイグラー所長は「今こそ遺伝子革命が必要だ」と力説する。「世界を救える技術があるのに規制して使わないのは犯罪に近い」とまで言い放った。』, "遺伝子組み換えに追い風 食糧高騰・温暖化が均衡破る", (庄司直樹), 2008年7月20日 朝日新聞</ref>}}がいる一方、健康や環境に悪影響があるのではと不安を抱く者も多く、英国などの一部の国では商業目的でのGM作物栽培が行われていない。GM作物を否定する者と肯定する者の間でその影響などについて論争が起きている。
 
=== 生態系などへの影響 ===
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==== ゴールデンライスと遺伝子組換え食品反対運動 ====
ビタミンA欠乏症<ref>[http://www.unicef.or.jp/library/pdf/toukei_4.pdf ビタミンA欠乏症 目標 ビタミンA欠乏症を撲滅する。], UNICEF</ref>を解消することは[[世界保健機構]](WHO)や[[国際連合児童基金]](UNICEF)においても主要目標である([http://www.euro.who.int/ppt/nut/vad.pdf Vitamin A Defeciency Control WHO/UNICEF Strategy])。WHOによると、
推定2億5千万人の未就学児がビタミンA欠乏症であり、ビタミンA欠乏地域では多数の妊婦もビタミンA欠乏症である<ref>"An estimated 250 million preschool children are vitamin A deficient and it is likely that in vitamin A deficient areas a substantial proportion of pregnant women is vitamin A deficient.","An estimated 250 000 to 500 000 vitamin A-deficient children become blind every year, half of them dying within 12 months of losing their sight.", [http://www.who.int/nutrition/topics/vad/en/index.html A few salient facts]</ref><ref>[http://whqlibdoc.who.int/publications/2009/9789241598019_eng.pdf Global prevalance of vitamin A deficiency in populations at risk 1995-2005], WHO Global Database on Vitamin A Deficiency, Authors: World Health Organization, Number of pages: 55, Publication date: 2009, Languages: English, ISBN 978-92-4-159801-9</ref>。そして、推定25万人から50万人の子供たちが毎年、ビタミンA欠乏症で[[失明]]し、その半数が一年以内に死亡している。そのような子供たちは[[南アジア]]や[[東南アジア]]の都市部の[[スラム]]に住む貧困家庭に多い。ビタミンA欠乏症を解消するために、主食である[[コメ]]に[[ビタミンA]]の[[前駆体]]である[[β-カロテン]]を含むようにしてビタミンA欠乏症を緩和しようと育種されたものがゴールデンライスである(<ref>[http://www.goldenrice.org/index.html goldenrice.org])</ref>
 
このゴールデンライスに対しても反対する遺伝子組換え食品反対派はいる。前述のヴァンダナ・シヴァの主張は、
{{quotation|ビタミン含有率が高い遺伝子組み換えのゴールデンライスの開発に対して、イギリス<ref>{{refnest|group="注釈"|name="england"|イギリスではビタミンA不足は深刻な問題となってはおらず、文脈的にもインドと考えられるので、in Indiaをin Englandと、またはIndianをEnglandと聴き間違えたのであろう。なお、紹介者の[[島村菜津]]の同一内容を紹介した別の著作においても"ビタミン不足の英国の子どもたち"と記載されている。「世にもマヌケなスローフードへの旅 [http://trendy.nikkeibp.co.jp/lc/eco_shimamura/080520_siva/index2.html 第19回 インド編 無知な経済学者・政治家が農民たちを苦しめる!]」, ECO JAPAN, 日経BP, 2008年05月20日</ref>}}のビタミン不足の子どもたちのために開発しているのになぜ反対かと、ヴァンダナ・シヴァさんが責められた。答えは、「そんなものはいらない。リンゴひとつ食べればビタミンは補えるもの」。バランス良く食べれば、そんなものはつくる必要がないし、ほんとうに栄養不足の子どもたちの役にたつわけでもない。そして、ゴールデンライスみたいな画一的な圃場(ほじょう)をつくるためになぎ倒された、たくさんの薬草でビタミンを補給していたインドの子どもたちが、年間4000人<ref>{{refnest|group="注釈"|name="4000people"|ヴァンダナ・シヴァ自身は「四万人」と著書の中で述べている。"インドの子供たちは毎年ビタミンA不足で、四万人が視力を失っているが、ビタミンAが豊富でどこにでも生えている植物を除草剤で殺してしまったことが、この悲劇を招いている。", p. 214, 左から3-1行, 「緑の革命とその暴力」, ヴァンダナ・シヴァ 著, 浜谷喜美子 訳, 発行所 株式会社 日本経済評論社, 1997年8月5日 第1刷発行, 旧ISBN 4-8188-0939-X, 現ISBN 978-4-8188-0939-0</ref><ref>}}{{refnest|group="注釈"|name="shimamura"|紹介者の[[島村菜津]]は、同様の内容を紹介した別の著作では「4万人に近い」と記述している。"「これからは、数年単位ではなくて、もっと長いスパンで考えて、地域を豊かにしていく視点が大切なの。それに、単一品種を効率よく育てれば、薬草やビタミンをたくさん含む野草は、雑草として排除される。小麦とともに育つバツアという薬草は、ビタミンAが豊富なのに、そうしたものが一気になぎ倒される。毎年、4万人に近い子どもたちがビタミンA不足で失明しているこの国で、ですよ」", "かつて、イギリスの学者が、ビタミンAの豊富なGM米「ゴールデンライス」を開発したとき、学者は「なぜビタミン不足の英国の子どもたちを救う研究に楯突くのか」とシヴァを批判した。", "この時も、彼女は「そんな米など必要ない。それより、リンゴを1つかじろうと教えればいい。ビタミン不足で失明している産地の子の身にもなってほしい」と噛みついた。", 「世にもマヌケなスローフードへの旅 [http://trendy.nikkeibp.co.jp/lc/eco_shimamura/080520_siva/index2.html 第19回 インド編 無知な経済学者・政治家が農民たちを苦しめる!]」, ECO JAPAN, 日経BP, 2008年05月20日</ref>}}失明していると反論していました。}}
と紹介されている<ref>p. 52, 4-10行, 「ゆっくりノートブック1 SLOW FOOD, IT'S ABOUT TIME! そろそろスローフード 〜今、何をどう食べるのか?」, [[島村菜津]]・辻 信一 共著, 発行所 株式会社 大月書店, 2008年6月20日 第1刷発行, ISBN 978-4-272-32031-8-C0336</ref>。この主張に対しては、[[リンゴ]]は[[ビタミンA]]の供給源としては不適切である<ref>第2章 五訂増補日本食品標準成分表(本表), [http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/gijyutu/gijyutu3/toushin/05031802/002/007.pdf 果実類], リンゴ(生)の可食部100 g当たり[[レチノール]]当量 2 μg</ref>という[[栄養学]]的な反論と、貧困家庭の人々がバランスが良い食事がとれないためにビタミンA欠乏症に陥っている<ref>[http://www.jica.go.jp/activities/issues/gender/pdf/j97india.pdf 国別WID情報整備調査]、インド India : Country WID Profile、平成10年3月 国際協力事業団 企画部、「世帯の経済状態により栄養を摂取できる機会が異なり、家庭内では性別により栄養の配分に差異が生じている。女性は貧困家庭ほど栄養状況が悪い。インドで特に不足している栄養素は、ヨウ素とビタミン A である。」</ref>[http://www.worldbank.org.in/WBSITE/EXTERNAL/COUNTRIES/SOUTHASIAEXT/INDIAEXTN/0,,contentMDK:22839760~menuPK:295603~pagePK:2865066~piPK:2865079~theSitePK:295584,00.html][http://www.unicef.or.jp/children/children_now/pakistan/sek_pa01.html][http://www.nikkei-science.net/modules/flash/index.php?id=200712_070]という{{要出典範囲|現実を無視しているという反論|date=2011年6月}}がある。
 
また、ヴァンダナ・シヴァの主張の中には、色素米({{refnest|group="注釈"|name="shikisomai"|[[赤米]]や[[黒米]]:[[玄米]]の状態だと色素を含んでいるが、[[精米]]すると[[白米]]になる[http://www.kyuhaku.jp/roji/roji_ys-01.html])}}や茶米<ref>{{refnest|group="注釈"|name="chamai"|字義通り茶色の米か、[[玄米]](brown rice)の誤訳かは不明である。なお、農学の分野おいて「茶米」とは、病害や生理障害などを受けて褐色を呈する被害粒やエクアドル茶米菌の増えた米を指す。</ref>}}には多量のビタミンA前駆体が含まれているのでゴールデンライスを開発する必要がないというものがある<ref>[http://www.yasudasetsuko.com/gmo/column/030507.htm][http://www.yasudasetsuko.com/gmo/column/030421.htm][http://www.joaa.net/gmo/gmo-0304-01.html]</ref><ref>[http://www1.kamakuranet.ne.jp/oilpeak/opinions/shiva.html]</ref>。しかし、[[玄米]]には極僅かのβ-カロテンが含まれるために痕跡量の[[レチノール]][[当量]]のビタミンA活性があるがビタミンAの供給源としては不適切であり、精米された白米にはないといって良い<ref>第2章 五訂増補日本食品標準成分表(本表), [http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/gijyutu/gijyutu3/toushin/05031802/002/001.pdf 穀類]</ref>。赤米の色素は[[タンニン]]系であり<ref>名和義彦・大谷俊郎:有色素米の色素特性,食品工業,11月30日号,28-33(1991)</ref>、黒米の色素は[[アントシアニン]]系である<ref>[http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/12639403?itool=EntrezSystem2.PEntrez.Pubmed.Pubmed_ResultsPanel.Pubmed_RVDocSum&ordinalpos=11 J Med Food. 2001 Winter;4(4):211-218.], "Antioxidant Activity of Anthocyanin Extract from Purple Black Rice.", Ichikawa H, Ichiyanagi T, Xu B, Yoshii Y, Nakajima M, Konishi T., PMID: 12639403</ref>。つまり、ビタミンAに変換される[[カロテノイド]]系の色素ではないため、赤米や黒米はたとえ玄米であったとしてもビタミンAの供給源にはならない。
 
この様なゴールデンライスに対する反対に対して、ゴールデンライスの開発者(Ingo Potrykusら)や推進派の中には、人道に反すると反発する考えもある<ref>[http://www.niaes.affrc.go.jp/magazine/088/mgzn08806.html 農業と環境 No. 88(2007.8)], GMO情報: ビタミンA強化米 ゴールデンライスの開発阻害要因, 独立行政法人農業環境技術研究所</ref><ref>[http://www.cropgen.org/article_120.html Regulated to blindness and death]</ref><ref>HarvestPlus Technical Monograph 4. (2005), Analyzing the health benefits of biofortified staple crops by means of the disability-adjusted life years approach: a handbook focusing on iron, zinc and vitamin A., Alexander J. Stein, J.V. Meenakshi, Matin Qaim, Penelope Nestel, H.P.S. Sachdev and Zulfiqar A. Bhutta</ref>。
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==== パズタイ事件 ====
一方、健康への影響例としてよく挙げられるものに「遺伝子組換えジャガイモを実験用のラットに食べさせたところ免疫力が低下した。」と世間に大きな衝撃を与えたレポート(パズタイ(Pusztai)<ref>{{refnest|group="注釈"|name="pusztai"|プシュタイまたはプッタイとも表記される</ref>}}事件)がある。1998年8月10日、スコットランドのアバディーン(Aberdeen)のロウェット研究所(Rowett Research Institute)のパズタイ(Arpad Pusztai)が、英国のテレビ番組で、組換えジャガイモにより、ラットに免疫低下などがみられたと公表した。論文は1999年の[[ランセット|Lancet]]の10月16日号まで公表されず、主張の妥当性を検証できない状態であったにもかかわらず、一部の間ではさも真実であるかのように受け取られ大騒ぎになった。しかし、公表された論文からは実験そのものがずさんであり、パズタイの主張には無理があることが判明した。使用した遺伝子組換えジャガイモが安全性が確認され商品化されているジャガイモとは全く別な[[レクチン]]という哺乳動物に対し有害な作用を持つタンパク質を作る遺伝子を組み込んだ実験用ジャガイモであり、有害な遺伝子を組み込んだ遺伝子組換え作物は有害だったと当たり前の結果が出たに過ぎない。この実験は、[[マツユキソウ]]の殺虫活性のあるレクチン(GNA)を生産する組換えジャガイモ、親株のジャガイモにレクチンを注入したもの、親株(母本)のジャガイモ、を生のままものと茹でたものに分け、6頭ずつのラットに10日間与えて消化管を調べたところ、炎症や免疫の低下が組換えジャガイモを飼料としたものにみとめられたというものである<ref>[http://www.sciencedirect.com/science?_ob=ArticleURL&_udi=B6T1B-3XYFJJ5-H&_user=10&_coverDate=10%2F16%2F1999&_rdoc=1&_fmt=high&_orig=browse&_sort=d&view=c&_acct=C000050221&_version=1&_urlVersion=0&_userid=10&md5=1e8076d79784c078563e136ff1ee66c6 the Lancet, Vol. 354, p. 1353-1354, (1999)], "Effect of diets containing genetically modified potatoes expressing ''Galanthus nivalis'' lectin on rat small intestine", Stanley WB Ewen and Arpad Pusztai</ref>。なお、レクチン(GNA)を注入されたジャガイモは、遺伝子組換えジャガイモの親株(母本)とは、かなり組成の異なるものであったという報告もある<ref>[http://www.mhlw.go.jp/topics/idenshi/qa/qa.html#D-9]</ref>
 
この実験には栄養学的な問題や検定数が少ないという問題以前に実験の設計段階での欠陥として、
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== 脚注 ==
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<references/>
 
=== 注釈 ===
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=== 出典 ===
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== 関連項目 ==