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'''代替医療'''(だいたいいりょう、{{lang-en-short|alternative medicine}})とは、「[[医療|通常医療]]の代わりに用いられる医療」を指す用語である。Medicineは医療とも医学とも訳されることがあるので、'''代替医学'''とも呼ばれる。近代ドイツ医療社会史専攻の服部伸は、代替医療(オルタナティブ医療)とは、科学的・分析的な近代医学の限界を指摘し、時には[[霊]]の力を援用しながら、患者の心身全体の調和を取り戻そうとする医療であり、[[中国医学]]や[[漢方医学]]、[[アーユルヴェーダ]]もこれに含まれると述べている<ref name="服部">服部伸 著 『世界史リブレット82 近代医学の光と影』 山川出版社、2004年 </ref>。今のところ、通常医療に取って代わるような代替医療は存在しない<ref name="大野">[http://apital.asahi.com/article/kiku/2015011300007.html これって効きますか? 《111》「代替医療」の功罪] 大野智 朝日新聞の医療サイト・アピタル</ref>。[[帝京大学]]の大野智は、科学的に有効性が裏付けられた医療は通常医療に組み込まれるため、代替医療という言葉自体に矛盾があるのかもしれないと
似た用語に、'''補完医療'''
アメリカの国立補完代替医療センター(現・[[アメリカ国立補完統合ヘルスセンター]])では、2010年頃から研究目的は「病気の予防・治療」から「症状<ref>病気そのものによる症状、治療に伴う副作用を指す。</ref>のマネジメント」に変更され、各種施術療法の総称として、補完・代替医療ではなく'''補完的健康アプローチ'''(complementary health approaches)という用語を使うようになってきている。
通常医療と補完・代替医療の2つを統合した医療は
これらは元々[[欧米]]から発信されている用語であり、欧米での医療の歴史が反映された概念である。
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|WHOの業務地域。伝統医療についての方針・規制を定めるため、WHOはテクニカルガイドラインを出版し、また自然薬の評価規制作成している。]]
[[世界保健機関]]は2000年に「伝統医療の研究・評価の方法論の一般的ガイドライン(''General Guidelines for Methodologies on Research and Evaluation of Traditional Medicine'')において、補
たとえば欧州ではいくつかのハーブ療法(植物療法)は
=== アメリカ国立補完統合ヘルスセンター ===
[[アメリカ国立衛生研究所]] (NIH) に属する[[アメリカ国立補完統合ヘルスセンター]] (NCCIH) では、補完的健康アプローチ(補完医療)は、大きく天然物(natural products)と心身療法(mind and body practices)という2つのサブグループに分けられるとしている。<ref name="NCCIH">{{cite web|url=https://nccih.nih.gov/health/whatiscam|title=Complementary, Alternative, or Integrative Health: What’s In a Name?|author=NCCIH|accessdate=
;天然物
;心身療法
* [[鍼]]治療<ref>[http://www.ejim.ncgg.go.jp/public/overseas/c02/01.html 鍼治療 Acupuncture 海外のサイト]「統合医療」情報発信サイト 厚生労働省</ref>
* [[マッサージ]]療法<ref>[http://www.ejim.ncgg.go.jp/public/overseas/c02/06.html 健康目的でのマッサージ療法:知っておくべきこと Massage Therapy for Health Purposes: What You Need To Know 海外のサイト] 「統合医療」情報発信サイト 厚生労働省</ref>
;その他
=== 日本 ===
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== 各国での状況 ==
欧米の先進国において補完・代替医療の利用頻度が急速に増加している<ref name="cam2006report">「[http://www.jcam-net.jp/topics/data/cam_guide.pdf がんの補完代替医療ガイドブック-厚生労働省がん研究助成金研究]」 日本補完代替医療学会、2006年4月。</ref>。[[1990年代]]以降に代替医療への関心が高まっており、さらに代替医療の科学的研究に大きく予算が配分され政策として実行されてきた。アメリカでは、アメリカ国立補完代替医療センター(NCCAM)で行われた病気の予防・治療を目的とした臨床試験の多くで期待した成果がなかったため、研究対象は代替医療から補完医療(補完的健康アプローチ)へ、研究目的も「病気の予防・治療」から「症状のマネジメント」へと大きく変わってきている<ref name="大野">[http://apital.asahi.com/article/kiku/2015011300007.html これって効きますか? 《111》「代替医療」の功罪] 大野智 朝日新聞の医療サイト・アピタル</ref>。
実際に使用されている代替医療の種類はアメリカと日本ではかなり異なっている<ref name="Tenbou">{{Cite journal|和書|author=鈴木信孝|year=2006|title=補完代替医療の展望|journal=全日本鍼灸学会雑誌|volume=56|issue=5|pages=p.693-701|url=http://acupuncture.jp/dspace/handle/10592/17431}}</ref>。例えば{{いつ範囲|date=2015年3月|複数回答可のアンケート調査の結果のそれぞれ上位3を見てみると、米国では1位が[[リラクセーション]] 16.3%、 2位 [[ハーブ]] 12.1 %、 3位 [[マッサージ]] 11.1%であり、日本では1位 [[サプリメント]] 42.0%、 2位 [[マッサージ]] 31.2 % 、 3位 [[リフレクソロジー]] 20.2 %の順になっている}}<ref name="Tenbou" />。
=== アメリカ合衆国 ===
==== 利用状況 ====
[[1993年]]、デービッド・アイゼンバーグ博士([[ハーバード大学]]代替医学研究センター所長)は[[アメリカ合衆国]]国民の補完・代替医療の利用状況についての調査報告を発表した。この調査は、この研究センターが研究している16種類の補完・代替医療に関してのみを調査対象にしていた<ref>元の報告書自体。あるいは林 義人『代替医療革命―医療ビッグバンの幕開け』廣済堂出版 1999 など多数</ref>。
16種類に限定していたにもかかわらず、利用状況は医師らの予想をはるかに超えていた<ref>元の報告書自体。あるいは林 義人『代替医療革命―医療ビッグバンの幕開け』廣済堂出版 1999 など多数の書籍に記載されている</ref>。
[[1990年]]時点で、これら16種類の補完・代替医療を受けたアメリカ国民は全国民の34%に達していた。補完・代替医療の機関(治療院、ルームなど)への外来回数はのべ4億2700万回に達していた。この数はかかりつけ開業医への外来3億3800万回を超えていた<ref>元の報告書自体。あるいは林 義人『代替医療革命―医療ビッグバンの幕開け』廣済堂出版 1999 など</ref>。
この調査で、学歴が高い人、収入の多い人、知識人層など時代を先導してゆくとされる人たちほど、代替療法を評価し積極的に利用している、ということも明らかになった<ref>アンドルー・ワイル『ワイル博士の健康相談 (1) 自然治癒力』p.139-141</ref>
[[1997年]]の調査では補完・代替医療への外来回数は6億2900万回になり、1990年の調査時のおよそ1.5倍に増加した<ref>元の報告書自体。あるいは林 義人『代替医療革命―医療ビッグバンの幕開け』廣済堂出版 1999 など</ref>。
==== 研究と教育体制 ====
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当初の年間予算は200万ドルであったが、現在では1億ドル以上の予算が割り当てられている<ref name="cam2006report" />。全米の医科大学・医学ラボなどでの代替医療研究を振り分け、政府予算も割り当てられている。[[2000年]]にはホワイトハウスに'''補完代替医療政策委員会'''が設置された。代替医療の教育について、全米の医学生が少なくともひとつの代替医療を並行して学べる体制を各医学部が備えていることが望ましいとして、国立衛生研究所では公式に推奨している。そのような代替医療教育体制は全米の医科大学の50%以上で既に実施されている。[[1998年]]の段階で、全米125医学校中75校が通常医療以外の講座・単位を持つようになっていた。医学生の側も80%余りが代替医療を身に着けたいとアンケートに答えている。
[[ジョージタウン大学]]は補完・代替医療教育において初めて正規課程(修士課程)を定めた学校であり、国立衛生研究所が目と鼻の先にあることもあり、多くの代替医学研究がされている。また、[[アリゾナ大学]]の医学教授[[アンドルー・ワイル]]により現代医学による医療と補完・代替医療とをあわせた[[統合医療]]が教育実践されている。
アメリカ国立補完代替医療センター(NCCAM)には莫大な予算が投じられ、病気の予防・治療を目的とした臨床試験が多く行われた。しかしそのほとんどは、良い結果を得ることができなかったため、国民やメディアから税金の無駄遣いとして厳しい批判を受けた<ref name="大野">[http://apital.asahi.com/article/kiku/2015011300007.html これって効きますか? 《111》「代替医療」の功罪] 大野智 朝日新聞の医療サイト・アピタル</ref><ref>[http://www.igaku-shoin.co.jp/paperDetail.do?id=PA02967_04 〔連載〕続 アメリカ医療の光と影 第216回 セラピューティック・タッチ] 李啓充 医師/作家(在ボストン)、[[医学書院]]</ref>。(参考:[[セラピューティック・タッチ]])これにより、2010年頃から国立補完代替医療センターの研究目的は、「代替医療」から通常医療を補う「補完医療」に大きく変更され、各種施術療法の総称として、補完代替医療(complementary and alternative medicine)ではなく、'''補完的健康アプローチ'''(complementary health approaches)を使うようになった。センターの名称は、2014年12月に'''アメリカ国立補完統合ヘルスセンター'''に変更され、代替医療の「代替」を意味する「Alternative」が除かれた<ref name="大野"></ref><ref>[https://nccih.nih.gov/news/press/12172014 NIH complementary and integrative health agency gets new name] National Center for Complementary and Integrative Health (NCCIH)</ref>。研究の目的が「病気の予防・治療」から「'''症状'''<ref>病気そのものによる症状、治療に伴う副作用を指す。</ref>'''のマネジメント'''」へと変わったことで、近年(2015年時点)では、各種施術療法における「症状のマネジメント」に関する有効性が証明されてきている<ref name="大野"></ref>。
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[[1983年]]、王室基金の援助で代替医療などの研究を行う、{{仮リンク|補完医療研究委員会|en|Research council for complementary medicine}}(RCCM)が設置される。
[[1991年]]、[[保健省 (イギリス)|イギリス保健省]]は医師が効用が医学研究者によって科学的に証明された補完・代替医療の場合は治療家を雇用することが保険適用できることにした。
[[チャールズ (プリンス・オブ・ウェールズ)|ウェールズ公チャールズ]]の案で、5か年計画で国家レベルでの代替医療の研究が進められている<ref name="cam2006report"/>。
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=== ドイツ ===
近代医学発展の主な舞台はドイツであるが、近代医学においては治療の分野の発展が最も遅れたため、ギリシャ・アラビア医学([[ユナニ医学]])を受けつぐヨーロッパの伝統医療や各種療法、医師免許を持たない治療者による医療も非常に大きな位置を占めてきた<ref name="服部" /><ref>酒井シヅ 著 『医学史への誘い』 診療新社、2000年</ref>。[[ナチスドイツ]]の時代に[[ハイルプラクティカー]](独:''Heilpraktiker'')という自然療法、伝統療法を行うことができる国家資格が作られ<ref>ロバート・N・プロクター 著 『
健康帝国ナチス』 宮崎尊 訳、草思社 、2003年</ref>、現在もこの制度が保持されている<ref>[http://www.aromakankyo.or.jp/basics/howto/world/germany01.html アロマテラピーワールドマガジン ドイツ編 ハイルプラクティカー1] 日本アロマ環境協会</ref><ref>[http://www.aromakankyo.or.jp/basics/howto/world/germany02.html アロマテラピーワールドマガジン ドイツ編 ハイルプラクティカー2] 日本アロマ環境協会</ref><ref>[http://www.aromakankyo.or.jp/basics/howto/world/germany03.html アロマテラピーワールドマガジン ドイツ編 ハイルプラクティカー3] 日本アロマ環境協会</ref><ref>[http://www.aromakankyo.or.jp/basics/howto/world/germany04.html アロマテラピーワールドマガジン ドイツ編 ハイルプラクティカー4] 日本アロマ環境協会</ref>。日本補完代替医療学会は、主要先進国では最も代替医療が活用されていると報告している<ref name="cam2006report"/>。
===東アジア===
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=== 日本 ===
{{see also|漢方医学}}
日本で代替医療の歴史をさかのぼるということは、[[伝統医学]]等の歴史をさかのぼるということになるので、その起源を明らかにすることは困難な面がある<ref name="Tenbou" />。
近年では現代医学の視点から代替医療を検証しようとする動きがあり、1997年に日本代替医療学会(現 日本補完代替医療学会)が創設された。会員数は約1000名で、会員構成比率上位を5つを挙げると内科医、外科医、薬剤師、産婦人科医、小児科医となっている<ref name="Tenbou" />。1998年には日本代替・相補・伝統医療連合会議が、2000年には日本統合医療学会が設立された<ref>[http://www.imj.or.jp/jact/index.html 日本統合医療学会]</ref>。漢方医学は日本の伝統医学なので以前から日本の大学医学部において講座が設置されていたが、2002年3月には補完代替医療学講座という名称では初となる講座が[[金沢大学]]に誕生した。日本ではさらに、[[北陸大学]]薬学部に代替医療薬学教室が、[[大阪大学]]大学院医学系研究科に生体機能補完医学講座が設置されている(2006年現在)<ref name="Tenbou" />。
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日本で行われることがある代替医療・補完医療の具体例としては以下のようなものがある。日本では[[混合診療]]は認められていないため、保険適用外の療法は病院で行われない。
*[[中国医学]]、[[漢方医学]](一部の薬が日本薬局方に収録されている)
*[[鍼灸]](国家資格として[[はり師]]と[[きゅう師]]がある)
*[[柔道整復術]](国家資格として[[柔道整復師]]がある)
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== 代替医療とエビデンス ==
{{出典の明記|section=1|date=2010年10月}}
補完・代替医療に用いる薬物の科学的検証の手順などは、現代医学でのそれとは異なっていることが多い<ref name="Tenbou" />。現代医学の場合では、新奇な物質を用いようとすることが多いわけなので、まず物質を同定してから細胞実験、動物実験、人体における臨床、という順で行われるが、
代替医療の中には、[[鍼灸]]・[[漢方医学|漢方]]([[薬用植物]])・[[推拿]]のように、長い歴史の中で経験的に有用性が認められてきたが、近年改めて科学的実験・調査が行われ、有意な治療効果が見込めることが確認されるようになった療法もある。鍼灸・漢方といったような代替医療にも[[エビデンス]]を主体にした考え方も出てきており、また、[[世界保健機関|WHO]]が1996年、鍼灸における適応疾患を起草したり、1997年、NIHの鍼治療の合意形成声明書が発表され<ref>[http://nccam.nih.gov/health/acupuncture/ NCCAMの鍼治療レポート 英語]</ref>、現代医学の補完代替医療へのアプローチも進んできている。
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米国政府は補完代替医療の有用性を検証研究するため、米国[[アメリカ国立衛生研究所|NIH]]の下部組織として国立補完代替医療センター (NCCAM) を設立した。
イギリスにおける[[リフレクソロジー]]のように、数年にわたる実データの蓄積を含む正規の科学的な検証を経たうえで、議会の承認を経て正規の保険医療に組み込まれ成果をあげているものもある
食事療法や健康食品のような分野は補完・代替医療の中でも研究が行われにくいために、エビデンスが少ないと報告されている<ref>ウェンディ ウェイガー『がんの代替療法―有効性と安全性がわかる本 ハーバード大学の研究グループによる最新報告』法研、2004年 ISBN 978-4879545183。</ref>。
米国では、食事療法や健康食品の使用については特定の疾患では注意した上で容認するというガイドラインがある<ref name="cam2006report" />。
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