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[[File:Sale of Land to Pay a Ransom ca 1033 BC.jpg|thumb|250px|right|紀元前1033年の 土地の売買の[[契約書]]。([[大英博物館]]所蔵)]]
[[ファイル:Mulapin.jpg|thumb|250px|right|バビロニアの[[天文学]]について書かれている粘土板]]
[[画像:Ybc7289-bw.jpg|thumb|250px|right|[[バビロニア]]の粘土板 YBC 7289 (紀元前1800-1600年頃)<br> [[2の平方根]]の近似値は60進法で4桁、10進法では約6桁に相当する。1 + 24/60 + 51/60<sup>2</sup> + 10/60<sup>3</sup> = 1.41421296... [http://www.math.ubc.ca/~cass/Euclid/ybc/ybc.html]。(Image by Bill Casselman)]]
'''粘土板'''(ねんどばん、{{Lang-en-short|clay tablet}})とは、[[古代メソポタミア]]およびその周辺地帯において文字を記すために用いられた材料
 
<ref name="nipponica">『日本大百科全書』(ニッポニカ)[https://kotobank.jp/word/%E7%B2%98%E5%9C%9F%E6%9D%BF-1575556]</ref>。おもに[[楔形文字]]を記すために用いられた<ref name="nipponica" />。「粘土書板」とも<ref name="nipponica" />。
'''粘土板'''(ねんどばん)とは主に[[メソポタミア]]で使われた情報伝達のための手段である。
 
== 概要 ==
粘土板とは[[古代メソポタミア]]およびその周辺地帯から出土する[[粘土]]でできた板で、主に楔形文字を記しているものを指している。そこに書かれている文書は「粘土板文書」などと呼ばれている。
粘土板を用いた文書作成はメソポタミアの[[楔形文字]]発生とともに始まったとされている。[[シュメール]]の伝説では英雄[[エンメルカル]]が使者を派遣する際に使者が口上を覚えられないために粘土板に記したとされている。また、発掘によって確認された最古の粘土板文書は[[ウルク (メソポタミア)|ウルク遺跡]]第4層から出土し、紀元前3300年頃のものとされているが、その内容は[[農業|農作業]]や[[牧畜]]に関するものであり、[[伝説]]・[[考古学]]いずれも実用目的に由来しているところが特徴的である。通常は自然[[乾燥]]を施されるが、重要な文書は火で焼き固められて保存性を高めた。粘土板文化圏はメソポタミアを中心として[[シリア]]・[[アナトリア]]・[[エラム]]にまたがる広範囲なもので、時代の下限も[[アケメネス朝]]・[[ヘレニズム]]に至っている。そこに書かれた言語も[[シュメール語]]・[[アッカド語]]・[[ヒッタイト語]]・[[エラム語]]など古代[[オリエント]]の多くの言語にわたっている。<ref>前田徹「粘土板文書」『歴史学事典 6 <small>歴史学の方法</small>』弘文堂、1998年、P494。</ref>
 
(粘土板は現代風に言うなら)文字の[[記録媒体]]<ref name="toshokanjouhougaku">図書館情報学用語辞典</ref><ref>後世の人に感覚的に分かるように比喩的に説明するなら、[[古代エジプト]]の人には「[[パピルス]]のようなもの」、西洋[[中世]]の人々に説明するなら「[[羊皮紙]]のようなもの」、18世紀ころ~20世紀の人々に説明するなら「[[紙]]のようなもの」といったところになるであろう。それくらい一般的な書記材料だったのである。</ref>。文字を記録しやすく、携帯することも可能であったため、[[紀元前3000年]]以前から西暦紀元直後まで、さまざまな言語の記録に用いられた<ref name="toshokanjouhougaku" />。使用範囲・使用言語が多様であるばかりでなく、西暦[[1世紀]]~[[2世紀]]ころに廃用になるまでの前後3000年以上の長きにわたって用いられた材料であり、今までのところ発見されている粘土板だけでも40万枚になると言われており、今後まだ多くが発見される可能性がある<ref name="nipponica" />。
 
出土する粘土板は楔形文字だけが刻まれているものが圧倒的に多いが、なかには地図や図などが刻まれたものもある。当時あまりに一般的な材料だったので、出土する文書の比率としては日常的でこまごましたもの、たとえば領収書や納税記録やメモ書きなどが多いが、そうしたものばかりでなく、出土する場所によってはもっと重要な文書、たとえば学術書、外交文書、歴史書などの割合が高くなる。また「人類の(古代の)文学史上に輝く金字塔」などと賞賛されることのある『[[ギルガメシュ叙事詩]]』もこの粘土板で記されたということは指摘しておくべきだろう。
 
;歴史
しばしば「粘土板を用いた文書作成は[[メソポタミア]]の[[楔形文字]]発生とともに始まった」と言われている。
[[シュメール]]の伝説では英雄[[エンメルカル]]が使者を派遣する際に使者が口上を覚えられないために粘土板に記したとされている。また、発掘によって確認された最古の(楔形文字の)粘土板文書は[[ウルク (メソポタミア)|ウルク遺跡]]第4層から出土し、紀元前3300年頃のものとされている<ref name="rekishigakujiten">前田徹「粘土板文書」『歴史学事典 6 <small>歴史学の方法</small>』弘文堂、1998年、P494。</ref>。
 
ただし厳密なことを言えば、粘土板の実際の初期の歴史はそれよりもさらに古い。(上述のように)最古の楔形文字の遺物はメソポタミアの古都[[ウルク]]で発見されたウルク文書のものとされるのに対し、粘土板はそれ以前から、楔形文字の前身である絵文字を記したり印刻するためにも用いられていた<ref name="nipponica" />。とは言え、本格的に大量に用いられるようになったのは楔形文字の書記のためなので「粘土板を用いた文書作成はメソポタミアの楔形文字発生とともに始まった」と言ってもさほど間違っているわけではない。
 
(ウルク文書の)主な内容は[[農業|農作業]]や[[牧畜]]に関するものであり、[[伝説]]・[[考古学]]いずれも実用目的に由来しているところが特徴的である。粘土板文化圏はメソポタミアを中心として[[シリア]]・[[アナトリア]]・[[エラム]]にまたがる広範囲なもので、時代の下限も[[アケメネス朝]]・[[ヘレニズム]]に至っている<ref name="rekishigakujiten" />。
 
楔形文字はまずは[[シュメール人]]により[[シュメール語]]の書記に体系的に使われるようになり、その後下記の人々によって、彼らが用いる下記の言語の書記に用いられた<ref name="nipponica" />。
*[[バビロニア]]人・[[アッシリア人]]([[アッカド語]])<ref name="nipponica" />
*[[ウラルトゥ]]人([[ウラルトゥ語]])<ref name="nipponica" />
*[[ヒッタイト人]]([[ヒッタイト語]]ほか数語)<ref name="nipponica" />
*[[フルリ人]]([[フルリ語]])<ref name="nipponica" />
*古代[[シリア]]人([[ウガリト語]]、[[エブラ語]])<ref name="nipponica" />
*[[エラム]]人(古[[エラム語]])<ref name="nipponica" />
*古代[[ペルシア]]人([[アケメネス朝]][[古代ペルシア語]]、新エラム語)<ref name="nipponica" />
<!--そこに書かれた言語も[[シュメール語]]・[[アッカド語]]・[[ヒッタイト語]]・[[エラム語]]など古代[[オリエント]]の多くの言語にわたっている<ref name="rekishigakujiten" />。-->
 
また歴史的な影響の観点から特筆すべきこととしては、粘土板はエジプトにまで運ばれ[[アマルナ文書]]となり、さらには、地中海の[[クレタ文明|クレタ文化]]、[[ミケーネ文化]]にも影響を及ぼし、[[線文字B]]文書(古ギリシア語)などの作成にも使われた、ということもある<ref name="nipponica" />。
 
通常は自然[[乾燥]]を施されたが、重要な文書は火で焼き固められて保存性を高めた<ref name="rekishigakujiten" />。乾燥させただけでは湿らせれば改変も可能であるため、改ざん防止目的で焼いたり粘土製の封筒をかぶせることもあった<ref name="toshokanjouhougaku" />。
 
 
== 製法・使用法・保存法 ==
#[[泥]]を用意する
#*なお、この段階で干し草を加え、木枠に入れて抜いて乾燥させると建築物を造るための「日干しレンガ [[:en:Mudbrick|mudbrick]]」となり、さらに焼成すれば焼成[[煉瓦]]となる。[[建築材料]]となり、[[ジッグラト]]の建設にも使われた。
#[[篩]]にかけ、水でよく洗い、不純物を取り去る
#*2に関してこの作業は、メソポタミアの場合は省くことが出来。なぜなら河が泥を運んでくるときに十分に水洗いされ綺麗になっているからである。
#*なお、ここで干し草を加えると家屋を造るための[[煉瓦]]になる
#板の形にして[[楔形文字]]を刻むする
#* 用途に応じた大きさで作る。大抵の場合(領収書など日常のちょっとした用途なので)手のひらにのるくらいの大きさにつくり、学術書や外交文書などを作成する場合などは大型の板をつくる。
#重要な文書の場合[[日干し]]にして焼き、そうでない場合単に[[陰干し]]にして乾かす
#[[楔形文字]]を刻む
*2に関しては、メソポタミアの場合は省くことが出来る。なぜなら河が泥を運んでくるときに十分に水洗いされ綺麗になっているからである。
#*金属や[[葦]](あし)の[[茎]]でできた道具を押し付けることにより楔形の「へこみ」をつくり文字とした<ref name="nipponica" />。
#重要な文書の場合[[日干し]]にして焼き、そうでない場合単に[[陰干し]]にして乾かす
 
== 主な用法 ==
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*:[[土地]]の大きさから[[税金]]を決める、等
*[[商取引]]のための契約書
*:国内での売買の[[契約書]]、貸借契約の契約書
*[[外交]]で[[条約]]などを締結するときの[[公文書]]
*:例えば[[バビロニア]]と[[エジプト]]の交わした合意文書などが残っており、それらはみな焼かれたものである
*[[図書館]]などに置く学術書、[[詩]]、等