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Cewbot (会話 | 投稿記録)
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女性のメロウの場合、その容姿は〈上半身は人間、下半身が魚〉とする西洋一般の典型的な人魚像と大差はない。その下半身は(オハンロン牧師によれば)緑色のかかった鱗が密集している<ref>{{harvnb|O'Hanlon|1870|p=56}}: "covered with greenish-tinted scales"</ref>。緑色の毛髪をもち、ときには手に携えた櫛で髪を梳かす{{sfnp|Croker|1828|loc='''II''', 6|ps=: ''The Lady of Gollerus''}}{{sfnp|Croker|1828|loc='''II''', 73|ps=: "[[:en:The Wonderful Tune|The Wonderful Tune]]"}}{{Refn|group="注"|{{Harvnb|イエイツ|井村|1986|loc=「ゴルラスの婦人」}}では、緑髪ではなく「青黒い海のような色」(308頁)「緑の黒髪」(310頁)などと表現。}}。指と指の間にはおぼろげながら[[水かき]]がついており、それは[[鶏卵#卵殻膜|卵の殻の薄皮]]のように白く薄い膜という{{sfnp|Croker|1828|loc='''II''', 5|ps=: ''The Lady of Gollerus''}}。
 
メロウは「つつましく、親しみぶかく、優しく恵みぶかい」とも評され{{sfnp|O'Hanlon|1870|p=56}}、「人間との絆をつくること」もできるし、[[異類婚姻譚|異種同士での婚姻]]がおこなわれた報告例もあるという{{sfnp|O'Hanlon|1870|p=57}}。[[コーク]]の町{{仮リンク|バントリー|en|Bantry}}では、子孫に「うろこ状の皮膚」や「手指・足指のあいだの薄膜」などの兆候があらわれた例が伝わる{{r|"kennedy-LFIC-p121"}}{{Refn|group="注"|ケリー州のオフラハティやオサリヴァン一族は、メロウの混血の家系だと伝わっており、クレア州のマクナマラ一族の苗字は「海の息子」を意味するが、これもメロウの祖先がいたためとの家伝があった{{sfnp|Croker|1828|loc='''II''', 16}}。}}。しかし何年も生活を共にすることはあっても、そのうち一種の帰巣本能が働きメロウは海中に戻ってしまう。それは家族の愛ですら引き留めることはかなわない{{sfnp|O'Hanlon|1870|p=57}} 。その衝動を抑えるためには、人魚妻の持ち物である「[[#コホリン・ドゥリュー|コホリン・ドゥリュー]]」(「魔法の[[頭巾]]」)を、見つけられないように厳重に保管する必要がある{{r|"kennedy-LFIC-p121"}} 。
 
オハンロン牧師によればメロウは「外皮」を脱いで「さらに魔法めいた美しい」生物に変身するというが<ref>{{harvnb|O'Hanlon|1870|p=57}}: "more magical and beauteous"</ref>、クローカーの解説では、外皮を脱ぐのはメロウではなく、スコットランド北部[[シェットランド諸島]]の海の女「セルキー」またはデンマーク領[[フェロー諸島]]のアザラシ妻である{{sfnp|Croker|1828|loc='''II''', 13–16}}。一見食い違うようであるが、ある研究論文によれば、海に帰還するための必要具は、アイルランドのメロウの場合は「全身を覆う」帽子であり、スコットランドの「波の女」の場合は下半身のみ鮭に変身するための外皮だとしている{{sfnp|Kickingereder|2008|p=60}}。
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===男のメロウ===
アイルランド民承における男性のメロウについては「[[魂の籠]]」という物語がある。魚人が航海で溺れた人たちの魂を籠({{仮リンク|ロブスターポット|en|lobster pot}}に似た籠)に封じ込め、それらを飾って眺めて暮らしている、という設定である{{sfnp|Keightley|1850|pp=527–536}}{{sfnp|イエイツ|井村|1986|loc=『ケルト妖精物語』, 137–160頁}}。ただしこれは語り手から採集された真正の民話ではなかった。後年になって、物語の提供者である{{仮リンク|トマス・カイトリー|en|Thomas Keightley}}が、これがみずからの創作(ドイツ民話「水の精と農夫」の翻案<ref group="注">グリム兄弟{{仮リンク|ドイツ伝説集|en|Deutsche Sagen|label=『ドイツ伝説集』}}所収「男の水の精〔ヴァッサーマン〕と農夫」"Der Wassermann und der Bauer"'。カイトリーは"The Peasant and the Waterman"として英訳している。</ref>)だったことを暴露した。ただ、カイトリーは、[[コーク]]や[[ウィックロー県]]では偶然にも自分の創作と合致する内容の民話が伝搬していた、と釈明した{{sfnp|Keightley|1850|p=536n}}{{r|markey}}。
 
「魂の籠」に登場する男のメロウは、名をクーマラといい(Coomara ;「海の犬」の意{{sfnp|Croker|1828|loc='''II''', 55}})、体も髪も歯も緑色をしており、鼻は赤く、目は豚似で、鱗に覆われた下肢のあいだからは魚の尾を生やしており、腕は鰭(ひれ)のように短かった{{sfnp|イエイツ|井村|1986|loc=『ケルト妖精物語』, 140, 141, 321頁}}{{sfnp|九頭見|2007|p=50}}。クローカーは、同じ特徴(緑色の毛髪や葉、赤鼻、豚似の目)は、すべての男のメロウに通ずるものとしており、男のメロウは総じて醜いものと結論づけている。その結論は、オハンロン牧師やイエイツ、ケネディに受け継がれた{{sfnp|Kennedy|1866|p=121}}{{sfnp|Kinahan|1983|p=260}}。