「エンジンオイル」の版間の差分

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エンジンオイルは、機械的圧力による分子の[[せん断|剪断]](せんだん)、外気による酸化・[[ニトロ化合物|ニトロ化]]、熱による[[重合反応|重合]]、燃料や[[ブローバイガス]]などの混入・希釈により徐々に劣化する。劣化すると粘度が低下し、エンジン内部の油膜形成が出来なくなり保護性能が失われ、エンジンの故障につながる。そのため、劣化の度合いによりオイルの交換が必要となる。
 
添加剤配合量にもよるが、鉱物油では約70℃ - 90℃110℃以上、化学合成油でも110 - 130℃程度以上で熱による化学変化などのオイル劣化が始まり、一度劣化したオイルは油膜保持性能や緩衝作用などの性能が低下し回復しない。
 
オイルの劣化度合いは、目で見る・触る等の簡単な方法で判断できるものではない。一般に指標とされる色の黒さは炭化物によるもので、清浄性や分散性とは直接関係しない。乗用車の場合、使用期間や走行距離(後述)によって交換時期が規定されているが、発電や産業用エンジンの場合、稼働時間で規定される場合が多い。
 
また、劣化だけでは無く、オイル量のチェックも必要である。エンジンに不具合が無くともオイル量は徐々に減少するため、規定量より下回らないように適時補充する必要がある。ただし、一般的には減少量はわずかで、オイル交換時期までに補充を必要とする場合は少ない。大きく減少するようならばオイル漏れやオイル上がり、逆にオイル量が増えた場合は燃料や冷却水等の混入といったトラブルが予想される。
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* 未舗装路等の粉塵の多い道路の走行。
 
環境保護を目的として、20,000から30,000kmと長い交換サイクルを指定する自動車もある。欧州車では酸化等の劣化が進みにくい特性を持つエンジンオイルを指定し、オイル容量を多くすることで、長期間使用できるようにしていることが多い。ただし、交換の距離は増えても、期間は大幅には増えていないことに注意が必要である。また、輸入車メーカーでも、天候や渋滞など使用環境の厳しい日本仕様では、交換距離を短くしている車種も多い。
 
これらの指定は保証期間内でエンジンに支障をきたさないために自動車メーカーとして定めた最低限の要求であり、オイル自体の劣化は徐々に進んでいる。そのため、メーカー指示値を最大として使用条件により早めに交換した方が良いという意見がある。しかし、現在は[[製造物責任法]]により[[取扱説明書]]の記述に欠陥がある場合は製造物の欠陥と同格に扱われることが規定されており、不具合に繋がる危険性を十分に排除した記載が製造者側に求められていることだけでなく、廃棄物などの環境負荷の観点から、指定交換時期は余裕を持って設定されているとの見解もある。
 
上記のように自動車メーカーが交換時期を定める一方、一部のオイルメーカーや[[ガソリンスタンド]]、[[カー用品店]]、[[自動車整備工場]]等では3,000から5,000kmごとの交換を推奨している。その根拠として、3,000から5,000km程度走行するとエンジンの機械的な騒音が多少高くなることやオイルが汚れて黒くなること、更には特に日本において一般的な自動車ユーザの使用状態が低速・短距離側のシビアコンディションに該当する、などを挙げている。この騒音は機構上問題が無い程度のオイル粘度の低下が主であり、多少大きくなってもエンジンが故障するものではない。また、オイルが黒くなるのは清浄作用が働いているためであり、早くて1,000kmほどで黒くなる場合もある(ディーゼルエンジンの場合黒くなるのが早い場合がある)が、黒くなったからといっても直ちに性能が劣化しているとは言えない。これら言説では劣化状況の説明として不十分である。他に交換推奨距離を短くする理由として、摩耗防止性能が新油の7 - 8割程度に劣化する距離で設定している場合もある<ref>カストロールなどのオイルパンフレットにおけるオイル性能曲線などを参照。</ref>。
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使用者としては、車種毎に決められたオイル交換時期や[[シビアコンディション]]の定義を参考に、油量などの適切な点検を行った上でオイル交換の頻度を決めることになる。<!--(若干意味不明) 一部業者による、オイルの交換サイクルが原因と喧伝される故障の内には、油量不足を原因とするべきものが含まれている。-->
 
* [[すす]]の出易い[[ガソリン直噴エンジン]]や[[ロータリーエンジン]]、は、一般的な[[ガソリンエンジン]]よりもエンジンオイルにとって厳しい条件となるため、短期間での交換が推奨されている場合が多い。また、専用純正オイルが用意されている場合もある<ref>例えば、[[三菱自動車工業|三菱自動車]]は、かつて[[GDI]]エンジン専用に清浄性を強化したオイルを用意していたが、汎用の純正オイルの品質を改善したため、現在はGDIも通常の三菱純正オイルが使用される。</ref>。また、ロータリーエンジンでは、アペックスシールの化学合成油による侵食劣化が原因での気密漏れ事例も報告されており、ロータリーエンジン(特にFC3S型[[RX-7]]以前の搭載エンジン等)には高粘度で攻撃性の低い鉱物油が良いとされている。
<!-- あまり細かい事例はここでは不要では。
* 近年登場しつつあるスロットルバルブを廃し、吸気バルブのリフト量調節によるエンジン出力調整を行う([[バルブトロニック]] (BMW) や[[バルブマチック]](トヨタ)と呼ばれるもの)機構を持つガソリンエンジンは、その構造上"オイル下がり"(吸気バルブハウジング出入口での圧力変動により、吸気バルブを潤滑しているオイルを燃焼室内に吸い込み排気されてしまう現象)が起きやすい。--->
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初期の時点でオイル減りが激しいようであれば、ピストンクリアランスや、バルブステムとバルブステムガイドの間のクリアランス等が基準を超えている場合も考えられ、将来的には車自体の寿命を縮める結果ともなるため、早期にエンジンを下ろしての部品交換が必要となる場合があるからである。←ここに記述するほど一般的なことか?一旦非表示--->
* 一般的な鉱物油の基油で粘度指数が100未満、PAOやVHVIで130程度であるが、このままではまだ要求する粘度指数に満たないため、粘度指数向上剤(ポリマー)を配合し粘度指数を上げているが、配合されている添加剤は変質しやすいので時間の経過と共に粘度が失われていく。また、エステル系の化学合成油は水分が加わると分解(加水分解)しやすい性質があるため、加水分解防止剤が添加されているが、長期間の多湿地域での走行などでは短い期間で交換を要する場合がある。
** 一方でPAO系の化学合成油はPAOの化学的安定性が非常に高く、また耐熱性も高いために長期間の放置、長距離、長時間の使用に耐えうるロングドレイン油として使用される。鉱物オイルにおいても、配合される添加剤によって熱安定性が改善する場合もある。一般に売られている化学合成油の殆どはPAOをベースにしているために交換推奨距離、期間が長いものが多い
** このように化学合成油といっても、ベースオイルや添加剤によって耐久性が異なり、全てが長期間、長距離使用できる訳ではない。また、化学合成油はオイルシールに対する攻撃性(分子の細かさから来る浸透性)が、鉱物油より高く(PAO系=収縮性・エステル系=膨張性)、化学合成油の使用を前提としないオイルシールを使用した旧車等では、オイル漏れが発生する可能性がある。
* エンジンオイル交換の際に上限を超えた量を注入すると、エンジン内部(クランク等)にオイルが干渉して内部抵抗が増え、燃費が悪化したりオイル中に気泡が発生してブローバイが増加し、エンジンオイルの寿命が縮まる事がある。その為、オイルは適正な量を充填しなければならない。
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==== ディーゼル車 ====
[[ディーゼルエンジン]]のオイルは、圧縮比が高いことから、[[ガソリンエンジン]]と比べて機械的に過酷な環境下で使用されるためにオイルはガソリンエンジン車車より劣化が早いため、国産メーカーのディーゼル車のオイル交換推奨距離は5,000km程度(トヨタ車)とガソリン車より短く設定されている。燃焼時に生じる黒煙の影響のため、オイルの色は交換後でも早期に黒くなるが、オイル交換は色よりも走行距離や稼働時間で管理することが望ましい。ガソリン車用オイルにはディーゼル車共用のオイルも存在するが、これにはディーゼルエンジンで多く発生する[[すす]]をオイル中に分散させる清浄分散剤や、硫黄からのSOx分や燃焼時のNOxなどの酸化物質を中和する酸化防止剤などが通常より多く含まれているためである。
[[ディーゼルエンジン]]のオイルは、燃料の[[軽油]]に[[硫黄]]分が多く含まれることから、[[ガソリンエンジン]]と比べて過酷な環境下で使用されることとなる。ただし軽油の硫黄分に関しては国内流通では既にサルファーフリー(10ppm以下)となっているため過酷の度合いは低下している。燃焼時に生じる黒煙の影響のため、オイルの色は交換後でもすぐに黒くなる。透明度や色で交換時期を判断しにくいため走行距離(稼働時間)で管理することが望ましい。実際国産メーカーのディーゼル車のオイル交換推奨距離は5,000km程度(トヨタ車)でガソリン車より短く設定されている。ガソリン車用の化学合成油配合油にはディーゼル車共用のオイルも存在するが、これはディーゼル車用エンジンオイルに必須となる[[すす]]をオイル中に分散させる清浄分散剤の配合量と軽油に含まれる硫黄からのSOx分、燃焼時のNOxなどの酸化物質を中和する中和剤、オイルの酸化を防止する酸化防止剤などが鉱物油より化学合成油系には多く含まれているためである。しかし、ディーゼル専用として作られたオイルと比べるとそれでも添加量は不足しており、結果として価格の低いディーゼル車専用鉱物油が、価格の高い共用100%化学合成油よりもディーゼルエンジンオイルとしては規格が上であることが多い。また、[[ディーゼル微粒子捕集フィルター|DPF]]装着車は排気ガス中に含まれるオイル粒子を触媒内に蓄積してしまうため、これが排気熱により過熱することによって触媒劣化が異常進行し触媒寿命を縮めてしまう。従ってDPF装着車の場合はこの問題に対策をとったオイルに与えられる日本技術会の規格であるDH-2規格のオイルを使用することが望ましい。API規格のCF-4規格だと対応しているものと対応していないものがある。さらに新しい規格で軽量車向けであるDL-1が存在し、既存のCF系規格(CF/CF-4)や重量車向けであるDH規格(DH-1/DH-2)、また欧州向けのACEAのCカテゴリやEカテゴリとの互換性は無い(各々の規格が併記されていれば共用可(ただし通常は併記されるのは軽量車向け同士か重量車向け同士である)・例:DL-1/DH-2/CF-4/C3/E9)。DL-1規格が指定されている車両にそれ以外のオイルを使用し続けると、格段にDPFの寿命を縮める結果を招く。これらDPF対策を行った規格オイルは金属系清浄剤などを削減し灰分を低減したもの仕様となり清浄性・中和性は従来のものより抑えられる形となる。この為これらの規格は低硫黄軽油の使用が前提となっており高硫黄軽油の使用は厳禁である。車両に付属している取扱説明書をよく確認する必要がある。日常的なメンテナンスの一部であるエンジンオイルの交換については、ある程度ユーザー側の責任が求められる部分もある。
 
最近の[[ディーゼル微粒子捕集フィルター|DPF]]装着車は排気ガス中に含まれる硫黄や金属成分が多いと触媒が劣化して寿命を縮めてしまう。従ってDPF装着車の場合はこの問題に対策をとった日本技術会の規格であるDH-2規格のオイルを使用することが必須である。さらに新しい規格として軽量車向けのDL-1が存在するが、これは重量車向けのCF規格やDH規格(DH-1/DH-2)、また欧州向けのACEAのCカテゴリやEカテゴリの規格と、対応が併記されていない限り互換性が無い(例:DL-1/DH-2/CF-4/C3/E9)。このように、最新のディーゼルエンジンに使用する燃料やオイルについては車両に付属している取扱説明書の注意をよく確認する必要がある。日常的なメンテナンスの一部であるエンジンオイルの交換については、ユーザー側の責任が求められる部分もある。
ディーゼル車が走行距離の多い[[貨物自動車|長距離トラック]]など[[社用車|営業車]]等に使われる場合が多く、オイルの交換頻度は車両の維持費、多忙な運転時間を割いての交換作業、台数が多ければ会社の経営にすら影響を与える問題となる。このため、化学合成油をベースオイルにし、[[スス]]の分散性、耐[[磨耗]]性を強力な添加剤で補ったロングドレンオイルも造られている。これらの中では、[[高速道路]]での走行を主体とした路線トラックに使うことを前提に10万kmの走行を可能と謳う商品も現れている。
 
ディーゼル車がエンジンは、走行距離の多い[[貨物自動車|長距離トラック]]など[[社用車|営業車]]等に使われる場合が多く、オイルの交換頻度は車両の維持費、多忙な運転時間を割いての交換作業、台数が多ければ会社の経営にすら影響を与える問題となる。このため、化学合成油をベースオイルし、[[スス]]の分散性、耐[[磨耗]]性を強力な添加剤で補ったロングドレン化を図ったオイルも造られている。これらの中では、[[高速道路]]での走行を主体とした路線トラックに使うことを前提に10万kmの走行を可能と謳う商品も現れている。
欧州では交換サイクルがガソリンよりディーゼルの方が長いというケースもあり、乗用車においても必ずしもディーゼルの方が交換サイクルが短いとは言えなくなってきている。フォルクスワーゲンの場合ガソリン車(VW504規格)30,000km/2年に対しディーゼル車(VW507規格)では最大で50,000km/2年となっている。
 
ディーゼルエンジンが多く使われている欧州では、ロングドレンオイルのオイル量を増やすことにより、交換サイクルがガソリンよりディーゼルの方が長いというケースもあり、乗用車においても必ずしもディーゼルの方が交換サイクルが短いとは言えなくなってきている。フォルクスワーゲンの場合ガソリン車(VW504規格)30,000km/2年に対しディーゼル車(VW507規格)では最大で50,000km/2年となっている。
 
==== オートバイ(自動二輪車) ====