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[[ペルセース]]と[[アステリアー]]の娘で(そのため、「ペルセースの娘」を意味する「ペルセーイス」とも呼ばれる<ref name="ギリシア・ローマ神話辞典">『[[#ギリシア・ローマ神話辞典|ギリシア・ローマ神話辞典]]』(高津春繁)227頁。</ref>)[[ティーターン]]神族の血族に属する(他にも[[コイオス]]と[[ポイベー]]、[[ゼウス]]や[[デーメーテール]]の娘という説もある)。[[狩猟|狩り]]と[[月]]の女神[[アルテミス]]の従姉妹。月と[[魔術]]、豊穣、幻や幽霊<ref>[[エウリピデス]]『エウリピデス全作品集 II』([[内山敬二郎]]訳、[[グーテンベルク21]]、[[2014年]](平成26年))。</ref>、夜と暗闇<ref>[[澁澤龍彦]]『澁澤龍彥全集』第2巻([[河出書房新社]]、[[1993年]](平成5年))、517頁。</ref>、浄めと贖罪<ref name="guilland" />、出産<ref name="世界の神話伝説図鑑" />を司るとされる。冥府神の一柱であり、その地位は[[ハーデース]]、[[ペルセポネー]]に次ぐと言われる<ref>『地獄』141頁。</ref>。
 
ヘーシオドスの『[[神統記]]』{{efn|ヘシオドスの叙事詩{{sfn|橋本隆夫|2017|p=「『神統記』」}}。[[ホメロス]]の[[ヒーロー|英雄]][[叙事詩]]で断片的・個別的に歌われていた個々の[[神話]]・[[伝説]]を、『神統記』は神々・世界・人間の[[歴史]]という観点から整理統一し、巨大な[[世界観]]を示している{{sfn|橋本隆夫|2017|p=「『神統記』」}}。「後世のギリシャの神話体系が『神統記』の枠を超えることができなかった点からも、この作品のもつ意義はきわめて大きいといわざるを得ない」とされている{{sfn|橋本隆夫|2017|p=「『神統記』」}}。この作品の主題は神々や神霊に加え、[[海]]・[[山]]・[[天]]・[[星]]辰(せいしん)、さらに[[苦痛]]・労苦・[[飢餓]]・[[争い]]等、人間に強く影響する無数の神々の[[発祥|起源]]と[[系譜]]を(つまり[[宇宙]]の始原から[[社会秩序|秩序]][[世界]]成立の全過程を)歌い、語り、説き明かすことだった{{sfn|廣川洋一|2017|p=「神統記」}}。この作品は神々の生成論(テオゴニアー)であり、宇宙生成論(コスモゴニアー)としての一面をも持ち、後の[[ギリシア哲学]]の形成においても重要である{{sfn|廣川洋一|2017|p=「神統記」}}。また詩人の独創的思索力と同時に、「[[古代]][[東方]][[思想]]の[[影響]]も多い」とされている{{sfn|廣川洋一|2017|p=「神統記」}}。}}では、ゼウスによって[[海|海洋]]、[[地上]]、[[天界]]で自由に[[行動|活動]]できる権能を与えられているとされ、[[人間]]にあらゆる分野での成功を与え<ref name="ギリシア・ローマ神話辞典" />、神々に祈る際には先にヘカテーに祈りを捧げておけば御利益が増すとまで書かれており、絶賛されている。これはヘーシオドスの故郷である[[ボイオーティア]]において、ヘカテーの信仰が盛んであったためと考えられている<ref name="グラント" />。そして、ヘカテーは[[ホメーロス]]の著作には一切登場しない<ref name="グラント" />。
 
同じ[[地母神]]にして冥府神でもあるペルセポネーやデーメーテールとの関係からか、ハーデースによるペルセポネー誘拐の話に登場し、デーメーテールにハーデースがペルセポネーを連れ去ったことを伝えている(ここでは同じくペルセポネーの行方を尋ねられた太陽神[[ヘーリオス]]と対になっており、ヘカテーの月の女神としての性格が強調されているとも言える<ref name="ギラン" />)。また、[[ヘーラクレース]]誕生の際に[[トカゲ]](または[[イタチ]])に変えられてしまった[[ガランティス]]を憐れみ、自分の召使の聖獣としている<ref>『[[#ギリシア・ローマ神話辞典|ギリシア・ローマ神話辞典]]』(高津春繁)102頁。</ref>。さらに[[ギガントマキアー]]にも参加しており、[[ギガース]]の1人[[クリュティオス]]を[[たいまつ|松明]]の炎で倒している<ref group="注釈">ギガントマキアー自体は数多くの神々が参加した総力戦だったが、実際にギガースの1人を倒しているのは[[オリュンポス十二神|オリュムポス十二神]]の神々以外ではヘカテーと[[モイラ (ギリシア神話)|モイライ]]のみであり、ここでも別格の扱いを受けている。</ref>。[[アルゴナウタイ]](アルゴノートたち)の物語では、[[コルキス]](現在の[[グルジア]]西部)の守護神とされ、王女[[メーデイア]]にあつく信奉されており、メーデイアと[[イアーソーン]]はヘカテーを呼び出してその助力により魔術を行っている。ヘーシオドスの『{{仮リンク|名婦列伝|en|Catalogue of Women|label=名婦列伝}}』では、[[イーピゲネイア]]が生贄として殺されようとした際にアルテミスに救い出されて神となり、ヘカテーと同一になったとされている<ref>『[[#ヘシオドス 全作品|ヘシオドス 全作品]]』261頁。</ref><ref>『[[#ギリシア・ローマ神話辞典|ギリシア・ローマ神話辞典]]』([[高津春繁]])54頁。</ref>。
 
後代には、3つの体を持ち、松明を持って地獄の犬を連れており、夜の十字路や三叉路に現れると考えられるようになった<ref name="ギリシア・ローマ神話辞典" /><ref name="guilland" />。十字路や三叉路のような交差点は神々や精霊が訪れる特殊な場所だと考えられ、古代人は交差点で集会を開き神々を傍聴人とした<ref name="堕天使">『[[#堕天使(参考文献)|堕天使]]』116頁。</ref>。中世においても交差点のそばに犯罪者や自殺者を埋葬している<ref name="堕天使" />。また、この3つの体を持つ姿はヘカテーの力が天上、地上、地下の三世界に及ぶことや、新月、半月、満月(または上弦、満月、下弦)という月の三相、または[[処女]][[婦人]][[おばあさん|老婆]]という[[女性]]の三相や、[[過去]][[現在]][[未来]]という時の三相を表している。新月や闇夜の側面はヘカテーが代表することが多かった<ref>『[[#図解 ギリシア神話|図解 ギリシア神話]]』97頁。</ref>。また、月と関連づけられたヘカテーの三相一体の具現形態は、天界では「月神」の[[セレーネー]]、地上では「女狩人」のアルテミス、冥界では「破壊者」のペルセポネーだった<ref>『[[#神話・伝承事典|神話・伝承事典]]』303頁。</ref>。また、貞節な[[ディアーナ]]であると同時に、冥界の地獄の側面を表象するヘカテーであるという二元性を表すとも考えられた<ref>青井紀子『源氏物語・後の思い』([[武蔵野書院]]、2000年(平成12年))、332頁。</ref>。[[カール・ケレーニイ]]はヘカテーの三形態は、母神デーメーテール、少女神コレー・ペルセポネー、冥界の月神ヘカテーを意味し、少女神を囲む二柱の母神を表すものであると述べている<ref>[[秋山さと子]]『母と子の深層』([[青土社]]、[[1990年]](平成2年))、43頁。</ref>。古典後期になると亡霊の女王としてあらゆる[[魑魅魍魎]]を操る、恐ろしい物凄い形相の女神と考えられた<ref>[[呉茂一]]『ギリシア神話』([[新潮社]]、[[1994年]](平成6年))、348頁。</ref>。
 
三つ辻に道の三方向を向いた3面3体の像が立てられ、毎月末に卵、黒い仔犬、黒い牝の仔羊、幼女、魚、玉葱、蜂蜜といった供物が供えられ、貧民の食とする習慣があった<ref name="ギリシア・ローマ神話辞典" /><ref name="ヴァンパイア">『ヴァンパイア 吸血鬼伝説の系譜』184頁。</ref><ref name="堕天使" />(通常神への生贄とする動物は肌が白いものが良いとされたが、ハーデース等の冥界神へは黒い動物が捧げられた<ref>『マンガ ギリシア神話5』154頁。</ref>)。また、供物として家の戸口に鶏の心臓と蜂蜜入りの菓子を供える習慣もあった。さらに[[ヘルメース]]と同じく道祖神のように道に祀られたヘカテーの像は、旅人によって旅の安全を祈願された。出産を司る女神でもあるため、陣痛の痛みを和らげるために祈られることもあった<ref name="世界の神話伝説図鑑" />。また、[[テッサリア]]ではヘカテーを崇拝する女魔術師たちが変身用の軟膏([[媚薬#散薬、塗布薬など|魔女の軟膏]])を作り、ハエや鳥に変身して空を飛んだといわれる<ref>『[[#魔法事典|魔法事典]]』245頁。</ref>。