「首相公選制」の版間の差分
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== 概説 ==
[[首相]]職を設置する国家では[[議会]]による選出か[[元首]]による任命が一般的である。しかし、国民の多数が首相就任を望む人物がかならずしも首相に就任するとは限らず、国民の意思と乖離する可能性がある。首相公選制は首相を選挙により直接的に選出することで、国民の意思に基づいた首相による行政運営が行われることを主眼とする。首相公選制は国民によって直接的に選ばれた強力な首相権力の下で政治的統合を図るという点が主張され、実際の制度の運用において政治抗争や政情不安定などの要因がある場合には、それを解決するための一つの方策として首相公選論の導入が主張されることがある<ref name="ReferenceA">弘文堂編集部 『いま、「首相公選」を考える』 弘文堂、2001年、3頁以下(中曽根康弘)</ref>。
一概に首相公選制といっても、実質的な[[
首相公選制のモデルとしては、まず議会選挙から切り離して大統領を選出する
このモデルの首相公選制の下では、立法権を担う議会とともに行政権を担う首相も国民から直接的に選ばれることになるが、この点は行政権を担う大統領を議会選挙からは独立した選挙によって国民から直接的に選出する
{{Main2|二元代表制である大統領制の特徴については[[大統領制]]を}}
首相公選制は
これに対して議会選挙を実質的な首相指名選挙として機能させるモデルもある
先述のように首相公選制といっても制度像は論者により大きく異なっているが、特に次の点が制度上の論点となる<ref name="山口二郎著 『内閣制度』 有斐閣、2007年、97、99頁">山口二郎著 『内閣制度』 有斐閣、2007年、97、99頁</ref><ref>弘文堂編集部 『いま、「首相公選」を考える』 弘文堂、2001年</ref>。
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[[1992年]]、イスラエルの[[クネセト]]([[国会]])において首相公選法が成立し、[[1996年]]に初めて首相選挙を行い、[[ベンヤミン・ネタニヤフ]]が初めての公選首相に選出された。しかし、新制度による選挙民の[[投票行動]]の変化からクネセトの議員の構成が小党分立傾向が強くなり、またクネセトに[[内閣不信任決議]]の権限が与えられていたこともあって政局が不安定になり、首相の指導力は低下した。つまり、目指す方向とは逆の結果になってしまったのである。
その後、[[1999年]]、[[2001年]]と計3度にわたって首相公選を行ったものの、2001年の公選で成立した[[アリエル・シャロン|シャロン政権]]発足直前に[[リクード]]、[[イスラエル労働党|労働党]]の賛成多数で廃止した。公選廃止はシャロンの政敵だったネタニヤフの台頭を阻止するという面もあった。他方、小党分立によって恩恵を受けていた宗教政党は公選廃止に大反対であった。[[中田宏]]
== 日本における首相公選論 ==
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首相公選論の内容としては、実質的な大統領制への転換を目指すもの、議院内閣制の原理の一部に修正を加えるもの、政党の党首選挙において一般党員による予備選挙を行うことで実質的な首相公選を目指すものなどがある<ref name="西尾128頁"/>。小泉内閣の下での「首相公選制を考える懇談会」でも、国民が首相指名選挙を直接行う案、議院内閣制を前提とした首相統治体制案、現行憲法の枠内における改革案の三案が制度構想として示された。
大統領制のように国民が首相指名選挙を直接行う制度(例として「首相公選制を考える懇談会」の第一案)を採用する場合、現行の[[日本国憲法]]において[[内閣総理大臣]]は[[国会]]の議決に基づいて[[内閣総理大臣指名選挙|指名]]するとしているため([[日本国憲法第67条|67条1項]])、導入には[[憲法改正]]が必要になる(実質的な大統領制への転換を目指すにしても、[[フランス]]や[[ドイツ]]のような大統領制を目指すのか、アメリカ型の大統領制を目指すのかによって大きく異なるとされる)<ref name="西尾勝著 『行政学(新版)』 有斐閣、2001年、129頁">西尾勝著 『行政学(新版)』 有斐閣、2001年、129頁</ref>。また、議院内閣制の原理の一部に修正を加える場合にも、制度によっては憲法改正が必要となる(「首相公選制を考える懇談会」の第二案では憲法に政党条項を加えるとしている)。
このほか首相公選論の具体的内容については、首相の議会解散権やこれに対する議会の公選首相に対する不信任決議を認めるか否か、法律案や予算案に対する首相の拒否権を認めるか否か、内閣を構成する国務大臣(閣僚)を占める国会議員の割合など、その制度像は論者ごとに大きな幅がある<ref name="山口二郎著 『内閣制度』 有斐閣、2007年、97、99頁"/><ref name="西尾勝著 『行政学(新版)』 有斐閣、2001年、129頁"/><ref name="大石70頁">大石眞ほか編著 『首相公選を考える―その可能性と問題点』 中公新書、2002年、70頁(久保文明)</ref>。なお、首相公選制のほかに衆議院議員選挙を実質的な首相指名選挙として機能・運用させる[[国民内閣制]]の議論があるが、これは憲法改正を必要とするものではない<ref>[[高橋和之 (憲法学者)|高橋和之]]著 [[ジュリスト]]1192号「議院内閣制-国民内閣制的運用と首相公選論」 有斐閣、2001年</ref>。
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=== 首相公選制導入への積極論 ===
首相公選制に積極的な意見としては次のような点を根拠として挙げる<ref name="ReferenceA"/><ref name="autogenerated1981">メリットとデメリットの比較について小林直樹著 『憲法講義(下)(新版)』 東京大学出版会、1981年、241頁以下<br>及び、今成勝彦著 『首相公選は日本を変えるか』 いしずえ、2001年、18頁以下</ref>。
* 派閥、政治抗争、政情不安定などの要因はイギリス型の議院内閣制が日本に適合しないことに起因する。
* 国会と政府、議院と大臣との関係を断ち切り、派閥政治・族議員政治・国対政治の弊害を克服し、強力な首相権力の下で政治的統合を図ることができる。
: 首相の任期が保障される制度をとる場合には安定的な政権基盤による政権運営が可能となる<ref>メリットとデメリットの比較について小林直樹著 『憲法講義(下)(新版)』 東京大学出版会、1981年、241頁以下</ref>{{Sfn|今成勝彦|2001|p=19}}。
* 民意を統合するもので主権在民の原理を前進させるものである。
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=== 首相公選制導入への消極論 ===
首相公選制に消極的な意見としては次のような点を問題点として挙げる<ref name="autogenerated1981"/><ref>弘文堂編集部 『いま、「首相公選」を考える』 弘文堂、2001年、57頁以下(吉村正)</ref>。
* 日本国および日本国民統合の象徴である天皇の地位と衝突する<ref name="ReferenceD">橋本五郎・飯田政之・加藤秀治郎著 『Q&A日本政治ハンドブック』 一藝社、2006年、32頁</ref>([[#
* 立法部と行政部の関係が疎遠なものとなり両者に不一致を生じたときに国政の停滞を生じる([[#議会制との関係における問題]])。
* 派閥、政治抗争、政情不安定などの要因が議院内閣制によるものとみるのは的外れである。
: これらの問題の根因と考えられてきた問題は議院内閣制(内閣制度)の問題ではなく政党あるいは官僚機構にある(中選挙区制度、政党の利権共同体としての体質、派閥抗争、内閣と与党の二元構造、党運営上の平等主義、政権交代の欠如、官僚機構の分担管理原則、予定調和的な政策形成など)との指摘がある<ref>弘文堂編集部 『いま、「首相公選」を考える』 弘文堂、2001年、57-58頁(吉村正)</ref><ref>[[山口二郎]]著 『内閣制度』 有斐閣、2007年、99-101頁</ref>。
* アメリカとは政治的伝統や諸条件が大きく異なる。
: イギリス型の議院内閣制が日本に適合しないという主張に対しては、イギリス以上にアメリカとわが国とでは政治的・社会的・経済的に異なるとの指摘がある<ref>弘文堂編集部 『いま、「首相公選」を考える』 弘文堂、2001年、60頁(吉村正)</ref>。
* [[ポピュリズム]]に陥り煽動的政治家の出現を招くおそれがある。
このほか議会が首相に対するチェック機能を果たせなくなり首相の強権的政治に陥るおそれがあるのではないかとの指摘もある<ref name="ReferenceC"/>。
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* 第二案 議院内閣制を前提とした首相統治体制案
: [[憲法]]に政党条項を導入し衆議院選挙で各政党が首相候補を明示して選挙を行うことで衆議院選挙を事実上の首相指名選挙として機能させる)<ref>ただし、この案には[[第34回衆議院議員総選挙]]における自民党のように「大きく議席を減らしながらも政権は維持」という結果になった場合などに「敗北に責任のある選挙前の首相を留任させることが望ましいか、また政治的に可能か」という問題がある。</ref>。
* 第三案 現行憲法の枠内における改革案([[
: 本案については憲法改正ではなく各党が[[党則]]を改正することによって可能である。
=== 首相公選論における論点 ===
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国民による直接選挙により国政の最高指導者が選出されるとき、その指導者は極めて強い正統性を帯びることになる<ref name="山口98-99頁">[[山口二郎]]著 『内閣制度』 有斐閣、2007年、98-99頁</ref>。アメリカ合衆国大統領のように、通常、共和制をとる国では大統領が元首とされる<ref>[[野中俊彦]]他 『憲法Ⅰ(第4版)』 有斐閣、2006年、109頁</ref>。日本で首相公選制を採用する場合、国民が直接選出した公選首相と国民統合の象徴である[[天皇]]との関係が問題点として指摘される<ref name="山口98-99頁"/>。公選首相は国民を直接代表する地位にあるため必然的に大統領的な性質を帯びるものとなり、日本国及び日本国民統合の象徴であり事実上元首としての役割も担っている天皇の地位と矛盾するのではないかという問題がある<ref name="ReferenceD"/>。このような懸念に対しては、天皇は歴史と文化を背景とする精神的統合の象徴であるのに対し、公選首相は行政権の執行を委ねる統合者であり次元を異にするとの指摘もある{{Sfn|今成勝彦|2001|pp=20-21}}。
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