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フリードマンとフェルプスよりはるか以前、[[1951年]]に[[アバ・ラーナー]]はある種のNAIRUの概念を提唱していた。現在のNAIRUの考えと異なっている点は、彼は完全雇用失業率としてある一定の範囲を考察していた点である。彼は'''高い'''完全雇用失業率すなわち「[[所得政策]]が存在する下で維持可能な最小レベルの完全雇用失業率」と'''低い'''完全雇用失業率すなわち「そのような政策が存在しない下での失業率」を区別していた。
 
ローレンス・ボールは、インフレ率の低下および低インフレ状態の継続を経験した国や、拡張的金融政策が追求されなかった国においては、自然失業率が上昇するということを指摘した<ref>Laurence Ball(1997), "[http://www.nber.org/chapters/c8884.pdf Disinflation and the NAIRU]"</ref><ref>Laurence Ball(1999), "[http://folk.uio.no/sholden/E4325/ball-1999-aggregate-demand.pdf Aggregate Demand and Long-Run Unemployment]"</ref><ref>N. Gregory Mankiw(2000), "[http://www.economics.harvard.edu/files/faculty/40_royalpap.pdf The Inexorable and Mysterious Tradeoff Between Inflation and Unemployment]"</ref>。また、[[ジョージ・アカロフ]]や[[ロバート・シラー]]らも、インフレ率によって自然失業率の水準が変わってくることを示し、長期の[[フィリップス曲線]]がフリードマンが言うような垂直ではないことを指摘した<ref>George A. Akerlof, William T. Dickens and George L. Perry (2000), "[http://elsa.berkeley.edu/~akerlof/docs/inflatn-employm.pdf Near-Rational Wage and Price Setting and the Optimal Rates of Inflation and Unemployment]"</ref><ref>ジョージ・A・アカロフ, ロバート・シラー(2009), 『アニマルスピリット』</ref><ref>黒田祥子・山本勲 (2003), "[http://www.imes.boj.or.jp/japanese/jdps/2003/03-J-10.pdf 名目賃金の下方硬直性が失業率に与える影響 ─ マクロ・モデルのシミュレーションによる検証 ─]"</ref><ref>井上智洋・品川俊介・都築栄司 (2011), "[http://globalcoe-glope2.jp/modules/mydownloads/visit.php?cid=0&lid=53 Is the Long-run Phillips Curve Vertical?: A Monetary Growth Model with Wage Stickiness]"</ref>。インフレ率が非常に低い状態ないしデフレの場合には自然失業率が高まる、すなわち貨幣的現象が実体経済に影響を与えるということを示しており、[[貨幣数量説#貨幣中立説|貨幣の中立性]]が[[長期]]においても成立しないことを表す。これは、長期均衡においてさえ、デフレが雇用に悪影響を与え続けることを意味している。
 
アカロフらの研究は、デフレを含む非常に低いインフレ水準においても、また逆に非常に高いインフレ水準においても、長期における自然失業率が高まってしまうことを表している。このことは、完全雇用時における雇用量を最大化するという観点からの、望ましいインフレ率の存在の証明およびその水準を決定する理論的背景の一つを提供する。このことはまた、インフレ率の水準などを勘案せず、自然失業率の達成や[[産出量ギャップ]]の有無だけでマクロ経済のパフォーマンスを判断することの危険性を示している。たとえば、低インフレ経済において失業率を低下させる政策が採られた場合、一時的には失業率が自然失業率を下回るためインフレが加速するが、それによってインフレ率が高まることによって自然失業率の水準が低下するため、失業率が自然失業率よりも高い状態になればインフレはもはや加速しなくなる。このように、インフレ率の非常に低い経済においては、一時的にインフレが加速しだしたことを以ってして拙速に、維持不可能なほどに失業率が低すぎると判断してはならない。