「二式単座戦闘機」の版間の差分

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→‎技術的特徴: 間違いの訂正、下膨れ型の垂直尾翼について
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速度・上昇力優先の設計思想に基づき、大径大出力のエンジンに軽い胴体、小さい主翼を備えているが、胴体はエンジン直後から急に細く絞り込んである。この点、同じく大径大出力エンジンを装備しながらさらに太い[[紡錘]]形胴体に設計された三菱の[[雷電 (航空機)|雷電]]とは対照的である。雷電では表面積や重量が増えることがデメリット、プロペラ推力有効面積が増えることがメリットであり、本機ではその逆となる。
 
設計者の一人糸川技師はブランコに乗る二人の子供を見て、縦と横の運動が互いに連動せずに切り離された操縦系をもつ機体(操縦者が縦の操作や横の操作を行った時、機体は余分な動きをせずその操作のみに反応する)を発想し<ref group="注">「この飛行機のデザインは、妙な動機から生まれた。公園に行って、ぼんやりベンチにすわっていたとき、男の子と女の子がブランコをしていた。同じ鉄棒にブランコが二つぶら下がって、一つに女の子が、もう一つに男の子がのっていたわけである。そのブランコは、長さが全く同じだった。振り方の周期は、だから、女の子も男の子も、両方が同じはずなのだが、見ていると、男の子と女の子のブランコは実際、周期が違う。そこで、私はハッとなった。じつは、隼戦闘機の設計でもさんざん苦労したことなのだが、方向舵を踏んで方向を変えようとすると、かならずローリングといって横の運動が起こる。飛行機は、横の運動と縦の運動がカップルする。その神経を断つことができれば、画期的な戦闘機になると、そのとき、チラッと頭にひらめいたのである。この次の戦闘機は、方向舵の操縦、補助翼の操縦などあらゆる操縦、それらが全部カップルしないような、神経が全部断ち切られたようなものであれば、これはものすごいスピードが出るはずである。同時にまた、ものすごい命中精度と上昇力が出るはずである。というようなことがヒントになり、私は、全知全能をつくして鍾馗戦闘機を設計した」[[糸川英夫]]『前例がないからやってみよう』光文社 1979年</ref>、この構想から本機は水平尾翼のかなり後方に位置する特徴的な[[垂直尾翼]]をもち、機動から射撃の体勢に移ったときの安定性を高めている。このため射撃時の据わりがよく、機関銃砲の命中率が高いと好評であった。この構造は後の四式戦にも受け継がれた。その一方で垂直尾翼は高さが不足し(他メーカーと比べた場合、背が低く前後に長い。面積は保てるので飛行中の安定性は保て、かつ空気抵抗は減る)、離着陸時(機首が上を向くことにより垂直尾翼は胴体の陰に入る形になり、垂直尾翼の高さが大変重要になる)の安定性・操作性の低さが事故の頻発につながり、[[明野陸軍飛行学校]]の実用試験では「若い者は乗せられない」「暴れ馬」「殺人機」との悪評を下された<ref>大木主計編集・丸メカニック 二式単戦「鍾馗」・潮書房 1984年・27頁</ref>。二型(キ44-II)では垂直尾翼が増積された。
 
背の低い垂直尾翼は下膨れ型<ref name=":0">内藤子生 飛行力学の実際 日本航空技術協会  P.65</ref>と言われ、プロペラ後流の悪影響を軽減する手法のひとつである。プロペラ後流は垂直尾翼を横から叩いて機首を偏向させるが、これは外周側ほど強力であり、垂直尾翼の面積重心をプロペラ軸に寄せる事でその影響を小さくできる<ref name=":0" />。欧米の単発戦闘機の垂直尾翼は背が高いがプロペラ軸を数度下向き<ref group="注">ダウンスラスト。高迎角時など、斜め風を受けるプロペラの左右面推力差の軽減にも有効。</ref>にして同様の効果を得ている<ref name=":0" />。また、離陸滑走から浮揚への迎角変化の際、垂直尾翼へのペラ後流の当たり方が急変し、逆の当舵で修正が必要な瞬間があるが、操作が遅れると機首を急激に振られやすい。この現象はヒッカケラレと呼び、これの軽減にも上記対策が有効である<ref>内藤子生 飛行力学の実際 日本航空技術協会  P.66</ref>。
 
しかし最大の難点は着陸速度の速さと頭デッカチによる視界の悪さであり、[[明野陸軍飛行学校]]の実用試験では「若い者は乗せられない」「暴れ馬」「殺人機」との悪評を下された<ref>大木主計編集・丸メカニック 二式単戦「鍾馗」・潮書房 1984年・27頁</ref>。
 
主翼は二本桁のボックス構造で、内側は波板で補強されており「850km/h以上の急降下でもびくともしない」と評される。当時の陸軍に重戦の明確な思想がなかったため急降下制限速度は一式戦とほとんど変らない余裕を持たせた650km/hに設定されているが<ref>「2式戦闘機(2型)取扱法」p.67</ref>、実際にはBf 109の荷重倍数10.8Gを上回る12.6Gの強度試験をクリアしている。実戦では800km/hの速度で引き起こしを行っても主翼にシワがよることはなかった<ref>大木主計編集・丸メカニック 二式単戦「鍾馗」・潮書房 1984年・26頁</ref>。平面形はスパンこそ短いものの、九七戦から採用している翼端失速に強い直線翼を用いており、[[高揚力装置#フラップ|フラップ]]は中島独自の蝶型フラップ(ファウラーフラップの一種)を装備している。蝶型フラップは高速戦闘機の旋回性能を高める効果が期待されたが、実戦では出し入れがわずらわしく使用されることはなかった(後廃止)。また、日本軍視点では劣るものとされていた旋回性能は実際は連合軍戦闘機よりも優れており、実戦では全く問題にならなかった。