ムーアの法則

大規模集積回路製造・生産における指標の一つ

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ムーアの法則(むーあのほうそく)とは、最小部品コストに関連する集積回路におけるトランジスタの集積密度は、18~24ヶ月ごとに倍になる、という経験則である[1]Intelの共同創業者であるゴードン・ムーアが提唱した。

Intel プロセッサ(点線) におけるトランジスタ数の成長とムーアの法則 (上線=18ヶ月; 下線=24ヶ月)

初出

ムーアの元々の文章は以下の論文に見られる。

「部品あたりのコストが最小になるような複雑さは、毎年およそ2倍の割合で増大してきた。短期的には、この増加率が上昇しないまでも、現状を維持することは確実である。より長期的には、増加率はやや不確実であるとはいえ、少なくとも今後10年間ほぼ一定の率を保てないと信ずべき理由は無い。すなわち、1975年までには、最小コストで得られる集積回路の部品数は65,000に達するであろう。私は、それほどにも大規模な回路が1個のウェハー上に構築できるようになると信じている。」

"Cramming more components onto integrated circuits", Electronics Magazine 19 April 1965[1]:

チップの「複雑さ」はトランジスタの個数に比例すると仮定し、それが何に使われているかを無視するならば、この法則は今日まで充分時の試練に耐えてきたと言えよう。しかしながら、トランジスタあたりの複雑さは、RAMキャッシュにおいては実行ユニットほど高くないという議論もあり得る。この観点からすれば、ムーアの法則の妥当性は、その定式化のしかたによってはより大きな疑問符がつくものとなるだろう。

ゴードン・ムーアの意見はムーア自身によって「法則」と名づけられたわけではなく、カリフォルニア工科大学教授で、大規模LSIパイオニアであり、実業家カーバー・ミードによるものである[1]

ムーアは今日の機械式マウスの共同発明者であるダグラス・エンゲルバートから、1960年の講義において集積回路のサイズ縮小の見通しについて議論したのを聞いたのかもしれない[2]。1975年には、ムーアは今後2年毎に2倍のペースにしかならないだろうという見通しを立てた。彼は、自分が「18ヶ月毎」と言ったことは一度もないのに、そう引用されたのだと頑強に主張している。SEMATECHロードマップには、24ヶ月ごとのサイクルを辿っている。

2005年4月に、IntelはオリジナルElectronics Magazineを1万ドルで購入すると申し出た[3]eBayで告知したところ、複数の大学図書館からその雑誌が持ち出される事件発生し、同社は抗議を受けた[4]。 因みに、同誌は既に廃刊となっている。

ムーアの法則の公式

最も有名な公式は、集積回路上のトランジスタ数(コンピュータ処理能力のおおよその目安になる)は18ヶ月ごとに倍になる、というものである。1970年代の終わりには、ムーアの法則は最も複雑なチップ上のトランジスタ数の限界として知られるようになった。しかしながら、1チップあたりのコストに対するコンピューティングパワーをどんどん進化させ続けるものとしても、ムーアの法則は引用されるようになった。

似た法則としては、情報量当たりのハードディスクストレージコストがある。エラー訂正符号磁気抵抗効果、巨大磁気抵抗効果の利用により、過去数十年間に渡ってディスクストレージの進化率は実に2倍以上であった。ハードディスク容量の現在の増加率はおおよそトランジスタ数の増加率に似ていて、Kryderの法則と呼ばれている。しかしながら、最近のトレンドではこの増加率は落ちてきていて、最近3年間に渡って適合していない。

別のバージョンとして、処理能力と同率でRAMの容量が増加する、というものがある。しかし、近年メモリ速度はCPU速度と同じ速さで増加はしない。このことにより、現在のコンピュータシステムではキャッシュに非常に重きを置いている。

産業牽引力

ムーアの法則は最初観察予測によって作られたが、今ではより広く受け入れられ、産業全体のゴールとして役立てられている。ムーアの法則によって、半導体製造業マーケティング技術部門の両方が、競争相手もすぐに達成可能と仮定できた処理能力を特に増やすことに莫大なエネルギーを向けるように駆り立てられた。この点に関して、ムーアの法則は自己充足的予言として見ることができる。

コンピュータ部品メーカーにとって、ムーアの法則が暗示するものは非常に重大である。(まったく新規のCPUやハードディスクのような)典型的で主要な設計プロジェクトは2年から5年で製品出荷の状態になる。このため、部品メーカーは非常に大きな時間軸圧力に直面する。つまり、ある主要なプロジェクトでたった2,3週間遅れが偉大な成功と莫大な損失、そして破産の間でさえ分けることになるからである。「18ヶ月ごとに倍になる」という表現は、ムーアの法則が近年の技術の表象的な進み具合をほのめかしている。より短い時間軸で表現されると、ムーアの法則は平均して1週間に1%以上半導体産業全体のパフォーマンスを向上させていると言い換えることができる。競争の激しいCPU市場でメーカーがしのぎを削っているため、開発に3年かかると思われる新製品も、競合製品と比較してたった2,3ヶ月後には10から15%も遅くなったりストレージ容量では少なくなったりするため、普通売れなくなってしまう。

将来のトレンド

2006年第一四半期においては、現在のPCのプロセッサは90nmで製造されており、65nmのチップはIntel(Pentium DおよびIntel Core)からのみ出荷されている。10年前では、チップは500nmで製造されていた。各企業は45nmや30nm、さらにそれ以下の細かさのチップを製造するために起こる複雑な技術的課題を解決するため、ナノテクノロジーを用いて開発を行っている。これらのプロセス技術は半導体産業が直面するムーアの法則の限界を延命させるだろう。

最近のコンピュータ業界の技術ロードマップ(2001年)は、ムーアの法則はチップ数世代にわたって継続するであろう、と予測している。この技術ロードマップでの計算によると、この10年間でチップ上のトランジスタ数は2の100乗個にまで増加するだろう。半導体産業の技術ロードマップではマイクロプロセッサのトランジスタ数は3年で2倍になるとしているので、それに従うと10年で2の9乗個になる。

2006年初頭、IBMの研究者らは深紫外光(DUV、193nm)リソグラフィーを用いて、たった29.9nm幅の回路をプリントする技術を開発したとアナウンスした。IBMは、この技術によってチップ市場は今までのやり方でムーアの法則の予言をこの数年達成し続けることができるだろう、としている。より小さな回路を形成する新手法は、実質より高くつくと予測されている。

急激な指数関数的向上により、(理論上は)すべての家庭のPCは100GHzになり、すべての携帯機器は20GHzを超えると思われていたので、何人かの評論家は直近、もしくは後のコンピューターは必要な計算能力にマッチする、もしくは超えるコンピュータが現れるだろうと想像した。このことはいくつかの問題についてのみ真実ではある。他方、指数関数的に増加する処理能力は、同じく問題の規模が増えていくように指数関数的に増加する複雑さに追いつかれ追い越されていく。計算量理論や(理論的ではあるが)このような問題を議論するPやNPの複雑性クラスを見ると、このような処理時間の問題は適用分野においてはよくあることである。

計算速度を増やす唯一の方法は、単位時間当たりの処理量を指数関数的に増やすことだ、というのは間違いである。ユニット時間あたりに処理する役に立つ作業(もしくは命令)をいかに指数関数的に増やすかが問題である。事実、より新しいプロセッサはより低いクロック速度で動作するように作られており、より大きなキャッシュと複数の計算コアを持つことに焦点を当てられている。この理由は、より高いクロック速度は熱量を指数関数的に増加させることに関係し、この熱のために4.3GHz以上の速度で高信頼性のCPUを提供するのはほとんど不可能になった。

ムーアの法則を基にして、ヴァーナー・ヴィンジブルース・スターリング、Ray Kurzweil(レイ・カーツワイル)のような有識者が技術的特異点を部分的に推定している。しかしながら、2005年4月13日、ゴードン・ムーア自身が、「ムーアの法則は長くは続かないだろう。なぜなら、トランジスタが原子レベルにまで小さくなり限界に達するからである」とインタビューで述べている。

(トランジスタの)サイズに関して、我々は基本的な障壁である原子のサイズに到達するであろう。しかし、その向こう側に行くにはまだ2,3世代ある。そして、我々が見ることができるよりもさらに向こう側がある。我々が基本的な限界に到達するまでにはあと10~20年ある。そのときまでには10億を超えるトランジスタを搭載するより巨大なチップを作ることができるだろう[5]

ムーアの法則を今後も時間軸に沿って維持するには、裏に潜む様々な技術的挑戦なしにはなしえない。集積回路における主要な挑戦のうちの一つは、ナノスケールのトランジスタを用いることで増加する特性のばらつきとリーク電流である。ばらつきとリーク電流の結果、予測可能な設計マージンはより厳しく、加えてスイッチングしていないにもかかわらず、かなりの電力を消費してしまう。リーク電力を削減するように適応的かつ統計的に設計すると、CMOSのサイズを縮小するのには非常に困難である。これらの話題は「Leakage in Nanometer CMOS Technologies」によく取り上げられている。サイズを縮小する際に生じる技術的挑戦には以下のものがある。

  1. トランジスタ内の寄生抵抗および容量の制御
  2. 電気配線の抵抗および容量の削減
  3. ON/OFFの挙動を制御するためにゲートを終端できる適切なトランジスタ電気的特性の維持
  4. 線端の粗さによる影響の増加
  5. ドーピングによる変動
  6. システムレベルでの電力配送
  7. 電力配送における損失を効果的に制御する熱設計
  8. システム全体における製造コストを常に引き下げるようなあらゆる技術的挑戦
 
ムーアの法則にKurzweil理論を適用してみると、パラダイムシフトによって、集積回路から初期のトランジスタ、真空管、リレー、電気機械式コンピュータへと基本的なトレンドが維持されていることが示されている

Kurzweilのプロジェクトは、ムーアの法則を2019年まで続けることにより、将来たった原子2,3個分にしかない幅のトランジスタをもたらすものである。もちろん、より高精度なフォトリソグラフィーを用いるやり方によって達成できるが、このことはムーアの法則の終わりを意味するものではないと彼は考えている。

集積回路におけるムーアの法則は、価格対効果を加速する最初のではなく5番目のパラダイムである。コンピュータは(単位時間当たりの)処理能力はずっとに何倍にもなってきた。1890年にアメリカの国勢調査で使用された機械式計算機器からエニグマ暗号を破るためのチューリングのリレー式計算機"Robinson"、アイゼンハワーの選挙予想に使われたCBSの真空管式コンピュータ、最初の宇宙旅行に使われたトランジスタ式のコンピュータ、集積回路を用いたPCへと[6]

Kurzweilは、なんらかの新しい技術が現在の集積回路技術を置き換え、ムーアの法則は2020年以降もずっと長く維持されるのではないか、と推測している。彼は、ムーアの法則の指数関数的な成長は、技術的特異点をもたらすであろう集積回路の技術への適用を超えて、今後も続くであろうと信じている。「The Law of Accelerating Returns」(収穫加速の法則)の中でRay Kurzweilは、多くの方法によってムーアの法則の一般的な認識は変更されてきたと述べている。ムーアの法則は技術のすべての形を予測すると共通に(しかしそれは誤っているが)信じられている。例えそれが実際には半導体回路に関してのみ適用されるものとしてもである。多くの未来学者は、いまだKurzweilによって力を与えられたこれらの考えを述べるために、「ムーアの法則」という言葉を用いている。

KraussとStarkmanは彼らの論文である「Universal Limits of Computation」で、宇宙に存在するあらゆるシステムの情報処理容量の合計を厳密に見積もった結果、600年という非常に長い期間をムーアの法則の限界と発表した。

この法則は明らかに克服できないように見える障害にしばしば直面したが、すぐにこれらを乗り越えていった。ムーア氏は、自分が実現した以上に今やこの法則が美しいものに見える、と述べている。「ムーアの法則はマーフィーの法則に違反している。すべてのものはどんどんよくなっていくのだ。」[7]

他の関心事

コンピュータ技術において、ムーアの法則に従って開発が進むのは容量と速度だけではない。RAMの速度とハードディスクのシークタイムは最高年2,3%ずつ改善されている。RAMとハードディスクの容量はそれらの速度と比べて非常に速く増えているので、それらの容量をうまく使うことはますます重要になっている。多くの場合、処理時間とスペースは交換できることがわかっているので、素早いアクセスを行うためになんらかしらの方法で処理前にインデックスをつけてデータを格納しておく方法などである。コストの点で、より多くのディスクやメモリのスペースが使われる。スペースは時間と比べてより安くなっている。

他方、時々間違えてしまうが、指数関数的なハードウェアの改良は、必ずしもそれと同様な指数関数的なソフトウェアの改良を意味するものではないということである。ソフトウェア開発者の生産性はハードウェアでの進化と共に指数関数的に確実に増えているというわけではなく、たいていの測定では、ゆっくりとまた断続的に増えていく。ソフトウェアは時間と共により大きく複雑になっていく。ヴィルトの法則では「ソフトウェアは、ハードウェアが高速化するより急速に低速化する。」とさえ述べている。

さらに、もっとも有名な間違った考えは、メガヘルツ神話として知られる、プロセッサのクロック速度が処理速度を決定する、というものである。これは実際には、単位時間当たりに処理できる命令数にも依存するので(それぞれの命令の複雑さも同様に依存する)、クロック速度は単に2つの同一の回路同士を比較する時にのみ用いることができる。もちろん、バス幅や周辺回路の速度のような他の要因も考慮に入れなければならない。それゆえに、もっとも有名な「コンピュータの速度」の評価は、基礎技術を理解しなければ元々バイアスがかかっている。これは特にPentiumの時代には真実であった。この時は有名なメーカーが速度の普通の認識として、新製品のクロック速度を宣伝するのに力を入れていた[8]

たいていのよくある並列化されていないアプリケーションのため、マルチコアCPUのトランジスタ密度は実用的な計算能力に反映して増えているというわけではないことに注意することも重要である。

コンピュータの能力を使用する消費者が負担するコストが落ちているが、ムーアの法則を達成するためのメーカーのコストは逆のトレンドをたどっている。研究開発や製造、テストのコストはチップの世代が新しくなるごとに着実に増えている。半導体メーカーの設備にかかるコストも増え続けると思われるので、メーカーはよりたくさんより大きくて利益の出るチップを売らなければならない。(180nmのチップをテープアウトするのにかかるコストは約30万ドルであった。90nmのチップをテープアウトするのにかかるコストは75万ドルを超え、65nmでは100万ドルを超えると思われる。)近年、アナリストたちは先進的なプロセス(0.13umやそれ以下)で「設計開始」された数が減っているのを目の当たりにしている。2000年以降の景気の低迷の間これらのことが観察されたが、開発の衰退は、長い間世界市場にいた伝統的な半導体メーカーは、経営的にムーアの法則を維持できなくなっていることの証拠であるかもしれない。しかし、2005年のIntelの報告書では、経営的に安定させながらシリコンチップをダウンサイジングすることは次の十年可能である、としている[9]。シリコン以外の材料を使用することが増えるとのIntelの予想は2006年中ごろには確かめられ、2009年までにはトライ・ゲート・トランジスタを使用するつもりであるとしている。IBMとジョージア工科大学の研究者らは、ヘリウムで極低温まで冷却したシリコン/ゲルマニウムチップを500GHzで動作させ、新しい動作記録速度を作った[10]。チップは4.5K(華氏マイナス451度)で500GHz以上で動作し[11]、シミュレーションの結果では恐らく1THz(1000GHz)で動作することも可能であるとしている。

出典

  1. ^ a b c Excerpts from A Conversation with Gordon Moore: Moore’s Law” ({{{1}}} (PDF)). Intel Corporation. pp. 1 (2005年). May 2閲覧。accessdateの記入に不備があります。 引用エラー: 無効な <ref> タグ; name "IntelInterview"が異なる内容で複数回定義されています
  2. ^ NY Times article April 17, 2005
  3. ^ Michael Kanellos (2005年4月12日). “$10,000 reward for Moore's Law original”. CNET News.com. June 24閲覧。
  4. ^ Eric Chima (2005年5月4日). “Police search for missing magazine”. Daily Illini. Template:Cite webの呼び出しエラー:引数 accessdate は必須です。
  5. ^ Manek Dubash (2005年4月13日). “Moore's Law is dead, says Gordon Moore”. Techworld. June 24閲覧。
  6. ^ Ray Kurzweil (2001年3月7日). “The Law of Accelerating Returns”. KurzweilAI.net. June 24閲覧。
  7. ^ Moore's Law at 40 - Happy birthday”. The Economist (2005年3月23日). June 24閲覧。
  8. ^ Matthew Broersma (2006年6月24日). “Intel, Aberdeen attack AMD speed ratings”. ZDNet UK. June 24閲覧。
  9. ^ New life for Moores Law”. CNET News.com (2006年4月19日). June 24閲覧。
  10. ^ Chilly chip shatters speed record”. BBC Online (2006年6月20日). June 24閲覧。
  11. ^ Georgia Tech/IBM Announce New Chip Speed Record”. Georgia Institute of Technology (2006年6月20日). June 24閲覧。

関連項目