甲州財閥

甲州財閥（こうしゅうざいばつ）とは、山梨県の地方財閥。

甲州財閥の一人である根津嘉一郎の銅像。

概要

郷土意識で緩やかな資本連合を持っていた山梨出身の実業家を意味する総称で、明治中期から昭和初期にかけて鉄道会社や電力会社・証券金融会社を設立または買収し、各方面へ幅広く展開した。

「財閥」とは、本来は三井財閥や住友財閥など異種の業種が同族的支配関係により組織された独占資本を意味するが、ジャーナリズムにおいては実業家集団の結団を指すことがあり、同様の総称には江州財閥（近江商人）がある。

関西を中心に活動し阪急東宝グループの創始者の一人である小林一三は山梨出身者であるが甲州財閥とは別の地方財閥と見なされている。

甲州財閥の盛衰

甲斐国では中近世から西郡を中心に特権伝承を持つ甲州商人が出現し、農閑期に生産した換金作物の行商を内外で行っていたが、こうした甲州商人のなかから幕末には横浜港開港により織物や果樹など甲州物産の投機商が出現する。

明治中期には若尾逸平、雨宮敬次郎、根津嘉一郎らの先駆者に続き小野金六、小池国三、古屋徳兵衛、堀内良平らが出現し、彼らは当時有望性のあった鉄道や電力などの新事業に参入する。中央線の敷設に際しては対立するものの、1896年（明治29年）には山梨県内の豪商農層を総動員して東京電燈の株式過半数を買い占め、電気やガスなどの公共事業や株式投資で産業界における存在感を強め、大正時代には東京市政にも参画した。

昭和初期の金融恐慌で総帥的立場にあった若尾家が没落し、世代交代により郷土意識が希薄化すると影響力は弱体化する。戦後は財閥解体などにより規模が縮小し、その後もロッキード事件などの汚職に甲州系資本が関与したなどによるイメージダウンや、平成不況などにより廃業・合併する企業が増えるなど現在では甲州系資本の影響力は低下している。

甲州財閥は戦後の山梨県近現代史研究においても主要な研究テーマとなっており、斎藤康彦は若尾家を題材に地主、企業家、銀行家のそれぞれの側面から分析し、甲州財閥を支えた豪農商層の考察や地方産業の研究と合わせて山梨県近現代の経済産業史を通観している。また、山梨県立博物館では若尾家など甲州財閥に関係する展示を行っている。

甲州財閥・甲州系資本関係人物一覧

• 根津嘉一郎 (初代)（東武鉄道や南海電気鉄道に関与し、根津財閥を形成）
• 雨宮敬次郎（雨宮製作所や日本製粉などの創業者）
• 若尾逸平（東京電燈などの創業者）
• 小野金六（富士製鉄および富士身延鉄道社長）
• 小池国三（山一證券創業者、前述の若尾に師事した後、独立）
• 古屋徳兵衛（松屋百貨店創業者）
• 堀内良平（富士急行創業者、衆議院議員の堀内光雄は孫）
• 穴水熊雄（京王電気軌道社長）
• 穴水清彦（相模鉄道)
• 穴水要七（相場師、衆議院議員、富士製紙/現王子製紙および北海道電燈/現北海道電力)
• 長田庄一（東京相和銀行創業者）
• 小佐野賢治（国際興業創業者）
• 小林　一三（阪急電車・宝塚歌劇）
• 早川徳次（地下鉄銀座線）
• 中田大三（神戸電鉄）
• 佐藤晴雄（京浜急行）
• 古屋哲男（富国生命）
• 小林宏治（日本電気）
• 古屋徳兵衛（松屋）
• 真鍋八千代（後楽園）
• 赤尾好夫（旺文社）
• 辻信太郎（サンリオ）
• 小林中（日本開発銀行）
• 三神良三（東京會舘）

著書

• 「新編 甲州財閥物語」（斎藤芳弘 著、山梨新報社）ISBN 9784990075217
• 「甲州財閥―日本経済の動脈をにぎる男たち 」（小泉剛 著、新人物往来社）ASIN B000J9FJ7G

外部リンク

• 山梨中銀資料館内の甲州財閥展ページ