誘電率
誘電率(ゆうでんりつ、permittivity)は物質内で電荷とそれによって与えられる力との関係を示す係数である。電媒定数ともいう。各物質は固有の誘電率をもち、この値は外部から電場を与えたとき物質中の原子(あるいは分子)がどのように応答するか(誘電分極の仕方)によって定まる。
ところで、真空中での電荷密度 ρ とそれによって与えられる電場 E との関係は次のマクスウェル=ガウスの式
で定義される。ここで係数 ε0 は真空の誘電率とよばれ、値はε0 = 8.85418782×10-12F/m (国際単位系(SI)では A2·s2·N-1·m-2) である。真空の透磁率を μ0、光速を c とすると次の関係がある。
なお、真空の誘電率 ε0 というと、真空も誘電体であるかのような錯覚をしがちだが、 ε0 はMKSA単位系のつじつまを合わせるために必要な人工的な値であって、ガウス単位系などでは必要とされないものである。真空は誘電体ではない。
さて、自由電子を持たない物質(誘電体)中に電荷Q をおいた場合、Q の電場によって物質中の原子(あるいは分子)のプラス電荷とマイナス電荷が互いに反対方向へわずかに移動して偏った状態になる(これを誘電分極とよぶ)。この状態が Q の電場を打ち消す方向に働き、物質の誘電率をεとすると、真空中に比べ Q の電場は重ね合わせの原理によりうまい具合に ε0 / ε 倍に小さくなる。そこで、真空の誘電率 ε0 の代わりに誘電率ε を導入し、さらに D=εE とおけば、誘電体の中のマクスウェル=ガウスの式はより簡単な式
で表わすことができる。なお、D は電束密度と呼ばれる。
主な物質の比誘電率
媒質の誘電率と真空の誘電率の比 ε / ε0 = εr を比誘電率(ひゆうでんりつ、relative permittivity、 dielectric constant)と呼ぶ。比誘電率は無次元量であり、用いる単位系によらず、一定の値をとる。主な物質の比誘電率を以下に記す。
物質名 | 比誘電率 | 備考(温度依存性、周波数依存性) |
チタン酸バリウム | 約5,000 | |
ロッシェル塩 | 約4,000 | |
水 | 80.4 | 20℃(温度によって大きく変化する) |
アルコール | 16~31 | |
ダイヤモンド | 5.68 | 20℃、500~3000Hz |
ガラス | 5.4~9.9 | |
アルミナ (Al2O3) | 8.5 | |
木材 | 2.5~7.7 | |
雲母 | 7.0 | 常温 |
ガラスエポキシ基盤 FR4 | 4.0~4.8 | |
イオウ | 3.6~4.2 | |
石英 (SiO2) | 3.8 | |
ゴム | 2.0~3.5 | |
アスファルト | 2.7 | |
紙 | 2.0~2.6 | |
パラフィン | 2.1~2.5 | |
空気 | 1.00059 |
誘電関数
電場がある程度以上の速さで変化する場合、誘電率は定数にはならず、電場の振動数 ω の関数である誘電関数 ε(ω) として記述される。誘電関数には電気伝導やバンド間遷移による損失が発生するため、一般に以下のような複素関数となる。
このうち実数部 ε1(ω) は電場の振動との位相差および分極の大きさを与える。なお、ω=0 のときの実数部 ε1 は上述した誘電率 ε にほかならない。また、虚数部 ε2(ω) は電気伝導やバンド間遷移による誘電損失を与えている。
ある物質の誘電関数を調べることで、その物質の電子物性、光物性に関する多くの情報を得ることができる。光吸収スペクトルの測定から、虚数部 ε2 を得ることができる。これにクラマース・クローニッヒの関係式 (Kramers-Kronig relations) を用いることで、実数部 ε1 を得ることができる。また、電子エネルギー損失分光 (EELS) の測定結果は ε2/(ε12 + ε22)(損失関数)を与える。