ニューレイヴ
ニューレイヴ(New Rave)とは、ロック音楽のスタイルのひとつであり、またムーヴメントの呼称でもある。ダンス・ミュージックの細分類とも捉えられ、エレクトロニカの範疇で語られることもある。
同時期のニュー・ウェイヴリバイバルからの流れを受け継ぐ形で登場し、2000年代後半から頻繁に音楽業界で流行した言葉/ジャンルである。そのネーミングはクラクソンズによって付けられた。
音楽スタイル
ニューレイブの音楽性は、オリジナルのレイブで流行した音楽(マンチェスター・サウンドやアシッド・ハウス)に似ているものの、後年のビッグ・ビートやダフト・パンクからの影響の方が色濃く、レイブのリバイバルというよりは、単純に「エレクトロニック・ミュージックを全面に取り入れたインディー・ロック」と考えるべきである。
しかし敢えて、「ニューレイブ」として特徴付けるとすれば、DJスタイルではなくバンド・スタイルである点、サイケデリックな視覚効果を重視している点、多幸性あるトリップ感覚をダンサンブルなバンド・サウンドによって実践しようとする点、などが挙げられるであろう。
ニューレイブのファッション
ニューレイヴで語られるバンドは、トランス系のパーティーからの影響も強く、非常に明るい蛍光色を好んだファッションを特徴としている。ナイロン生地のマウンテン・パーカやナイキのスニーカーなど、カラフルなカジュアル系スポーツウェアを着こなす者が多い。ワンポイントのアイテムとして、ケミカルライト(グロースティック、サイリウム、ルミカとも呼ぶ)を手首に装着したり、点滅するコンパクト・ネオンをかざすことも多い。
実際のところニューレイブのカテゴライズは、シーンの多少曖昧な音の基準よりも、このカラフルなファッション・イメージによる方が多いともされる。
ムーヴメントの経緯
2004年を皮切りに、英米を中心にロックシーンを賑わせたニュー・ウェイヴ/ポスト・パンクリバイバルは、80年代の音楽に対する再評価を進めたが、とりわけシンセポップ系ニューウェーヴバンドへのリスペクトが高まり、ブロック・パーティーやザ・キラーズを代表格に、インディーロックにダンス・ミュージックを導入するバンドが台頭した。これはエレクトロクラッシュという地下ブームとも連動し、クラブ・シーンとロック・シーンのクロスオーバーが盛んになった。
こうした流れの中で登場したのがクラクソンズである。彼らは、自らの音楽を、「ニュー・ウェイヴ」と「レイブ」をもじった造語として「ニューレイブ」と名付けた。この言葉は当初、単なるクラクソンズによる「内輪のダジャレ」として使われていたが、やがて、クラクソンズが(ニューレイブという言葉とは無関係に、純粋にその実力で)ロック・シーンにおいて頭角を現すようになると、「ニューレイブ」はメディアを通じて大々的に喧伝され、「ニューウェーヴの進化系」「次なる潮流」として持て囃された。
時を同じくして多くの近似バンドがデビューを飾ったこともあり、2007年から2008年にかけて世界的な狂騒を呼んだ。
批判
オリジナルのレイブの実際の音と「ニューレイブ」と呼ばれた大多数のバンドの音は、いくつかの典型的なアナログ・シンセラインを有する点においてかろうじて識別可能であるものの、両者の関連性は薄い。加えて安易なメディアによっては、単に同時期に台頭したというそれだけで「電子音楽系は皆ニューレイヴ」として扱っていた感は否めない。すなわち、ブラジルのCSS、あるいはオーストラリアのペンデュラムなどの海外勢に対してや、あるいはジャスティスやボーイズ・ノイズといった、DJスタイルのミュージシャンに対しても一様にニューレイブ・バンドとして扱う傾向がある。
オリジナル・レイブの巨人プロディジーは、このニューレイブに対して、「プレスが意図的に仕掛けたブームであり、レイブ・カルチャーとの関連はまるでない。くしゃみをしたら吹き飛んでしまうような軽いシーンだよ。」
とコメントし、80年代末~90年代を架け橋するサブ・カルチャーとしての背景を持つオリジナル・レイブに比べ、ニューレイブはムーブメントに属するミュージシャンを支える土壌がない、言わば「砂上の楼閣」であると断じた。
しかしながら、「このシーン中でもクラクソンズは本物。本当にいいレコードを作ったのに、それをプレスにさんざんネタに使われた」とも述べている。
実際、当のクラクソンズ自身も、ニューレイブはジャンルとは関係がないと公に発言し、「手に負えなくなった冗談」と総括して自ら決別宣言を出した。
結局のところ、実態としてのニューレイブは、メディアによって1人歩きを始めたバブル経済状のタームであり、90年代に日本の音楽誌上で流行った「デジタルロック」と同種の流行語とみることもできよう。
考察
上述の通り、ニューレイブは内実を伴わないでっち上げのブームとする見方が大勢である。しかしながら、音楽シーン全体で見ると、80年代後半のマッドチェスター~90年代後半のビッグ・ビートに象徴されるように、実は10年周期で「ダンスとロックの融合」ムーヴメントは定期発生を繰り返しており、この側面でみた場合、2000年代後半の現在のダンスとロックのクロスオーバー・ブームを言い表す呼称がニューレイブのそれ自体であるという意見もある(欧米メディアではこのムーヴメントを「ダンス・パンク(Dance-Punk)」や「ディスコ・パンク(Disco-Punk)」あるいは単純に「ダンス・ロック」と呼称して、相変わらずそのカテゴライズネームを定義させようと試みているものの、ニューレイヴという語感のインパクトに比べ微弱であることもありその定着には至っていない。)日本においては、ブンブンサテライツなどが、ニューレイブからの影響を公言している(本国イギリスとはブームの流布に時間差があり、その間に解釈が若干異なったという点はある)。
実際、ジャスティスやデジタリズムといった新世代エレクトロ勢の世界的台頭とニューレイブ勢の交流は盛んであり、現在のブリットポップ再評価と同様に、即座に軽薄なムーヴメントだと認定するには早計であるとも言える。後年、2000年代を隆盛したダンスとロックのクロスオーバー・ムーヴメントととしてこのニューレイヴが邂逅されるであろうことだけは確かである。
主要アーティスト
ロック・バンド
- クラクソンズ
- サンシャイン・アンダーグラウンド
- レイト・オブ・ザ・ピア
- ハドーケン!
- CSS
- エンター・シカリ
- ペンデュラム
- ホット・チップ
- ボンヂ・ド・ホレ
- ネオン・ネオン
- シットディスコ
- ニュー・ヤング・ポニー・クラブ
- メトロノミー
- フレンドリー・ファイアーズ
- ザ・ウィップ
- ザ・ティン・ティンズ
- MGMT
- ザ・ゴシップ
- ヤング・パンクス
ダンス・ユニット
- ジャスティス
- デジタリズム
- シミアン・モバイル・ディスコ
- ソウルワックス
- ヴィタリック
- ボーイズ・ノイズ
- オートクラッツ
- スパンク・ロック
- ブラカ・ソム・システマ
- ディプロ
- ザ・シューズ
- クリスタル・キャッスルズ
- LCDサウンドシステム
他多数