ストライキ
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ストライキ(strike)とは労働者による争議行為の一種で、労働法の争議権の行使として雇用側(使用者)の行動などに反対して被雇用側(労働者、あるいは労働組合)が労働を行わないで抗議することである。日本語では「同盟罷業」(どうめいひぎょう)あるいは「同盟罷工」と呼ばれ、一般には「スト」と略される。
転じて、労働争議ではない組織的な抗議行動を指すこともある(例:ハンガー・ストライキ(ハンスト))。
ストライキをする権利(団体行動権または争議権の1つ)は日本では日本国憲法第28条により労働基本権のひとつとして保障され、主に労働関係調整法で規定される。
国際的には労働者の権利として認められているが、中国など、共産主義政権の国家では非合法とされる事が多い。
ストを無視して働くことはスト破りと呼ばれ、ストライキ参加者からは忌まれると同時に労働組合の団結を乱したものとして除名・罰金・始末書提出命令などの統制処分の対象となることがある。このスト破りを防ぐと同時に、一般人へ目的の正当性を訴える手段としてピケット(ピケ)を張ることもある。
なお、1980年代以前(特に1970年代以前)には日本・諸外国を含めかなり多かった。しかし、日本のみならず諸外国でも近年ではあまり起きない傾向にある。産業構造の変化や被雇用者の意識の変化や社会・政治情勢の変化、ストライキが問題解決にならなかった事例の多さなどが主因とされる。
2010年代から、中国では経済発展に伴ない、工場などでのストライキが目立っている。
ストライキと法的責任
争議行為が正当である場合、その行為についての刑事責任(労働組合法1条)と民事責任(同8条)は免責される。ストライキも労務の不提供にとどまるならば合法であり、これらの免責を受ける。特にストライキによって使用者に生じた損害に対する賠償責任が免責される点が重要である(ただし、正規労働時間中に就業していない分の賃金はカットされる。一般には、そのカット分を補う為に労働組合は「闘争資金」として組合員から積立金を徴収していることが多い)。ストライキなどの争議行為が正当でなければ、これらの免責は受けられない。また、ストライキを設定している日に対して前倒し決行した場合、違法ではないがこれによる企業側の損失については、請求できる判例がある。
正当でない争議行動の例
- 法律で争議行動が禁止されている職種に就く者が行う争議行動
- 政治的要求や社会運動を目的とするもの
- 会社・事業所の施設を損壊・汚損する行為を含む争議行動
- 乱闘・暴力により要求などを主張する行為を含む争議行動
ストライキの起きやすい産業と、ストライキの功罪
第一次産業・第二次産業についても、ストライキが多く見られた事例がある(遠洋漁業・鉱山・工場など)。
第三次産業では、ストライキに訴えて問題解決を図るのは主に公共サービス業である(事業者は公営・民間とも)。つまり、交通機関、医療などである。皮肉にも社会的弱者を含む社会の全階層がサービスを受けるこの種の業種について、ストライキという被雇用者(これも社会的弱者)の雇用者への問題解決の働きかけの手段がサービスを受ける側にとってのサービスの質の低下や断続をもたらすことになってしまった。
このため社会全体が貧しい場合やストライキによって解決が期待される社会問題(時に政治問題)の解決がストライキによるサービスの中断を上回る場合は、ストライキもある程度容認される傾向にある。しかし社会がある程度物質的に豊かになった場合、ストライキによるサービスの中断は社会的弱者を含む社会のあらゆる階層から非難を受けることが多い。
なお、電力・水道・ガス・ごみ収集などについて日本ではストライキが顕在化した例はほとんどない。しかし、1970年代のイギリスなどでは起きた例がある。この場合、ストライキによる社会への負担は計り知れないものがある。
商業・金融・証券・保険など公共サービス業とは異質の第三次産業では、よほどの政治問題が起きる状況でなければ通常ストライキは起きない。1915年の中国での日本の「対華21ヶ条要求」の際の商店でのストライキ、1923年のドイツでのフランスのルール工業地帯占領の際のストライキなどがそうである。日本・諸外国とも、少なくとも1960年代以降(公共サービス業ではストライキが多発した時代を含む)に個人商店の営業休止による抗議やデパート・スーパーマーケット・銀行・保険会社などのストライキによる営業休止、銀行のオンラインや証券取引所のストライキによる停止の例はほとんどみられない。これには、これらの業種においては休業が社会の破綻に直結しかねないという事情がある(特に銀行業の場合、銀行決済が不能になれば、その損害は計り知れない)。
日本・諸外国(少なくとも西ヨーロッパ諸国)とも、1990年代以降ストライキの数は非常に少なくなっている。これは国営サービス業の一部(時には大半)の民営化(その影響は民営化された事業者のみならず、元々の民間事業者にまで及ぶ)、日本においてはバブル崩壊とそれによる新規採用枠の極度の縮小、西ヨーロッパ諸国においてはEU統合・冷戦終結・経済のグローバル化などの影響が大きいとされる。
日本でも、「労働者の権利」として労働組合の結成やストライキ等による問題解決は社会科の教科書・教材で書かれていた。しかし、社会人になってそれを行使する人は非常に少ない。
ストライキの激減のメリットとしては、公共サービスなどかつてストライキの多かった業種でのサービスの確実性がある。 デメリットとしては労働運動が雇用確保の手段とならなくなったことが社会に周知され、結果雇用者の身分が不安定になったことが考えられる。
ストライキに対する規制
日本では国家公務員・地方公務員・に関してはストライキは禁止されている(国家公務員法第98条、地方公務員法第37条)。戦後直後は一部の職種を除いた公務員のストライキを認めていたが、1948年7月31日、政令201号「昭和23年7月22日附内閣総理大臣宛連合国最高司令官書簡に基く臨時措置に関する政令」によってすべての公務員のストライキを禁止した。なおこの政令は1952年10月25日、日本国との平和条約が発効したことに伴うポツダム命令廃止法により失効している。また、1949年に国の直営事業から分離された公共企業体(日本国有鉄道・日本電信電話公社・専売公社)の職員に対しては公共企業体等労働関係法(現在の特定独立行政法人等の労働関係に関する法律)が制定され、やはりストライキが禁じられた。
これを不満として、1975年に日本国有鉄道を中心とした三公社五現業職員がストライキ権認容を求めてストを起こす「スト権スト」というものが起こされた事があった。政府見解としてはストを禁止している理由として職務の公共性や人事院(かつての公共企業体については公共企業体等労働委員会による仲裁・裁定)があることを挙げている(なおこれは批准が留保されているとはいえ、国際人権規約追加議定書に抵触する疑いがある)。
一方、公務員のストライキが認められている国も多い。フランスやイタリアでは公務員や教師のストライキ、ドイツでは軍人のストライキがあり(労働組合的性格を持つ団体「連邦軍連盟」がある)、公務員ではないが弁護士や医師がストライキを起こすこともある。イギリスでは消防士らのストまで行われ、このような場合には軍が公共サービスを代行する。アメリカでは警察官(巡査や事務官)がストを打つ事があり(警察の労働組合「警察官協会」がある)、このような場合は巡査部長級以上の管理職が第一線に出る。スペインでは航空管制官が2010年12月にストライキを打ち、国際線管制は空軍が行なう事態になった(国内線は運行出来ず麻痺した)。
他に労働関係調整法第36条で、
- 工場事業場における安全保持の施設の正常な維持又は運行を停廃し、又はこれを妨げる行為は、争議行為としてでもこれをなすことはできない。
として、ストライキの禁止規定がある。
実際に「争議行為が発生したときは、その当事者は、直ちにその旨を労働委員会又は都道府県知事(船員法(昭和22年法律第100号)の適用を受ける船員に関しては地方運輸局長(運輸監理部長を含む。)以下同じ。)に届け出なければならない。」という規定が労働関係調整法第9条にある。
なお、公務員の争議権を含む労働基本権全般の規制と日本国憲法第28条に関する司法判断については、労働基本権#日本の公務員の労働基本権を参照。
公益事業に対する規制
労働関係調整法第8条で、公衆の日常生活に欠くことのできない「公益事業」として次の業種が指定されている。
上記の公益事業の業種でストライキを予定する場合には、労働関係調整法の第37条の規定で10日前までの労働委員会及び厚生労働大臣、又は都道府県知事への通知が規定されている。これは、文書によってなされるため、極端な例で、ハガキ1枚でも構わない。
特にストライキが予定されることが多いのは運輸事業のうち、鉄道や路線バスなどの日常生活に密着した公共交通機関を経営する事業者(鉄道事業者、バス事業者)であり、ストライキが実施されると列車やバスなどの運行が中止されて利用者への影響が大きく、プロ野球が鉄道ストで試合中止になるなど各種イベントへの影響も大きかったため、、1970年代までの大手私鉄のストライキが毎年(主に春闘時)行われていた際には利用客からの反発や批判が強かったといわれている(しかし、この中でも小田急電鉄など一部の私鉄はストライキを行わないかあるいは集改札ストに留まり、平常どおり電車を運転した。1980年代以降は大手私鉄ではストライキはほとんど行われなくなり(突入しても朝のラッシュアワー前に収束される)、大手私鉄の春闘が妥結した後に春闘交渉が行われる地方の中小私鉄やバス会社の一部で、事業者(使用者)側の回答を不満としたストライキが行われる程度である。
ただし、北海道内の私鉄総連では1980年代以降も組合側の連帯責任を名目に集団交渉が継承されたため、1991年までは毎年春闘ストが行われていた。
このストライキの影響は、主に通勤・通学の乗客に見られた。当時は近年と違い公共交通機関への依存度が高くまた大都市への人口集中も盛んだったので、ストライキの際の通勤客の負担(運行している代替交通機関での通勤での混雑など)は近年では考えられないほどだった。しかし通学客の場合、学校が休校になる場合もあり、負担は通勤客ほどではなかった。また春休みを除き行楽シーズンには通常ストライキは行われなかったので、主に行楽・観光旅行などで公共交通機関を用いる乗客にはストライキ自体あまり認知されていなかったようである。
前述のように大手私鉄では1980年代以降、ストライキはほとんど行われなくなったがJRでは国鉄千葉動力車労働組合(動労千葉)によるストライキが毎年のように行われており、千葉県内(東京から見て千葉駅以遠)のJR各線で列車の全面運休や大幅な運行本数の減少が発生している(ただし、2008年は列車の運行に影響がでるストライキまでは至らなかった)。
大手航空会社では、乗員組合によるストライキが実施される場合が多い。長距離移動の航空路線への依存度は高まっており、主に社用(出張など)で利用するビジネス客が影響を受ける。
放送事業者(テレビ局など)でも、組合によるストライキが実施される場合がある(地方民放局では労働組合自体設けられていないところもある)。この場合はなるべく影響の少ない金曜日に実施されることが多い。また生放送番組(主にニュース番組・情報番組)においては管理職のアナウンサーや外部のフリーアナウンサーを起用することで影響を最小限にしている。なお、担当者が元から管理職のアナウンサーや外部のフリーアナウンサーを起用している番組もある。
調停・仲裁
ストライキ、ロックアウトといった争議行為がこじれて長引いた場合、内閣総理大臣と中央労働委員会による調停・仲裁が行われる場合がある。代表例は1960年の三井三池炭鉱の争議行為である。
主なストライキの種類
- ゼネラル・ストライキ(ゼネスト)
- ハンガー・ストライキ(ハンスト) - リレーハンスト
- 納金スト
- 政治スト
- 同情スト
- スト権スト
- ストライキなど争議権を認められていない公務員あるいは国家公務員が争議権を獲得するためにするストライキ。日本では、争議権のない労働者によって行われるので「違法行為」とされる。日本では1970年代初頭に国鉄で多数実施され「スト権奪還スト」などとも呼ばれたが、1975年末に行われた8日間のストを指すことも多い。
- 山猫スト
- 一部の組合員が組合指導部の承認を得ず、独自に行うストライキ。Wildcat Strikeを直訳した語で「山猫争議」ともいう。
- 集改札スト
- 鉄道で集札および改札の業務に限って行うスト。乗客に迷惑をかけずに経営のみに打撃を与える。改札口には管理職の職員が代わりに立って集改札をおこなうことが多い。1970年代から関西の大手私鉄を皮切りに自動改札機が導入されると、ストライキ時には改札機の電源を切ってストライキに「参加」させる手法が用いられた。ただ、21世紀になって非接触ICカード乗車券が普及したことで、改札機を使用停止にした場合の乗客への負担(窓口での精算もしくはカードを券売機に挿入して乗車券を購入することが必要)が大きくなる可能性があることから、実施は困難になりつつある。
- 一斉休暇闘争
- 一斉に有給休暇をとることによって、賃金を得つつストライキと同等の効果を得ようとするもの。経営側は「不当な休暇権の行使」と主張し、時季変更権を発動したりもする。
- 部分スト(指名スト)
- 組合の指示により、一部の者(主に操業の核となる人物)のみがストライキをすること。争議行為に参加しなかった組合員も賃金をもらえないということも起こりうる。「指名スト」とも。闘争時の臨時専従者の確保に使われることもある。
- 時限スト
- ストを行う時間を区切って行うスト。闘争の初期段階や、公共サービスに大きな影響を与える場合にこれを防ぐため、行われる。学校で教職員組合によって行なわれる場合もあり、この場合はその時間帯、授業が自習になる。
- 一部スト
- 産業別組合などのある組合がストに突入する一方、他の組合はストを行わなかった場合。企業別組合が普通の日本では、むしろ一部ストのほうが一般的である。
- 支援スト
- 他の組合のストライキを支援する目的で行われるストライキ。
有名なストライキ
- 以下は同項内の項目にリンク
- RKCラジオ停波スト - 日本で唯一の放送停波ストライキ
- 日本の航空会社における経営労使問題