広域航法

航空機の航法

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広域航法(こういきこうほう、: Area navigation)は、自らの位置を把握できる装置を航空機に装備させる事で、従来の無線航法のように航空保安無線施設の位置に左右されることなくルートを設定する航法システムである。

aRea NAVigationからRNAV(アールナブ)とも略される。

概要

従来の航法システムでは、航空機は地上に設置された航空保安無線施設を用いて自らの位置を確認していた。そのため、目的地までの間に点在する地上の無線施設の上空を飛ぶ必要があり、遠回りのルートを強いられ、時間や燃料消費の面で多くのデメリットがあった。

広域航法では、航路上の無線施設以外に、主に慣性航法装置を使用し、航路から外れたDMEVORといった無線施設からの情報を用いて誤差を補正する。そういった各種センサーを利用した装置を航空機に装備させる事で、無線施設に頼らなくても自らの位置を把握できるようにした。さらに近年では、全地球測位システム(GPS)やGPSの誤差を静止衛星や機上・地上施設で補正するシステムであるGNSSも利用されている。

これによりルートの設定は無線施設の位置に縛られなくなり、かなりの自由度が得られるようになる。

メリット

航空機は目的地までの最短経路を飛ぶことが可能となり、時間や燃料の節約が期待できる。

さらに無線施設の上空を飛ぶ必要が無くなるため、無線施設上空の混雑が解消され、安全性も高まる。また、無線施設の上空の天候や地形に左右される恐れが無くなるため、就航率も高まる。

また、無線施設の位置に関係なく任意に経路を設定できるため、ルートの数を増やすなど空域の有効利用が図れる。精度が増せばルートとルートの横方向の間隔も狭めることが可能なため、よりルートの数を増やすことができ、交通量の増大に対応できる。

精度のさらなる向上は、航空路(エンルート)だけでなく出発経路・到着経路から進入や着陸まで使用することも可能になり、従来、地形などの理由から無線施設を設置できないため実施することが不可能だった空港の計器出発・計器進入までもが期待できる。

歴史

RNAVのシステムは、1960年代アメリカ合衆国で開発され、1970年代にルートの公示も行われた。しかし、1983年1月、アメリカは地上施設などによらず慣性航法装置による方法を選択したため、RNAVの計画は一度破棄された。

しかし、慣性航法装置のみでは誤差も大きく、大きな誤差を前提とすると航空路の設定にも限界があった。さらに、航空の発達による交通量の増大で、空域の有効利用の強化を迫られ、そこでRNAVのシステムが見直されるようになった。

フライトテストを重ねながら当初はVORやDMEで慣性航法装置を補正する方法で、さらにはGPSによる補正も取り入れられるようになった。この機位を特定するために補正するセンサー(VORやDME、衛星など)を指定して行う航法をSBN(Sensor-Based Navigation)という。SBNの段階では航法精度がまだどの程度なのか確定されていなかったため、精度を指定せずにRNAVを設定していた。

SBNによる運航を続ける中で航法精度の評価ができてきたことから、次の段階では航法精度を指定したPBN(Performance-Based Navigation)となる。その背景には、SBAS[1]人工衛星が多数打ち上げられるなど、GPSの精度が昔とは比べ物にならないほど向上(補正)したこともあげられる。

こうした過程を経て、2007年4月にRNAVのシステムが全面的に見直され、ICAO(国際民間航空機関)において国際基準が決定された。この国際基準はICAO PBN マニュアル(Doc 9613)として配布されている。

日本では、国際基準が設定されたことを受け、JALANAが2007年9月に本格的に運用することを発表した[2][3]。本格運用以前には、1992年6月より評価用の3本のルートから始まり、広域航法の運用評価が行われていた[4]

さらに、GPS精度向上のためのGBAS[5]も開発されており、米国等では一部実用化されている。

日本における航空法上の広域航法

日本においては、広域航法は航空法上「DME、SBASその他の無線施設からの電波の受信又は慣性航法装置の利用により任意の経路を飛行する方式」と定義され、許容される航法精度が指定された経路又は空域において行わなければならない航法である。

本格的な運用に伴い、広域航法による飛行は「特別な方式による航行」の一つとされた。したがってRNAVを行うには、航空機が必要な性能及び装置を有していること、乗員、整備員、運航管理者が航行に必要な知識及び能力を有していること、実施要領が適切に定められていること、航行の安全を確保するために必要な措置が講じられていることなどについて運航者(つまり航空会社など)が国土交通大臣の許可を受けなければならない。

航法精度

航法精度が指定された経路又は空域における運航において、横方向・縦方向の誤差は全飛行時間中少なくとも95%は示された数値の範囲になければならない。

日本では航法精度の数値別に下記の種類のRNAVがある。(マイルはすべて海里

  • RNP10(RNAV10)
主として洋上等において使用される。航法精度は10マイル。
なお、本来はRNAV10と呼ぶべきであるが、RNAVの国際基準が策定される以前からRNPの名で運用が始まっていたため、そのまま慣習的にRNP10と呼ばれる。
  • RNAV5
主としてエンルートにおいて使用される。航法精度は5マイル。欧州のB-RNAVもこの基準と同義であると考えてよい。
  • RNAV1
主としてターミナル付近の空域(一部エンルートも)において使用される。航法精度は1マイル。米国での旧名称はUS-RNAV Type-B。欧州や一部の国のP-RNAVも同義と考えてよい。
  • 航法精度が指定されないRNAV
RNAVの評価運用時代にはエンルートにおいてRNP4基準で策定されながらも、精度を指定しないRNAV経路が存在した。現在、日本のRNAV経路はすべて精度を指定して再編されている。一部の国ではまだ精度が指定されないRNAV経路がターミナル空域・エンルートの双方に存在する。

なお、米国ではさらにRNAV2(航法精度2マイル、旧名称 US-RNAV Type-A、主にエンルートで使用)も運用されている。日本にRNAV2はないが、前項の「特別な方式による航行」のRNAV許可基準においてRNAV1に対応するものをRNAV1/2として設定しているため、日本のRNAV1を許可された航空機は米国のRNAV2の飛行が可能である。

以上の1マイル以上の航法精度においては必ずしも衛星を利用する必要はない。しかし、計器進入を行うにあたってさらに精度が求められるRNAV/GNSS進入も実用化されている。

RNP

RNPとは「Required Navigation Performance」の略で、航法精度についての機上の性能監視機能と警報機能を必要とするもの。 一般的なRNAVは監視・警報機能がないため、洋上を除きそのバックアップとして航空交通管制用レーダーの覆域下でなければ航行できないのに対し、RNPはレーダー覆域でなくても航行できるのが大きな違いである。

現在基準としてはエンルート用のRNP4(航法精度4マイル)、ターミナル用のBasic-RNP1(航法精度1マイル)、進入用のRNP APCH(航法精度1マイル)、進入用のRNP AR APCH(航法精度0.3マイルまたは0.3マイル未満)が設定されているが、本格的なRNP航行は日本において実現していない。

なお、RNP AR APCH0.3が東京国際空港等で実験的に2012年より実施される予定である。

参考に、かつてRNPという言葉は一般のRNAVにおける「航法精度要件」の意味として使われていた時代があった。今でも一部にそういう使われ方をしている文章があるが、現行の国際基準では上記の定義に変更されているため、注意が必要である。

脚注

  1. ^ SBAS (Satellite Based Augmentation System):静止衛星型衛星航法補強システム。GPSの精度を向上するための静止衛星を利用するシステム。
  2. ^ JAL、新高精度航法(RNAV)運航を開始!!”. JALプレスリリース第07078号. 9月25日閲覧。accessdateの記入に不備があります。
  3. ^ 高精度航法(RNAV)の本格導入について”. ANAプレスリリース第07‐108号. 9月25日閲覧。accessdateの記入に不備があります。
  4. ^ 天井 治; 長岡 栄 (1993-05-26). “RNAV機の横方向経路逸脱量の解析”. 電子情報通信学会技術研究報告 Vol.93 (No.66): pp. 9-15. http://ci.nii.ac.jp/naid/110003289291/ 9月26日閲覧。accessdateの記入に不備があります。. 
  5. ^ GBAS(Ground-Based Augmentation System):地上型補強システム。地上施設によりGPSを補強するシステム。衛星利用よりさらに細やかに補強を行うことができ、到着や進入のみならず、着陸の段階にまで使用可能なレベルを目指している。

関連項目