ナン

発酵後窯焼きされるフラットブレッド

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ナンペルシア語ウルドゥー語ウイグル語 نان‎ nān ナーンヒンドゥスターニー語 nān / नान / نان ナーンタミル語 நான் nān英語 naan/nan ナーン/ナン)は、インドパキスタン中央アジアタジキスタン中国新疆ウイグル自治区ウズベキスタンアフガニスタンイランクルディスタンなどで食べられるパンである。

インドのナン

元々はペルシア語。平たく楕円形で、大きな草履のような独特の形をしていて、所々ぽこぽこ膨れている。インドのものは他国と異なり、二等辺三角形あるいはへら型をしている。パキスタンやウイグルのナンは丸いものが多い。ウイグルのギルデ・ナン(girde nan)は中央に穴があいており、ベーグルとよく似ているが、焼く前に茹でない点がベーグルと異なる。

小麦粉、水、酵母の主材料の他にヨーグルトが入ることが多く、また牛乳、油脂、時には、(少量の)砂糖スパイス類も入ることがある[1]

インドのナン

 
インドのナン

自然種(小麦などに含まれる野生酵母菌を自然発酵させた種)で発酵させた生地を、へら型にのばしてタンドゥールと呼ばれるの内壁に貼り付けて焼いたもの[2]。精製した小麦粉を使う。


日本ではインド料理店などでカレーを食べる際に提供される事が多い。最近ではファミリーレストラン学校給食、カレー専門店の中にもナンを提供する店が多くなった。このため、インド風のナンを焼くために小麦粉などを調整したナンミックスや業務用の冷凍食品も流通している。スーパーマーケットでも家庭用に焼いたものや、冷凍食品が売られている場合も多い。

日本ではカレーなどのインド料理に付くパンとしてはナンが良く知られている。ナンは生地をタンドールの内側に張り付けて焼くが、大きなタンドゥールを持つ家庭は少ないため、高級とされている。少しの燃料とタワーがあれば焼ける丸いパンケーキのようなチャパティの方が一般的である。また、ナンの生地を空中で回転させながら薄く丸い形に伸ばして焼くロティもある。

パキスタンのナン

 
パキスタンのペシャワールのナン

ウルドゥー語で「ナン نان」という。ロティの一種。インドのナンと同じようにタンドゥールの中で焼き、焼きたてはふんわりしているが、形は丸いものが多く、草履型のものもある。カレーを付けたり、すくったりしながら手で食べることが多い。

イランのナン

 
ナーネ・サンギャクを焼く男性、テヘランにて
 
ナーネ・ラヴァーシュ、エレバンにて

ペルシア語では、「ナーン」(口語では「ヌーン」と発音する事もある)とはパン類の他、クッキーなどの菓子類をも指す単語である。例えば、揚げ菓子の一種ハトゥン・パンジェレはナーン・パンジェレとも呼ばれる[3]

主な種類は次のとおり。

ナーネ・バルバリー(نان بربری
インドのナンと似ているが、ヨーグルトや、卵は入らない。
ナーネ・シールマール(نان شیرمال
ナーネ・バルバリーと似ているが、乳と砂糖が入る。
ナーネ・ラヴァーシュ(نان لواش
ごく薄くのばして焼き、保存するためのナン。アルメニアでも作られている。
ナーネ・サンギャク(نان سنگک
小麦粉の全粒粉で作ったナン。
ナーネ・ギースー(نان گیسو
アルメニア人復活祭に食べる甘い三つ編みパン。チョレグ(Choreg)とも。

アフガニスタンのナン

ファイル:Work bakery.jpg
アフガニスタンのナン工場

ダリー語でも、「ナーン」は「パン」の意。ウズベク語では「ノン」(non)という。全粒粉で作ることが多い。

主な種類は次のとおり。

ナーン(نان
全粒粉で作ったナン。生地にヨーグルトや乳、卵は入らない。焼く前に、女性が作る場合は指で、男性が作る場合は刃のある道具でへこみをつけ、胡麻ニオイクロタネソウNigella sativa)の種をふりかける。
ナーネ・ウズベキー(نان ازبکی
ウズベク人のナン。円形で少し厚め、釘や針金を埋め込んだスタンプで模様をつけ、溶き卵や乳を塗ってつやを出す。
ナーネ・ロウガニー(نان روغنی
上記のナンの生地に油脂が入ったもの。溶き卵を塗ってつやを出す。
ナーネ・ラワウシャ(نان لووشه
イランのナーネ・ラヴァーシュと同様の、ごく薄いナーン。
ナーネ・パラータ(نان پراتا
砂糖をまぶした薄い揚げパン。精製した小麦粉で作るが、生地の製法はインドのパラータと似ている。

ウイグルのナン

 
カシュガルのギルデ・ナン焼き風景

中国新疆ウイグル自治区などに住むウイグル人ナン(nan、نان)、中国語饢/馕」(拼音: náng ナン)を主食のひとつとして食べている。焼いて作るパンの総称であるが、生地を円盤状にのばし、ゲズネ(gezne、گەزنە)と呼ばれる板を使ってトヌル(tonur、تونۇر)と呼ばれるかまどの内側に貼り付けて焼くものが多い。インドやパキスタンのものと異なり、1cm程度の厚みがあり、しっかりした硬い焼きあがりである。家庭の食卓の上に常時保管され、基本的に茶やスープと共に食べる。硬くなりやすいため、割ってからこれらに漬けて食べることも多い。ウイグルのナンは中国各地の大都市のウイグル料理店や露天商が作って売っており、漢民族回族などにも消費されている。このためナンを表す漢字がある。

主な種類は次のとおり。

カクチャ(kakcha、كاكچا)
大きく円盤状のもの
トカチ(toqach、توقاچ)
小さい円盤状のもの
アク・ナン(aq nan、اق نان)
模様を押し入れたもの
ギルデ・ナン (girde nan、گىردە نان)
中央に穴の開いたもの

関連項目

脚注

  1. ^ 井上好文『パンの辞典』旭屋出版 2007,p143、144、145
  2. ^ 長野 (2010)、pp.264, 270
  3. ^ ペルシア語版ウィキペディア―項目「نان」(ナーン)

参考文献

  • Helen Saberi. Afghan Food and Cookery. Hippocrene, New York, 2000.
  • Najmieh Batmanglij. New Food of Life. Mage, Washington D. C., 2001.
  • 長野宏子 「フィールドからみた世界のパン」『麦の自然史 : 人と自然が育んだムギ農耕』 佐藤洋一郎、加藤鎌司編著、北海道大学出版会、2010年、ISBN 978-4-8329-8190-4