クラリスロマイシン

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クラリスロマイシン(商品名クラリス®;クラリシッド®(日)、Biaxin®;Klacid®(米))はマクロライド系抗生物質で、咽頭炎、偏桃炎、慢性気管支炎の急性増悪、肺炎(ことに、マイコプラズマ肺炎とクラミジア肺炎)、皮膚感染症、そして非定型抗酸菌の治療などにしばしば用いられる、日本におけるマクロライド系抗生物質の代表のひとつである。(総論的な事項についてはマクロライドの項も参照すること。)CAMと略記する。

クラリスロマイシンの構造式

そのほか、レジオネラによる感染症の治療にも用いられ、新しいところではヘリコバクター・ピロリの除菌療法でも標準的な治療法に組み込まれている。

分子量は747.85。化学式C38H69N013。ATCコードはJ01FA09である。

歴史

アメリカ合衆国のアボット社によって、1991年に市販された。マクロライドの化学合成はたいへん難しく、クラリスロマイシンはエリスロマイシンの修飾によって生まれた半合成マクロライドである。

作用機序

クラリスロマイシンは微生物のリボゾームの、50Sサブユニットという部分に結合して、タンパク合成を阻害する。(詳しくはマクロライドの項を見よ。)マクロライドの作用は主に静菌的である。クラリスロマイシンは原型薬のエリスロマイシンと類似の抗菌活性を有しているが、レジオネラなど一部の菌にはより強い抗菌活性を持ち、ほぼ全ての点でエリスロマイシンよりも優れている。高濃度ではインフルエンザ菌肺炎球菌淋菌などの一部の菌に殺菌的にも作用する。

ファーマコキネティクス(薬物動態学)

エリスロマイシンとは異なり、クラリスロマイシンは酸に対して安定で、コーティングなどで胃酸から保護しなくても経口投与できる。ほとんどが腸から吸収され、かなり初回通過効果(肝臓での代謝)の影響を受けるので、生物学的利用度は50~55%である。これをわかりやすく言うと、口から投与した量の半分ぐらいが、クラリスロマイシンの作用点にあたる部位に到達して作用する、と考えればよい。最高血中濃度は、投与を開始してから2時間程度で得られる。 

基本的にはエリスロマイシン同様に、時間依存性の抗生物質と考えられているので、徐放製剤も米国では利用できる。(Biaxin XL:一日1回の投与でよい。いかにも便利そうだが日本では未認可である。)白血球などの食細胞に蓄積する作用があるため、能動的に病変部へ輸送され、全身の組織内では血中濃度の10倍以上の濃度を得ることができる。もっとも高濃度になるのは肝臓と肺である。

主に肝臓で代謝されるが、代謝産物の中で14-ハイドロキシクラリスロマイシンはクラリスロマイシンのほぼ2倍の活性を持っている。クラリスロマイシンの半減期は5時間で、14-ハイドロキシクラリスロマイシンのそれは7時間である。これは、エリスロマイシンの血中半減期の数倍に相当する。従って、徐放化されていなくても一日2(~3)回の内服で良い。クラリスロマイシンとその代謝産物は、尿と胆汁へと排泄される。もっとも、相当重症(クレアチニンクリアランスで30未満)で無い限り、腎不全で投与量を修飾する必要は無い。

適応

クラリスロマイシンに限らず、マクロライドの基本的な用途はペニシリンアレルギーを持つ人に対する、連鎖球菌などのグラム陽性菌感染症の代替薬である。さらに、第一選択となる主なものにはベータラクタム系が無効のマイコプラズマリケッチアクラミジアによる感染症がある。原型薬のエリスロマイシンがかなり臨床的な使いづらさのある薬剤(一日4~6回も飲まなければならない、消化器症状が強いなど)であるため、クラリスロマイシンは多くのマクロライドの用途において、アジスロマイシンなどと並んで「マクロライドの顔」として広く用いられている。ほか、インフルエンザ菌への活性はエリスロマイシンよりも優れている。

主な適応

  • 咽頭炎・細菌性肺炎・急性中耳炎などの、起因菌としてグラム陽性球菌が想定される感染症:基本的にはペニシリン系が用いられない場合に限るべき。静菌的な薬剤でもあり、臨床的な「切れ味(効果)」の面で明らかに劣る。
  • 非定型肺炎:基本的には、マイコプラズマクラミジアによる肺炎の総称。第一選択。ウィルス性肺炎と鑑別しがたい場合も、重症度によってはやむを得ず用いられる。(抗生物質の投与が広く行われるようになっているので、症状がマイルドになり鑑別が難しくなっている面もある。)
  • トラコーマ、性器クラミジア感染症などのクラミジア感染症:後者には服薬コンプライアンス面でアジスロマイシンが優れるとの考えが主流。
  • 発疹チフスなどのリケッチア感染症、ツツガムシ病:基本的にはテトラサイクリン系を優先するが、小児や妊婦では第一選択になりうる。
  • 百日咳(第一選択)
  • カンピロバクター腸炎(第一選択)
  • レジオネラ感染症(第一選択)
  • 非定型抗酸菌の予防・治療(第一選択)
  • ヘリコバクター・ピロリの除菌療法(第一選択)

アジスロマイシンロキシスロマイシンとどちらが優れているかは大変難しい問題である。非定型抗酸菌やヘリコバクター・ピロリのようにクラリスロマイシンによる治療が確立しているものに、理由も無くアジスロマイシンを代替薬として用いる必要はないだろう。(新しい薬がいい薬、とは限らない。)しかし、一方でアジスロマイシンの薬物動態学的特性(飲ませる期間が短く、回数も1日1回でよい、見かけの分布容積がとても大きい)は魅力的であり、マクロライドという服薬コンプライアンスが悪く(つまり味が悪く)、耐性菌の問題が深刻になっている薬剤では重要な利点である。時に、一般論としてアジスロマイシンの優位性を主張する識者も存在する。

処方例

一日量は400mg/日。

一般にはクラリスクラリシッド錠(200mg) 2錠 一日2回。(AIDS患者の非定型抗酸菌症の治療などでは増量。)

各感染症について、何日投与を続けるかは疾患や医師により異なる。概して咽頭炎では10日、ヘリコバクター・ピロリの除菌で7日という数字が推奨されている。期間も重要であるが、耐性菌の問題もあるので、服薬コンプライアンスに注意を払う必要がある。ことに解熱後の、症状がとれてきた時期が問題である。

小児:クラリスクラリシッドドライシロップ(ないし錠剤)で10~15mg/kg/日 一日2~3回。

剤形

クラリス®・クラリシッド®錠(200mg・50mg小児用) クラリス®・クラリシッド®ドライシロップ(10%)

副作用

他のマクロライドと同様で、重篤なものは少ない。多いのは消化器症状(下痢・悪心(吐き気)・嘔吐)である。消化器症状の頻度はエリスロマイシンよりも少なくなっている。そのほか、まれに発疹・頭痛などを起こす。アレルギー反応はごくまれに重篤になるが、多くはない。

禁忌

クラリスロマイシンの絶対禁忌は、本剤にアレルギー反応を持つ者と、エルゴタミン(カフェルゴット)などの一部の薬剤を投与中の患者ぐらいであり、基本的には使いやすい薬である。従って、クラリスロマイシンを利用する患者は、市販薬も含めて全ての現在服用している薬剤を、おくすり手帳などを用いて医師・薬剤師に申告することが強く勧められる。

  • 米国FDAの胎児危険度分類はクラス「C」である。禁忌ではない。動物実験レベルでクラリスロマイシンの催奇形性を示唆する報告が出ているが、大量投与を用いた実験であり臨床上の意義が明らかでない。(一般的には、マクロライドは比較的安全である。)しかし、FDA基準ではアジスロマイシンエリスロマイシンがクラス「B」としてより安全なクラスに入れてあるので、妊婦に対してアジスロマイシンやもっとも使用年数の長いエリスロマイシンの投与を優先することは十分考えうる選択肢である。
  • FDAの授乳危険度分類は「2」。「注意深く用いること」である。禁忌ではない

外部リンク

参考文献

主として英語版に拠る。英語版リンクも参考になる。

  • 薬剤一般についての参考文献
    • 今日の治療薬(南江堂)…定評ある製剤集成。隔年改訂なので、できれば最新版を用いること。
    • 薬の処方ハンドブック(羊土社)…類似の処方集に「今日の処方」(南江堂)などがある。なるたけ新しい版(少なくとも5年以内)を用いるべきである。
    • カッツング薬理学(丸善)、グッドマン=ギルマンの薬理書(廣川書店)前者については、可能ならば原著を用いることを薦める。薬理学的な内容についての検索は、医薬系の大学図書館などで後者にあたると良い。
    • 小児の薬の選び方・使い方(南山堂)小児科領域の処方に関する丁寧な概説書。
    • Harriet Lane Handbook 16ed.(Mosby) 最近17版が出た。小児科領域の代表的なハンディガイドであるが、頻用薬の欄に米国における胎児危険度分類・授乳危険度分類・腎機能低下時の容量変更の必要性が3つ組で記載してあり便利である。
  • 感染症の薬剤についての参考文献
    • レジデントのための感染症診療マニュアル(医学書院)この分野の優れた教科書。
    • 抗菌薬の考え方,使い方(中外医学社)モダンな内容が平易な言葉で書かれた入門書。
    • サンフォード感染症診療ガイド(ライフサイエンス出版)状況別の抗菌薬処方集。抗生物質版「今日の処方」と言ってもよい。毎年改訂なので、できれば最新版を用いること。