糖尿病の食事療法

糖尿病あるいは高血糖を持つ人々に推奨されている食事療法

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糖尿病の食事療法では、糖尿病あるいは高血糖を持つ人々に勧められる食事療法について述べる。糖尿病の食事療法がどのような内容であるべきかについては、多くの議論がある。

また、糖尿病を持つ人は、グリセミック・インデックス値の高い炭水化物の摂取を減らすように指導されているであろうが、これについても議論がある[1]。グリセミック・インデックス(GI)の有用性について疑問を持ち、GI値の高い食品(ジャガイモなど)を勧める者もいる。また、血糖値を下げるには、オレイン酸の方がリノレイン酸より少し勝ると主張する者もいる。[2]

総カロリーのうち、炭水化物からのカロリーが占める割合については、通常は20〜45%が推奨されているが[3][4][5]、最大では16〜75%が推奨される場合もある[6]。最も賛成の多い栄養法は、砂糖を減らし、精製された炭水化物を減らし、食物繊維(特に水溶性)を増やすという栄養法である。

歴史

糖尿病の食事療法には長い歴史がある。紀元前3500年ごろのエジプトでも糖尿病の食事療法が行われていた。また、今から2000年以上前に、インドのSushrutaやCharakaでも行われていた。また18世紀に、John Rollo は、糖尿病の人がカロリー制限を行うと、尿糖が減少すると述べた。

しかし、近代的な糖尿病の食事療法が行われるようになったのは、Frederick Allen 以後である。彼は、インスリンが発見される前の時代に、糖尿病の人が致死的なケトアシドーシスとなるのを防ぐために、低カロリーダイエットを行うように勧めた。しかし、これは糖尿病を治癒させるものではなく、生命を限られた期間、延長させるだけのものであった。

1922年に、Frederick Bantingがインスリンを最初に使用して事態を変えた。インスリンの使用により、患者はより柔軟に食事を行うことが可能になった。

食品交換表

1950年代に、アメリカ糖尿病協会はアメリカ合衆国公衆衛生局と共に、食品交換表を発表した。この食品交換表に従って、糖尿病の患者は栄養的に同じような価値を持つ食品(例えば炭水化物)を他のものと交換することができる。例えば、もしデザートで通常より多い量の炭水化物を食べたいのであれば、食事の最初の部分でじゃがいもの消費を減らすのである。

この食品交換表は、1976年、1986年、1995年に改訂されている。[7]

しかし、糖尿病の食事療法の全ての研究者がこの食品交換表を推奨しているわけではない。むしろ研究者の多くは典型的な健康ダイエットを推奨している。

近代的な研究

より以前から試みられていた食品交換表の後には、栄養の研究が進展し、健康に寄与する食事成分の比率が疫学調査され食生活指針が策定されてきた。糖尿病の食事療法もこれに沿った研究が増えている。すなわち、精白されていない穀物により食物繊維が多く、多種類の果物や野菜が多く、砂糖と脂肪(特に飽和脂肪)が少ない食事である。

1979年に、James Andersonは、植物繊維が多い食事を推奨した(Anderson & Ward, 1979年[要文献特定詳細情報])、(Murray & Pizzornoが引用, 1990年[要文献特定詳細情報])。それは、バーキットとトロウェルが行った食物繊維についての研究の続編であると理解されるかもしれない[8]。(1975年にバーキットとトロウェルと『精製炭水化物と病気-食物繊維の影響』[9]を出版し、精白していない全粒穀物の重要性を訴え支持されていく[10]。 )さらにそれは、大元のPriceの研究の続編であると理解されるかもしれない(Murray & Pizzorno, 1990年)。現在でも、糖尿病のある人は食物繊維の多い食事をするように勧められている。

1976年にNathan Pritikinは、医療センターを開設し、患者たちが食事療法運動療法のプログラム(Pritikin プログラム)を受けられるようにした。食事は新鮮な果物や野菜や全粒穀物を含み、炭水化物と繊維の多い食事であった。2005年にカリフォルニア大学ロサンゼルス校 (UCLA) で行われた研究によれば、このプログラムを糖尿病や糖尿病の前段階の人々に対して、わずか3週間だけ行ったところ劇的な改善がもたらされ、約半数の人は糖尿病の範疇から脱することができた。[11][12][13][14]

他方、1983年には、Richard Bernsteinは糖尿病の患者と糖尿病の前段階の人に対して、果物や加えられた砂糖やデンプンを避けて、ごくわずかな炭水化物を摂る栄養法で治療して効果があった。PritikinとBernsteinの両者は共に、運動をするように指示している。

2000年以来、1型糖尿病を持つ患者の一部に人気のあるDAFNE (Dose Adjustment for Normal Eatingの頭文字、正常の喫食のための量の調整) という治療法がある。この治療法は食事の中に含まれる炭水化物の量を評価し、その量に従って注射するインスリンの量を調節するというものである。類似の治療法は 2型糖尿病の患者のためにもあり、DESMOND(Diabetes Education and Self-Management for On-Going and Newly Diagnosed diabetes、糖尿病と新しく診断されたり以前から糖尿病だった人達のための糖尿病教育と自己管理)として知られている。 DAFNEは独自のニュース・レターを持ち、勧められている。[15]

公的機関の見解

米国疾病予防センターCDCは、糖尿病の食事療法について次のように述べている。

  • 糖尿病の人は脂肪を減らすべきである。特に飽和脂肪やトランス脂肪を減らすべきである。例えば、肉の脂身、揚げ物、全乳、ケーキ、クッキー、クラッカー、パイ、ラード、ショートニング、マーガリンなどを減らすべきである[16]
  • 糖尿病の人は、砂糖を多く含む食品を制限すべきである。例えば、果物味の飲料、ソーダ、砂糖を含むコーヒーや紅茶などである。また、糖尿病の人は、食塩を多く含む食品を制限すべきである[16]
  • 糖尿病の人は、全粒の穀物によって食物繊維の摂取を増やすべきである。全粒の穀物は、100%の全粒穀物による朝食シリアル、オートミール、玄米、100%の全粒粉パンなどである。また、糖尿病の人は、毎日、バラエティーに富んだ果物や野菜を摂取すべきである。果物は、新鮮なもの、冷凍もの、缶詰、乾燥もの、100%の果物ジュースを選ぶべきである。毎日、多くの野菜を摂取すべきである。例えば、濃い緑色の野菜(ブロッコリー、ホウレンソウなど)、オレンジ色の野菜(ニンジン、カボチャなど)、豆(黒豆、ソラマメなど)である[16]

また米国国立医学図書館は次のように述べている。[17]

  • 砂糖を多く含む食品を制限すること
  • より少量ずつ、一日にわたって摂取すること
  • いつ、どのくらいの炭水化物を食べるかに注意を払うこと
  • 変化に富んだ全粒穀物、果物、野菜を毎日食べること
  • 脂肪の摂取を減らすこと
  • アルコールの摂取を減らすこと
  • 食塩を減らすこと

世界保健機構WHOは、「糖尿病」という文書の中で、次のように述べている。[18]

2型糖尿病を予防するため、あるいは糖尿病の発症を遅らせるために、生活習慣を改善する簡単な方法が効果があると示されている。2型糖尿病を予防し合併症を防ぐために、次のようにすべきである。

  • 健康的な体重にして、それを維持すること
  • 体をよく動かすこと(大半の日に、中等度の強度の運動を、1日に30分以上行うこと。体重をコントロールするためには、それ以上の運動が必要である)
  • 健康的な食事をすること(1日に果物と野菜を3~5単位食べること。また、砂糖と飽和脂肪の摂取を減らすこと)
  • 喫煙を避けること(喫煙は、心血管疾患のリスクを高める)

菜食

菜食による糖尿病に関する論文を探索して、臨床試験では通常の糖尿病食よりも主として体重減少によって血糖値制御が大きく改善されており、アテローム性動脈硬化症の進行も抑制しており、他の治療法に匹敵することが示された[19]。なお糖尿病の発症率も非菜食者に比較して半分である[19]

2014年の2型糖尿病患者に対するランダム化比較試験では、マクロビオティックの食事法は推奨される標準食と比較して、代謝を大きく改善する結果が得られた[20]。データは解析され、標準食よりも優れ、インスリン抵抗性と炎症の指標を低下させる安全な手法であった[21]。2015年の報告では食事法が腸内細菌叢を変化させるため、特に急速に血糖値を改善する必要がある場合などには、正当な追加治療であるとみなすことができる[22]

参考文献

  1. ^ John McDougall Glycemic Index ? Not Ready for Prime Time, The McDougall Newsletter, July 2006.
  2. ^ Segal-Isaacson CJ; Carello E; Wylie-Rosett J (October 2001). “Dietary fats and diabetes mellitus: is there a good fat?”. Curr Diab Rep. 1 (2): 161?9. doi:10.1007/s11892-001-0029-3. PMID 12643112. 
  3. ^ http://diabetes.diabetesjournals.org/content/53/9/2375.full
  4. ^ http://www.joslin.org/info/diet_and_diabetes_a_personalized_approach.html
  5. ^ http://www.diabetes.org/mfa-recipes/about-our-meal-plans.html
  6. ^ Katsilambros N, Liatis S, Makrilakis K (2006). “Critical Review of the International Guidelines: What Is Agreed upon ? What Is Not?”. Nestle Nutrition Workshop Series: Clinical & Performance Program 11: 207?18; discussion 218. doi:10.1159/000094453. ISBN 3-8055-8095-9. PMID 16820742. 
  7. ^ Peterson, Amy Rachel; Karen Hanson Chalmers (1999). 16 Myths of a Diabetic Diet. Alexandria, VA: American Diabetes Association. p. 85. ISBN 1-58040-031-0 
  8. ^ Trowell, Hugh C. & Burkett, Denis P. (1981). Western diseases: their emergence and prevention. Cambridge, MA: Harvard University Press. xiii–xvi. ISBN 0-674-95020-8 
  9. ^ Burkitt D.P, Trowell H.C Refined Carbohydrate Foods and Disease: Some Implications of Dietary Fibre, 1975 . ISBN 978-0121447502
  10. ^ Marquart L, Jacobs DR Jr, Slavin JL. "Whole Grains and Health: An Overview" Journal of the American College of Nutrition Vol.19(90003), 2000, pp289-290. PMID 10875599
  11. ^ Frank W. Booth & Manu V. Chakravarthy (2006). “Physical activity and dietary intervention for chronic diseases: a quick fix after all?”. J Appl Physiol 100 (5): 1439–1440. doi:10.1152/japplphysiol.01586.2005. 
  12. ^ Roberts CK, Won D, Pruthi S, Kurtovic S, Sindhu RK, Vaziri ND, and Barnard RJ. (2006). “Effect of a short-term diet and exercise intervention on oxidative stress, inflammation, MMP-9, and monocyte chemotactic activity in men with metabolic syndrome factors”. J Appl Physiol 100 (5): 1657–1665. doi:10.1152/japplphysiol.01292.2005. PMID 16357066. http://jap.physiology.org/content/100/5/1657.full. 
  13. ^ Roberts, Christian., and Barnard, R. James (2005). “Effects of exercise and diet on chronic disease”. Journal of Applied Physiology 98 (1): 3–30. doi:10.1152/japplphysiol.00852.2004. PMID 15591300. http://jap.physiology.org/content/98/1/3.full. 
  14. ^ Shaoni Bhattacharya "Three-week diet curbs diabetes", New Scientist, 13 January 2006.
  15. ^ DAFNE Home”. 2015年11月10日閲覧。
  16. ^ a b c Eat right Centers for Disease Control and Prevention
  17. ^ MedlinePlus 米国国立医学図書館
  18. ^ WHO Diabetes, Prevention
  19. ^ a b Barnard ND, Katcher HI, Jenkins DJ, Cohen J, Turner-McGrievy G (2009). “Vegetarian and vegan diets in type 2 diabetes management”. Nutrition Reviews 67 (5): 255–63. doi:10.1111/j.1753-4887.2009.00198.x. PMID 19386029. 
  20. ^ Soare A, Khazrai YM, Del Toro R, et al. (2014). “The effect of the macrobiotic Ma-Pi 2 diet vs. the recommended diet in the management of type 2 diabetes: the randomized controlled MADIAB trial”. Nutr Metab (Lond) 11: 39. doi:10.1186/1743-7075-11-39. PMC 4190933. PMID 25302069. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4190933/. 
  21. ^ Soare A, Del Toro R, Roncella E, et al. (2015). “The effect of macrobiotic Ma-Pi 2 diet on systemic inflammation in patients with type 2 diabetes: a post hoc analysis of the MADIAB trial”. BMJ Open Diabetes Res Care 3 (1): e000079. doi:10.1136/bmjdrc-2014-000079. PMC 4379741. PMID 25852946. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4379741/. 
  22. ^ Fallucca F, Fontana L, Fallucca S, Pianesi M (2015). “Gut microbiota and Ma-Pi 2 macrobiotic diet in the treatment of type 2 diabetes”. World J Diabetes 6 (3): 403–11. doi:10.4239/wjd.v6.i3.403. PMC 4398897. PMID 25897351. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4398897/. 

外部リンク