運動量保存則

物理法則の一つ(外力が働かないならば、系の運動量の総和は保存される)

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運動量保存の法則(うんどうりょうほぞんのほうそく)とは、ある外力が働かないかぎり、その運動量の総和(全運動量)は不変であるという物理法則運動量保存則ともいう。最初、デカルトが『哲学原理』の中で、質量速さの積の総和を神から与えられた不変量として記述したが、ベクトルを用いて現在の形の運動量とその保存則を導いたのはホイヘンスである[1]

ニュートンのゆりかご。別名、カチカチボール。運動量保存の法則を利用した玩具。

外力が働かない問題の例としては、物体衝突問題がある。二体の衝突問題は、エネルギー保存の法則と運動量保存の法則を考えることで解くことができる。完全弾性衝突のときのみ物体の運動エネルギーは保存される。一方、完全弾性衝突に限らず外力が働かない限り、運動量は保存される。

運動量保存則と運動方程式

質点の運動量 (以下、ベクトル量は太字で表す。)は である。ここで、 は質点の質量 は質点の位置ベクトル は質点の速度である。

ニュートンの運動方程式からこの質点に働く  であることから、質点に外部から働く力と質点の運動量の時間変化が等しいことが分かる。よって、質点に外力が働かない では質点の運動量 は不変である(保存する)。

2質点系の運動量保存則

2質点系において各質点の運動量の和は であり、 は系の全運動量あるいは重心(質量中心)又は並進運動の運動量と呼ばれる[2]。ここで、添え字の番号は各質点に対応している。

ニュートンの運動方程式から全運動量の時間微分は であることから、全運動量の時間変化は各質点に働く力の和に等しいことが分かる。

各質点に外力が働いていなければ、互いに力を働かせた場合のみなので作用・反作用の法則から になることから、全運動量 は不変である(保存する)。

このことから、2つの質点が衝突した時、衝突前後の系の全運動量  には が成立する。これは、速度    で衝突し、衝突後の速度がそれぞれ    となったことを示している。

N質点系の運動量保存則

N質点系の全運動量  である。ここで、  番目の質点の運動量である。

2質点系と同様に全運動量の時間微分は である。ここで、 番目の質点に働く力 は自分以外の 番目の質点から働く力 の総和と外力 の和 で表すことができる。よって、 となる。さらに、作用・反作用の法則から になるので であり、結局、全運動量の時間微分は となる。よって、各質点に働く外力 の総和に等しく、系に外力が働かなければ、系の全運動量は不変である(保存する)。

解析力学における運動量保存則

解析力学によれば、ネーターの定理により空間並進の無限小変換に対する作用積分の不変性に対応する保存量として運動量が導かれる。

流体力学における運動量保存則

流体中の微小要素に運動量保存則を適用することができ、これによって得られる式を流体力学における運動量保存則とよぶ。また、特に非圧縮性流体の場合はナビエ-ストークス方程式と呼ばれ、これは流体の挙動を記述する上で重要な式である。

出典

  1. ^ R.J.フォーブス, E.J.ディクステルホイス, (広重徹ほか訳), "科学と技術の歴史 (1)", みすず書房(1963), pp.175-176, 194-195.
  2. ^ 考える力学. Toshio Hyōdō, 俊夫 兵頭. 学術図書出版社. (2001). ISBN 4-87361-099-0. OCLC 676323408. https://www.worldcat.org/oclc/676323408 

関連項目

  • 保存則
  • 加速度