クリミア大橋
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クリミア大橋(クリミアおおはし、ロシア語: Крымский мост、ウクライナ語: Кримський міст)またはケルチ海峡大橋(ケルチかいきょうおおはし、ロシア語: Керченский мост、ウクライナ語: Керченський міст、クリミア・タタール語: Керич Копюри)は、ロシア連邦クラスノダール地方のタマン半島とクリミア共和国としてロシアが実効支配するクリミア半島の間を結ぶ、全長18.1km(道路橋は16.9km)の鉄道道路併用橋である。
クリミア大橋 (ケルチ海峡大橋) | |
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赤線がクリミア大橋のルートでトゥーズラ島とトゥーズラ・スピットを通る。青はフェリーの航路。 | |
基本情報 | |
国 | ロシア |
所在地 | タマン半島 - クリミア半島間 |
交差物件 | ケルチ海峡 |
用途 | 鉄道道路併用橋 |
着工 | 2016年 |
開通 |
2018年5月15日(道路) 2019年12月23日(鉄道) |
閉鎖 | 2022年10月8日 |
座標 | 北緯45度16分02秒 東経36度33分02秒 / 北緯45.2672度 東経36.5505度座標: 北緯45度16分02秒 東経36度33分02秒 / 北緯45.2672度 東経36.5505度 |
構造諸元 | |
全長 | 18.1km |
関連項目 | |
橋の一覧 - 各国の橋 - 橋の形式 |
概要
ロシア本土とクリミア半島の間を結ぶケルチ海峡フェリーの代替として建設された橋である。2015年5月に建設工事が開始され、道路部分は2018年5月15日に開通した[1]。鉄道部分は2019年12月23日に開通した[2]。ロシアがこれまでに建設した橋の中で最長[3]、ヨーロッパで最も長い橋である[4]。
歴史
ケルチ海峡に橋を建設する計画は19世紀から存在し、1903年にはロシア皇帝ニコライ2世により計画されたが、日露戦争および第一次世界大戦の影響もあり実現しなかった[5]。
第二次世界大戦(独ソ戦)中の1943年、ナチス・ドイツの軍需相アルベルト・シュペーアが架橋計画を提案した。コーカサスの戦いをドイツ国防軍優位に進めることが狙いであったが、既にドイツ軍は劣勢に転じていた。撤退に合わせてトート機関はケルチ海峡に1日当たり1,000トンの輸送力を持つロープウェイを建設した。同年3月7日にはドイツ総統アドルフ・ヒトラーが6ヶ月以内にケルチ海峡に鉄道道路併用橋を建設するように指示した。4月にはトート機関が工事を開始したが、9月1日にはソ連軍の総攻撃が始まり撤退を余儀なくされた。この時点で全体の約3分の1が完成していたが、ドイツ軍は撤退の過程において橋梁のうち既に完成していた区間を爆破した。赤軍によるクリミア解放後にドイツ軍が置き去りにした資材で延長4.5kmのケルチ鉄道橋が建設され1944年秋に仮開通したが、1945年2月に突堤の欠陥や流氷の影響により崩壊した。
1949年、ソ連政府はイェニカーレとチュシュカ・スピットを結ぶ、道路・鉄道併用橋の建設を指示したが、1950年に建設は中止され、代わりにフェリー路線が創設されることになった[6]。1960年代中盤以降はケルチ水力発電所計画によりダムおよび橋を建設する計画が浮上したが、ソビエト連邦の崩壊の影響で実現しなかった。
橋の建設は2006年にウクライナの閣議で再検討され、当時のウクライナ運輸大臣ミコラ・ルドコフスキーは、橋が「ロシアのコーカサスを訪れるすべての観光客がクリミアにも訪れる」ことを可能にするので、「クリミアにとって正味のプラス」となることが期待できると述べた[7]。この問題は2008年に両国の首相によって議論され[8]、その年に採択されたロシアの交通戦略では、2016年から2030年の期間における南連邦管区の交通インフラ整備の最優先課題としてケルチ海峡橋の建設を想定し、2015年までに設計を作成することとなった。
2010年、ウクライナのヴィクトル・ヤヌコーヴィチ大統領とロシアのドミートリー・メドヴェージェフ大統領がケルチ海峡への架橋計画に合意し、署名を行った[9]。2013年11月のウクライナ・EU連合協定否決により架橋計画への関心はさらに高まった。
2014年1月下旬、ウクライナとロシアの両政府は、ウクライナとロシアの新しい合弁会社が橋梁を建設し、ロシアの国営企業であるロシア高速道路公団(アヴトドル)が管理を行う方向で合意した[10]。ウクライナの経済発展貿易省は、建設には5年かかり、15億ドルから30億ドルの費用がかかると概算した[10]。2014年2月初頭にはイーゴリ・シュワロフロシア連邦第一副首相がアヴトドルに対して実現可能性の研究報告を2015年までにまとめるように指示した。
2014年3月18日のロシアによるクリミアの併合により、ケルチ海峡架橋プロジェクトはロシアにとって極めて重要なものとなった[11]。ロシアはウクライナと異なりクリミアへの陸路での到達手段がなく、ケルチ海峡フェリーは悪天候によりしばしば停止し[12]、しばしば車両の長い列ができたという限界があったからである[13]。この橋はクリミアを保持するというロシアの決意の象徴であり[11]、クリミアをロシア領に物理的に繋ぐものとなった[14]。もはや二国間プロジェクトではなく、それ以降のケルチ海峡橋の設計と建設はロシアによって一方的に行われた。
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は、クリミア併合を行った翌日の3月19日に、ケルチ海峡に鉄道道路併用橋を建設することを表明した[15]。2015年1月にはプーチン大統領と親交が深いと報じられているアルカディ・ローテンベルクが運営するストロイガズモンタジ(SGM)社が橋梁建設を受注した。SGM社はパイプラインの建設には関わってきたが、橋梁の建設はこれが初めてであった[16]。
ウクライナ政府は、橋のロシアの建設を違法として活発に非難し[17][18]、ロシアに「一時占領下のウクライナ領内にあるその構造物の部分」の撤去を求めている[19]。建設に関与した企業に対してはアメリカと欧州連合から制裁措置が導入され[20][21][22]、2018年12月以降、国連総会は橋の建設と開通を「クリミアのさらなる軍事化を促進する」[23][24]、「アゾフ海沿岸のウクライナの港に到着できる船のサイズを制限する」として繰り返し非難している[25]。他方、ロシアは「ロシア地域の住民のために輸送インフラを建設するために誰の許可も求めない」と主張した[26]。
運用と影響
2018年に開通した道路橋は、クリミアと他のロシア領との優先的な連絡ルートとしてケルチ海峡フェリーをすぐに追い越した。開通後最初の12時間で、橋は2017年8月に確立されたフェリーの交通記録を破った[27]。2018年10月に橋がトラック用に開かれた後、フェリーによるトラック輸送は事実上停止した[28]。
一方、道路橋の開通後に期待されたクリミアの物価の下落は起こらなかった。地元のロシア行政によれば、鉄道橋の開通が特定の商品の価格下落に寄与するとの期待はあるものの、制裁を受けるリスクやクリミアを「物流の行き止まり」と見なし、大手小売グループがクリミアで活動しないためにこの状況が続いているとされた[29]。
アゾフ海に2つの主要な港(ベルジャーンシクとマリウポリ)を持ち、そこを通じて鉄鋼や農産物を輸出しているウクライナは[30]、この橋はロシアによるウクライナの港の部分的な封鎖であり、ロシアによる船舶検査の増加により中には通過が許されるまで3日間待機させられている船舶もあると主張している[31][32]。橋のメインスパンは海面から33から35メートルの高さにあり、ウクライナの海事当局によれば、多くの船舶は橋の下を安全に通過するには大きすぎるとのことである[32][33]。ばら積み貨物船コパン(載貨重量17,777トン)は、この問題を解決するためにマストの上部を切り落とす必要があった[33]。2018年10月26日のThe Globe and Mailは、ウクライナの情報源を引用して、この橋によってアゾフ海の港からのウクライナの船舶が約25%減少したと報じた[30]。
爆発による火災
2022年10月8日早朝、鉄道橋の上を通過する貨物列車の燃料タンクが爆発炎上し、列車の通行が止まった[34]。クリミア大橋はロシアによるウクライナ侵攻においてロシア軍がヘルソン州などへの補給路として活用していたことから、以前よりウクライナ軍による攻撃をうける可能性が指摘されており[35]、爆発がウクライナ軍による破壊工作の一環であるとの見立てもある[36][37]。
脚注
- ^ Крымский мост поехал: байкеры, дипломаты и все-все-все
- ^ ロシア本土とクリミア結ぶ鉄道橋開通 併合の既成事実化狙う
- ^ “Russia pushes back 'Putin's bridge' to annexed Crimea by a year” (英語). Reuters. (2016年4月13日) 2022年5月6日閲覧。
- ^ CNN, Nathan Hodge. “Russia's bridge to Crimea: A metaphor for the Putin era”. CNN. 2022年5月6日閲覧。
- ^ Мост жизни. К предистории Керченского моста
- ^ “Предисловие | Мост через Керченский пролив”. kerch.rusarchives.ru. 2022年5月6日閲覧。
- ^ “Кабмин рассматривает возможность соединения Украины с Россией” (ロシア語). Украинская правда. 2022年5月6日閲覧。
- ^ “Россия и Украина договорились строить мост через Керченский пролив” (ロシア語). Lenta.RU. 2022年5月6日閲覧。
- ^ “Azarov creates group for bridging the Kerch Strait - Aug. 09, 2010”. KyivPost (2010年8月9日). 2022年5月6日閲覧。
- ^ a b “Мост к соседям” (ロシア語). Ведомости. 2022年5月6日閲覧。
- ^ a b “Russia's bridge link with Crimea moves nearer to completion” (英語). the Guardian (2017年8月31日). 2022年5月6日閲覧。
- ^ “Putin opens 12-mile bridge between Crimea and Russian mainland” (英語). the Guardian (2018年5月15日). 2022年5月6日閲覧。
- ^ “Bridge connects Crimea to Russia, and Putin to a Tsarist dream” (英語). South China Morning Post (2018年5月15日). 2022年5月6日閲覧。
- ^ “Russia Makes Bold Move to Try to Solidify Control Over Crimea”. The Daily Signal (2018年5月18日). 2022年5月6日閲覧。
- ^ “Kerch Strait bridge to be built ahead of schedule — deputy minister”. tass.ru. 2022年5月6日閲覧。
- ^ “Ukraine conflict: Putin ally to build bridge to Crimea” (英語). BBC News. 2022年5月6日閲覧。
- ^ “Ukraine-Russia sea clash: Who controls the territorial waters around Crimea?” (英語). BBC News. (2018年11月27日) 2022年5月6日閲覧。
- ^ ロシア・クリミア間に橋 プーチン氏「歴史的な日」『日本経済新聞』朝刊2018年5月16日(国際面)。
- ^ “Киев считает противоправным введение РФ запрета на судоходство через Керченский пролив” (ロシア語). Интерфакс-Украина. 2022年5月6日閲覧。
- ^ “U.S. imposes sanctions on 'Putin's bridge' to Crimea” (英語). Reuters. (2016年9月1日) 2022年5月6日閲覧。
- ^ “Ukraine: EU adds six entities involved in the construction of the Kerch Bridge connecting the illegally annexed Crimea to Russia to sanctions list” (英語). www.consilium.europa.eu. 2022年5月6日閲覧。
- ^ 「EU、クリミア架橋巡り制裁」『日本経済新聞』朝刊2018年8月1日掲載の共同通信配信記事(2018年8月1日閲覧)。
- ^ “ODS HOME PAGE”. documents-dds-ny.un.org. 2022年5月6日閲覧。
- ^ “General Assembly Adopts Resolution Urging Russian Federation to Withdraw Its Armed Forces from Crimea, Expressing Grave Concern about Rising Military Presence | Meetings Coverage and Press Releases”. www.un.org. 2022年5月6日閲覧。
- ^ “ODS HOME PAGE”. documents-dds-ny.un.org. 2022年5月6日閲覧。
- ^ Times, The Moscow (2018年5月16日). “Russia Defends Opening of Crimea Bridge Against U.S. Criticism” (英語). The Moscow Times. 2022年5月6日閲覧。
- ^ “Крымский мост за полдня работы побил абсолютный рекорд переправы” (ロシア語). Interfax.ru. 2022年5月6日閲覧。
- ^ “Фуры ушли на мост: что ждет Керченскую паромную переправу” (ロシア語). РИА Новости Крым (20181001T1352). 2022年5月6日閲覧。
- ^ “Что изменилось в Крыму с открытием моста” (ロシア語). Российская газета. 2022年5月6日閲覧。
- ^ a b Lourie, Richard (2018年10月26日). “Putin’s bridge over troubled waters” (英語). The Globe and Mail 2022年5月6日閲覧。
- ^ “Ukraine Complains Russia Is Using New Crimea Bridge to Disrupt Shipping” (英語). Bloomberg.com. (2018年7月25日) 2022年5月6日閲覧。
- ^ a b “U.S. Accuses Russia of Harassing Ukrainian Shipping” (英語). The Maritime Executive. 2022年5月6日閲覧。
- ^ a b “Bulk carrier had to cut off mast to pass under illegal Kerch Strait Bridge – Maritime Bulletin” (英語). 2022年5月6日閲覧。
- ^ “Движение по Крымскому мосту приостановили из-за горящей цистерны с топливом” (ロシア語). РИА Новости (2022年10月8日). 2022年10月8日閲覧。
- ^ “クリミアと露本土結ぶ橋で火災”. 産経ニュース (2022年10月8日). 2022年10月8日閲覧。
- ^ “クリミア半島の橋で大規模爆発 ロシア国営メディア”. CNN.co.jp (2022年10月8日). 2022年10月8日閲覧。
- ^ “クリミア半島とロシア結ぶ大橋で火災 ウクライナ南部”. 日本経済新聞 (2022年10月8日). 2022年10月8日閲覧。