タラゴン英語: Tarragon学名: Artemisia dracunculus)は、キク科ヨモギ属に分類される多年生植物である。自然にはロシア南部や中央アジアにかけて分布する。エストラゴン (フランス語: estragon) の名でも知られ、フランス料理に使われるハーブの1つでもある[2]。このため、原産地に限らず、栽培が行われている地域も有る。和名では、ホソバアオヨモギと呼ばれる。

タラゴン
タラゴン
分類
: 植物界 Plantae
: 被子植物門 Magnoliophyta
: 双子葉植物綱 Magnoliopsida
亜綱 : キク亜綱 Asteridae
: キク目 Asterales
: キク科 Asteraceae
亜科 : キク亜科 Asteroideae
: ヨモギ属 Artemisia
: タラゴン A. dracunculus
学名
Artemisia dracunculus
L.1753[1]
和名
タラゴン
英名
Tarragon 

特徴

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本種はカール・フォン・リンネの『植物の種』(1753年) で記載された植物の1つとして知られる[3]。タラゴンの原産地は、ロシア南部か西アジアか東ヨーロッパの付近であろうと考えられている[4]。しかしながら、タラゴンは料理に使われる場合も有る[2]。このため、フランス、ドイツ、オランダ、北アメリカ大陸、ロシア、さらには、比較的温暖なスペインなどでも栽培されている[4]。草丈は60センチメートル程度まで育ち、茎は直立してよく分枝している。葉は対生で、細長く、先が尖っており、濃い黄緑色で光沢を有す。花は滅多に咲かず、また、不稔性なので、栽培する場合は、挿し木や株分けで増やす。

香気

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タラゴンはアニスのような香気を持ち、その香りの主成分はエストラゴール(estragole)であり、タラゴンの香気成分の6割程度を占めている[4]。タラゴンのフランス語のエストラゴンが、慣用名のエストラゴールの語源である。このような香りを有するため、タラゴンは料理に使われる場合も有る[2]。さらに、料理以外においても、食品用の香料、香粧品用の香料としても用いられる[5]。なお、葉が乾燥する間に少しだが酸化するため、葉に含まれていた別の化学成分がクマリンに変化し、乾燥したタラゴンからは、刈ったばかりの干し草のような芳ばしい、ただしこれまでとは違った香りが生じる[6]

栽培

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タラゴンは野性的な性質の植物であり、気候が合えば容易に育つ[4]

適度に日の当たる場所で、水はけの良い軽い土質を好む。収穫は年に2回から3回可能であり、開花直前が最も香りが高い。同じ株で何度も収穫していると段々と香りが弱くなるので、3年から4年ごとに植え替える[7]

歴史

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タラゴンの原産地は、ロシア南部か西アジアか東ヨーロッパの付近であろうと考えられている[4]。BC500年頃からギリシャでは、薬草として栽培されていた。ヒポクラテスは、ヘビや狂犬に噛まれた時の毒消しに用いていたと言う[8]。13世紀の植物学者、薬剤師であるイブン・バイタールは、タラゴンの効能を口臭予防や睡眠導入に効果が有るとしていた。

用途

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料理の着香を含めて、食品用香料として利用される[9]。しかし、そればかりではなく、香粧品用香料として、他の香りの変調剤としても利用される[5][注釈 1]

料理

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料理の香味付けに用いられるが、香りが飛んでしまうので、乾燥させた物ではなく生で用いるのが望ましい。

ピリッとした辛味を有し、ドレッシングなどサラダの味付けに使用する[2]フランス料理で広く利用され、タルタルソースなど多くのソースに加えられる[2]。また、鶏肉、魚介、卵料理まで、淡白な味を引き立て[8]、料理の味を劇的に変化させるため「魔法の竜」と呼ばれている。香りが強いため、オイルビネガーに入れておくだけで風味付けに使える[2]。フランス料理の調味料であるタラゴンビネガーは、タラゴンを白ワインビネガーに漬けて作る[10]。乳製品にも良く合い、チーズサワークリームに混ぜたディップなどにも使える[2]

薬用

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食欲増進、健胃・整腸作用、鎮痛作用が有り、痛風リウマチにも良いと言われている[2]

抗癌作用を主張する研究について

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かつて、タラゴンはデザイナーフーズ計画のピラミッドで3群に属しており、3群の中でも、バジル、タラゴン、カラスムギアサツキは共に3群の上位に属する、癌予防効果を有した食材であると位置付けられていた[11]

脚注

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注釈

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  1. ^ 香りの変調剤は、英語では「modifier」と言う。他の香料に、変調剤を混ぜる事により、香りを豊かにできる。変調剤は、比較的少量でも効果が出てくる。

出典

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  1. ^ 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Artemisia dracunculus L. タラゴン(標準)”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2023年1月16日閲覧。
  2. ^ a b c d e f g h 成美堂出版 2012, p. 179.
  3. ^ Linnaeus, Carolus (1753) (ラテン語). Species Plantarum. Holmia (Stockholm): Laurentius Salvius. p. 849. https://www.biodiversitylibrary.org/page/358870 
  4. ^ a b c d e 日本香料協会 編 『香りの百科(初版)』 p.261 朝倉書店 1989年6月25日発行 ISBN 4-254-25229-3
  5. ^ a b 日本香料協会 編 『香りの百科(初版)』 p.262 朝倉書店 1989年6月25日発行 ISBN 4-254-25229-3
  6. ^ ゲイリー・アレン『ハーブの歴史』竹田円 訳、原書房、2015年1月21日、17頁。ISBN 978-4-562-05122-9 
  7. ^ 武政三男『スパイス&ハーブ辞典』文園社、1997年1月、41頁。ISBN 4-89336-101-5 
  8. ^ a b 北野 2005, pp. 91–93
  9. ^ 日本香料協会 編 『香りの百科(初版)』 p.261、p.262 朝倉書店 1989年6月25日発行 ISBN 4-254-25229-3
  10. ^ 主婦の友社 編『キッチンハーブ26種の育て方&レシピ』主婦の友社〈セレクトBOOKS〉、2011年10月、35頁。ISBN 978-4-07-279232-2https://books.google.co.jp/books?id=gu1-UlICuu0C&pg=PA35&lpg=PA35&dq=%E3%82%BF%E3%83%A9%E3%82%B4%E3%83%B3%E3%83%93%E3%83%8D%E3%82%AC%E3%83%BC&source=bl&ots=hj3Q97ps6F&sig=nQFJDs1oBagIztGirQ0i39BAVgM&hl=ja&sa=X&ei=BNM4VarTLcLCmQWoqoCwBA&ved=0CJ4BEOgBMBE 
  11. ^ 大澤俊彦「がん予防と食品」『日本食生活学会誌』第20巻第1号、2009年、11-16頁、doi:10.2740/jisdh.20.11 

参考文献

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外部リンク

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