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'''ハイイログマ'''(灰色熊、学名 ''Ursus arctos horribilis'')は、[[北アメリカ]]に生息する[[クマ科]]の大型動物で、[[ヒグマ]]の一[[亜種]]である。
'''ハイイログマ'''(灰色熊、学名 ''Ursus arctos horribilis'')は、[[北アメリカ]]に生息する[[クマ科]]の大型動物で、[[ヒグマ]]の一[[亜種]]である<ref name="bunnell">Fred Bunnell 「クマ科」渡辺弘之訳『動物大百科1 食肉類』今泉吉典監修 D.W.マクドナルド編、平凡社、1986年。</ref>。[[日本]]に生息する[[エゾヒグマ]](''U. a. yesoensis'')とは近縁である。

[[日本]]に生息する[[エゾヒグマ]](''U. a. yesoensis'')とは近縁である。最大級の個体は体重が450kg以上に達する(1979年に[[イエローストーン国立公園]]で508kgの個体が麻酔銃で捕獲・計量された)が、平均的な大きさは日本のヒグマとあまり変わらない(1979年にイエローストーン国立公園で行われた調査では雄の平均体重は260kg、雌の平均体重は170kgであった)。ただ、肩のコブがより盛り上がっている。日本でも'''グリズリー'''('''Grizzly''')という英名がよく知られている。別名'''アメリカヒグマ'''

イエローストーン国立公園内ではオオカミの群れと並んで生態系の頂点に位置し、季節によって[[ヘラジカ]]、[[トナカイ]]や[[アメリカアカシカ]]、[[アメリカバイソン]]等の草食獣やその死体、[[サケ]]、[[マス]]、[[バス (魚)|バス]]等の魚類、[[松の実]]や[[ベリー]]等の植物や[[昆虫]]など何でも食べる雑食性である。[[アメリカグマ|アメリカクロクマ]]を捕食することがあり、[[オオカミ]]から獲物を奪うことも多い時速50km程で走り、泳ぎも得意。木登りについて個体は得意とするが、成獣は体重が増加すためほんど登らなくなる。住宅地近く棲む個体はゴミを漁こともあり、環境問題になっている。


== 解説 ==
== 解説 ==
別名'''アメリカヒグマ'''。また、日本でも[[グリズリー (映画)|同名の映画]]が公開されて以降、'''グリズリー'''('''Grizzly''')という英名がよく知られている。北米では、内陸に棲む同種をグリズリー、沿岸に棲む同種を[[ヒグマ]] (Brown Bear) と呼ぶことが多いが、実際のところ、ヒグマと区別する明確な基準はない。
絶滅した[[カリフォルニアハイイログマ]]は平均で今のグリズリーの最大級ぐらいの大きさだった。かつては[[北アメリカ大陸]]西部に幅広く生息していたが、開発に伴って生息域が減少し、現在の分布は[[アラスカ州]]、[[アメリカ合衆国]]北西部、[[カナダ]]西部に限られている。
古い時代の区別方法としては「爪が細長く、普通に歩いていて地面に跡が残るほどのものがグリズリー、そうでないものがヒグマ。」や「体毛の先端部が白っぽいものがグリズリー、そうでないのがヒグマ。」というような区分がされていたが、この時点でもアラスカの南部の海岸線や島にいるシトカグマが、外見にグリズリーとアラスカヒグマのどっちとも言えない特徴があるとされていたなど、曖昧な点があった <ref>『シートン動物誌 4 グリズリーの知性』アーネスト・シートン 著、今泉吉晴 監訳、株式会社紀伊國屋書店、1998年、ISBN 4-314-00754-0、p.38-39、41図2、215図13</ref>。
亜種小名「''horribilis''」は「恐ろしい」という意味である。


なお、[[ゲノム]]の解析により、[[絶滅]]種の[[ホラアナグマ]]と異種[[交配]]しており、現生のハイイログマにもホラアナグマの[[遺伝子]]を持つ[[個体]]が存在する事が判明した<ref>[[ナショナルジオグラフィック (雑誌)|ナショナルジオグラフィック]](2018年8月30日)[https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/18/082900379/ 絶滅クマのDNA、ヒグマで発見、異種交配していた]</ref>。 
アメリカ合衆国の[[絶滅の危機に瀕する種の保存に関する法律]]をはじめとする保護法の発効以来ハイイログマの個体群数は回復の傾向にあるが、放牧業を営む畜農家との軋轢、拡大する住宅地、[[イエローストーン国立公園]]などでの観光客との接触、交通事故など、人とハイイログマとの共存は容易ではない。


=== 生態 ===
[[NBA]]の[[メンフィス・グリズリーズ]]や有名な[[グリズリー・アダムス]]など、グリズリーの名で日本に知られているものも多い。
最大級の個体は体重が450キログラム以上に達する<ref>1979年に[[イエローストーン国立公園]]で508キログラムの個体が麻酔銃で捕獲・計量された。</ref>が、平均的な大きさは日本のヒグマとあまり変わらない<ref>1979年にイエローストーン国立公園で行われた調査では雄の平均体重は260キログラム、雌の平均体重は170キログラムであった。</ref>。ただ、肩のコブがより盛り上がっている。走行速度は、雌のハイイログマが瞬間的に時速48キロメートルを計測した事があり(雌は雄よりも速い)<ref>{{Cite web|last=Kearns|first=William E.|date=January–February 1937|title=THE SPEED OF GRIZZLY BEARS. Yellowstone National Park (Nature Notes)|url=https://www.nps.gov/parkhistory/online_books/yell/vol14-1-2a.htm|access-date=2023-11-25|website=www.nps.gov}}</ref>、泳ぎも得意とする。木登りについては若い個体は得意とするが、成獣は体重が増加するためほとんど登らなくなる。


絶滅した[[カリフォルニアハイイログマ]]は平均で今のグリズリーの最大級ぐらいの大きさだった。かつては[[北アメリカ大陸]]西部に幅広く生息していたが、開発に伴って生息域が減少し、現在の分布は[[アラスカ州]]、[[アメリカ合衆国]]北西部、[[カナダ]]西部に限られている。
北米では、内陸に棲む同種をグリズリー、沿岸に棲む同種を[[ヒグマ]] (Brown Bear) と呼ぶことが多いが、実際のところ、ヒグマと区別する明確な基準はない。


季節によって[[ヘラジカ]]、[[トナカイ]]や[[アメリカアカシカ]]、[[アメリカバイソン]]、[[オオツノヒツジ]]、ドールシープ、[[シロイワヤギ]]等の草食獣やその[[死体]]、[[サケ]]、[[マス]]、[[バス (魚)|バス]]等の魚類、[[松の実]]や[[ベリー]]等の植物や[[昆虫]]など何でも食べる[[雑食性]]である。[[アメリカグマ|アメリカクロクマ]]を捕食することがあり、[[オオカミ]]や[[ピューマ]]から獲物を奪うこともある天敵言えもの存在しないが、通常ヘラジカやアメリカアカシカやアメリカバイソンの健康な成獣を[[捕食|狩]]こは無く、それや[[イノシシ]]や[[家畜]]大型草食動物の反抗よって死亡すもある。
亜種小名「''horribilis''」は「恐ろしい」という意味である。
カリフォルニアやスペインなどでは、[[娯楽]]としてヒグマと雄牛を戦わせる見せ物が19世紀まで盛んであった。この需要が、[[カリフォルニアハイイログマ]]の絶滅の一因になったともされる<ref>[https://www.californiasun.co/stories/when-california-delighted-in-the-bloodsport-of-bulls-vs-bears/ When California delighted in the bloodsport of bulls vs. bears] by Mike McPhate, Jul 26, 2018</ref>。


== ハイイログマの保護 ==
== ハイイログマの保護 ==
[[image:Custer1.jpg|thumb|駆除された灰色熊。中央は、[[ジョージ・アームストロング・カスター|カスター中佐]]。左はカスターの片腕、[[リ族]]の[[:en:Bloody Knife|ブラッディナイフ]](1876年撮影)]]
[[image:Custer1.jpg|thumb|駆除されたハイイログマ。中央は、[[ジョージ・アームストロング・カスター|カスター中佐]]。左はカスターの片腕、[[カラ族]]の[[ブラッディナイフ]](1876年撮影)]]
[[File:Grizzly bear in Bear Country USA.ogv|thumb|right|[[ラピッドシティ]]にて撮影されたハイイログマ]]
[[File:Grizzly bear in Bear Country USA.ogv|thumb|right|[[ラピッドシティ]]にて撮影されたハイイログマ]]
亜種全体としては、[[アメリカ合衆国]]では「絶滅危惧」("Threatened")<ref>{{Cite web |url=http://ecos.fws.gov/speciesProfile/SpeciesReport.do?spcode=A001 |title=Species Profile |publisher=U.S. Fish and Wildlife Service |accessdate=2019-03-22 |archiveurl=http://web.archive.org/web/20080103054304/http://ecos.fws.gov:80/speciesProfile/SpeciesReport.do?spcode=A001 |archivedate=2008-01-03}}</ref>、[[カナダ]]では「特別懸念」("special concern")に指定されている<ref>[http://www.speciesatrisk.gc.ca/search/speciesDetails_e.cfm?SpeciesID=639 カナダ政府絶滅危惧種のページ(英文)]
亜種全体としては、[[アメリカ合衆国]]では「絶滅危惧」("Threatened")<ref>{{Cite web |url=http://ecos.fws.gov/speciesProfile/SpeciesReport.do?spcode=A001 |title=Species Profile |publisher=U.S. Fish and Wildlife Service |accessdate=2019-03-22 |archiveurl=https://web.archive.org/web/20080103054304/http://ecos.fws.gov:80/speciesProfile/SpeciesReport.do?spcode=A001 |archivedate=2008-01-03}}</ref>、[[カナダ]]では「特別懸念」("special concern")に指定されている<ref>[http://www.speciesatrisk.gc.ca/search/speciesDetails_e.cfm?SpeciesID=639 カナダ政府絶滅危惧種のページ(英文)]
</ref>。米国では現在この他に、複数の[[個体群]]を絶滅危惧特別個体群("Threatened Distinct Population Segments")に指定するよう要請がなされている。
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北米の西部開拓の歴史は、ハイイログマの生息域への開拓の歴史でもあり、人との接触にまつわる逸話は多く知られており、日本では[[アーネスト・トンプソン・シートン|シートン]]の著書を通して知られるものが多い。
北米の西部開拓の歴史は、ハイイログマの生息域への開拓の歴史でもあり、人との接触にまつわる逸話は多く知られており、日本では[[アーネスト・トンプソン・シートン|シートン]]の著書を通して知られるものが多い。


「ハイイログマ(グリズリー)」という呼称は見たまま「灰色の(クマ)」という意味で、この呼称自体は古くからあるが、これを1つのグループとされたきっかけは、1805年[[イエローストーン川]]合流地点より先で、開拓者たちによる探検隊が既知のアメリカクロクマと明らかに違う「白っぽい(黄色みがかった茶色)クマ」を見つけ、さらに先住民の村でクマの分類を聞いた際その白っぽい熊を含む「ホーホスト(Hohost)」と別種の「ヤッカー(Yackkah)」という名前を上げられ、「両者とも様々な毛色をしているが、毛先に白か霜降り状の灰色のものがホーホスト、ホーホストは爪が細長く長く木に登らない。ヤッカーはホーホストより小さく、爪が曲がっていて木によく登る」という話を受けており、これらから「白っぽいクマ」と既知のアメリカグマが明らかに違う<ref>ただし、この探検隊は「ヤッカー」もアメリカグマ(''Ursus americanus'')と別種(毛が密で色に斑のものがいるなどが理由)だと判断したが、その後ヤッカーはアメリカグマの事だとされている(『シートン動物誌 4 グリズリーの知性』アーネスト・シートン 著、今泉吉晴 監訳、株式会社紀伊國屋書店、1998年、ISBN 4-314-00754-0、p.240。)。</ref>ことからこれを報告し、フィラデルフィアのジョージ・オードが「''Ursus horribilis''」とユーラシアのヒグマと同属の新種とした、なお「グリズリー(Grizzly)」 とは前述のように「灰色の」という意味だが「grisly(ぞっとする)」という同音の言葉が後で当てられ、シートンによるとこちらが学名の「horribilis(恐ろしい)」の由来となっているとされる<ref>『シートン動物誌 4 グリズリーの知性』アーネスト・シートン 著、今泉吉晴 監訳、株式会社紀伊國屋書店、1998年、ISBN 4-314-00754-0、p.26・45-46</ref>
生け捕りにしたハイイログマを、見世物として他の動物と戦わせることも盛んに行われており、[[闘牛]]用の雄牛と闘わせられたり<ref>{{Cite web |url=http://bancroft.berkeley.edu/Exhibits/bearinmind/themes/inthearena/01print.html |title=Bear in Mind: Bears in the Arena (1 of 10) print |publisher=The Regents of the University of California. |author=JOHN DAVID BORTHWICK |accessdate=2019-03-22}}</ref>[[ライオン]]と闘わせられたり<ref>{{Cite web |url=http://www.notfrisco.com/calmem/bears/bell.html |title=Ursus Horribilus - California Grizzly |publisher= |editor=Lanier Bartlett |accessdate=2019-03-22 |archiveurl=http://web.archive.org/web/20121229134611/http://www.notfrisco.com:80/calmem/bears/bell.html |archivedate=2012-12-29}}</ref>したハイイログマの記録も残っている。

開拓時代には北アメリカ大陸の西部に広く分布していたが、その後駆除や狩猟で減少が続き、1922年時点でアメリカ合衆国本土ではほぼ絶滅(ワイオミング・モンタナ・コロラドの3州に800頭ほど残存)で、カナダとアラスカでは分布は縮小したもののまだ比較的良好な状況だった<ref>『シートン動物誌 4 グリズリーの知性』アーネスト・シートン 著、今泉吉晴 監訳、株式会社紀伊國屋書店、1998年、ISBN 4-314-00754-0、p.35地図1・47-61</ref>。

生け捕りにしたハイイログマを、見世物として他の動物と戦わせることも盛んに行われており、[[闘牛]]用の雄牛と闘われたり<ref>{{Cite web |url=http://bancroft.berkeley.edu/Exhibits/bearinmind/themes/inthearena/01print.html |title=Bear in Mind: Bears in the Arena (1 of 10) print |publisher=The Regents of the University of California. |author=JOHN DAVID BORTHWICK |accessdate=2019-03-22}}</ref>[[ライオン]]と闘われたり<ref>{{Cite web |url=http://www.notfrisco.com/calmem/bears/bell.html |title=Ursus Horribilus - California Grizzly |publisher= |editor=Lanier Bartlett |accessdate=2019-03-22 |archiveurl=https://web.archive.org/web/20121229134611/http://www.notfrisco.com:80/calmem/bears/bell.html |archivedate=2012-12-29}}</ref>したハイイログマの記録も残っている。

アメリカ合衆国の[[絶滅の危機に瀕する種の保存に関する法律]]をはじめとする保護法の発効以来ハイイログマの個体群数は回復の傾向にあるが、放牧業を営む畜農家との軋轢、拡大する住宅地、[[イエローストーン国立公園]]などでの観光客との接触、交通事故など、人とハイイログマとの共存は容易ではない。住宅地の近くに棲む個体はゴミを漁ることもあり、環境問題になっている

== その他 ==
[[NBA]]の[[メンフィス・グリズリーズ]]や有名な{{仮リンク|グリズリー・アダムス|en|John "Grizzly" Adams}}など、グリズリーの名で日本に知られているものも多い。


== 画像 ==
== 画像 ==

2024年4月25日 (木) 12:58時点における最新版

ハイイログマ
ハイイログマ
保全状況評価
LEAST CONCERN
(IUCN Red List Ver.3.1 (2001))
分類
ドメイン : 真核生物 Eukaryota
: 動物界 Animalia
: 脊索動物門 Chordata
亜門 : 脊椎動物亜門 Vertebrata
: 哺乳綱 Mammalia
: 食肉目 Carnivora
亜目 : イヌ亜目 Caniformia
下目 : クマ下目 Arctoidea
小目 : クマ小目 Ursida
上科 : クマ上科 Ursoide
: クマ科 Ursidae
亜科 : クマ亜科 Ursinae
: クマ属 Ursus
: ヒグマ U. arctos
亜種 : ハイイログマ U. a. horribilis
学名
Ursus arctos horribilis
Ord, 1815
和名
ハイイログマ
英名
Grizzly bear
生息域

ハイイログマ(灰色熊、学名 Ursus arctos horribilis)は、北アメリカに生息するクマ科の大型動物で、ヒグマの一亜種である[1]日本に生息するエゾヒグマU. a. yesoensis)とは近縁である。

解説

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別名アメリカヒグマ。また、日本でも同名の映画が公開されて以降、グリズリーGrizzly)という英名がよく知られている。北米では、内陸に棲む同種をグリズリー、沿岸に棲む同種をヒグマ (Brown Bear) と呼ぶことが多いが、実際のところ、ヒグマと区別する明確な基準はない。 古い時代の区別方法としては「爪が細長く、普通に歩いていて地面に跡が残るほどのものがグリズリー、そうでないものがヒグマ。」や「体毛の先端部が白っぽいものがグリズリー、そうでないのがヒグマ。」というような区分がされていたが、この時点でもアラスカの南部の海岸線や島にいるシトカグマが、外見にグリズリーとアラスカヒグマのどっちとも言えない特徴があるとされていたなど、曖昧な点があった [2]。 亜種小名「horribilis」は「恐ろしい」という意味である。

なお、ゲノムの解析により、絶滅種のホラアナグマと異種交配しており、現生のハイイログマにもホラアナグマの遺伝子を持つ個体が存在する事が判明した[3]。 

生態

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最大級の個体は体重が450キログラム以上に達する[4]が、平均的な大きさは日本のヒグマとあまり変わらない[5]。ただ、肩のコブがより盛り上がっている。走行速度は、雌のハイイログマが瞬間的に時速48キロメートルを計測した事があり(雌は雄よりも速い)[6]、泳ぎも得意とする。木登りについては若い個体は得意とするが、成獣は体重が増加するためほとんど登らなくなる。

絶滅したカリフォルニアハイイログマは平均で今のグリズリーの最大級ぐらいの大きさだった。かつては北アメリカ大陸西部に幅広く生息していたが、開発に伴って生息域が減少し、現在の分布はアラスカ州アメリカ合衆国北西部、カナダ西部に限られている。

季節によってヘラジカトナカイアメリカアカシカアメリカバイソンオオツノヒツジ、ドールシープ、シロイワヤギ等の草食獣やその死体サケマスバス等の魚類、松の実ベリー等の植物や昆虫など何でも食べる雑食性である。アメリカクロクマを捕食することがあり、オオカミピューマから獲物を奪うこともある。天敵と言えるものは存在しないが、通常ヘラジカやアメリカアカシカやアメリカバイソンの健康な成獣を狩ることは無く、それらやイノシシ家畜などの大型草食動物の反抗によって死亡する例もある。 カリフォルニアやスペインなどでは、娯楽としてヒグマと雄牛を戦わせる見せ物が19世紀まで盛んであった。この需要が、カリフォルニアハイイログマの絶滅の一因になったともされる[7]

ハイイログマの保護

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駆除されたハイイログマ。中央は、カスター中佐。左はカスターの片腕、アリカラ族ブラッディ・ナイフ(1876年撮影)
ラピッドシティにて撮影されたハイイログマ

亜種全体としては、アメリカ合衆国では「絶滅危惧」("Threatened")[8]カナダでは「特別懸念」("special concern")に指定されている[9]。米国では現在この他に、複数の個体群を絶滅危惧特別個体群("Threatened Distinct Population Segments")に指定するよう要請がなされている。

2006年1月アメリカ合衆国内務省魚類野生生物局モンタナ州ワイオミング州にまたがる大イエローストーン生態系に生息する個体群の絶滅危機種指定の解除を提案した。多くの生態学者が実質的個体群の大きさが長期間にわたる存続には不十分なこと、主要な食料資源の確保が将来危ぶまれること、乱獲からの保護が保証されないこと、などの理由で反対を表明したにもかかわらず、2007年3月22日に同個体群は指定を解除された。現在天然資源防護協議会をはじめとする複数の自然保護団体が、内務省の決定は科学的根拠よりも政治的な理由によるものなので撤回されるべきと主張し、米国政府を相手取り訴訟を起こしている。

人との関わり

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北米の西部開拓の歴史は、ハイイログマの生息域への開拓の歴史でもあり、人との接触にまつわる逸話は多く知られており、日本ではシートンの著書を通して知られるものが多い。

「ハイイログマ(グリズリー)」という呼称は見たまま「灰色の(クマ)」という意味で、この呼称自体は古くからあるが、これを1つのグループとされたきっかけは、1805年イエローストーン川合流地点より先で、開拓者たちによる探検隊が既知のアメリカクロクマと明らかに違う「白っぽい(黄色みがかった茶色)クマ」を見つけ、さらに先住民の村でクマの分類を聞いた際その白っぽい熊を含む「ホーホスト(Hohost)」と別種の「ヤッカー(Yackkah)」という名前を上げられ、「両者とも様々な毛色をしているが、毛先に白か霜降り状の灰色のものがホーホスト、ホーホストは爪が細長く長く木に登らない。ヤッカーはホーホストより小さく、爪が曲がっていて木によく登る」という話を受けており、これらから「白っぽいクマ」と既知のアメリカグマが明らかに違う[10]ことからこれを報告し、フィラデルフィアのジョージ・オードが「Ursus horribilis」とユーラシアのヒグマと同属の新種とした、なお「グリズリー(Grizzly)」 とは前述のように「灰色の」という意味だが「grisly(ぞっとする)」という同音の言葉が後で当てられ、シートンによるとこちらが学名の「horribilis(恐ろしい)」の由来となっているとされる[11]

開拓時代には北アメリカ大陸の西部に広く分布していたが、その後駆除や狩猟で減少が続き、1922年時点でアメリカ合衆国本土ではほぼ絶滅(ワイオミング・モンタナ・コロラドの3州に800頭ほど残存)で、カナダとアラスカでは分布は縮小したもののまだ比較的良好な状況だった[12]

生け捕りにしたハイイログマを、見世物として他の動物と戦わせることも盛んに行われており、闘牛用の雄牛と闘わされたり[13]ライオンと闘わされたり[14]したハイイログマの記録も残っている。

アメリカ合衆国の絶滅の危機に瀕する種の保存に関する法律をはじめとする保護法の発効以来ハイイログマの個体群数は回復の傾向にあるが、放牧業を営む畜農家との軋轢、拡大する住宅地、イエローストーン国立公園などでの観光客との接触、交通事故など、人とハイイログマとの共存は容易ではない。住宅地の近くに棲む個体はゴミを漁ることもあり、環境問題になっている。

その他

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NBAメンフィス・グリズリーズや有名なグリズリー・アダムス英語版など、グリズリーの名で日本に知られているものも多い。

画像

[編集]

脚注

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  1. ^ Fred Bunnell 「クマ科」渡辺弘之訳『動物大百科1 食肉類』今泉吉典監修 D.W.マクドナルド編、平凡社、1986年。
  2. ^ 『シートン動物誌 4 グリズリーの知性』アーネスト・シートン 著、今泉吉晴 監訳、株式会社紀伊國屋書店、1998年、ISBN 4-314-00754-0、p.38-39、41図2、215図13
  3. ^ ナショナルジオグラフィック(2018年8月30日)絶滅クマのDNA、ヒグマで発見、異種交配していた
  4. ^ 1979年にイエローストーン国立公園で508キログラムの個体が麻酔銃で捕獲・計量された。
  5. ^ 1979年にイエローストーン国立公園で行われた調査では雄の平均体重は260キログラム、雌の平均体重は170キログラムであった。
  6. ^ Kearns, William E. (January–February 1937). “THE SPEED OF GRIZZLY BEARS. Yellowstone National Park (Nature Notes)”. www.nps.gov. 2023年11月25日閲覧。
  7. ^ When California delighted in the bloodsport of bulls vs. bears by Mike McPhate, Jul 26, 2018
  8. ^ Species Profile”. U.S. Fish and Wildlife Service. 2008年1月3日時点のオリジナルよりアーカイブ。2019年3月22日閲覧。
  9. ^ カナダ政府絶滅危惧種のページ(英文)
  10. ^ ただし、この探検隊は「ヤッカー」もアメリカグマ(Ursus americanus)と別種(毛が密で色に斑のものがいるなどが理由)だと判断したが、その後ヤッカーはアメリカグマの事だとされている(『シートン動物誌 4 グリズリーの知性』アーネスト・シートン 著、今泉吉晴 監訳、株式会社紀伊國屋書店、1998年、ISBN 4-314-00754-0、p.240。)。
  11. ^ 『シートン動物誌 4 グリズリーの知性』アーネスト・シートン 著、今泉吉晴 監訳、株式会社紀伊國屋書店、1998年、ISBN 4-314-00754-0、p.26・45-46
  12. ^ 『シートン動物誌 4 グリズリーの知性』アーネスト・シートン 著、今泉吉晴 監訳、株式会社紀伊國屋書店、1998年、ISBN 4-314-00754-0、p.35地図1・47-61
  13. ^ JOHN DAVID BORTHWICK. “Bear in Mind: Bears in the Arena (1 of 10) print”. The Regents of the University of California.. 2019年3月22日閲覧。
  14. ^ Lanier Bartlett: “Ursus Horribilus - California Grizzly”. 2012年12月29日時点のオリジナルよりアーカイブ。2019年3月22日閲覧。

参考文献

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関連項目

[編集]