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「シャーデンフロイデ」の版間の差分

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'''シャーデンフロイデ'''({{Lang-de-short|Schadenfreude}})とは、自分が手を下すことなく他者が[[不幸]]、[[悲しみ]]、[[苦しみ]]、失敗に見舞われたと見聞きした時に生じる、[[幸福|喜び]]、嬉しさといった快い[[感情]]<ref>{{Cite web |url = https://imidas.jp/genre/detail/L-104-0129.html |title = シャーデンフロイデ |publisher = 情報・知識&オピニオン imidas - イミダス |author = 松田英子 |accessdate = 2018-05-02 }}</ref>。[[ドイツ語]]で「他人の不幸(失敗)を喜ぶ気持ち」を意味する。日本語で言う「ざまあみろ」の感情であり、日本でのシャーデンフロイデの類義語としては「隣(他人)の不幸は[[カモ|鴨]]([[蜜]])の味」、同義の「[[メシウマ]](他人の不幸で飯が美味い)」という俗語が近い物として挙げられる
'''シャーデンフロイデ'''({{Lang-de-short|'''Schadenfreude'''}})とは、他者が[[不幸]]、[[悲しみ]]、[[苦しみ]]、失敗に見舞われたと見聞きした時に生じる、[[幸福|喜び]]、嬉しさといった快い[[感情]]{{r|imidas}}。


== 概要 ==
なお、他人を不幸へ引きずり下ろし快感を得ることは誤りである。


== シャーデンフロイデに関す考察 ==
=== シャーデンフロイデが生じ状況 ===
{{仮リンク|ベン・ゼェヴ|en|Aaron Ben-Ze'ev}}はシャーデンフロイデが生じる状況の典型的特徴について、以下の3点を挙げている{{sfn|澤田|2011|pp=80-83}}。
{{仮リンク|ベン・ゼェヴ|en|Aaron Ben-Ze'ev}}はシャーデンフロイデが生じる状況の典型的特徴について、以下の3点を挙げている{{sfnp|澤田|2011|pp=80-83}}。
;他者の不幸が相応と知覚されている:不幸の責任の所在によってシャーデンフロイデの生じやすさは変化する。その不幸が他者自身の落ち度であればシャーデンフロイデが生じやすいが、不可抗力な事態であればシャーデンフロイデは生じにくい。
;他者の不幸が相応と知覚されている:不幸の責任の所在によってシャーデンフロイデの生じやすさは変化する。その不幸が他者自身の落ち度であればシャーデンフロイデが生じやすいが、不可抗力な事態であればシャーデンフロイデは生じにくい(生じない訳ではない)
;他者の不幸が深刻では無い:相対的に小さい不幸に対してシャーデンフロイデは生じやすい。誰かが死亡するなど、深刻な不幸に対してはシャーデンフロイデは生じにくい。
;他者の不幸が深刻では無い:相対的に小さい不幸に対してシャーデンフロイデは生じやすい。誰かが死亡するなど、深刻な不幸に対してはシャーデンフロイデは生じにくい(生じない訳ではない)
;他者の不幸に対して受動的である:意図的に相手を不幸に陥らせる訳ではなく、たまたま見聞きして幸福感を得る点で、[[攻撃行動]]や[[サディズム]]とは異なる。
;他者の不幸に対して受動的である:意図的に相手を不幸に陥らせる訳ではなく、たまたま見聞きして幸福感を得る点で、[[攻撃行動]]や[[サディズム]]とは異なる。


シャーデンフロイデが喚起される重要な要因に[[報復#報復の心理学的分類|復讐心]]があると想定されている{{sfn|澤田|2011|pp=80-83}}。[[fMRI]]を使った実証実験では、女性の復讐心が[[嫉妬|妬み]]に分散するのに対し、男性は自分に不利益や不正を働いたものに降りかかる不幸はシャーデンフロイデに直結することを示している。[[ニーチェ]]はシャーデンフロイデについて「平等性の勝利と回復についての最も卑俗な表現」と述べている。シャーデンフロイデとは何らかの不公正や不平等を感じていた者が、他者が見舞われた不幸によって果たされる消極的な復讐といえる{{sfn|澤田|2011|pp=80-83}}。
シャーデンフロイデが喚起される重要な要因に[[報復#報復の心理学的分類|復讐心]]があると想定されている{{sfnp|澤田|2011|pp=80-83}}。[[fMRI]]を使った実証実験では、女性の復讐心が[[嫉妬|妬み]]に分散するのに対し、男性は自分に不利益や不正を働いたものに降りかかる不幸はシャーデンフロイデに直結することを示している。[[ニーチェ]]はシャーデンフロイデについて「平等性の勝利と回復についての最も卑俗な表現」と述べている。シャーデンフロイデとは何らかの不公正や不平等を感じていた者が、他者が見舞われた不幸によって果たされる消極的な復讐といえる{{sfnp|澤田|2011|pp=80-83}}。


シャーデンフロイデを、自分と不幸に見舞われる他者との社会的比較を経て生じる感情の一種として捉える立場もある{{sfnp|澤田|2011|pp=80-83}}。
== 社会的比較とシャーデンフロイデ ==
シャーデンフロイデを、自分と不幸に見舞われる他者社会的比較を経て生じる感情の一種として捉える立場もある{{sfn|澤田|2011|pp=80-83}}。


スミス(Richard H. Smith)は社会的比較によって生じるさまざまな感情について、他者に生じた出来事が自分と他者にもたらす結果という観点で、自分と他者の社会的優劣による上・下比較と、自分と他者の感情が類似していれば同化的、その逆なら対比的というパラメータに分け、4象限マトリクスで整理した。スミスの分析では、シャーデンフロイデは対象を自分より劣った者と見なす下方比較によって生じる感情であり、不幸によって悲しむ他者の状況に自分は喜んでいる点で対比的といえる{{sfn|澤田|2011|pp=80-83}}。
リチャード・H・スミス (Richard H. Smith) {{sfnp|Smith|2013}}{{sfnp|スミス・澤田|2018}}社会的比較によって生じるさまざまな感情について、他者に生じた出来事が自分と他者にもたらす結果という観点で、自分と他者の社会的優劣による上・下比較と、自分と他者の感情が類似していれば同化的、その逆なら対比的というパラメータに分け、4象限マトリクスで整理した。スミスの分析では、シャーデンフロイデは対象を自分より劣った者と見なす下方比較によって生じる感情であり、不幸によって悲しむ他者の状況に自分は喜んでいる点で対比的といえる{{sfnp|澤田|2011|pp=80-83}}。


他者に対してあらかじめ抱いていた感情がシャーデンフロイデを促すという仮説がある{{sfn|澤田|2011|pp=80-83}}。とりわけ妬みはシャーデンフロイデと表裏一体の感情と捉えられている。妬みとは自分には無いものを持つ他者を見て、自分が劣った存在であると自覚する[[自己意識]]である。上記のマトリクスで言えば上方比較となり、妬みとシャーデンフロイデは対極的位置にある。架空の人物による仮想場面を用いた実証実験によって、妬みがシャーデンフロイデを促すこと、異性より同性に対してその傾向が強くなること、妬みがシャーデンフロイデに変化する脳内プロセスが明らかにされている{{sfn|澤田|2011|pp=80-83}}。
他者に対してあらかじめ抱いていた感情がシャーデンフロイデを促すという仮説がある{{sfnp|澤田|2011|pp=80-83}}。とりわけ妬みはシャーデンフロイデと表裏一体の感情と捉えられている。妬みとは自分には無いものを持つ他者を見て、自分が劣った存在であると自覚する[[自己意識]]である。上記のマトリクスで言えば上方比較となり、妬みとシャーデンフロイデは対極的位置にある。架空の人物による仮想場面を用いた実証実験によって、妬みがシャーデンフロイデを促すこと、異性より同性に対してその傾向が強くなること、妬みがシャーデンフロイデに変化する脳内プロセスが明らかにされている{{sfnp|澤田|2011|pp=80-83}}。

== 各言語における表現 ==
=== ドイツ語 ===
"'''Schadenfreude'''"は「損害」「害」「不幸」などを意する "Schaden" と「喜び」を意する "Freude" を[[合成語|合成]]した[[ドイツ語]]であり{{r|"澤田_20200210"}}、意味合いとしては「他人の不幸を喜ぶ気持ち」もしくは「人の不幸を見聞きして生じる喜び{{r|"澤田_20200210"}}」をいう。[[語源学]]的に紐解けば以下のとおり。
*[ {{small|[[英語|en]]}}: [[wikt:en:schadenfreude|schadenfreude]] < {{small|[[ドイツ語|de]]}}: [[wikt:en:Schadenfreude|Schadenfreude]](="''harm-joy'' "、"害-喜")< [[wikt:en:Schaden|Schaden]](=''[[wikt:en:damage|damage]], [[wikt:harm|harm]], [[wikt:en:misfortune|misfortune]]''、[[wikt:損害|損害]]、[[wikt:害|害]]、[[wikt:不幸|不幸]])+ [[wikt:en:Freude|Freude]](=''[[wikt:en:joy|joy]]''、[[wikt:よろこび|喜び]])]

"Schadenfreude ist die schönste Freude, denn sie kommt von Herzen.(意:シャーデンフロイデは最高の喜び、なぜならそれは心から来たものである。)" という[[諺]]もある。

=== 英語 ===
{{Anchors|Roman holiday}}
[[英語]]には[[借用語]]としてほぼそのまま導入されており、"'''schadenfreude'''" と綴る<ref group="注">英語ではドイツ語と異なり[[普通名詞]]の語頭を[[小文字]]にする。</ref>。

また、旧来の英語では「他人の[[犠牲]]において楽しむ[[娯楽]]」を意味する "'''Roman holiday'''(s)" が{{r|OED_Roman-holiday|weblio_Roman-Holiday}}相通じる表現と言える。この語は、[[ローマ人]]([[古代ローマ]]<!--※古代ローマとローマ帝国は違います。ここでは前者が正解。-->[[市民]])が休日に[[アンフィテアトルム|円形闘技場]]で行われる[[剣闘士]]の死闘や罪人の残酷な[[死刑|処刑]]などといった[[見世物]]を楽しんだことに由来しており{{r|weblio_Roman-Holiday}}、[[日本語訳]]では「'''[[ローマ]]の休日'''」あるいは「'''ローマ人の休日'''」という{{r|weblio_Roman-Holiday}}。[[オードリー・ヘプバーン]]主演の映画「[[ローマの休日]]」も同様の皮肉が込められている<ref>{{Cite web|和書|title=【断層】呉智英 「ローマの休日」はローマの休日か - MSN産経ニュース |url=https://web.archive.org/web/20090613051836/https://sankei.jp.msn.com/culture/arts/090610/art0906100834003-n1.htm |website=web.archive.org |date=2009-06-13 |access-date=2022-07-28}}</ref>。

[[wikt:初出#名詞:しょしゅつ|初出]]は、[[イングランド]]の[[詩人]][[ジョージ・ゴードン・バイロン]](バイロン卿)が[[1812年]]から[[1818年]]までの間に著した[[紀行|旅行記]]『[[チャイルド・ハロルドの巡礼]](原題:''[[:en:Childe Harold's Pilgrimage|Childe Harold's Pilgrimage]]'')』(別の邦題:チャイルド・ハロルドの遍歴)の「18年」篇(1818年)に所収の一節 "He, their sire, Butcher'd to make a Roman holiday!" である{{r|OED_Roman-holiday}}。

=== 漢語 ===
{{Anchors|幸災楽禍|楽禍幸災}}
[[漢語]]における類義語としては、『[[春秋左氏伝]]』の「荘公二十年」と「僖公一四年」にある表現「'''{{lang|zh-hant|幸災樂禍}}'''」がある{{r|"諺Ol_幸災楽禍"}}。これは「他人の不幸を見て楽しんだり喜んだりすること」を意味し、[[四字熟語]]になっている{{r|"諺Ol_幸災楽禍"|"諺Ol_楽禍幸災"}}。「'''{{lang|zh-hant|樂禍幸災}}'''」も同義の四字熟語で、出典は同じく『春秋左氏伝』の「荘公二十年」と「僖公一四年」である{{r|"諺Ol_楽禍幸災"}}。
{{Wiktionarylang|zh|幸災樂禍}}
* [[中国語]]表記:{{lang|zh-hant|幸災樂禍}}({{small|[[簡体字]]}}:{{lang|zh-hans|幸灾乐祸}})、現代[[日本語]]表記:幸災楽禍。
* 中国語表記:{{lang|zh-hant|樂禍幸災}}({{small|簡体字}}:{{lang|zh-hans|乐祸幸灾}})、現代日本語表記:楽禍幸災。
同書の[[編纂]]者が[[左丘明]]であるという[[伝承]]に基づく限りでは、いずれも初出は左丘明の存命中ということで[[春秋時代]]以内。歴史書『[[春秋]]』の編纂に[[孔子]]が関わっているなら、孔子の存命中に左丘明が註釈書『春秋左氏伝』を手がけ始めるとは考えられないため、その着手は[[紀元前479年]]より早くはない。記述に該当する為政者と治世と[[西暦]]年は、[[魯]]の第16代[[君主]]・[[荘公 (魯)|荘公]]の20年で[[紀元前674年]]、および、魯の第18代君主・[[僖公 (魯)|僖公]]の14年で[[紀元前646年]]。

=== 日本語 ===
{{Anchors|隣の貧乏鴨の味|他人の不幸は蜜の味|メシウマ}}
シャーデンフロイデの類義語としては、「'''隣の[[貧乏]][[カモ|鴨]]の[[味]]'''{{r|"諺Ol_鴨"|"澤田_20200210"}}」および「隣の貧乏[[雁]]の味{{r|"諺Ol_鴨"}}」があり、「隣の不幸は鴨の味{{r|"連語_鴨"}}」「隣の不幸は[[蜜]]の味{{r|"連語_鴨"}}」「隣の不幸は[[鯛]]の味{{r|"連語_鴨"}}」「他人の不幸は蜜の味{{r|"kb_認知"}}<ref group="注">辞書的にはこの場合の「[[wikt:他人|他人]]」は「たにん」と読むが、一般には「[[wikt:ひと|ひと]]」と読む人も多い。</ref>」などともいう。「'''人の過ち我が幸せ'''{{r|"諺Ol_人の過ち"}}」「'''隣で[[餅]]搗く[[杵]]の音一つ食いたい[[蓬餅]]'''{{r|"連語_鴨"}}」「'''隣で[[蔵|倉]]が建てば此方で腹が立つ'''{{r|"連語_鴨"}}」「'''隣り嫉み'''{{r|"連語_鴨"}}(となりそねみ)」も類義語。

また、これらに加えて、[[ソーシャル・ネットワーキング・サービス|SNS]]黎明期の[[2000年代]]前半に「他人の不幸で今日も[[飯]]が美味い{{r|"澤田_20200210"}}」の[[略語]]として[[2ちゃんねる]]から生まれた[[インターネットスラング]]「'''[[メシウマ]]'''{{r|"澤田_20200210"|level-s_20190129}}<ref name=nanapi_20131029>{{Cite web|和書|date=2013-10-29 |title=ネット用語「メシウマ」の意味と使い方 |url=https://nanapi.jp/27438 |publisher=Supership株式会社 |work=[[nanapi]] |accessdate=2015-07-25 }}{{リンク切れ|date=2020年4月28日}}</ref>」があり、その後、「他人の幸福で今日も飯が不味い」および「自分が不幸で今日も飯が不味い」という意味の[[対義語]]「'''メシマズ'''」も派生した{{r|"澤田_20200210"}}。


== 脚注 ==
== 脚注 ==
{{Reflist}}
{{脚注ヘルプ}}
=== 注釈 ===
{{Reflist|group="注"}}
=== 出典 ===
{{Reflist|2|refs=
<!--※以下は全てネット上の辞事典の出典。-->
<ref name=imidas>{{Cite web|和書|author=松田英子([[臨床心理学]]者。''cf.'' KAKEN [https://nrid.nii.ac.jp/ja/nrid/1000030327233/]〈研究者番号:30327233〉、日本の研究.com [https://research-er.jp/researchers/view/742896])|date=2012-03 |title=シャーデンフロイデ |url=https://imidas.jp/genre/detail/L-104-0129.html |publisher=[[集英社]] |website=[[イミダス]] |accessdate=2018-05-02 }}</ref>
<ref name=OED_Roman-holiday>{{Cite web |title=Roman holiday (n.) |url=https://www.etymonline.com/search?q=Roman+holiday |publisher=[[オンライン・エティモロジー・ディクショナリー|Online Etymology Dictionary]] |accessdate=2020-04-28 }}</ref>
<ref name=weblio_Roman-Holiday>{{Cite web |和書 |title=Roman Holiday |url=https://ejje.weblio.jp/content/Roman+Holiday |publisher=[[weblio|ウェブリオ]]株式会社 |work=Weblio英和辞書 |accessdate=2020-04-28 }}</ref>
<ref name="諺Ol_幸災楽禍">{{Cite web|和書|title=幸災楽禍 |url=https://yoji.jitenon.jp/yojid/1704.html |website=故事・ことわざ辞典オンライン |accessdate=2020-04-28 }}</ref>
<ref name="諺Ol_楽禍幸災">{{Cite web|和書|title=楽禍幸災 |url=https://yoji.jitenon.jp/yojib/532.html |website=故事・ことわざ辞典オンライン |accessdate=2020-04-28 }}</ref>
<ref name="kb_認知">{{Cite web|和書|title=認知 |url=https://kotobank.jp/word/認知-22774 |author=鈴木宏昭([[認知科学]]者。''cf.'' [[日本認知科学会]][https://www.jcss.gr.jp/fellowship/entry-321.html]、KAKEN [https://nrid.nii.ac.jp/ja/nrid/1000050192620/])、[[平凡社]]『最新 心理学事典』[https://www.heibonsha.co.jp/book/b157304.html] |publisher=[[コトバンク]] |quote=(...略...)他者の不快を快とする場合(日本語での「他人の不幸は蜜の味」)は,ドイツ語のSchadenfreude(シャーデンフロイデ)が慣用的に用いられている。|accessdate=2020-04-28 }}</ref>
<ref name="諺Ol_鴨">{{Cite web|和書|title=隣の貧乏鴨の味 |url=https://kotowaza.jitenon.jp/kotowaza/3878.php |website=故事・ことわざ辞典オンライン |accessdate=2020-04-28 }}</ref>
<ref name="連語_鴨">{{Cite web|和書|title=隣の不幸は鴨の味 |url=https://renso-ruigo.com/word/隣の不幸は鴨の味 |website=日本語シソーラス:連想類語辞典 |accessdate=2020-04-28 }}</ref>
<ref name="諺Ol_人の過ち">{{Cite web|和書|title=人の過ち我が幸せ |url=https://kotowaza.jitenon.jp/kotowaza/1663.php |website=故事・ことわざ辞典オンライン |accessdate=2020-04-28 }}</ref>

<ref name="澤田_20200210">{{Cite news |和書 |author1=澤田匡人(話し手)|author2=目黒隆行(聞き手)|date=2020-02-10 |title=芸能人の謝罪会見見るとスッキリ、なぜ? カギは「シャーデンフロイデ」にある |url=https://globe.asahi.com/article/13109821 |publisher=[[朝日新聞社]] |work=朝日新聞GLOBE+ |accessdate=2020-04-28 }}</ref>
<ref name=level-s_20190129>{{Cite web|和書|author= |date=2019-01-29 |title=「メシウマ」の使い方や意味、例文や類義語を徹底解説! |url=https://www.tutitatu.com/「メシウマ」の使い方や意味、例文や類義語を徹/ |publisher=株式会社レベルス |website=言葉の手帳 |accessdate=2020-04-28 }}</ref>
}}


== 参考文献 ==
== 参考文献 ==
*<!--スミス-->{{Cite book |和書 |author=リチャード・H・スミス |translator=澤田匡人{{space}} |date=2018-01-27 |title=シャーデンフロイデ: 人の不幸を喜ぶ私たちの闇 |origdate=2013-07-31 |publisher=[[勁草書房]] |oclc=1023617578 |ref={{SfnRef|スミス・澤田|2018}} }}ISBN 4-326-29927-4、ISBN 978-4-326-29927-0。
* [[中野信子]]、澤田匡人『正しい恨みの晴らし方』2015年、[[ポプラ社]]、32頁。
** 原著:{{Cite book |last=Smith |first=Richard H. |author=Richard H. Smith |authorlink= |date=31 July 2013 |title=The joy of pain : schadenfreude and the dark side of human nature |location=[[オックスフォード|Oxford]] |publisher=[[オックスフォード大学出版局|Oxford Univ Pr on Demand]] |language=en |oclc=1008855446 |ref={{SfnRef|Smith|2013}} }}{{spaces}}ISBN 0199734542, ISBN 978-0199734542.
* {{Cite book ja-jp|和書 |author = 澤田匡人 |title = 社会心理学 |year = 2011 |chapter = シャーデンフロイデ |series = キーワードコレクション |publisher = 新曜社 |editor = 二宮克美、[[子安増生]] |isbn = 9784788512368 |ref = harv }}
*<!--なかの-->{{Cite book |和書 |author1=[[中野信子]] |author2=澤田匡人 |date=2015-02-02 |title=正しい恨みの晴らし方 |publisher=[[ポプラ社]] |series=ポプラ新書 053 |page=32 |oclc=904594213 |ref={{SfnRef|中野・澤田|2015}} }}ISBN 4-591-14422-4、ISBN 978-4-591-14422-0。
* {{Cite book |和書 |author=中野信子 |date=2018-01-18 |title=シャーデンフロイデ 他人を引きずり下ろす快感 |publisher=[[幻冬舎]] |series=幻冬舎新書 な-17-2 |oclc=1020070241 |ref={{SfnRef|中野|2018}} }}ISBN 4-344-98481-1、ISBN 978-4-344-98481-3。
*<!--にのみや-->{{Cite book |和書 |author1= |author2= |author3= |author4= |editor=二宮克美(''cf.'' KAKEN [https://nrid.nii.ac.jp/ja/nrid/1000020135271/]、日本の研究.com [https://research-er.jp/researchers/view/180320])・[[子安増生]](編集)|date=2011-06-29 |title=社会心理学 |publisher=[[新曜社]] |series=キーワードコレクション |oclc=738364615 |ref={{SfnRef|二宮ほか|2011}} }}ISBN 4-7885-1236-X、ISBN 978-4-7885-1236-8。
** <!--さわだ-->{{Wikicite |ref={{SfnRef|澤田|2011}} |reference=澤田匡人(''cf.'' KAKEN [https://nrid.nii.ac.jp/ja/nrid/1000040383450/]、researchmap [https://researchmap.jp/read0078396])「シャーデンフロイデ」}}


== 関連項目 ==
== 関連項目 ==
{{wikt|Schadenfreude|schadenfreude}}
{{Wiktionary|Schadenfreude|schadenfreude}}
{{Wikten|シャーデンフロイデ}}
* [[オキシトシン]] - この行動の根幹に深く関わっているかも知れないといわれる[[脳内物質]]。
* [[ルサンチマン]]
* [[ルサンチマン]]


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2024年5月3日 (金) 18:10時点における最新版

シャーデンフロイデ: Schadenfreude)とは、他者が不幸悲しみ苦しみ、失敗に見舞われたと見聞きした時に生じる、喜び、嬉しさといった快い感情[1]

概要

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シャーデンフロイデが生じる状況

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ベン・ゼェヴ英語版は、シャーデンフロイデが生じる状況の典型的特徴について、以下の3点を挙げている[2]

他者の不幸が相応と知覚されている
不幸の責任の所在によってシャーデンフロイデの生じやすさは変化する。その不幸が他者自身の落ち度であればシャーデンフロイデが生じやすいが、不可抗力な事態であればシャーデンフロイデは生じにくい(生じない訳ではない)。
他者の不幸が深刻では無い
相対的に小さい不幸に対してシャーデンフロイデは生じやすい。誰かが死亡するなど、深刻な不幸に対してはシャーデンフロイデは生じにくい(生じない訳ではない)。
他者の不幸に対して受動的である
意図的に相手を不幸に陥らせる訳ではなく、たまたま見聞きして幸福感を得る点で、攻撃行動サディズムとは異なる。

シャーデンフロイデが喚起される重要な要因に復讐心があると想定されている[2]fMRIを使った実証実験では、女性の復讐心が妬みに分散するのに対し、男性は自分に不利益や不正を働いたものに降りかかる不幸はシャーデンフロイデに直結することを示している。ニーチェはシャーデンフロイデについて「平等性の勝利と回復についての最も卑俗な表現」と述べている。シャーデンフロイデとは何らかの不公正や不平等を感じていた者が、他者が見舞われた不幸によって果たされる消極的な復讐といえる[2]

シャーデンフロイデを、自分と不幸に見舞われる他者との社会的比較を経て生じる感情の一種として捉える立場もある[2]

リチャード・H・スミス (Richard H. Smith) [3][4]は、社会的比較によって生じるさまざまな感情について、他者に生じた出来事が自分と他者にもたらす結果という観点で、自分と他者の社会的優劣による上・下比較と、自分と他者の感情が類似していれば同化的、その逆なら対比的というパラメータに分け、4象限マトリクスで整理した。スミスの分析では、シャーデンフロイデは対象を自分より劣った者と見なす下方比較によって生じる感情であり、不幸によって悲しむ他者の状況に自分は喜んでいる点で対比的といえる[2]

他者に対してあらかじめ抱いていた感情がシャーデンフロイデを促すという仮説がある[2]。とりわけ妬みはシャーデンフロイデと表裏一体の感情と捉えられている。妬みとは自分には無いものを持つ他者を見て、自分が劣った存在であると自覚する自己意識である。上記のマトリクスで言えば上方比較となり、妬みとシャーデンフロイデは対極的位置にある。架空の人物による仮想場面を用いた実証実験によって、妬みがシャーデンフロイデを促すこと、異性より同性に対してその傾向が強くなること、妬みがシャーデンフロイデに変化する脳内プロセスが明らかにされている[2]

各言語における表現

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ドイツ語

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"Schadenfreude"は「損害」「害」「不幸」などを意する "Schaden" と「喜び」を意する "Freude" を合成したドイツ語であり[5]、意味合いとしては「他人の不幸を喜ぶ気持ち」もしくは「人の不幸を見聞きして生じる喜び[5]」をいう。語源学的に紐解けば以下のとおり。

"Schadenfreude ist die schönste Freude, denn sie kommt von Herzen.(意:シャーデンフロイデは最高の喜び、なぜならそれは心から来たものである。)" というもある。

英語

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英語には借用語としてほぼそのまま導入されており、"schadenfreude" と綴る[注 1]

また、旧来の英語では「他人の犠牲において楽しむ娯楽」を意味する "Roman holiday(s)" が[6][7]相通じる表現と言える。この語は、ローマ人古代ローマ市民)が休日に円形闘技場で行われる剣闘士の死闘や罪人の残酷な処刑などといった見世物を楽しんだことに由来しており[7]日本語訳では「ローマの休日」あるいは「ローマ人の休日」という[7]オードリー・ヘプバーン主演の映画「ローマの休日」も同様の皮肉が込められている[8]

初出は、イングランド詩人ジョージ・ゴードン・バイロン(バイロン卿)が1812年から1818年までの間に著した旅行記チャイルド・ハロルドの巡礼(原題:Childe Harold's Pilgrimage)』(別の邦題:チャイルド・ハロルドの遍歴)の「18年」篇(1818年)に所収の一節 "He, their sire, Butcher'd to make a Roman holiday!" である[6]

漢語

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漢語における類義語としては、『春秋左氏伝』の「荘公二十年」と「僖公一四年」にある表現「幸災樂禍」がある[9]。これは「他人の不幸を見て楽しんだり喜んだりすること」を意味し、四字熟語になっている[9][10]。「樂禍幸災」も同義の四字熟語で、出典は同じく『春秋左氏伝』の「荘公二十年」と「僖公一四年」である[10]

  • 中国語表記:幸災樂禍簡体字幸灾乐祸)、現代日本語表記:幸災楽禍。
  • 中国語表記:樂禍幸災簡体字乐祸幸灾)、現代日本語表記:楽禍幸災。

同書の編纂者が左丘明であるという伝承に基づく限りでは、いずれも初出は左丘明の存命中ということで春秋時代以内。歴史書『春秋』の編纂に孔子が関わっているなら、孔子の存命中に左丘明が註釈書『春秋左氏伝』を手がけ始めるとは考えられないため、その着手は紀元前479年より早くはない。記述に該当する為政者と治世と西暦年は、の第16代君主荘公の20年で紀元前674年、および、魯の第18代君主・僖公の14年で紀元前646年

日本語

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シャーデンフロイデの類義語としては、「隣の貧乏[11][5]」および「隣の貧乏の味[11]」があり、「隣の不幸は鴨の味[12]」「隣の不幸はの味[12]」「隣の不幸はの味[12]」「他人の不幸は蜜の味[13][注 2]」などともいう。「人の過ち我が幸せ[14]」「隣で搗くの音一つ食いたい蓬餅[12]」「隣でが建てば此方で腹が立つ[12]」「隣り嫉み[12](となりそねみ)」も類義語。

また、これらに加えて、SNS黎明期の2000年代前半に「他人の不幸で今日もが美味い[5]」の略語として2ちゃんねるから生まれたインターネットスラングメシウマ[5][15][16]」があり、その後、「他人の幸福で今日も飯が不味い」および「自分が不幸で今日も飯が不味い」という意味の対義語メシマズ」も派生した[5]

脚注

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注釈

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  1. ^ 英語ではドイツ語と異なり普通名詞の語頭を小文字にする。
  2. ^ 辞書的にはこの場合の「他人」は「たにん」と読むが、一般には「ひと」と読む人も多い。

出典

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  1. ^ 松田英子(臨床心理学者。cf. KAKEN [1]〈研究者番号:30327233〉、日本の研究.com [2]) (2012年3月). “シャーデンフロイデ”. イミダス. 集英社. 2018年5月2日閲覧。
  2. ^ a b c d e f g 澤田 (2011), pp. 80–83.
  3. ^ Smith (2013).
  4. ^ スミス・澤田 (2018).
  5. ^ a b c d e f 芸能人の謝罪会見見るとスッキリ、なぜ? カギは「シャーデンフロイデ」にある」『朝日新聞GLOBE+』朝日新聞社、2020年2月10日。2020年4月28日閲覧。
  6. ^ a b Roman holiday (n.)”. Online Etymology Dictionary. 2020年4月28日閲覧。
  7. ^ a b c Roman Holiday”. Weblio英和辞書. ウェブリオ株式会社. 2020年4月28日閲覧。
  8. ^ 【断層】呉智英 「ローマの休日」はローマの休日か - MSN産経ニュース”. web.archive.org (2009年6月13日). 2022年7月28日閲覧。
  9. ^ a b 幸災楽禍”. 故事・ことわざ辞典オンライン. 2020年4月28日閲覧。
  10. ^ a b 楽禍幸災”. 故事・ことわざ辞典オンライン. 2020年4月28日閲覧。
  11. ^ a b 隣の貧乏鴨の味”. 故事・ことわざ辞典オンライン. 2020年4月28日閲覧。
  12. ^ a b c d e f 隣の不幸は鴨の味”. 日本語シソーラス:連想類語辞典. 2020年4月28日閲覧。
  13. ^ 鈴木宏昭(認知科学者。cf. 日本認知科学会[3]、KAKEN [4])、平凡社『最新 心理学事典』[5]. “認知”. コトバンク. 2020年4月28日閲覧。 “(...略...)他者の不快を快とする場合(日本語での「他人の不幸は蜜の味」)は,ドイツ語のSchadenfreude(シャーデンフロイデ)が慣用的に用いられている。”
  14. ^ 人の過ち我が幸せ”. 故事・ことわざ辞典オンライン. 2020年4月28日閲覧。
  15. ^ 「メシウマ」の使い方や意味、例文や類義語を徹底解説!”. 言葉の手帳. 株式会社レベルス (2019年1月29日). 2020年4月28日閲覧。
  16. ^ ネット用語「メシウマ」の意味と使い方”. nanapi. Supership株式会社 (2013年10月29日). 2015年7月25日閲覧。[リンク切れ]

参考文献

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  • リチャード・H・スミス 著、澤田匡人  訳『シャーデンフロイデ: 人の不幸を喜ぶ私たちの闇』勁草書房、2018年1月27日(原著2013年7月31日)。OCLC 1023617578 ISBN 4-326-29927-4ISBN 978-4-326-29927-0
  • 中野信子、澤田匡人『正しい恨みの晴らし方』ポプラ社〈ポプラ新書 053〉、2015年2月2日、32頁。OCLC 904594213 ISBN 4-591-14422-4ISBN 978-4-591-14422-0
  • 中野信子『シャーデンフロイデ 他人を引きずり下ろす快感』幻冬舎〈幻冬舎新書 な-17-2〉、2018年1月18日。OCLC 1020070241 ISBN 4-344-98481-1ISBN 978-4-344-98481-3
  • 二宮克美(cf. KAKEN [6]、日本の研究.com [7])・子安増生(編集) 編『社会心理学』新曜社〈キーワードコレクション〉、2011年6月29日。OCLC 738364615 ISBN 4-7885-1236-XISBN 978-4-7885-1236-8
    • 澤田匡人(cf. KAKEN [8]、researchmap [9])「シャーデンフロイデ」

関連項目

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