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[[かけうどん]](素うどん)のように多量の[[出汁|ツユ]]に浸ったものではない。[[醤油#日本における様々な醤油|たまり醤油]]に[[鰹節]]や[[煮干し|いりこ]]、[[コンブ|昆布]]等の[[出汁]]を加えた、黒く濃厚な[[めんつゆ|つゆ]]([[タレ]])を少量使い、太い麺に絡めて食べるものが主流。それぞれの店が独特のだしを用いる。太い麺は長時間かけて柔らかくゆで上げられており、具やトッピングが少なく、[[薬味]]の刻み[[ネギ]]だけで食べることが多い。 |
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タレはたまり醤油を用いており、色(そばつゆとは別物)は非常に濃く見た目は塩辛そうだが、外見程の塩分はなく<ref group="注">『たべるパワースポット 伊勢うどん全国制覇への道』(2013年)p181の一覧表で、市販の伊勢うどんのタレの塩分濃度は、メーカーにより2.0-3.8%と開きがあるが、3%を越えるものは辛口とされている。30ml程度を1食分として販売されているため、1食当たりでツユに含まれる塩分は0.9g程度。これにうどん中の塩分が加わる。</ref>概して[[旨味]]と甘みが強く、後味がまろやかである。この濃いタレの色は、たまり醤油の色である<ref group="注">たまり醤油とは豆味噌づくりの際にできる上澄みのことである。</ref>。 |
タレはたまり醤油を用いており、色(そばつゆとは別物)は非常に濃く見た目は塩辛そうだが、外見程の塩分はなく<ref group="注">『たべるパワースポット 伊勢うどん全国制覇への道』(2013年)p181の一覧表で、市販の伊勢うどんのタレの塩分濃度は、メーカーにより2.0-3.8%と開きがあるが、3%を越えるものは辛口とされている。30ml程度を1食分として販売されているため、1食当たりでツユに含まれる塩分は0.9g程度。これにうどん中の塩分が加わる。</ref>概して[[旨味]]と甘みが強く、後味がまろやかである。この濃いタレの色は、たまり醤油の色である<ref group="注">たまり醤油とは豆味噌づくりの際にできる上澄みのことである。</ref>。 |
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麺は極太で、直径1cm前後のものが多い。非常に柔らかく、もちもちしており、一般的なうどんとはかけ離れた食感を持つ。そのため、[[博多うどん]]のように、柔らかいうどんが好まれる地域の人には受け入れられやすいが、[[讃岐うどん]]、[[五島うどん]]のような「[[食感|コシ]]が大事」という考え方の人には好かれない。極太麺であるために、麺を茹でる時間が非常に長く、通常のうどんが15分程度であるのに対して1時間弱ほど茹でる。店や料理人ごとに手法は異なる場合もあるが、それぞれが伊勢うどんの特徴である表面はふんわりとしていて、中はもちっとした麺の食感を出すべく工夫している。 |
麺は極太で、直径1cm前後のものが多い。非常に柔らかく、もちもちしており、一般的なうどんとはかけ離れた食感を持つ。そのため、[[博多うどん]]のように、柔らかいうどんが好まれる地域の人には受け入れられやすいが、[[讃岐うどん]]、[[五島うどん]]のような「[[食感|コシ]]が大事」という考え方の人には好かれない。極太麺であるために、麺を茹でる時間が非常に長く、通常のうどんが15分程度であるのに対して1時間弱ほど茹でる。店や料理人ごとに手法は異なる場合もあるが、それぞれが伊勢うどんの特徴である、表面はふんわりとしていて、中はもちっとした麺の食感を出すべく工夫している。 |
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伊勢うどんは、ゆで続けているため、すぐに提供できること、また汁がないためすぐに食べ終わることができることから、お伊勢参りで混み合う客を次々さばくのにも適したメニューともなっている。 |
伊勢うどんは、ゆで続けているため、すぐに提供できること、また汁がないためすぐに食べ終わることができることから、[[お伊勢参り]]で混み合う客を次々さばくのにも適したメニューともなっている。 |
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具は刻み[[ネギ]]だけか、好みで生[[鶏卵|卵]]をトッピングするだけという店が多いが、[[天ぷら]]や[[ワカメ|めひび]]を載せたものを出す店も珍しくはない。 |
具は刻み[[ネギ]]だけか、好みで生[[鶏卵|卵]]をトッピングするだけという店が多いが、[[天ぷら]]や[[ワカメ|めひび]]を載せたものを出す店も珍しくはない。 |
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== 歴史 == |
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[[ファイル:Ise udon restaurant by hirotomo in Ise, Mie.jpg|サムネイル|伊勢うどんの店舗(三重県伊勢市[[おかげ横丁]]の岡田屋)]] |
[[ファイル:Ise udon restaurant by hirotomo in Ise, Mie.jpg|サムネイル|伊勢うどんの店舗(三重県伊勢市[[おかげ横丁]]の岡田屋)]] |
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伊勢うどんのルーツは、[[江戸時代]]以前からこの地の農民が食べていた[[味噌|地味噌]]の[[醤油# |
伊勢うどんのルーツは、[[江戸時代]]以前からこの地の農民が食べていた[[味噌|地味噌]]の[[醤油#主な種類|たまり]]をつけたうどんを食べやすく改良したものといわれる。もともと農民が作っていたことから、できるだけ手間がかからず延ばす必要のない太い麺と、また安く済む[[ネギ]]だけの具といううどんが形作られたのではないかと考える人もいるが、実際には米などの粒食が日常の食事であったのに対して、[[コムギ|小麦]]を粉に挽いて作るうどんは祭りの時に手間をかけて作る、[[ハレとケ|ハレ]]の日の食事であり、最高のごちそうと考えられていた{{sfn|日本の食生活全集三重編集委員会編|1987|p=48}}{{sfn|日本の食生活全集三重編集委員会編|1987|pp=57-58}}。 |
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浦田町橋本屋七代目である小倉小兵が[[お蔭参り]]の参詣客へと供するためにうどん屋を開業したのが、伊勢のうどん屋の最初といわれている。すぐに参拝客に提供できるように常に茹で続け、必要量を釜揚げしていたため、茹で時間を気にしなくてよいうどんが適していたともされる。他に、神宮へ長旅をしてきて疲労がたまっている人向けの食事として江戸時代に開発された料理であり、消化が良くなるように麺が柔らかいという特徴を持つようになったのではないかという説もあるが、記録によるものではない。 |
浦田町橋本屋七代目である小倉小兵が[[お蔭参り]]の参詣客へと供するためにうどん屋を開業したのが、伊勢のうどん屋の最初といわれている。すぐに参拝客に提供できるように常に茹で続け、必要量を釜揚げしていたため、茹で時間を気にしなくてよいうどんが適していたともされる。他に、神宮へ長旅をしてきて疲労がたまっている人向けの食事として江戸時代に開発された料理であり、消化が良くなるように麺が柔らかいという特徴を持つようになったのではないかという説もあるが、記録によるものではない。 |
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[[ミキモト真珠島]]には、かつて伊勢神宮かいわいのうどん店で使われていた手塩皿サイズの食器が展示されており、当時は少量の伊勢うどんを必要な分だけお代わりしていたことがうかがえる。 |
[[ミキモト真珠島]]には、[[御木本幸吉]]の実家がうどん製造店であったことにちなんで、かつて伊勢神宮かいわいのうどん店で使われていた手塩皿サイズの食器が展示されており、当時は少量の伊勢うどんを必要な分だけお代わりしていたことがうかがえる。 |
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伊勢うどんは手間がかかるため、発祥の地である伊勢市においても、[[1960年代]]頃までは店で食べるのが一般的であったが、伊勢うどんの麺の小袋化を始めた山口製麺有限会社の{{誰|先代}}と、ミヱマン醤油合資会社西村商店の{{誰|先代}}社長の協力により「伊勢のうどんつゆ」が開発され、手軽に自宅で「伊勢うどん」を食べることができるようになり<ref group="注">その頃はまだ、単に「うどん」と呼ばれていた</ref>、伊勢の多くの家庭の冷蔵庫にはうどん玉とミヱマン伊勢のうどんつゆが常備されるようになった。また子供だけでも簡単に作れることから忙しい親に重宝され、伊勢の子供は伊勢うどんを[[離乳食]]で食べ、自分で作る初めての料理として食べ、夜食に食べ、あるいは何にもない時にはとりあえず「伊勢うどん」を食べるというのが当たり前になっていった。 |
伊勢うどんは手間がかかるため、発祥の地である伊勢市においても、[[1960年代]]頃までは店で食べるのが一般的であったが、伊勢うどんの麺の小袋化を始めた山口製麺有限会社の{{誰範囲|date=2019年6月|先代}}と、ミヱマン醤油合資会社西村商店の{{誰範囲|date=2019年6月|先代}}社長の協力により「伊勢のうどんつゆ」が開発され、手軽に自宅で「伊勢うどん」を食べることができるようになり<ref group="注">その頃はまだ、単に「うどん」と呼ばれていた</ref>、伊勢の多くの家庭の冷蔵庫にはうどん玉とミヱマン伊勢のうどんつゆが常備されるようになった。また子供だけでも簡単に作れることから忙しい親に重宝され、伊勢の子供は伊勢うどんを[[離乳食]]で食べ、自分で作る初めての料理として食べ、夜食に食べ、あるいは何にもない時にはとりあえず「伊勢うどん」を食べるというのが当たり前になっていった。 |
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なお、[[ベトナム]]の[[ホイアン]]には「カオラウ」という小麦を原料とする太麺の料理があり、17世紀前半の[[朱印船]]貿易時代の[[伊勢商人]]・[[角屋七郎兵衛]]が持ち込んだ伊勢うどんをルーツとする説がある<ref>[ |
なお、[[ベトナム]]の[[ホイアン]]には「[[カオラウ]]」という小麦を原料とする太麺の料理があり、17世紀前半の[[朱印船]]貿易時代の[[伊勢商人]]・[[角屋七郎兵衛]]が持ち込んだ伊勢うどんをルーツとする説がある<ref>[https://web.archive.org/web/20140810230826/https://datazoo.jp/w/%E8%A7%92%E5%B1%8B%E4%B8%83%E9%83%8E%E5%85%B5%E8%A1%9B/13789013 角屋七郎兵衛|世界ふしぎ発見!|TVでた蔵]</ref><ref group="注">ただし石灰分の多いホイアンの水で作るカオラウは非常にコシの強い麺であり、現在の伊勢うどんとは似ても似つかない</ref>。 |
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[[ミシュランガイド]]愛知・岐阜・三重2019特別版で伊勢うどんがミシュランプレートの評価で掲載<ref>ミシュランガイド愛知・岐阜・三重2019特別版</ref>。 |
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== 名称 == |
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「伊勢うどん」という名称は昭和40年代([[1960年代]]中期以降)に使われ出したとされる |
「伊勢うどん」という名称は昭和40年代([[1960年代]]中期以降)に使われ出したとされる。地元の家庭では特に他地域のうどんと違う点があると意識されることのない料理の一つで、それまでは単に「うどん」と呼ばれ、店では「並うどん」や「素うどん」と呼ばれていた。伊勢市麺類飲食業組合は[[1972年]]に「伊勢うどん」と呼ぶことに決め、組合員向けの献立表に記載した{{sfn|石原壮一郎|2013|pp=151-153}}。 |
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その命名のきっかけには、[[永六輔]]が当地で単に「うどん」として供されていたものを「伊勢うどん」として、メディアにおいて紹介したことがあったとされる<ref>「伊勢うどん 永六輔さんが命名」中日新聞2011年1月1日付朝刊、5部三紀版7ページ</ref><ref>{{Cite news|url= |
その命名のきっかけには、[[永六輔]]が当地で単に「うどん」として供されていたものを「伊勢うどん」として、メディアにおいて紹介したことがあったとされる<ref>「伊勢うどん 永六輔さんが命名」中日新聞2011年1月1日付朝刊、5部三紀版7ページ</ref><ref>{{Cite news|url=https://mainichi.jp/articles/20160712/k00/00m/040/064000c|title=「伊勢うどん」の名付け親…関係者ら悼む|newspaper=毎日新聞|publisher=毎日新聞社|date=2016-07-11|language=日本語|accessdate=2018-06-17}}</ref>。 |
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[[2008年]]には、[[松阪市]]に本部を持つ三重県製麺協同組合が申請した「伊勢うどん」が地域団体商標に登録された。三重の名物として土産用の麺の味を守るのが目的で、伊勢市の飲食店の営業に影響するものではないという{{sfn|石原壮一郎|2013|pp164-171}}。 |
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== 伊勢うどんの普及活動 == |
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2015年、伊勢市の「伊勢うどん協議会」は市内の飲食店28店を「本場のこだわり伊勢うどんの店」として登録した。また、協議会では、登録 |
2015年、伊勢市の「伊勢うどん協議会」は市内の飲食店28店を「本場のこだわり伊勢うどんの店」として登録した。また、協議会では、登録店を掲載した冊子「伊勢うどんの国パスポート」を発行。登録店舗や市内の観光案内所で無料配布された。スタンプを集めると一味唐辛子や丼など「伊勢うどん」がもらえる活動を行った<ref>中日新聞 2015年11月28日</ref>。 |
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== 提供地域 == |
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[[伊勢神宮|神宮]]のある[[伊勢市]]以外にも、近隣の[[松阪市]]、[[鳥羽市]]や[[津市]]などでも提供するうどん店がある。三重大学の生協第1食堂でも提供例がある。 |
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最近では、三重県内の高速道路SA・PA(2007年時点で、[[東名阪自動車道]][[御在所サービスエリア|御在所SA]]、[[伊勢自動車道]][[安濃サービスエリア|安濃SA]]・[[嬉野パーキングエリア|嬉野PA]])で供され |
最近では、三重県内の高速道路SA・PA(2007年時点で、[[東名阪自動車道]][[御在所サービスエリア|御在所SA]]、[[伊勢自動車道]][[安濃サービスエリア|安濃SA]]・[[嬉野パーキングエリア|嬉野PA]])で供されている。主に期間限定商品として東海地方の[[コンビニエンスストア]]([[ローソン]]および[[セブンイレブン]]。セブンイレブンに関しては、夏季用と冬季用が存在する)で販売されている。 |
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伊勢市周辺から |
伊勢市周辺から三重県内・近隣県内にかけてのスーパーマーケットなど食料品店で市販されている茹で麺は、家庭で3-5分間茹でるだけで、柔らかくもちもちの食感が味わえるように工夫されている。だしは小瓶や一食分の小袋に封入された形で、麺に同梱あるいは別途発売されている。また、みやげ用として常温でも長期間保管可能なように[[真空パック]]した茹で麺とだしを付属した商品は、三重県内及び、中京地区・[[京阪神]]などの[[百貨店]]や[[近畿日本鉄道]]の駅売店などでも販売されている。 |
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[[東京都]]でも新橋、銀座、渋谷、高田馬場などの個別の店では伊勢うどんを提供する例がある{{sfn|石原壮一郎|2013|pp=172-179}}。 |
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2024年5月14日 (火) 09:06時点における最新版
伊勢うどん | |
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種類 | 麺料理 (うどん) |
発祥地 | 日本 |
地域 | 三重県伊勢市 |
主な材料 | 麺 |
伊勢うどん(いせうどん)は、三重県伊勢市を中心に食べられるうどん料理。また、それに使用する麺類の地域団体商標。
特徴
[編集]かけうどん(素うどん)のように多量のツユに浸ったものではない。たまり醤油に鰹節やいりこ、昆布等の出汁を加えた、黒く濃厚なつゆ(タレ)を少量使い、太い麺に絡めて食べるものが主流。それぞれの店が独特のだしを用いる。太い麺は長時間かけて柔らかくゆで上げられており、具やトッピングが少なく、薬味の刻みネギだけで食べることが多い。
タレはたまり醤油を用いており、色(そばつゆとは別物)は非常に濃く見た目は塩辛そうだが、外見程の塩分はなく[注 1]概して旨味と甘みが強く、後味がまろやかである。この濃いタレの色は、たまり醤油の色である[注 2]。
麺は極太で、直径1cm前後のものが多い。非常に柔らかく、もちもちしており、一般的なうどんとはかけ離れた食感を持つ。そのため、博多うどんのように、柔らかいうどんが好まれる地域の人には受け入れられやすいが、讃岐うどん、五島うどんのような「コシが大事」という考え方の人には好かれない。極太麺であるために、麺を茹でる時間が非常に長く、通常のうどんが15分程度であるのに対して1時間弱ほど茹でる。店や料理人ごとに手法は異なる場合もあるが、それぞれが伊勢うどんの特徴である、表面はふんわりとしていて、中はもちっとした麺の食感を出すべく工夫している。
伊勢うどんは、ゆで続けているため、すぐに提供できること、また汁がないためすぐに食べ終わることができることから、お伊勢参りで混み合う客を次々さばくのにも適したメニューともなっている。
具は刻みネギだけか、好みで生卵をトッピングするだけという店が多いが、天ぷらやめひびを載せたものを出す店も珍しくはない。
地元の人は刻みネギに伊勢かまぼこといったトッピングで食べることもある。また、店によっては[注 3]、タレではなく一般的なかけうどんのようなつゆで提供する事もあり、数少ないが、焼きうどんを提供する店[注 4]も存在する。
歴史
[編集]伊勢うどんのルーツは、江戸時代以前からこの地の農民が食べていた地味噌のたまりをつけたうどんを食べやすく改良したものといわれる。もともと農民が作っていたことから、できるだけ手間がかからず延ばす必要のない太い麺と、また安く済むネギだけの具といううどんが形作られたのではないかと考える人もいるが、実際には米などの粒食が日常の食事であったのに対して、小麦を粉に挽いて作るうどんは祭りの時に手間をかけて作る、ハレの日の食事であり、最高のごちそうと考えられていた[1][2]。
浦田町橋本屋七代目である小倉小兵がお蔭参りの参詣客へと供するためにうどん屋を開業したのが、伊勢のうどん屋の最初といわれている。すぐに参拝客に提供できるように常に茹で続け、必要量を釜揚げしていたため、茹で時間を気にしなくてよいうどんが適していたともされる。他に、神宮へ長旅をしてきて疲労がたまっている人向けの食事として江戸時代に開発された料理であり、消化が良くなるように麺が柔らかいという特徴を持つようになったのではないかという説もあるが、記録によるものではない。
ミキモト真珠島には、御木本幸吉の実家がうどん製造店であったことにちなんで、かつて伊勢神宮かいわいのうどん店で使われていた手塩皿サイズの食器が展示されており、当時は少量の伊勢うどんを必要な分だけお代わりしていたことがうかがえる。
伊勢うどんは手間がかかるため、発祥の地である伊勢市においても、1960年代頃までは店で食べるのが一般的であったが、伊勢うどんの麺の小袋化を始めた山口製麺有限会社の先代[誰?]と、ミヱマン醤油合資会社西村商店の先代[誰?]社長の協力により「伊勢のうどんつゆ」が開発され、手軽に自宅で「伊勢うどん」を食べることができるようになり[注 5]、伊勢の多くの家庭の冷蔵庫にはうどん玉とミヱマン伊勢のうどんつゆが常備されるようになった。また子供だけでも簡単に作れることから忙しい親に重宝され、伊勢の子供は伊勢うどんを離乳食で食べ、自分で作る初めての料理として食べ、夜食に食べ、あるいは何にもない時にはとりあえず「伊勢うどん」を食べるというのが当たり前になっていった。
なお、ベトナムのホイアンには「カオラウ」という小麦を原料とする太麺の料理があり、17世紀前半の朱印船貿易時代の伊勢商人・角屋七郎兵衛が持ち込んだ伊勢うどんをルーツとする説がある[3][注 6]。
ミシュランガイド愛知・岐阜・三重2019特別版で伊勢うどんがミシュランプレートの評価で掲載[4]。
名称
[編集]「伊勢うどん」という名称は昭和40年代(1960年代中期以降)に使われ出したとされる。地元の家庭では特に他地域のうどんと違う点があると意識されることのない料理の一つで、それまでは単に「うどん」と呼ばれ、店では「並うどん」や「素うどん」と呼ばれていた。伊勢市麺類飲食業組合は1972年に「伊勢うどん」と呼ぶことに決め、組合員向けの献立表に記載した[5]。
その命名のきっかけには、永六輔が当地で単に「うどん」として供されていたものを「伊勢うどん」として、メディアにおいて紹介したことがあったとされる[6][7]。
2008年には、松阪市に本部を持つ三重県製麺協同組合が申請した「伊勢うどん」が地域団体商標に登録された。三重の名物として土産用の麺の味を守るのが目的で、伊勢市の飲食店の営業に影響するものではないという[8]。
小麦の種類
[編集]この地方の小麦栽培では「農林61号」が主流であったが、地域産業振興の活動の中、低アミロース品種である「あやひかり」がこの伊勢うどんに向いていることが明らかとなり、1999年に三重県で試験栽培を開始、2003年(平成15年)よりは奨励品種として採用されている。両品種を使った伊勢うどん(麺)や県内産の大豆を使ったタレは三重県の地域特産品認定事業のEマークに認証されている。
伊勢うどんの普及活動
[編集]2015年、伊勢市の「伊勢うどん協議会」は市内の飲食店28店を「本場のこだわり伊勢うどんの店」として登録した。また、協議会では、登録店を掲載した冊子「伊勢うどんの国パスポート」を発行。登録店舗や市内の観光案内所で無料配布された。スタンプを集めると一味唐辛子や丼など「伊勢うどん」がもらえる活動を行った[9]。
提供地域
[編集]神宮のある伊勢市以外にも、近隣の松阪市、鳥羽市や津市などでも提供するうどん店がある。三重大学の生協第1食堂でも提供例がある。
最近では、三重県内の高速道路SA・PA(2007年時点で、東名阪自動車道御在所SA、伊勢自動車道安濃SA・嬉野PA)で供されている。主に期間限定商品として東海地方のコンビニエンスストア(ローソンおよびセブンイレブン。セブンイレブンに関しては、夏季用と冬季用が存在する)で販売されている。
伊勢市周辺から三重県内・近隣県内にかけてのスーパーマーケットなど食料品店で市販されている茹で麺は、家庭で3-5分間茹でるだけで、柔らかくもちもちの食感が味わえるように工夫されている。だしは小瓶や一食分の小袋に封入された形で、麺に同梱あるいは別途発売されている。また、みやげ用として常温でも長期間保管可能なように真空パックした茹で麺とだしを付属した商品は、三重県内及び、中京地区・京阪神などの百貨店や近畿日本鉄道の駅売店などでも販売されている。
東京都でも新橋、銀座、渋谷、高田馬場などの個別の店では伊勢うどんを提供する例がある[10]。
脚注
[編集]注釈
[編集]- ^ 『たべるパワースポット 伊勢うどん全国制覇への道』(2013年)p181の一覧表で、市販の伊勢うどんのタレの塩分濃度は、メーカーにより2.0-3.8%と開きがあるが、3%を越えるものは辛口とされている。30ml程度を1食分として販売されているため、1食当たりでツユに含まれる塩分は0.9g程度。これにうどん中の塩分が加わる。
- ^ たまり醤油とは豆味噌づくりの際にできる上澄みのことである。
- ^ 「うどんやふくすけ」の1日朔日うどんなど
- ^ おかげ横丁の伊勢醤油など。
- ^ その頃はまだ、単に「うどん」と呼ばれていた
- ^ ただし石灰分の多いホイアンの水で作るカオラウは非常にコシの強い麺であり、現在の伊勢うどんとは似ても似つかない
出典
[編集]- ^ 日本の食生活全集三重編集委員会編 1987, p. 48.
- ^ 日本の食生活全集三重編集委員会編 1987, pp. 57–58.
- ^ 角屋七郎兵衛|世界ふしぎ発見!|TVでた蔵
- ^ ミシュランガイド愛知・岐阜・三重2019特別版
- ^ 石原壮一郎 2013, pp. 151–153.
- ^ 「伊勢うどん 永六輔さんが命名」中日新聞2011年1月1日付朝刊、5部三紀版7ページ
- ^ “「伊勢うどん」の名付け親…関係者ら悼む” (日本語). 毎日新聞 (毎日新聞社). (2016年7月11日) 2018年6月17日閲覧。
- ^ 石原壮一郎, 2013 & pp164-171.
- ^ 中日新聞 2015年11月28日
- ^ 石原壮一郎 2013, pp. 172–179.
参考文献
[編集]- 日本の食生活全集三重編集委員会編『日本の食生活全集24 聞き書三重の食事』社団法人農山漁村文化協会、東京、1987年。ISBN 4-540-87001-7。
- 石原壮一郎『たべるパワースポット 伊勢うどん全国制覇への道』扶桑社、東京、2013年。ISBN 9784-594-06914-8。
関連項目
[編集]外部リンク
[編集]- 伊勢うどん(伊勢市観光協会)