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{{Otheruses|[[ヒト]]を含む動物の発声器官が発する音|その他の用法|声 (曖昧さ回避)}}
{{Otheruses|[[ヒト]]を含む動物の発声器官が発する音|その他の用法|声 (曖昧さ回避)}}

[[File:Izdisaj.jpg|192px|right|thumb|<center> 声]]
[[File:Izdisaj.jpg|192px|right|thumb|{{Center| 声}}]]
'''声'''(こえ、[[英語]]:voice)とは、[[ヒト]]を含む[[動物]]の発声器官(主として[[口]]、[[喉]])から発せられる[[音]]のことである。本項ではヒトの(人声)について扱う。
'''声'''(こえ、'''聲'''、{{lang-en-short|voice}})は、[[動物]]の発声器官から発せられる[[音]]である。本項では[[人|ヒト]][[口]]や[[喉]]から発せられる音(人声)について扱う。


== 発声 ==
== 生成 ==
{{main|発声}}
鳥類以外の、ヒトを含む[[脊椎動物]]は通常、[[声帯]]を振動させることによって声を発する([[有声音]])。ただし、声帯振動を伴わない気息的な音([[無声音]])なども「声」に含む場合がある。また、[[仮声帯]]等、真声帯以外の襞の振動によっても似た音声が得られる。ヒトの場合は特に、[[言語]]を伝えるために調整された音声を指して声という場合もあり、より[[口腔]]などの共鳴、調音に重みがあるといえる。したがって「声は口で発せられる」という捉え方もあながち間違いではない。


=== 生物 ===
発声は[[気道]]を(普通は真声帯の)声門閉鎖で遮り、そこに呼気圧を加えて息を流し込むことで声門が繰り返し開閉し、断続的な圧力変動(音波、喉頭原音)が生まれ、さらに[[声道]]による共鳴の効果で連続的な波形に整えられると同時に口腔や[[鼻腔]]、[[舌]]、[[歯]]、[[唇]]などの調音機構によって[[母音]]および[[子音]]が付加される。
{{main|音声学|気流機構|発声|調音}}
[[ヒト]]において声は[[気道]]・[[声道]]における[[気流機構|気流]]・[[発声]]・[[調音]]の段階を経て生成される。まず肺などを駆動し[[気流機構|気流]]を発生させる。次に主に[[声帯]]を振動させて[[有声音]]を[[発声]]する、もしくは声帯振動を伴わない気息的な音([[無声音]])として通過させる。最後に[[舌]]や[[口腔]]を制御して共鳴させる、すなわち[[調音]]をおこなったうえで唇から声が放射される。


==== 方式 ====
真声帯は声唇とも呼ばれ、ヒトの口唇や[[瞼]]に似た構造の器官である。口唇を呼気で振動させる(リップロール、リップリード)と声帯振動を模した運動となり喉頭原音に似た音が生じる。これは金管楽器の発音体([[マウスピース (楽器)|マウスピース]])に利用されている。
[[ヒト]]は[[気流機構|気流]]・[[発声]]・[[調音]]という基本的な声生成過程を共有しているが、個人ごとに各過程の調整が異なり、これが声の個人性を生み出している。{{main|声区|発声#種類}}[[発声]]方式の違いを中心とした生成方式の分類を[[声区]]という。例として[[ファルセット]]が挙げられる。


==== モデル ====
また後述する声の大きさや質は、[[呼吸]]に関連する[[肺]]やその下にある[[横隔膜]]、[[腹腔|腹]]の動きにも左右される<ref>[http://www.ones-will.com/blog/vocal-lesson/voice-tranning/15192/ 「腹式呼吸」完全マスター編①~腹式呼吸ってなに?~]One's WILL Music School(2019年1月30日閲覧)。</ref>(いわゆる「腹から声を出す」)。
[[ヒト]]の声生成過程[[モデル (自然科学)|モデル]]は様々存在する。代表例として、生成過程を「音源(例: 声帯) + フィルタ(例: 口の構え)」と見做す[[ソース・フィルタモデル]]が挙げられる。


== 声の高低 ==
=== 機械 ===
{{Main|音声合成}}人の声([[音声]])を機械的 / 人工的に生成する技術・システムを[[音声合成]]という。娯楽などに使われる[[VOCALOID]]のほか、障害・傷病で[[発声]]できない人が意思伝達をできるようにするためにも利用されている<ref>[https://mainichi.jp/articles/20190125/dde/001/040/039000c 【チェック】私の声 よみがえる/がん患者らソフト活用/事前に録音 話し方まね再生]『[[毎日新聞]]』夕刊2019年1月25日(1面)2019年1月30日閲覧。</ref>。
声には一般に高低があるとされるが、厳密には音高(ピッチ、振動数)の高低と[[フォルマント]]の高低の2種類がある。[[歌唱]]の際を除けば、両者の区別を付けずに「声が高い(低い)」といっている場合が多い。

== 特性 ==

=== 高低 ===
{{Main|音高}}ヒトは音一般に関して高低感覚すなわち[[音高]]をもち、声に対しても様々な音高を感じる(声もピッチを持つ)。

厳密には音高(ピッチ、振動数)の高低と[[フォルマント]]の高低の2種類がある。[[歌唱]]の際を除けば、両者の区別を付けずに「声が高い(低い)」といっている場合が多い。


フォルマントの高さは主に[[声道]]の長さで決まるので、発声時の喉頭の位置に影響される。また一般に身長が高く、[[顎]]や首の長い人ほど低いフォルマントで発声できる。
フォルマントの高さは主に[[声道]]の長さで決まるので、発声時の喉頭の位置に影響される。また一般に身長が高く、[[顎]]や首の長い人ほど低いフォルマントで発声できる。


音高は声帯の形状、サイズ、伸展状態、声門閉鎖の強さ、呼気流の圧おび速さ、振動様式(声種)などによって変わる。一般に知渡っている声帯の長決ま」というような単純なものではない。また、[[木管楽器]]等のように共鳴のフィードバックにピッチが支配されることは基本的にない。これは、声道の共鳴の効果に対して声帯のスケール(長さ、重さ、剛さ)が大きいためである。
ピッチ1秒間の[[声帯]]振動にり規定、振動数が多いほどピッチが高く、少いほ低くなる<ref name="omori1">{{Citation|和書| author = 大森孝一編 | title = 言語聴覚士のための音声障害学 | date = 2019 | publisher = 医歯薬出版株式会社 |p4| ref = harv}}</ref>。声帯の振動数は声帯の質量、張力、粘弾性によ変わり、他の条件が同じであば声帯が短ほど振動数が多くな<ref name="omori1"/>。個人内でのピッチの変化は声帯の長で調節され<ref name="omori1"/>。また、[[木管楽器]]等のように共鳴のフィードバックにピッチが支配されることは基本的にない。これは、声道の共鳴の効果に対して声帯のスケール(長さ、重さ、剛さ)が大きいためである。


==== 声位 ====
一般に[[男性]]の声は低く、[[女性]]の声は高い。また子供の声は男女とも高いとされ、成長に従って音高、フォルマントともに低下する。また男性のほとんどは[[第二次性徴]]で急に低い声に変わる。女性の場合も軽度であるが低くなる。[[壮年]]期を過ぎると女性は低くなることがあり、男性はやや高くなることがある。
特定の発声をするときの声の高さを声位という。会話時の声位を話声位といい、声域下限より4分の1あたりとされる<ref name="omori1"/>。話声位は成人男性で120Hz前後、成人女性で240Hz前後である<ref name="omori1"/>。子供の声は男女とも高いとされ、成長に従って音高、フォルマントともに低下する。また男性のほとんどは[[第二次性徴]]で急に低い声に変わる。女性の場合も軽度であるが低くなる。[[壮年]]期を過ぎると女性は低くなることがあり、男性はやや高くなることがある。


==== 声域・声区 ====
子供や若い女性の場合、声帯伸展が強い発声が多いため(伸展が強いと振動形態が[[弦]]の振動に近づく)、声帯の長短と音高の相関が成人男性より強いようである。背の高い女性[[声優]]は少年声・青年声で、背の低い女性声優は甲高い子供声で活躍する例が多く見られる。また、それとは対照的に、一般的に高いとされる声質の男性が、少年や青年の声を演じる事もある。稀ではあるが、女性に近い声を発する事が出来る男性声優が女性役の声を演じる事もある。男性の場合は声種の兼ね合いから背の低い人が[[バリトン]]に多く、高身長が[[テノール]](テナー)に多いといった逆転現象も良く見られる(あくまでアマチュアレベルの話で、ソリストはテノールに小柄な人が多いといわれる)。
音楽一般に関して1つの音源が出せる音高の幅を[[音域]]といい、声の音域は特に[[音域#人声の音域|声域]]と呼ばれる。発声可能な最も低い声から最も高い声までの範囲を生理的声域という<ref name="omori1"/>。通常成人男性で60〜500Hz、女性で120〜800Hzとされている<ref name="omori1"/>。[[ソプラノ]]、[[アルト]]、[[テノール]]、[[バス (声域)|バス]]などの声域は音楽的声域と呼ばれる<ref name="omori1"/>。声域は声区で区切られ、最も低いところからボーカルフライ、表声、[[裏声]](ファルセット)、ホイッスルと言われる<ref name="omori1"/>。声区により声帯振動の様式が異なる<ref name="omori1"/>。


== 声質や声量 ==
=== 声量 ===
{{Main|音の大きさ}}ヒトは音一般に関して大小感覚すなわち[[音の大きさ|声の大きさ]]をもち、声に対しても様々な[[音の大きさ|大きさ]]を感じる(声も[[音の大きさ|ラウドネス]]を持つ)。声のラウドネスを特に'''声量'''という場合もある。
声には上記のような高低以外の質(声質・声色)や種類(声種)、量(声量)の違いがある。個人ごとに異なるほか、同じ人でも年齢や体調によって変化し、また場合によって使い分けられる。声質や声種を表す言葉は[[ハスキーボイス]]、[[ウィスパーボイス]]、[[ファルセット]]のほか、美声、ダミ声など様々ある。


[[音の大きさ|ラウドネス]]は気圧の変化幅と強く関係するため、[[気流機構]]の作用により声量は大きく変化する。例として[[呼吸]]に関連する[[肺]]やその下にある[[横隔膜]]、[[腹腔|腹]]の動きに左右される<ref>[http://www.ones-will.com/blog/vocal-lesson/voice-tranning/15192/ 「腹式呼吸」完全マスター編①~腹式呼吸ってなに?~]One's WILL Music School(2019年1月30日閲覧)。</ref>(いわゆる「腹から声を出す」)。

文献上の記録として、『[[北条五代記]]』によれば、[[風魔小太郎]]はその声が50町(5.4km以上)先まで響いたと記される(事実なら城内のどこにいても声が聞こえる)。

=== 声質 ===
{{Main|音色}}声には声色・声種の違いがある。個人ごとに異なるほか、同じ人でも年齢や体調によって変化し、また使い分けられる。声質や声種は[[ハスキーボイス]]、[[ウィスパーボイス]]、[[ファルセット#声区的適用|(声種的)ファルセット]]のほか、美声、ダミ声など様々ある。声種の違いの一因は発声方式([[声区]])の違いに起因する(参考: [[発声#種類]])。

== 内容 ==
声が持つ意味(内容)は多様である。一例として、泣き声や叫び声といった感情を表す声、韻律を声で奏でる[[鼻歌]]・ハミング、言語コミュニケーションの媒介となる[[言語音]]などが挙げられる。

=== 言語 ===
声のうち[[言語]]的内容をもつものを[[言語音]]という。連続的な音を離散的なシンボル列とみなす言語音の観点から声は[[母音]]と[[子音]]に分類でき、この産み分けには[[調音]]過程が重要である。

[[言語]]には[[音素]]上、[[発声|声]]による対立をなすものと、[[有気音|息]]による対立をなすもの([[中国語]]、[[タイ語]]など)、声と息の両方による対立をなすもの([[ヒンディー語]]など)がある。

== 処理 ==
声は波形で表せる実体として存在するが、様々な目的のために処理・変形される。

=== 符号化 ===
{{Main|音声符号化}}声を効率よく伝達するために声信号はしばしば符号化される。これを[[音声符号化]]という。対象を声に絞ったうえで声がもつ特性を利用することにより、generalな符号化よりも効率のよい符号化が可能になる。

=== 音声変換 ===
{{Main|音声合成#音声変換|ボイスチェンジャー}}ある声を別の声へ変換するタスクを[[音声合成#音声変換|音声変換]]、そのためのシステムを[[ボイスチェンジャー]]という。

== 利用 ==
声は少人数での日常[[会話]]だけでなく、多くの人に向けたスピーチや[[プレゼンテーション]]、[[演説]]、[[ナレーション]]、[[日本のアナウンサー|アナウンス]]、[[歌唱]]、[[演技]]などにおいても重要である。このため発声を訓練する[[ボイストレーニング]]が行われるほか、アニメ作品などにおいて声で演技する[[声優]]という職業がある。
声は少人数での日常[[会話]]だけでなく、多くの人に向けたスピーチや[[プレゼンテーション]]、[[演説]]、[[ナレーション]]、[[日本のアナウンサー|アナウンス]]、[[歌唱]]、[[演技]]などにおいても重要である。このため発声を訓練する[[ボイストレーニング]]が行われるほか、アニメ作品などにおいて声で演技する[[声優]]という職業がある。


スポーツの場面([[テニス]]や[[陸上競技]]の[[投擲]]競技など)でもしばしば声が使われる。これは一時的に強い力を出す時に有効な手段であるからである。
== 人工音声 ==
予め録音しておいたヒトの声などを基に、声を人工的に再現する技術や[[ソフトウェア]]がある(「[[音声合成]]」を参照)。娯楽などに使われる[[VOCALOID]]のほか、障害・傷病で[[発声]]できない人が意思伝達をできるようにするためにも利用されている<ref>[https://mainichi.jp/articles/20190125/dde/001/040/039000c 【チェック】私の声 よみがえる/がん患者らソフト活用/事前に録音 話し方まね再生]『[[毎日新聞]]』夕刊2019年1月25日(1面)2019年1月30日閲覧。</ref>。


== 人声に似た楽器 ==
== 人以外 ==

=== 動物一般 ===
{{See also|動物のコミュニケーション|en:List of animal sounds}}
動物の声は'''鳴き声'''と呼ばれる<ref>[https://www.tokyo-zoo.net/cry/index.html どうぶつたちの鳴き声図鑑][[東京動物園協会]]「東京ズーネット」(2019年1月30日閲覧)。</ref>。平原や海中といった音を遮る障害物が少ない環境では、声は容易に遠くまで届き、動物はこれを利用したコミュニケーションを行う。例として、[[クジラ]]の声は3,000km先まで届く([[クジラの歌]]参照)。

人間に飼われた犬・猫などの動物で鳴き声が騒がしい場合に、声帯切除やトレーニングなどによる{{ill2|鳴き声対策|en|Devocalization}}(無駄吠え対策)が行われる場合がある。

==== 鳥類 ====
鳥類以外の[[脊椎動物]](ヒトを含む)は声帯を用いて発声をおこなうが、鳥類は[[鳴管]]を用いる。

==== 昆虫 ====
[[虫の音]]とは[[虫]]の[[鳴き声]]のことである<ref name="コトバンク">{{Cite web2 |url=https://kotobank.jp/word/%E8%99%AB%E3%81%AE%E9%9F%B3-641498 |title=虫の音 |publisher=[[コトバンク]] |author=デジタル[[大辞泉]]、精選版 [[日本国語大辞典]] |accessdate=2019年10月28日 }}</ref>。声帯を用いる虫はいないが、セミは腹部に発声器官を持つ<ref>{{Cite web|和書|url=https://kids.gakken.co.jp/kagaku/nandemo/anything0908_1/ |title=セミについて調べちゃおう |publisher =学研キッズネット |accessdate=2022-05-16}}</ref><ref name="iwamoto">{{Cite journal|和書|author=岩本裕之 |year=2018 |url=https://doi.org/10.2142/biophys.58.245 |title=大声を生み出すセミの原動機 |journal=生物物理 |ISSN=05824052 |publisher=日本生物物理学会 |volume=58 |issue=5 |pages=245-247 |doi=10.2142/biophys.58.245 |CRID=1390564238026574208}}</ref>。他にも、羽などをこすり合わせる、音を共鳴させる、体を振動させる、外骨格を打ち付けるなど、様々な方法で虫の声は作られている<ref>{{Cite journal|和書|author=上宮健吉 |year=1989 |url=https://doi.org/10.11372/souonseigyo1977.13.77 |title=昆虫の発音の多様性 |journal=騒音制御 |ISSN=0386-8761 |publisher=日本騒音制御工学会 |volume=13 |issue=2 |pages=77-83 |doi=10.11372/souonseigyo1977.13.77 |CRID=1390001204768541952}}</ref><ref name="kiz_tokorozawa">{{Cite web|和書|url=http://www.tokorozawa-stm.ed.jp/center/kiz_tokorozawa/Nakumusi2001/naku2/02.htm |title=2.どのようにして鳴くの? |publisher =所沢私立教育センター |accessdate=2022-05-16}}</ref><ref name="Songs of Insects">{{Cite web |url=https://songsofinsects.com/biology-of-insect-song |title=Biology of Insect Song |publisher =Songs of Insects |accessdate=2022-05-16}}</ref>。

=== 楽器 ===
人の発声機構は[[管楽器]](中でも[[リード (楽器)|リード楽器]])に例えられることがあり、管楽器に近いと思っている人は多い。
人の発声機構は[[管楽器]](中でも[[リード (楽器)|リード楽器]])に例えられることがあり、管楽器に近いと思っている人は多い。

真声帯は声唇とも呼ばれ、ヒトの口唇や[[瞼]]に似た構造の器官である。口唇を呼気で振動させる(リップロール、リップリード)と声帯振動を模した運動となり喉頭原音に似た音が生じる。これは金管楽器の発音体([[マウスピース (楽器)|マウスピース]])に利用されている。


管楽器と人声の共通点は、発音体を作動させるのが呼気流であることと、共鳴器を変形させる点である。ただし管楽器の共鳴器変形は音高調節のものであるのに対し、人声の場合は音波変形のための機構で、両者はかなり異質なものである。また、音高調整のために発音体を変形させる点は[[弦楽器]]に類似し、[[輪状甲状筋]]などを弦楽器の[[ペグ]](糸巻き)に例える人も多い。
管楽器と人声の共通点は、発音体を作動させるのが呼気流であることと、共鳴器を変形させる点である。ただし管楽器の共鳴器変形は音高調節のものであるのに対し、人声の場合は音波変形のための機構で、両者はかなり異質なものである。また、音高調整のために発音体を変形させる点は[[弦楽器]]に類似し、[[輪状甲状筋]]などを弦楽器の[[ペグ]](糸巻き)に例える人も多い。


人声の共鳴器のように多種の音波を生む機構は他の楽器には見られないものである。強いて挙げるならば[[パイプオルガン]]の[[ストップ]](音栓装置)や[[シンセサイザー]]が多様な音色を扱うという点では似ている。またダイレクトに波形を変形させる点からすると[[エレクトリックギター]]の[[エフェクター]]が類質の装置である。
人声の共鳴器のように多種の音波を生む機構は他の楽器には見られないものである。強いて挙げるならば[[パイプオルガン]]の[[ストップ (オルガン)|ストップ]](音栓装置)や[[シンセサイザー]]が多様な音色を扱うという点では似ている。またダイレクトに波形を変形させる点からすると[[エレクトリックギター]]の[[エフェクター]]が類質の装置である。


[[トーキング・モジュレーター]](talk box)は、ヒトの共鳴器をギターなどのエフェクターに利用するものである。
[[トーキング・モジュレーター]](talk box)は、ヒトの共鳴器をギターなどのエフェクターに利用するものである。


== その他の事項 ==
== その他 ==
=== 声紋 ===
{{雑多な内容の箇条書き|section=1|date=2013年11月28日 (木) 12:06 (UTC)}}
発生の仕組みから、「基本振動音」を作り出す声帯とその振動音を声に変化させる声道の大きさや形は個人毎に異なるため声も個人特有なものとなる。声を[[スペクトログラム]]で分析すると各人の違いを見ることが出来、声紋を検出することが出来る。一般には身長の高い人は声帯も声道もより大きく低い声となる。声紋を分析することで性別・顔形・身長・年齢等を特定することが出来、個人認証や犯罪捜査に利用されている。
*ヒトは声を使って言葉を発するため、声という言葉は「意見」という意味の[[比喩]]としても使われる<ref>一例として、[https://www.city.minato.tokyo.jp/kouchou/kuse/kocho/kuseiken/index.html 区民の声(区政へのご意見・ご提案)の受付][[東京都]][[港区 (東京都)|港区]]ホームページ(2019年1月30日閲覧)。また『[[朝日新聞]]』の読者投稿欄名は「声」である。</ref>。報道記者が「~との声もあるが(どう考えますか?)」という形で[[インタビュー]]対象者に質問するなどの際に用いられることも多い。

*スポーツの場面([[テニス]]や[[陸上競技]]の[[投擲]]競技など)でもしばしば声が使われる。これは一時的に強い力を出す時に有効な手段であるからである。
==== 音声(声紋)鑑定 ====
* [[言語]]には[[音素]]上、[[発声|声]]による対立をなすものと、[[有気音|息]]による対立をなすもの([[中国語]]、[[タイ語]]など)、声と息の両方による対立をなすもの([[ヒンディー語]]など)がある。
犯罪の科学捜査においてはスペクトログラムで声紋検出を行い音声鑑定に用いられている<ref>木戸博, 粕谷英樹、「[[doi:10.24467/onseikenkyu.13.1_4|音声が内包する話者の特徴情報の記憶(<特集>音声が伝達する感性領域の情報の諸相)]]」 『音声研究』 2009年 13巻 1号 p.4-16, {{doi|10.24467/onseikenkyu.13.1_4}}</ref>。
* 文献上の記録として、『[[北条五代記]]』によれば、[[風魔小太郎]]はその声が50町(5.4km以上)先まで響いたと記される(事実なら城内のどこにいても声が聞こえる)。

* [[糸電話]]は音声が振動の伝導であることの証明実験に用いられる。
==== 音声鑑定の歴史 ====
* 動物の声は、日本語で「鳴き声」と呼ばれる<ref>[https://www.tokyo-zoo.net/cry/index.html どうぶつたちの鳴き声図鑑][[東京動物園協会]]「東京ズーネット」(2019年1月30日閲覧)。</ref>。平原や海中といった音を遮る障害物が少ない環境では、声は容易に遠くまで届き、動物はこれを利用したコミュニケーションを行う。例として、[[クジラ]]の声は3,000km先まで届く([[クジラの歌]]参照)。
1932年に[[チャールズ・リンドバーグ]]氏の子息の誘拐殺人事件で犯人の声に関する証人喚問が音声鑑定の始まりと言われている<ref>[http://alfs-inc.com/voice/ 音声/声紋鑑定(法科学鑑定研究所)] 閲覧2020-09-22</ref>。当時はスペクトログラムもなく証人の聴覚および記憶によるもので科学鑑定とはかけ離れていた。音声鑑定の進展は1930年代における軍事諜報活動によるもので、米国では敵国の交信を傍受し音声学から通信士の特徴を分析・識別することから始まった。1945年には[[ベル研究所]]が声紋分析の為のスペクトログラムを開発した。その後は医療分野・科学捜査分野への応用も始まった。20世紀後半からは音声の記録・分析のアナログからデジタル化とコンピューターの高速化と相まって大きく進歩している。


== 脚注・出典 ==
== 脚注・出典 ==
{{脚注ヘルプ}}
{{reflist}}
{{reflist}}


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{{wikiquote|声}}
{{wikiquote|声}}
{{Commonscat|Voice|声}}
{{Commonscat|Voice|声}}
* [[音]] (sound)
** '''声''' (voice)
*** [[言語音]] (speech)
**** [[母音]] / [[子音]]
**** [[有声音]] / [[無声音]]
*** 非言語音
**** {{仮リンク|咆哮|en|Roar (vocalization)}}(Roar)、{{仮リンク|唸り声|en|Growling}}(Growling)、{{仮リンク|遠吠え|en|Howling}}(Howl)
* [[発声]] - [[発声法]]
* [[発声]] - [[発声法]]
* [[音声学]]
* [[音声学]]
65行目: 126行目:
* [[変声]](声変わり)
* [[変声]](声変わり)
* [[山彦]]
* [[山彦]]
* [[物真似]](鳴きまね)

{{音楽}}
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[[Category:音声|*こえ]]
[[Category:音声|*こえ]]
[[Category:音声学]]
[[Category:音声学]]
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2024年6月3日 (月) 01:44時点における最新版

(こえ、: voice)は、動物の発声器官から発せられるである。本項ではヒトから発せられる音(人声)について扱う。

生成

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生物

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ヒトにおいて声は気道声道における気流発声調音の段階を経て生成される。まず肺などを駆動し気流を発生させる。次に主に声帯を振動させて有声音発声する、もしくは声帯振動を伴わない気息的な音(無声音)として通過させる。最後に口腔を制御して共鳴させる、すなわち調音をおこなったうえで唇から声が放射される。

方式

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ヒト気流発声調音という基本的な声生成過程を共有しているが、個人ごとに各過程の調整が異なり、これが声の個人性を生み出している。

発声方式の違いを中心とした生成方式の分類を声区という。例としてファルセットが挙げられる。

モデル

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ヒトの声生成過程モデルは様々存在する。代表例として、生成過程を「音源(例: 声帯) + フィルタ(例: 口の構え)」と見做すソース・フィルタモデルが挙げられる。

機械

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人の声(音声)を機械的 / 人工的に生成する技術・システムを音声合成という。娯楽などに使われるVOCALOIDのほか、障害・傷病で発声できない人が意思伝達をできるようにするためにも利用されている[1]

特性

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高低

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ヒトは音一般に関して高低感覚すなわち音高をもち、声に対しても様々な音高を感じる(声もピッチを持つ)。

厳密には音高(ピッチ、振動数)の高低とフォルマントの高低の2種類がある。歌唱の際を除けば、両者の区別を付けずに「声が高い(低い)」といっている場合が多い。

フォルマントの高さは主に声道の長さで決まるので、発声時の喉頭の位置に影響される。また一般に身長が高く、や首の長い人ほど低いフォルマントで発声できる。

ピッチは1秒間の声帯の振動により規定され、振動数が多いほどピッチが高く、少ないほど低くなる[2]。声帯の振動数は声帯の質量、張力、粘弾性により変わり、他の条件が同じであれば声帯が短いほど振動数が多くなる[2]。個人内でのピッチの変化は声帯の伸長で調節される[2]。また、木管楽器等のように共鳴のフィードバックにピッチが支配されることは基本的にない。これは、声道の共鳴の効果に対して声帯のスケール(長さ、重さ、剛さ)が大きいためである。

声位

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特定の発声をするときの声の高さを声位という。会話時の声位を話声位といい、声域下限より4分の1あたりとされる[2]。話声位は成人男性で120Hz前後、成人女性で240Hz前後である[2]。子供の声は男女とも高いとされ、成長に従って音高、フォルマントともに低下する。また男性のほとんどは第二次性徴で急に低い声に変わる。女性の場合も軽度であるが低くなる。壮年期を過ぎると女性は低くなることがあり、男性はやや高くなることがある。

声域・声区

[編集]

音楽一般に関して1つの音源が出せる音高の幅を音域といい、声の音域は特に声域と呼ばれる。発声可能な最も低い声から最も高い声までの範囲を生理的声域という[2]。通常成人男性で60〜500Hz、女性で120〜800Hzとされている[2]ソプラノアルトテノールバスなどの声域は音楽的声域と呼ばれる[2]。声域は声区で区切られ、最も低いところからボーカルフライ、表声、裏声(ファルセット)、ホイッスルと言われる[2]。声区により声帯振動の様式が異なる[2]

声量

[編集]

ヒトは音一般に関して大小感覚すなわち声の大きさをもち、声に対しても様々な大きさを感じる(声もラウドネスを持つ)。声のラウドネスを特に声量という場合もある。

ラウドネスは気圧の変化幅と強く関係するため、気流機構の作用により声量は大きく変化する。例として呼吸に関連するやその下にある横隔膜の動きに左右される[3](いわゆる「腹から声を出す」)。

文献上の記録として、『北条五代記』によれば、風魔小太郎はその声が50町(5.4km以上)先まで響いたと記される(事実なら城内のどこにいても声が聞こえる)。

声質

[編集]

声には声色・声種の違いがある。個人ごとに異なるほか、同じ人でも年齢や体調によって変化し、また使い分けられる。声質や声種はハスキーボイスウィスパーボイス(声種的)ファルセットのほか、美声、ダミ声など様々ある。声種の違いの一因は発声方式(声区)の違いに起因する(参考: 発声#種類)。

内容

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声が持つ意味(内容)は多様である。一例として、泣き声や叫び声といった感情を表す声、韻律を声で奏でる鼻歌・ハミング、言語コミュニケーションの媒介となる言語音などが挙げられる。

言語

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声のうち言語的内容をもつものを言語音という。連続的な音を離散的なシンボル列とみなす言語音の観点から声は母音子音に分類でき、この産み分けには調音過程が重要である。

言語には音素上、による対立をなすものと、による対立をなすもの(中国語タイ語など)、声と息の両方による対立をなすもの(ヒンディー語など)がある。

処理

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声は波形で表せる実体として存在するが、様々な目的のために処理・変形される。

符号化

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声を効率よく伝達するために声信号はしばしば符号化される。これを音声符号化という。対象を声に絞ったうえで声がもつ特性を利用することにより、generalな符号化よりも効率のよい符号化が可能になる。

音声変換

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ある声を別の声へ変換するタスクを音声変換、そのためのシステムをボイスチェンジャーという。

利用

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声は少人数での日常会話だけでなく、多くの人に向けたスピーチやプレゼンテーション演説ナレーションアナウンス歌唱演技などにおいても重要である。このため発声を訓練するボイストレーニングが行われるほか、アニメ作品などにおいて声で演技する声優という職業がある。

スポーツの場面(テニス陸上競技投擲競技など)でもしばしば声が使われる。これは一時的に強い力を出す時に有効な手段であるからである。

人以外

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動物一般

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動物の声は鳴き声と呼ばれる[4]。平原や海中といった音を遮る障害物が少ない環境では、声は容易に遠くまで届き、動物はこれを利用したコミュニケーションを行う。例として、クジラの声は3,000km先まで届く(クジラの歌参照)。

人間に飼われた犬・猫などの動物で鳴き声が騒がしい場合に、声帯切除やトレーニングなどによる鳴き声対策英語版(無駄吠え対策)が行われる場合がある。

鳥類

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鳥類以外の脊椎動物(ヒトを含む)は声帯を用いて発声をおこなうが、鳥類は鳴管を用いる。

昆虫

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虫の音とは鳴き声のことである[5]。声帯を用いる虫はいないが、セミは腹部に発声器官を持つ[6][7]。他にも、羽などをこすり合わせる、音を共鳴させる、体を振動させる、外骨格を打ち付けるなど、様々な方法で虫の声は作られている[8][9][10]

楽器

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人の発声機構は管楽器(中でもリード楽器)に例えられることがあり、管楽器に近いと思っている人は多い。

真声帯は声唇とも呼ばれ、ヒトの口唇やに似た構造の器官である。口唇を呼気で振動させる(リップロール、リップリード)と声帯振動を模した運動となり喉頭原音に似た音が生じる。これは金管楽器の発音体(マウスピース)に利用されている。

管楽器と人声の共通点は、発音体を作動させるのが呼気流であることと、共鳴器を変形させる点である。ただし管楽器の共鳴器変形は音高調節のものであるのに対し、人声の場合は音波変形のための機構で、両者はかなり異質なものである。また、音高調整のために発音体を変形させる点は弦楽器に類似し、輪状甲状筋などを弦楽器のペグ(糸巻き)に例える人も多い。

人声の共鳴器のように多種の音波を生む機構は他の楽器には見られないものである。強いて挙げるならばパイプオルガンストップ(音栓装置)やシンセサイザーが多様な音色を扱うという点では似ている。またダイレクトに波形を変形させる点からするとエレクトリックギターエフェクターが類質の装置である。

トーキング・モジュレーター(talk box)は、ヒトの共鳴器をギターなどのエフェクターに利用するものである。

その他

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声紋

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発生の仕組みから、「基本振動音」を作り出す声帯とその振動音を声に変化させる声道の大きさや形は個人毎に異なるため声も個人特有なものとなる。声をスペクトログラムで分析すると各人の違いを見ることが出来、声紋を検出することが出来る。一般には身長の高い人は声帯も声道もより大きく低い声となる。声紋を分析することで性別・顔形・身長・年齢等を特定することが出来、個人認証や犯罪捜査に利用されている。

音声(声紋)鑑定

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犯罪の科学捜査においてはスペクトログラムで声紋検出を行い音声鑑定に用いられている[11]

音声鑑定の歴史

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1932年にチャールズ・リンドバーグ氏の子息の誘拐殺人事件で犯人の声に関する証人喚問が音声鑑定の始まりと言われている[12]。当時はスペクトログラムもなく証人の聴覚および記憶によるもので科学鑑定とはかけ離れていた。音声鑑定の進展は1930年代における軍事諜報活動によるもので、米国では敵国の交信を傍受し音声学から通信士の特徴を分析・識別することから始まった。1945年にはベル研究所が声紋分析の為のスペクトログラムを開発した。その後は医療分野・科学捜査分野への応用も始まった。20世紀後半からは音声の記録・分析のアナログからデジタル化とコンピューターの高速化と相まって大きく進歩している。

脚注・出典

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  1. ^ 【チェック】私の声 よみがえる/がん患者らソフト活用/事前に録音 話し方まね再生毎日新聞』夕刊2019年1月25日(1面)2019年1月30日閲覧。
  2. ^ a b c d e f g h i j 大森孝一編『言語聴覚士のための音声障害学』医歯薬出版株式会社、2019年。 
  3. ^ 「腹式呼吸」完全マスター編①~腹式呼吸ってなに?~One's WILL Music School(2019年1月30日閲覧)。
  4. ^ どうぶつたちの鳴き声図鑑東京動物園協会「東京ズーネット」(2019年1月30日閲覧)。
  5. ^ デジタル大辞泉、精選版 日本国語大辞典. "虫の音". コトバンク. 2019年10月28日閲覧
  6. ^ セミについて調べちゃおう”. 学研キッズネット. 2022年5月16日閲覧。
  7. ^ 岩本裕之「大声を生み出すセミの原動機」『生物物理』第58巻第5号、日本生物物理学会、2018年、245-247頁、CRID 1390564238026574208doi:10.2142/biophys.58.245ISSN 05824052 
  8. ^ 上宮健吉「昆虫の発音の多様性」『騒音制御』第13巻第2号、日本騒音制御工学会、1989年、77-83頁、CRID 1390001204768541952doi:10.11372/souonseigyo1977.13.77ISSN 0386-8761 
  9. ^ 2.どのようにして鳴くの?”. 所沢私立教育センター. 2022年5月16日閲覧。
  10. ^ Biology of Insect Song”. Songs of Insects. 2022年5月16日閲覧。
  11. ^ 木戸博, 粕谷英樹、「音声が内包する話者の特徴情報の記憶(<特集>音声が伝達する感性領域の情報の諸相)」 『音声研究』 2009年 13巻 1号 p.4-16, doi:10.24467/onseikenkyu.13.1_4
  12. ^ 音声/声紋鑑定(法科学鑑定研究所) 閲覧2020-09-22

関連項目

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