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『'''ようこそ!FACT(東京S区第二支部)へ'''』(ようこそファクトとうきょうだいにしぶへ)は、[[魚豊]]による[[日本]]の[[漫画]]作品。『[[マンガワン]]』([[小学館]])にて、2023年8月21日から開始され<ref name="natalie20230821">{{Cite web|和書|url=https://natalie.mu/comic/news/537562|title=「チ。」魚豊が新たに描くのは陰謀が渦巻くラブストーリー、マンガワンで開幕|website=コミックナタリー|publisher=ナターシャ|date=2023-08-21|accessdate=2024-01-17}}</ref>、先読みで2024年2月19日まで連載した。連載開始時のキャッチコピーは「恋と陰謀」で<ref>{{Cite web|和書|url=https://mantan-web.jp/article/20230820dog00m200004000c.html|title=ようこそ!FACT(東京S区第二支部)へ:「チ。」魚豊の新連載が「マンガワン」に 恋と陰謀 19歳の若者が会員制セミナーへ|work=MANTANWEB|publisher=MANTAN|date=2023-08-21|accessdate=2024-01-17}}</ref>、非正規社員の青年と女性のラブストーリーを描いた物語{{R|natalie20231212}}。
『'''ようこそ!FACT(東京S区第二支部)へ'''』(ようこそファクトとうきょうだいにしぶへ)は、[[魚豊]]による[[日本]]の[[漫画]]作品。『[[マンガワン]]』([[小学館]])にて、2023年8月21日から2024年3月4日まで連載され<ref name="natalie20230821">{{Cite web|和書|url=https://natalie.mu/comic/news/537562|title=「チ。」魚豊が新たに描くのは陰謀が渦巻くラブストーリー、マンガワンで開幕|website=コミックナタリー|publisher=ナターシャ|date=2023-08-21|accessdate=2024-01-17}}</ref><ref name="urasunday">{{Cite web|和書|url=https://urasunday.com/title/2484/234367|archive-url=https://web.archive.org/web/20240317041431/https://urasunday.com/title/2484/234367|title=最終話(第30話)|website=裏サンデー|publisher=小学館|archivedate=2024-03-17|accessdate=2024-06-15}}</ref>。連載開始時のキャッチコピーは「恋と陰謀」で<ref>{{Cite web|和書|url=https://mantan-web.jp/article/20230820dog00m200004000c.html|title=ようこそ!FACT(東京S区第二支部)へ:「チ。」魚豊の新連載が「マンガワン」に 恋と陰謀 19歳の若者が会員制セミナーへ|work=MANTANWEB|publisher=MANTAN|date=2023-08-21|accessdate=2024-01-17}}</ref>、非正規社員の青年と女性のラブストーリーを描いた物語{{R|natalie20231212}}。2024年6月時点で累計部数が10万部を突破している{{R|shogakukancomic20240611}}。


== 登場人物 ==
== 登場人物 ==
; 渡辺(わたなべ)
; 渡辺(わたなべ)
: 19歳{{R|natalie20231212}}。非正規社員{{R|natalie20231212}}。
: 本作の主人公{{R|anan20240227}}。19歳{{R|natalie20231212}}。非正規社員{{R|natalie20231212}}。
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: 本作のヒロイン{{R|ddnavi20240313}}。女子大生{{R|anan20240227}}。家が裕福で、意識が高め{{R|anan20240227}}。

== 作風 ==
[[オカモトショウ]]によると、「陰謀論者と呼ばれてる人」には「どうしてそうなるのかな?」と思う部分があるが、「それぞれの人に正義があって、一生懸命に生きて」おり、本作は「そういう部分も描かれていく」と話している<ref name="realsound20240122">{{Cite web|和書|url=https://realsound.jp/book/2024/01/post-1551485.html|title=オカモトショウが選ぶ、いま注目のマンガとは? 天才・魚豊の新作から残酷すぎる野球漫画まで、期待作を大紹介|author=森朋之|website=リアルサウンドブック|publisher=blueprint|date=2024-01-22|accessdate=2024-06-15}}</ref>。[[北野武]]監督の『[[首 (北野武)|首]]』ではないが、本作には「ヤバいんだけど笑える場面」が描かれている{{R|realsound20240122}}。

== 制作背景 ==
=== 構想 ===
魚豊は[[2021年アメリカ合衆国議会議事堂襲撃事件]]やその翌年の[[2022年ロシアのウクライナ侵攻|ロシアとウクライナの戦争]]から、「[[陰謀論]]は大きな事象」で「人間がずっと付き合っていかなければならないもの」だと考えていた<ref name="anan20240227">{{Cite web|和書|url=https://ananweb.jp/news/534079/|title=陰謀論と恋心を絡めた前代未聞のラブコメ!? 大ヒット『チ。』作者の新作に注目|author=兵藤育子|website=ananweb|publisher=マガジンハウス|date=2024-02-27|accessdate=2024-06-15}}</ref>。

『[[チ。-地球の運動について-]]』の完結より少し前、連載中であったが、作業が終了していたため、魚豊は次回作の構想を開始していた<ref name="ddnavi20240313">{{Cite web|和書|url=https://ddnavi.com/interview/1272783/a/|title=『チ。』魚豊氏 最新作『ようこそ!FACT(東京S区第二支部)へ』で「陰謀論」を描いた理由。恋愛要素も盛り込まれた“新境地”の裏側を語る【魚豊氏インタビュー】|author=ちゃんめい|website=ダ・ヴィンチweb|publisher=KADOKAWA|date=2024-03-13|accessdate=2024-06-15}}</ref>。それまで魚豊は「現代の社会では受け入れられているものに熱中していく人たちの物語」を描いてきたため、今作では「社会的にあまり受け入れられていないものに熱中する人の物語に挑戦したい」と考えていた{{R|ddnavi20240313}}。当初は「「荒らし」のコミュニティのなかに師弟関係があって、それを「[[週刊少年ジャンプ]]」の友情努力勝利のフォーマットで描いたら面白い」と浮かんだが、「そこからいくら考えても勝ち筋が見えなかった」という{{R|ddnavi20240313}}。構想中は「[[コロナ禍]]の真っ最中」の時期で、もともと興味があった陰謀論がインターネット上で溢れていたところで、『[[現代思想]]』([[青土社]])2021年5月号の陰謀論特集に掲載された[[石戸諭]]の「陰謀論者の「不安」」という論考を目にした{{R|ddnavi20240313}}。「個人的な感情である恋愛と、政治的な姿勢である陰謀論」が直線的に繋がりそうだと考えた魚豊は、「その方向性なら4巻くらいで完結する物語ができそうだと、”筋”が見え」たため、「陰謀論」を描いている{{R|ddnavi20240313}}。本作を描くにあたり欠かせないものは「屈辱」と飯山のかっこよさで、屈辱は「描けなければ全てが崩れる」ほど重要である{{R|ddnavi20240313}}。飯山については「読者から嫌われたら終わり」と考え、「かっこいい人」のつもりで魚豊は描いている{{R|ddnavi20240313}}。

=== 恋について ===
本作は魚豊にとって初のラブコメ作品である{{R|ddnavi20240313}}。ラブコメをあまり読まない魚豊は不安であったが、[[三浦糀]]の『[[アオのハコ]]』を読み、「腑に落ち」たため、飯山を描く方向性の指標となった{{R|ddnavi20240313}}。ラブの部分では「誰かを好きになることで、それまでの自分からは遠かったものまで好きになる」ことを重要視し、ただ相手から影響を受けてもコピーではなく、よりオリジナルな自分に変化していくという部分を描きたかったと魚豊は話している{{R|ddnavi20240313}}。

格差は本作の大きなテーマである{{R|ddnavi20240313}}。経済的格差や文化的格差があっても「心だけは平等」だと魚豊は考えている{{R|anan20240227}}。「どう人と人が対等に話すのか、その平等さをどう取り戻せるのか」や{{R|realsound20240503}}、渡辺と飯山にも格差があるが「通じ合うことはできる」という点も、本作で「描きたかったことのひとつ」である{{R|anan20240227}}。コンセプトから、渡辺と飯山はあえて「社会的な格差」のあるキャラクターに設定されている{{R|ddnavi20240313}}。

作中には「恋をすること」というセリフが3度登場する<ref name="shogakukancomic20240611">{{Cite web|和書|url=https://shogakukan-comic.jp/news/51231|title=累計10万部突破!!『ようこそ!FACT(東京S区第二支部)へ』第3巻発売記念!!著者 魚豊氏 × ダウ90000 蓮見翔氏、稀代の若手クリエイター同士のクロストーク!!|website=小学館コミック|publisher=小学館|date=2024-06-11|accessdate=2024-06-15}}</ref>。[[蓮見翔]]によると、このセリフの場面で「ビクッ」となったといい、「意見としてベタなことが、あそこで出てくるっていう、組み立て方でスパイスになるっていうのはすごい」と話している{{R|shogakukancomic20240611}}。それについて作者の魚豊は、青春や恋は必要な概念で大事だと思うが言えない、「わざわざ若ぶらなくてもいいし、逆に成熟した感じで重々し過ぎなくてもいいし、大人が大人のまま、派手じゃなくても等身大で何かに頑張って、自分なりに戦っていれば、すごく青春だ」と考えて描かれている{{R|shogakukancomic20240611}}。「いきなり告白するネタ」は蓮見の[[ダウ90000]]から影響を受けている{{R|shogakukancomic20240611}}。

=== 陰謀論について ===
今の時代は「よくわからない存在として陰謀論者を切り捨てるのではなく、共感できなくても認知はする」ことが大事だと思い{{R|anan20240227}}、陰謀論者は「自分たちと地続きな存在である」という描き方をし、「嘲笑するような描き方は絶対にしない」と考えて制作されている{{R|ddnavi20240313}}。「ワクチンや実在の政党名など、現実の社会情勢」が描かれていないのは、「現実の社会情勢」は「すでに素晴らしい作品がたくさんあり」、それを真似をするより「もっと自分の自由なフィクションの世界で陰謀論に迫りたい」と魚豊が考えていたためである{{R|ddnavi20240313}}。「社会問題や個別具体的な”陰謀論そのもの”の話ではなくて、ある状況下において”陰謀論を信じてしまう人”を描く事で、本質的なところに焦点を当てたかった」といい、そのために「陰謀論関係の本」を読み、オカルト・スピリチュアル・悪徳商法研究家の雨宮純や新聞記者や陰謀論を研究している政治学者に取材が行われている{{R|ddnavi20240313}}。単行本の表紙も雨宮純が製作協力を行っている<ref name="realsound20240503">{{Cite web|和書|url=https://realsound.jp/tech/2024/05/post-1643602_2.html|title=『チ。―地球の運動についてー』作者・魚豊「自分の『面白い』という感覚を信じるだけ」放送作家・白武ときおに明かす“漫画論”|author=鈴木梢|website=リアルサウンドブック|publisher=blueprint|page=2|date=2024-05-03|accessdate=2024-06-15}}</ref>。

「陰謀論の信者を作っていくテクニック」について、取材と発想のミックスで制作されたが、「取材からわかっていることが多い」という{{R|shogakukancomic20240611}}。「恋愛も陰謀論も詳しいわけではない」ため、魚豊は企画時には描けるのかと考えていたが、調べていくうちに「興味深い」と思っていた{{R|shogakukancomic20240611}}。「物事を深読みしがちなところがある」人は陰謀論に陥るが、その心理が恋愛に置きかえた場合に身に覚えがあるため、陰謀論者のイメージしにくい心理を恋愛と絡めると「身近なこととして描けるかもしれない」と、魚豊は発見したという{{R|anan20240227}}。「リスキーな作品」でいて「最終的には”ショボさ”に行き着きたい」と思い、「露悪的にならないよう、意識」しつつ、「そういうクライマックスの展開を描きたい」と考えて制作されている{{R|shogakukancomic20240611}}。

「陰謀論」を「ひたすら辛くて陰鬱としていて、陰謀論に足を踏み入れていく」とはせず、読者が「フラットな気持ちで読めるように」するため、今までの魚豊の作品にはない「日常的な情けなさをギャグとして」描かれた「コミカルなシーン」が存在している{{R|ddnavi20240313}}。

=== 登場人物や場面について ===
渡辺について、魚豊は「「どんな経験も無駄じゃない」という理想論を描きたかった」と話している{{R|ddnavi20240313}}。現実では困難かもしれないことでも、「理想を伝えるのがフィクションの魅力であり、大切な一つの力」と考え、それを踏まえて本作が制作されている{{R|ddnavi20240313}}。魚豊は過去に、好きな漫画作品が評価されない時に憤りを感じるような「被害妄想をするタイプ」であったため、渡辺の人物像を作る際にそれが活かされている<ref>{{Cite web|和書|url=https://realsound.jp/tech/2024/05/post-1643602_2.html|title=『チ。―地球の運動についてー』作者・魚豊「自分の『面白い』という感覚を信じるだけ」放送作家・白武ときおに明かす“漫画論”|author=鈴木梢|website=リアルサウンドブック|publisher=blueprint|page=3|date=2024-05-03|accessdate=2024-06-15}}</ref>。

飯山は「世の中を良くしよう」と考えるような、魚豊が立派だと思う知人を全部合わせて参考にしたため、イメージが容易で、渡辺より先に「キャラクター像が固まっていた」という{{R|ddnavi20240313}}。

渡辺と飯山が会う場面ではたびたび夕日が登場するが、これは「心の平等さ」のほか、「現在の自分の感受性が最終決定稿なのではなく、人との出会いによってどんどん更新されていくもの」という希望をこめて描かれている{{R|ddnavi20240313}}。

== 評価 ==
プロデューサーの[[佐久間宣行]]は本作を「めちゃくちゃ面白い」といい、魚豊の1作目の『ひゃくえむ。』、2作目の『[[チ。-地球の運動について-]]』、3作目の本作を「全部面白い」として「クオリティの高さ」を評している<ref>{{Cite web|和書|url=https://news.mynavi.jp/article/20240429-2935361/|title=佐久間宣行、ある人気漫画家の年齢に驚き「40代ぐらいだと思ってた!」|website=マイナビニュース|publisher=マイナビ|date=2024-04-29|accessdate=2024-06-15}}</ref>。


== 書誌情報 ==
== 書誌情報 ==
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[[Category:裏サンデー]]
[[Category:裏サンデー]]
[[Category:ロマンティック・コメディ漫画]]
[[Category:ロマンティック・コメディ漫画]]
[[Category:継続中の作品]]

2024年6月15日 (土) 14:57時点における版

ようこそ!FACT(東京S区第二支部)へ
ジャンル ラブコメ[1]
漫画
作者 魚豊
出版社 小学館
掲載サイト マンガワン
レーベル 裏少年サンデーコミックス
発表期間 2023年8月21日[2] - 2024年3月4日[3]
巻数 既刊3巻(2024年6月11日現在)
話数 全30話
テンプレート - ノート
プロジェクト 漫画
ポータル 漫画

ようこそ!FACT(東京S区第二支部)へ』(ようこそファクトとうきょうだいにしぶへ)は、魚豊による日本漫画作品。『マンガワン』(小学館)にて、2023年8月21日から2024年3月4日まで連載された[2][3]。連載開始時のキャッチコピーは「恋と陰謀」で[4]、非正規社員の青年と女性のラブストーリーを描いた物語[1]。2024年6月時点で累計部数が10万部を突破している[5]

登場人物

渡辺(わたなべ)
本作の主人公[6]。19歳[1]。非正規社員[1]
飯山
本作のヒロイン[7]。女子大生[6]。家が裕福で、意識が高め[6]

作風

オカモトショウによると、「陰謀論者と呼ばれてる人」には「どうしてそうなるのかな?」と思う部分があるが、「それぞれの人に正義があって、一生懸命に生きて」おり、本作は「そういう部分も描かれていく」と話している[8]北野武監督の『』ではないが、本作には「ヤバいんだけど笑える場面」が描かれている[8]

制作背景

構想

魚豊は2021年アメリカ合衆国議会議事堂襲撃事件やその翌年のロシアとウクライナの戦争から、「陰謀論は大きな事象」で「人間がずっと付き合っていかなければならないもの」だと考えていた[6]

チ。-地球の運動について-』の完結より少し前、連載中であったが、作業が終了していたため、魚豊は次回作の構想を開始していた[7]。それまで魚豊は「現代の社会では受け入れられているものに熱中していく人たちの物語」を描いてきたため、今作では「社会的にあまり受け入れられていないものに熱中する人の物語に挑戦したい」と考えていた[7]。当初は「「荒らし」のコミュニティのなかに師弟関係があって、それを「週刊少年ジャンプ」の友情努力勝利のフォーマットで描いたら面白い」と浮かんだが、「そこからいくら考えても勝ち筋が見えなかった」という[7]。構想中は「コロナ禍の真っ最中」の時期で、もともと興味があった陰謀論がインターネット上で溢れていたところで、『現代思想』(青土社)2021年5月号の陰謀論特集に掲載された石戸諭の「陰謀論者の「不安」」という論考を目にした[7]。「個人的な感情である恋愛と、政治的な姿勢である陰謀論」が直線的に繋がりそうだと考えた魚豊は、「その方向性なら4巻くらいで完結する物語ができそうだと、”筋”が見え」たため、「陰謀論」を描いている[7]。本作を描くにあたり欠かせないものは「屈辱」と飯山のかっこよさで、屈辱は「描けなければ全てが崩れる」ほど重要である[7]。飯山については「読者から嫌われたら終わり」と考え、「かっこいい人」のつもりで魚豊は描いている[7]

恋について

本作は魚豊にとって初のラブコメ作品である[7]。ラブコメをあまり読まない魚豊は不安であったが、三浦糀の『アオのハコ』を読み、「腑に落ち」たため、飯山を描く方向性の指標となった[7]。ラブの部分では「誰かを好きになることで、それまでの自分からは遠かったものまで好きになる」ことを重要視し、ただ相手から影響を受けてもコピーではなく、よりオリジナルな自分に変化していくという部分を描きたかったと魚豊は話している[7]

格差は本作の大きなテーマである[7]。経済的格差や文化的格差があっても「心だけは平等」だと魚豊は考えている[6]。「どう人と人が対等に話すのか、その平等さをどう取り戻せるのか」や[9]、渡辺と飯山にも格差があるが「通じ合うことはできる」という点も、本作で「描きたかったことのひとつ」である[6]。コンセプトから、渡辺と飯山はあえて「社会的な格差」のあるキャラクターに設定されている[7]

作中には「恋をすること」というセリフが3度登場する[5]蓮見翔によると、このセリフの場面で「ビクッ」となったといい、「意見としてベタなことが、あそこで出てくるっていう、組み立て方でスパイスになるっていうのはすごい」と話している[5]。それについて作者の魚豊は、青春や恋は必要な概念で大事だと思うが言えない、「わざわざ若ぶらなくてもいいし、逆に成熟した感じで重々し過ぎなくてもいいし、大人が大人のまま、派手じゃなくても等身大で何かに頑張って、自分なりに戦っていれば、すごく青春だ」と考えて描かれている[5]。「いきなり告白するネタ」は蓮見のダウ90000から影響を受けている[5]

陰謀論について

今の時代は「よくわからない存在として陰謀論者を切り捨てるのではなく、共感できなくても認知はする」ことが大事だと思い[6]、陰謀論者は「自分たちと地続きな存在である」という描き方をし、「嘲笑するような描き方は絶対にしない」と考えて制作されている[7]。「ワクチンや実在の政党名など、現実の社会情勢」が描かれていないのは、「現実の社会情勢」は「すでに素晴らしい作品がたくさんあり」、それを真似をするより「もっと自分の自由なフィクションの世界で陰謀論に迫りたい」と魚豊が考えていたためである[7]。「社会問題や個別具体的な”陰謀論そのもの”の話ではなくて、ある状況下において”陰謀論を信じてしまう人”を描く事で、本質的なところに焦点を当てたかった」といい、そのために「陰謀論関係の本」を読み、オカルト・スピリチュアル・悪徳商法研究家の雨宮純や新聞記者や陰謀論を研究している政治学者に取材が行われている[7]。単行本の表紙も雨宮純が製作協力を行っている[9]

「陰謀論の信者を作っていくテクニック」について、取材と発想のミックスで制作されたが、「取材からわかっていることが多い」という[5]。「恋愛も陰謀論も詳しいわけではない」ため、魚豊は企画時には描けるのかと考えていたが、調べていくうちに「興味深い」と思っていた[5]。「物事を深読みしがちなところがある」人は陰謀論に陥るが、その心理が恋愛に置きかえた場合に身に覚えがあるため、陰謀論者のイメージしにくい心理を恋愛と絡めると「身近なこととして描けるかもしれない」と、魚豊は発見したという[6]。「リスキーな作品」でいて「最終的には”ショボさ”に行き着きたい」と思い、「露悪的にならないよう、意識」しつつ、「そういうクライマックスの展開を描きたい」と考えて制作されている[5]

「陰謀論」を「ひたすら辛くて陰鬱としていて、陰謀論に足を踏み入れていく」とはせず、読者が「フラットな気持ちで読めるように」するため、今までの魚豊の作品にはない「日常的な情けなさをギャグとして」描かれた「コミカルなシーン」が存在している[7]

登場人物や場面について

渡辺について、魚豊は「「どんな経験も無駄じゃない」という理想論を描きたかった」と話している[7]。現実では困難かもしれないことでも、「理想を伝えるのがフィクションの魅力であり、大切な一つの力」と考え、それを踏まえて本作が制作されている[7]。魚豊は過去に、好きな漫画作品が評価されない時に憤りを感じるような「被害妄想をするタイプ」であったため、渡辺の人物像を作る際にそれが活かされている[10]

飯山は「世の中を良くしよう」と考えるような、魚豊が立派だと思う知人を全部合わせて参考にしたため、イメージが容易で、渡辺より先に「キャラクター像が固まっていた」という[7]

渡辺と飯山が会う場面ではたびたび夕日が登場するが、これは「心の平等さ」のほか、「現在の自分の感受性が最終決定稿なのではなく、人との出会いによってどんどん更新されていくもの」という希望をこめて描かれている[7]

評価

プロデューサーの佐久間宣行は本作を「めちゃくちゃ面白い」といい、魚豊の1作目の『ひゃくえむ。』、2作目の『チ。-地球の運動について-』、3作目の本作を「全部面白い」として「クオリティの高さ」を評している[11]

書誌情報

  • 魚豊『ようこそ!FACT(東京S区第二支部)へ』小学館〈裏少年サンデーコミックス〉、既刊3巻(2024年6月11日現在)
    1. 2023年12月12日発売[1][12]ISBN 978-4-09-853061-8
    2. 2024年3月12日発売[13]ISBN 978-4-09-853157-8
    3. 2024年6月11日発売[14]ISBN 978-4-09-853387-9

出典

  1. ^ a b c d e 「チ。」の魚豊が描く、恋と陰謀のラブコメ「ようこそ!FACT(東京S区第二支部)へ」”. コミックナタリー. ナターシャ (2023年12月12日). 2024年1月17日閲覧。
  2. ^ a b 「チ。」魚豊が新たに描くのは陰謀が渦巻くラブストーリー、マンガワンで開幕”. コミックナタリー. ナターシャ (2023年8月21日). 2024年1月17日閲覧。
  3. ^ a b 最終話(第30話)”. 裏サンデー. 小学館. 2024年3月17日時点のオリジナルよりアーカイブ。2024年6月15日閲覧。
  4. ^ ようこそ!FACT(東京S区第二支部)へ:「チ。」魚豊の新連載が「マンガワン」に 恋と陰謀 19歳の若者が会員制セミナーへ”. MANTANWEB. MANTAN (2023年8月21日). 2024年1月17日閲覧。
  5. ^ a b c d e f g h 累計10万部突破!!『ようこそ!FACT(東京S区第二支部)へ』第3巻発売記念!!著者 魚豊氏 × ダウ90000 蓮見翔氏、稀代の若手クリエイター同士のクロストーク!!”. 小学館コミック. 小学館 (2024年6月11日). 2024年6月15日閲覧。
  6. ^ a b c d e f g h 兵藤育子 (2024年2月27日). “陰謀論と恋心を絡めた前代未聞のラブコメ!? 大ヒット『チ。』作者の新作に注目”. ananweb. マガジンハウス. 2024年6月15日閲覧。
  7. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t u ちゃんめい (2024年3月13日). “『チ。』魚豊氏 最新作『ようこそ!FACT(東京S区第二支部)へ』で「陰謀論」を描いた理由。恋愛要素も盛り込まれた“新境地”の裏側を語る【魚豊氏インタビュー】”. ダ・ヴィンチweb. KADOKAWA. 2024年6月15日閲覧。
  8. ^ a b 森朋之 (2024年1月22日). “オカモトショウが選ぶ、いま注目のマンガとは? 天才・魚豊の新作から残酷すぎる野球漫画まで、期待作を大紹介”. リアルサウンドブック. blueprint. 2024年6月15日閲覧。
  9. ^ a b 鈴木梢 (2024年5月3日). “『チ。―地球の運動についてー』作者・魚豊「自分の『面白い』という感覚を信じるだけ」放送作家・白武ときおに明かす“漫画論””. リアルサウンドブック. blueprint. p. 2. 2024年6月15日閲覧。
  10. ^ 鈴木梢 (2024年5月3日). “『チ。―地球の運動についてー』作者・魚豊「自分の『面白い』という感覚を信じるだけ」放送作家・白武ときおに明かす“漫画論””. リアルサウンドブック. blueprint. p. 3. 2024年6月15日閲覧。
  11. ^ 佐久間宣行、ある人気漫画家の年齢に驚き「40代ぐらいだと思ってた!」”. マイナビニュース. マイナビ (2024年4月29日). 2024年6月15日閲覧。
  12. ^ ようこそ!FACT(東京S区第二支部)へ 1”. 小学館. 2024年1月17日閲覧。
  13. ^ ようこそ!FACT(東京S区第二支部)へ 2”. 小学館. 2024年3月13日閲覧。
  14. ^ ようこそ!FACT(東京S区第二支部)へ 3”. 小学館. 2024年6月11日閲覧。